パンデミックに負けないスポーツの象徴へツール・ド・フランス開幕地・ニースの新型コロナ対策 厳格なルール設定で感染拡大を防ぐ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 8月29日に開幕した2020年のツール・ド・フランス。107回に及ぶ大会開催がなす運営ノウハウは、自転車界のみならず世界中の数々のスポーツイベントのお手本ともなっているが、こと今年の新型コロナウイルスの感染拡大に対しては開幕ギリギリまでベストな対策とは何かを模索し、試行錯誤している様子がうかがえた。果たして、主催者A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)や開幕地・ニースの取り組みは適切だったのか。第3ステージをもって出発の地を後にして、改めて同地の新型コロナ対策がいかなるものだったかをまとめてみる。

2020年のツール・ド・フランスは新型コロナ対策の厳重ルールのもと進行している(写真は第2ステージからイメージ) ©︎ A.S.O./Alex Broadway

スタート地点付近は壁を立て厳重警備

 新型コロナに関連するレースのレギュレーションについては、「異例づくしのツール・ド・フランス2020 新型コロナ関連のレギュレーションまとめ」でお届けしたが、ニース市内での実態を深く掘り下げてみたい。

人々が行き交うニース市街地 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ニースが位置するフランス南部のアルプマリティム県では新規症例数が激増し、同国政府も感染拡大の「レッドゾーン」に指定中。域内でのマスク着用が義務付けられ、それに反すると警察による取り締まりの対象となる。

 筆者が同地に赴いて感じたことは、中心部をひとたび離れると人の姿をそう多くは見かけないというものだった。一方で、海に近いニース中心街にゆくにつれて、自然と人々の往来が多くなる。

 それが顕著に表れたのは、今大会のチームプレゼンテーション会場でもあり、第1・第2ステージのスタート地点ともなったプラス・マセナ(マセナ広場)の周辺だった。やはりフランスが世界に誇るお祭りだからか、はたまたそもそもが人々の行き来が多くなる地点なのか、向かってくる人とすれ違うことすら難しいほどに歩道は埋め尽くされる。とてもではないが、この場所では「ソーシャルディスタンス」なんて言葉は存在しない。

壁のわずかな隙間からチームパドックを見ようと試みる人の姿も Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 チームプレゼンテーションのリポートでも触れたが、会場周辺に限って内外を隔てる壁が設けられ、四方を完全に仕切っていた。その高さは長身の人が背伸びをしてものぞき込むことができないほど。大会関係者でなければ壁の内側には入ることはできないし、内部を目視することすらできないつくりとなっていた。

 さらには、入場は1カ所に限定。ゲート付近は厳重なセキュリティが敷かれ、大会関係者を示すパスを持っていなければ中に入ることは許されない。入ってからもセキュリティ要員の前で消毒をするよう言われ、マスク着用の確認も行われた。中で行動している間、少しでもマスクを外しているとセキュリティ要員に注意されてしまう。会場で行動する以上は、消毒とマスク着用は絶対である。

沿道には“消毒隊”が出動 ツール特製マスクの配布も

 「会場の外」での新型コロナ対策はどうだろうか。

 一歩壁の外に出れば、多くの人がプロトンの様子を一目見ようと集まっている。大会ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏が無観客開催を避けたいとの意向をかねがね示していたが、沿道での観戦を望むファンにもできる限り応じていこうという大会側の姿勢を垣間見ることができた。

スタート地点付近の沿道に現れた消毒隊。沿道の立つ人々に消毒液をショットしていく Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 スタート・フィニッシュ地点付近の沿道には、タンクを背負った“消毒隊”が出動。コース脇に立つ人々に消毒を呼びかけながら、手に液体を「ショット」していく。スタート地点がニース市内の別の場所へと移った第3ステージでは、関係者のみが入場を許される大会関連施設にも現れ、“消毒活動”に勤しんでいた。

