4年で4千台を販売 海外でも活躍足こぎ車椅子の挑戦 リハビリから国内外の旅行へ

東北大発のベンチャー企業「TESS(テス)」(仙台市青葉区)が開発した足こぎ車椅子「Profhand(プロファンド)」が“快走”を続けている。開発当初の目的は病院や施設内でのリハビリだったが、最近では国内外の旅行に駆け回るアクティブな利用者が増えている。(清水麻子)
どこでも行ける
2月中旬、JR東京駅。足こぎ車椅子で電車を乗り継いできた、さいたま市の井田清子さん(76)が軽々とペダルをこいでいた。
清子さんは5年ほど前に脳梗塞で倒れ、左半身にまひを患った。当初は普通の手こぎ車椅子に乗っていたが、昨年5月から足こぎ車椅子を使い始め、半年で10kg痩せ、体が軽くなった。今では、これなしの生活は考えられないという。
行動派で大妻女子大名誉教授の夫、進也さん(74)に誘われ、当初は買い物や散歩に使用。電車やバスで近くの町へ行っては散策でならし、次に目指したのが旅行だ。
「世界中どこへでも行ってみよう」。昨年8月には2週間、フランスへ出掛け、足こぎ車椅子で自走しながらパリやナンシーなどフランス国内6カ所を巡った。
昨年10月には東京・高尾山の登山にチャレンジ。足こぎ車椅子でケーブルカー駅から山頂まで登り、翌月には1週間の台湾旅行もした。
今月からは月3回、自宅近くの公民館の絵画教室で水彩画を習い始めた清子さん。「足を動かすと行動範囲が広がり、体もぽかぽか」。進也さんは「自分の足でどこでも行ける達成感は貴重。街へ世界へ、これからも足こぎ車椅子の挑戦を続けます」と張り切る。
海外でも活躍
足こぎ車椅子は、脳血管障害などで歩行が困難になった人向けに、東北大医学部などが開発した技術を応用。同大が設立した「TESS」社が約4年前、病院のリハビリ向けに開発した。販売台数は約4千台に達し、ミャンマーなど5カ国にも輸出された。
なぜ、まひした足で車椅子をこげるのか。同社の鈴木堅之(けんじ)社長(39)によると、正式に解明されていないが、足は本来、原始歩行反射機能を持っている。仮にマヒしていない右足が動けば、まひした左足も自動的に動き出すという。
1回こぐと、健常者が歩くのと同じ約1m動く。思い切りこげば、早足で歩くのと同じくらいの時速5kmまで出すことができるという。足こぎ車椅子は前輪駆動のため、段差を乗り越えやすく、360度旋回やバックも可能。ディスクブレーキという制御ブレーキを採用しており、安全だ。
全国の病院やデイケア施設などでは多くの脳梗塞の後遺症に悩む患者らに使われ、リハビリ効果を上げている。
価格は現在、1台30万円台と高価だが、介護保険の福祉機器として認定。在宅療養者は月約1500円程度で借りられる(一部自治体を除く)。問い合わせは☎022-399-8727。
介助者が押せる機能も必要
足こぎ車椅子には課題もある。
鈴木社長によると、最近は井田さん夫妻のように外出用に使う事例が目立ち、「沖縄に行った」などの報告が数多く寄せられる。しかし、足こぎ車椅子は自走式のため、疲れたら介助者が押す機能がない。
井田進也さんは「普及には、こぎたいときにこげて、疲れたら足を休ませることができる機能が絶対に必要。例えば、フリー・ホイール式(自転車式)ギアを装着できないか」と提案する。こうした声に応え、東北大では、疲れたときに介助者がサポートできる機能の研究を進めている。
(産経新聞紙面より)