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栗村修の“輪”生相談<187>20代女性「中途半端な気持ちでロードバイクに乗るのが苦痛になってしまいました」

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 こんにちは。私は20代の女性です。

 社会人の1年目の頃に某ロードバイクの漫画とアニメにハマり、ロードバイクに手を出した所謂オタクです。今年で自転車歴5年になります。

 ロードに乗り始めた頃は漫画の中の登場人物達と同じことができるのが楽しくて、自分の脚質について考えたり色んな道を走るのが楽しくて仕方ありませんでした。

 ところがある時からロードバイクに乗るのが苦痛になりました。ブルベに参加してPBPへの参加権を勝ち取った友人や、努力を重ねて大会で入賞する友人を見ているうちに、自転車を同じような時期に始めた自分は何も結果を残していないことに気がつき(ビワイチを始めとする150kmのロングライド、獲得標高が2000mの山岳ロングライドの完走、2回参加したフジヒルの完走などはありますが、周りの人と比べるとパッとしないなと思ってしまいます)、自分を責め周りにも八つ当たりをするようになりました。

 さらに漫画への熱が当初より冷めたことで自転車離れはさらに加速。自分はロードバイクが好きなのではなく、漫画が好きで乗っていたただのオタクであったことに気がついてしまいました。

 これまで中途半端な気持ちで乗っていたことが周りの人に知られたら嫌われてしまう、自分は自転車乗りの人に嘘をついているという恐怖感や罪悪感が強くなりました。趣味で始めたはずの自転車なのに楽しくありません。元々運動神経が良くないから才能ないのかなと諦めています。

 始めた当時と同じようにとはいかなくても、恐怖心を捨てて楽しく自転車に乗る手助けをしていただけないでしょうか。コロナの影響で体重が増えてしまい、困っています。

 よろしくお願いします。

(20代女性)

 率直なご質問をありがとうございます。実は僕は、質問者さんのように悩み、自転車を離れてしまった人は少なくないと思っています。

 今の自転車界、特にホビーレーサーたちの世界は、選手だった僕から見ても厳しすぎます。週末は百数十キロものロングライド、平日は朝四時起きでトレーニング、雨ならズイフトでレース…機材はどんどん高くなりますし、すごい勢いで進化していますから、更新しなければライバルに置いていかれてしまいます。

 科学的トレーニングの普及で、数値化できるものごとが増えたのも理由かもしれません。もっとパワーを! もっとCTLを! もっとエアロに! 「もっと」という掛け声はすべての面から聞こえますが、「まあまあ、そのへんにしとこうよ」という声はあまり聞こえません。皆が血眼になって高みを追い求めている感じです。

 プロならいいんですよ。あるいは、趣味の人でも楽しければいいんです。でも、質問者さんのように疑問を抱えながら走ってる人は少なくないのではないでしょうか。「趣味なのに、どうして苦しまないといけないの?」と。

 まず質問者さんは、自転車に乗る目的がなんだったのかを思い出してみましょう。長くてマジメな文章や数字を多用する記述から見るに、質問者さんは形式と規律を重んじる「犬型」人間です。自由で感覚的な猫型人間の対極ですね。

 犬型人間はマジメですから社会人としてもレーサーとしても組織の中で成功しやすいのですが、ストイックすぎるという問題もありますので、精神的に行き詰まってしまうケースが少なくありません。質問者さんは、かなり典型的な「悩める犬型人間」です。

 で、犬型人間が行き詰る典型例が、数値にとらわれるケースです。パワーでも、距離でも、獲得標高でも何でもいいのですが、数値はモチベーションを上げてくれると同時に、心を折るリスクもある諸刃の刃です。少なくとも今の質問者さんにとっての数字は刃です。

サイクリングではしばしば「自分は一体どうしてこんな辛いことを好き好んでやっているんだろう?」という瞬間に遭遇する Photo: Yuzuru SUNADA

 なのでまず、測ること、比べることをやめましょう。周囲「より」中途半端、周り「より」結果を出していない。こういう結論に至ってしまうのは、計っているからですよね。でも、そんなの別にどうでもいいじゃないですか。趣味なんですから。

 その上で、改めてご自身がなぜ自転車に乗っているのか考えてみてください。今はモチベーションが落ちているとはいえ、かつて大金を投じて自転車を買ったということは、質問者さんの中に自転車を求める何かがあるはずです。それを突き止めるのです。漫画への情熱は薄れたそうですが、たぶんダイエットとか、外で体を動かすことが好きとか、ライド中に観る美しい景色が好きとか、何かあるに違いありません。だって漫画ファンのうち、実際に自転車を買うに至る人はごく一部ですからね。

 そうやってご自分だけの楽しみを見つけられれば問題は解決です。あるいは犬型だけに集団に属することがプラスになるなら、自分と同じレベルの集団に所属してください。今の質問者さんの周囲にいる人たちは、ちょっとストイックすぎます。同レベルの仲間と楽しんだほうが結果的に速くなれるケースもたくさん見てきました。もちろん、速くならなくても一向に問題ないのですが。

 その上で質問者さんにお伝えしたいのは、パワーや身長や財力が人によって異なるように、モチベーションにも個人差があるということです。そんな当たり前のことが、どういうわけか忘れられているのです。

 峠を上るときはオーバーペースにならないようにペース配分に注意しますよね。速い人に無理してついていき、最初からがんばってしまうと後で失速するからです。

 同じようにモチベーションにもペース配分が必要なはずです。モチベーションが大きい人が毎日100㎞乗り込むのは、それはそれでいいんです。でもモチベーションが少ない人がその真似をしてしまったら、すぐに息切れします。

 だから質問者さんは、ご自分のペースで進めばいいんですよ。マイペースで走り続けていれば、そのうち前を行く人たちを追い抜くことだってあるかもしれませんよ。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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