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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<61>フレーム破断で帰国を決意 世界一周旅の過程を振り返る

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 僕は当初の予定では無帰国世界一周を目指していた。記録を狙ったわけではないが、無帰国で世界一周をした方が走り終えたとき、より達成感が得られる気がしたからだ。旅の期間は4年と設定していたが、特に根拠はなく、大体これくらいかなと思い定めた数字だ。

 しかし旅の3年目、エチオピアで自転車のフレームが折れてしまったので、一時帰国を決めた。現地で溶接してもらってなんとか走れるようになったけど、このフレームではアフリカ大陸とアジア大陸を走り切る自信がなかったからだ。もちろんこの自転車で旅が続けられないのはショックだったけど、実はそこまで一時帰国に抵抗があるわけではなかった。

エチオピアで折れたフレームを溶接してもらった時の様子。再び走れるようになったが、走行中のたわみがひどかったので、先の行程を考えて一時帰国を決めた Photo: Gaku HIRUMA

観光よりもスーパーに行くのが楽しみに

 一時帰国するまでの3年間で多くの土地を巡ってきた。アラスカから旅をスタートして南北アメリカ、ヨーロッパ、中東を走り、アフリカまで駆け抜けた。アクシデントで帰国の決意を固めたけど、アフリカを走り終えたら一時帰国をしてもいいかなとは漠然と考えているところではあった。自転車で世界を飛び回るのはとても贅沢なことだけど、誤解を恐れずに言わせてもらえば、1年以上の長期の旅の場合、好奇心やモチベーションを保つのは実は結構難しい。

暴風吹き荒れるパタゴニアで600kmの無人地帯を走り切り、久しぶりに商店に入った。物価は高かったが、値段も聞かずに欲しいものを欲しいだけ買った。物を買えるのがこれほど嬉しいと思ったことはない Photo: Gaku HIRUMA

 スタート直後の新鮮な感覚や緊張感など、何に対しても初めてだったことを考えれば、年単位の旅になるとそういう感覚はどんどん失われて行くのは当然だと思う。

 特に観光に対する姿勢は顕著だった。近くに世界遺産があっても行かないこともあったし、街歩きもそこそこに宿に長くいることも多かった。旅人が「旅に飽きたから帰国するとか、働きたくなったから旅を止める」とか、日本に居たら「なんて贅沢で勿体ない」と思われるかもしれないが、特に珍しい話でもなく、旅人同士でも一定の共感と共に話される話題ではあった。

イスラエルの首都エルサレムにあるユダヤ教の聖地「嘆きの壁」。この国は旧市街の中にキリスト教とイスラム教の聖地があった。朝から晩まで歩いても興味が尽きることはないだろう Photo: Gaku HIRUMA

 それでも自転車旅は大自然に救われたように思う。一般的な観光地は飽きてしまっても、サイクリストが教えてくれた絶景の道は、最後の最後まで飽きることなく、感動や走る気持ちよさを与えてくれた。

 そして大自然に強制的に放り込まれた後になんでもない町に立ち寄ったり、そこの文化を感じられるのが物凄く楽しかった。町に到着して観光するよりも、大型スーパーに行くことが何よりの楽しみに変わっていった。

一番最初に確認するのは街の見どころではなく、スーパーの場所だ Photo: Gaku HIRUMA

 一泊の予定で立ち寄った村の宿に予想もしなかったキッチン設備がついていたときは大興奮した。量が多いと分かっていながら、両手いっぱいになるほど食材を買い込んでしまい、結局食材を使いきれないから連泊する、なんてことはよくあった。

 地元の人との出会いや、緊張感を持って走ることも多いので、いい刺激を受けながら旅を続けられる自転車は本当にいい旅のスタイルなんだと思う。

一時帰国で気持ちと装備をリフレッシュ

 僕は自転車旅に飽きたわけではなかったけれど、それでも日本に一時帰国することで、かなりリフレッシュできたと思う。海外旅行中に少しだけ日本に帰ってきてリフレッシュするというのも少しおかしな話だけど、実際そうだった。

 日本に帰国したのは梅雨の時期だったけど、乾燥した地域を数年間も走り続けてきた僕にとって、梅雨と豊かな自然あふれる風景は、本当にまぶしく、そして綺麗に映った。

一時帰国中に北海道を走った。改めて走る日本の道はとても新鮮で気持ちをリフレッシュできた Photo: Gaku HIRUMA

 アフリカはマラリアのリスクが少ない乾季に走る予定で調整してきたので、一時帰国は丸々1年と決めて、気持ちも装備も全て仕切りなおすつもりで働きながら過ごした。

一時帰国中に自分の旅のスタイルに合わせて、自転車から装備までほぼ全てを新調した Photo: Gaku HIRUMA

 海外を自転車で走るとなると、仕事を辞めて何年もかけて世界を駆けまわるというイメージがあるかもしれない。これは特に欧米人サイクリストに多かったスタイルだ。だけど仕事をしながら年に数カ月ほど海外を走る人もいるし、意外と様々なスタイルで旅をする人がいると知った。

 僕は当初、4年間旅をするつもりで日本をたったけど、結局一時帰国した1年も含めると、世界一周の旅は7年もかかってしまった。旅中に出会ったサイクリストたちも僕と同じようで、当初の計画よりも大幅に走行距離や期間が長くなったりして一時帰国したらしい。

無帰国世界一周が難しい理由

 僕が走っていた2010年代でさえ、無帰国世界一周に挑戦しているサイクリストは珍しい存在で、半ば尊敬するような気持ちで接していた。無帰国世界一周が難しくなっている一番の理由は、好奇心やトラブルの話ではなく、もっと現実的な話だった。それは海外旅行保険の関係だ。僕が走っていた当時、海外旅行保険をかけられるのは最長で5年だった。プランにもよるが5年だと何十万の保険料がかかる。

 保険なので加入するしないはもちろん任意になるが、僕は加入を強く勧める。僕自身は荷物の破損やパナマで首絞め強盗に遭遇したときの携行品損害くらいしか結局使わなかったけど、交通事故やマラリアなどで高額な治療費がかかったという話は珍しくない。

 僕は当初4年の予定で旅に出たので、4年の保険をかけた。ところが走り始めてから3年で一時帰国をしたので、一度保険を解約して、再出発のときに再び保険をかけた。

 自転車で世界一周旅行をしようと計画している多くのサイクリストは、せっかくなら無帰国世界一周をして地球を走り倒してやろうという憧れに似た気持ちがあると思う。ただ一時帰国をしたからといって旅の価値が下がるわけではない。僕は一時帰国があったから、より自転車世界一周旅行を楽しめたと思っている。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生のときに自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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