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三船雅彦の「#道との遭遇」<8>深夜の険道も乗り越えて 過酷な「SR600」チャレンジ攻略法

by 三船雅彦 / Masahiko MIFUNE
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 長距離のエキスパートでプロサイクリストの三船雅彦さんが、全国の道を普通と違った走り方で紹介する連載「#道との遭遇」。今回はブルベの中でも最も過酷と言われる「SR(シューペル・ランドネ)600」の魅力と攻略法について語ります。600kmで獲得標高1万m以上のコースを60時間以内に走破するものですが、常識外れの世界を垣間見ることができます。

SR600紀伊のスタートは大阪の泉佐野市。これからの道中の過酷さを全く感じさせない風景。スタート地点は選択できるが、もっぱらコンビニでレシート。そうすれば必要なものをスタート直前に購入してそのままスタートできる Photo: Masahiko MIFUNE

9月から国内ブルベも解禁!

 まだまだ新型コロナウィルスの影響はあちこちにあり、数々のイベントは自粛や中止など残念な結果になってしまっていることも事実ですが、しかし同じように対策などを考慮しつつ再開しているイベントがあるのも事実です。

 どちらがどうと言うのは現時点ではジャッジしきれません。だが一つ言えることは、「走れることは嬉しい」ということです。

スタート地点の泉佐野へはクルマで移動。到着後すぐに走れるようにバイクは前後輪装着した状態で積載 Photo: Masahiko MIFUNE

 9月1日より、開催自粛されていた国内のブルべも再開されます。最近は「元プロロードレーサー」としての肩書きよりも「ブルべの人」としての方が認知度が高いようなので、私としても嬉しい限りです。

 ブルべ会場で「三船さん、ロードレースやシクロクロスもされるんですね!」と言われ、荒川静香よりも後ろにのけぞって後頭部を強打しそうになった記憶があるが、でも大丈夫!今年はソーシャルディスタンス確保で参加者と世間話することはないでしょうから、後頭部は強打しないでしょう(笑)。

走力と経験が必要になる「SR600」

 今までに130回以上出走しているブルべですが、特に「SR600」にハマっています。決められたコース、600kmの走行距離で獲得標高10000m以上。制限時間は60時間以内。スタート時間は自分で設定でき、途中サポートは無し。制限時間内であれば速く走る必要はないのですが、走り切るには今までの経験が生かされるのは間違いありません。

速さと装備のバランスは難しい。今までの経験でスペアのチューブやパーツ関係等、厳選してサドルバッグやトップチューブバッグに装備している Photo: Masahiko MIFUNE

 当たり前ですが、自転車で速く走るためには、自分も含めて装備を軽量化する必要があります。ロードレースに使用する機材は、最近は自転車だけではなく身に着ける用品、ヘルメットやシューズ、そしてウェアまでも、軽量化の波が押し寄せているのはご存知の通り。トータルで10000mも登るのだから軽いに越したことはありません。きっと皆さんもこっそりとへそくりなんかをやりくりして、ホイールや用品を軽量化していることでしょう。

最初の上りからいきなりの急勾配(右の看板に注目!) Photo: Masahiko MIFUNE

 しかしノンサポートゆえに、途中で変化する天候への対応など必要になるであろう装備を厳選して持ち運びます。それはいやがうえにも重量増というスピード低下の要因になります。

 「速く走るための軽量」と「リスクを回避する装備」

 相反するテーマ。これぞまさしく自分が求める究極のファストライドの挑戦であり、自分は日本ブルべの第一人者とは思わないですが、少なくともSR600の出現で一番自分に向いているのは、こういうエクストリーム的なファストランだと感じています。あとは海外SR600チャレンジあるのみかな。

いい天気と思っても山の上は荒れていることはザラ Photo: Masahiko MIFUNE

 国内ではSR600のルートが9つ設定されています。現在6つ完走していますが、一番完走回数の多いのはFUJIで5回。そして比較的近所とも言えるのが紀伊山地で、4回完走しています。

 ちなみにFUJIは過去に2回失敗(悪天候で装備的にも肉体的にも対応できず。そして天候悪化で予定していた時間に走り切れないため断念)、紀伊も機材トラブルによりリタイアを1回しています。

 経験で「この装備とこのコンディションならいける」と思っても、思い通りにならないのがSR600です。普通のブルべでは120回ほどのチャレンジでリタイアは1回(メカトラ)で、SR600では14回完走に対してリタイアは5回。ブルべではまずリタイアをしていませんが、SR600では4回に1回はリタイアしているといえます。

ツール・ド・熊野でも通る丸山千枚田。この写真のようないい天気だと癒される場所だが… Photo: Masahiko MIFUNE
しかし夜中や悪天候だと、真っ暗で地形を知っているだけに落ちたらと思うと恐怖しかない Photo: Masahiko MIFUNE

SR600紀伊の攻略ポイントは?