女性が持つのはツール・ド・フランス特製マスク。なかなか使い勝手の良い代物だ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 また、同様の形で大会特製マスクの配布も実施されている。こちらは沿道の観衆のほか、屋外での業務を主とする大会運営関係者をメインに配られている様子。筆者も本記にて紹介することを説明し特別にいただいたが、ツールのロゴがあしらわれた布製マスクはなかなか丈夫で、洗濯をしながら繰り返し使えそうだ。

 いつ感染してもおかしくない緊張感の中での日々を送るが、消毒隊の出動やマスク配布はナーバスな中でちょっとした遊び心が感じられて、少しばかり心が安らぐ要素になっている印象だ。

ツール取材にはPCR検査で陰性の証明も

 せっかくの機会なので、われわれプレス(取材陣)に課せられた新型コロナ対策についても触れておきたい。

取材パスの受け取りを前にドクターの面接を受けるプレス関係者 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 今大会を取材するにあたり、絶対的な条件として課されたのが「大会合流前5日以内のPCR検査結果の提出」だった。そこで筆者は、出国前日の8月24日に検査を受診。1日で検査結果を出してもらえるとあって、出国日25日のお昼には陰性である旨が記された英文診断書を手にした。そして、ニースに到着した現地時間26日、陰性証明をもって取材パス受け取りとなった。

 取材パスの受け取りにあたっては、大会側が配したドクターの面接を受ける必要がある。そこでPCR検査の英文診断書を提出するとともに、健康状態に問題がないことを確認される。その様子は主催者A.S.O.関係者の目が届くところで行われ、面接を受けずに取材パスを得るといった手違いが起きないよう工夫されていた。

サルドプレスの様子(写真は第3ステージフィニッシュ地・シストロン) Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 プレスが各種作業を行うサルドプレス(プレスルーム)でのみマスクを外してもよい、といったルールはあるものの、やはり大人数が集まる施設内だけにマスクは忘れず着用しておきたい。実際、マスクを外しているプレスが多いのがいささか気になる。

 また、サルドプレスの出入りには導線が敷かれ、逆行が許されない点や、入場時に消毒が必須であること、施設内至るところに消毒液が置かれているあたりは、新型コロナ対策であることで間違いないだろう。なお、今年からはサルドプレス入退場時にプレスパスを機械にかざす形で行動管理も導入されているが、それが新型コロナ対策の一環なのかどうかは不明だ。

 そして何より、プレスの多くが取材をどう進めていくか頭を悩ませているはずだ。スタート地点のパドック(チーム車両待機場)への入場が禁止され、選手インタビューは別個所に設けられるミックスゾーンに限定。ミックスゾーンで取材できるメディアやジャーナリストも大会側から指定されており、そこに含まれていないプレスについては主催者が配信する情報やデータ、写真を使うよう指示されている。

 こうした厳しい情勢もあり、チーム側も情報の発信に工夫を凝らす。選手のコメントはメッセージ系アプリで配信。また、例年であればスタート地に設けられる憩いの空間・ヴィラージュ(飲食ブースやスポンサー企業が出展する関係者のみ入場可能な空間)に選手がふらりとコーヒーを飲みに現れたりもするのだが、今年は選手の入場は禁止。レース前のサインに代わって、簡易のチームプレゼンテーションが行われるが、そこでは選手がコメントをすることもないので、実際の声を得るのは非常に限られた状況だ。

プレスが直接選手に取材できるのはミックスゾーンでのみ。ソーシャルディスタンスをはかった中でインタビューが許される Photo: Yuzuru SUNADA

 大会はまだ序盤。リスクが多い中で、いかにして最終目的地・パリに到達するのかは世界が興味を持ってみている。もっとも、筆者を含む大会関係者ですらこの先どうなるかは分からないとの思いで日々を過ごしている。そこにあるのは、「何としても大会を成功させよう」という強い意志のみ。これからゆく先々でどのような新型コロナ対策が講じられるのかについては、機会を見て改めてお届けできればと思う。

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