 ここからは、自分が完走しているルートの中では比較的難易度が低く走行しやすいSR600紀伊について簡単にコース攻略法を書き記そうと思います。ただ難易度が低いといっても他のSR600と比べて、という意味なので。念のため。

 このルートが比較的走りやすいと思えるのは、

●早朝スタートで、スタート地点の泉佐野から約230km地点で夜には新宮市に到着。ここでホテルを取ることもできるし、24時間営業のお店やコンビニも充実。ちなみに約90km地点の吉野山の入り口付近で一度コースアウトしてコンビニがあるが、走る時間にもよるがそれ以外お店も数少なく営業時間など読めない。約70km地点の五條でコンビニを利用したら飲み物以外は補給が難しく、下北山のヤマザキショップかJAショップの営業時間内に辿りつけなければ、それこそ新宮まで補給無しとなります。

“険道3点セット”に入る直前、勝浦のコンビニのイートインで食事をとり、スマホなど電子機器の充電に充てておくのがお薦め Photo: Masahiko MIFUNE

●約450km、ルート中最難関と言える護摩壇山の手前の旅館もしくは下ってからの野迫川のホテルを使えば宿泊はなんとかクリア。コンビニや飲食店は期待できないので、旅館を夕食付きにしてその時間に辿り着くようにするか(それはそれでなかなか敷居が高いのですが)。

●高野山まで最終日に登り切ってしまえば、50kmほどは下り基調、ラスト50kmは大きな登りはない。あ、最終チェックポイント(の登り)は大きくはないが、きついです。

…といったところ。

 私の場合は適当なところで仮眠をしながら進行します。バス停だったり公園だったり、はたまた峠道の途中にある空き地だったりで仮眠しています。夜中に走っていると、鹿や猪には普通に遭遇。護摩壇山ではカモシカにも遭遇しています。クマもどこかにいるのだと思いますが、基本的に何もなければクマの方から逃げているはず。

 このルート上で個人的に一番の難所は、勝浦から色川を通って熊野川へと抜ける、県道46‐45‐44の、「険道3点セット」でしょう。(命名は私です、すみません)

険道3点セットの県道46号。雨の日や雨上がりに走ると、那智の滝の激しい音が山に響き不気味だ。ここでは何度も猪に遭遇している Photo: Masahiko MIFUNE

 日中でも薄暗く、ガードレールもなく路面も悪烈。ここを夜中に通るなんて…。このルート、自分のプランだと毎回夜中。道で鹿とすれ違ったり、陥没しているところに突っ込んで谷に落ちかけて、助かったもののホイールを破損して走行不能になったり。夜中にどうぞ、とは絶対言えないルートですね(笑)。

県道45号は路面の陥没や落石は当たり前。やっている自分が言うのもなんだが、夜間の走行はお薦めしない Photo: Masahiko MIFUNE
県道45号と43号重複区間から43号が分かれるところにある田垣内の集落。ここには自動販売機があり、ちょっと息抜きできるのが嬉しい。しかしここから先は本当に過酷だ Photo: Masahiko MIFUNE

走力とコースに合わせた装備を吟味しよう

 走行時間が伸びるということは装備が増えるということ。

 持ち物を再度考慮し、例えば一つのもので2つの用途に使えるものを用意したり、極力軽量化されたものを使います。場合によっては途中で入手できるものは無理に持っていかず途中購入します(SR600の場合はお店がなさ過ぎてそう簡単ではないのですが)。スタート前にどこで休憩をするのか、自分の能力で1回の走行距離がどの程度あるのか(休憩なし、寝ずに、という意味で)を考慮して検討します。

高野山は日中に通ることが一般的だが、夜中にライトアップされていると神々しく感動する(新型コロナウイルスの影響で現在はわかりませんが) Photo: Masahiko MIFUNE

 そして実際に装備する重さを装着して走ってみること。場合によっては体験したことのない重さで、上りのスピード低下や下りのバイクコントロール、そして平たん路でも重さがゆえに肩や首に力が入り、それが後半のスピード低下や、場合によっては怪我や事故の原因にもなりかねません。

 どんな冒険でも“絶対”や“完璧”をめざしても、それは絶対にいきつかないもの。しかし可能性を高めることは可能です。9月からの解禁、SR600ももちろんチャレンジしたいと思います。

和歌山に入ると山がひと段落しゴールまで海岸近くを移動していく Photo: Masahiko MIFUNE
三船雅彦(Masahiko MIFUNE)

元プロロード選手で元シクロクロス全日本チャンピオン。今でもロード、シクロクロス、ブルべとマルチに走り回る51歳。2019年は3回目の『パリ~ブレスト~パリ』完走を果たす。今年は新型コロナウィルスの影響でイベントがことごとく中止。その腹いせ?に関西圏の道を走り回っている。「知らない道がある限り走り続ける!」が信条。

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三船雅彦の「#道との遭遇」

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