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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<351>ロードレース移籍市場“開幕” ポストコロナにおける移籍動向の傾向は?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 中断していたUCIワールドツアーが8月に入ってついに再開。ときを同じくして、ロードレースシーンの移籍市場「ストーブリーグ」も幕を開けた。コロナ禍で大きな混乱が生じながらも、選手たちの次なる環境選びは従来通りの日程で進むことになった。そして早速、注目選手たちの新天地が続々と決まっている。今回はその動向と、ポストコロナにおける移籍市場で想定される傾向などを確認していきたい。

8月に入りロードレースの移籍市場が“開幕”。先ごろイスラエル・スタートアップネイションへの移籍を発表したクリストファー・フルームもいよいよ正式契約を結ぶ =UAEツアー2020第1ステージ、2020年2月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

例年通り活発なストーブリーグに

 ロードレースのチーム移籍は、8月1日以降に移籍先のチームとの来季以降の契約を交わすことを基本とすることがUCI(国際自転車競技連合)によって定められている。とはいえ、慣例としては翌シーズンに向けた補強活動は早い段階から行われており、チーム側が獲得を目指す選手に対してオファーしていたり、水面下での交渉といった動きはシーズン序盤から行われているケースも多いとされる。

パンデミックの影響でスポンサー撤退が決まったCCCチーム。チームの継続、選手の動向など不透明なままだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第1ステージ、2019年8月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ただ、今年に限っては状況が大きく異なっていた。新型コロナウイルスの感染拡大によってレース活動がストップしただけでなく、選手たちのさらにはチームの動きも見通しが立たなくなり、選手たちにとっては環境選び、チームにとっては補強に向けた取り組みも予測がつかないものとなっていた。

 それでも、ここへきてレースが再開され、選手やチームが精力的に動き始めたこともあって、例年に近い形での移籍市場となりそうなムードが漂い始めている。何より、選手とチームとが交わしていた契約内容がコロナの影響で大幅に変化するような事態は起きず、当初結んでいた契約年数がそのまま有効となっていることも、いつも通り活発なストーブリーグになりそうな要素ともいえる。

ラトゥール、ポリッツら実力者が新天地を決める

 クリストファー・フルーム(イギリス、チーム イネオス)が2021年シーズンからイスラエル・スタートアップネイションで走ることは先ごろお伝えした通りだが、8月に入って正式に次期チームとの契約を結んだ選手も次々と明らかになっている。

フランス期待のオールラウンダー、ピエール・ラトゥールがトタル・ディレクトエネルジーへの移籍を決めた =パリ〜ニース2020第7ステージ、2020年3月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 タイミング的に一番乗りだったのが、トタル・ディレクトエネルジー入りを発表したピエール・ラトゥール(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)だ。2018年のツール・ド・フランスでは新人賞のマイヨブランを獲得(個人総合13位)したフランス期待のオールラウンダーは、グランツールをはじめとするステージレースでの総合エースの座を約束され、来季からの2年契約を結んだ。

 トタル・ディレクトエネルジーは現チームからはワンランクカテゴリーが下がる「UCIプロチーム」にあたるが、そのあたりは大きな問題ではないといい、ツールを筆頭にフランス開催のレースをメインに臨むチームスタンスのもと、結果を求めていくという。もっとも、ラトゥールとトタル・ディレクトエネルジー入りはフランスのサイクルメディアなどでは早くから有力視されていたこともあり、両者は相思相愛の関係にあると見てもよさそう。

気鋭のクラシックハンター、ニルス・ポリッツがボーラ・ハンスグローエと3年契約。念願のドイツチーム入りを果たす =パリ〜ニース2020第1ステージ、2020年3月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同じく実力者の移籍では、クラシックスペシャリストのニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)のボーラ・ハンスグローエ入りも注目のトピック。3年契約を結び、お膝元であるドイツの有力選手を軸としたチーム編成の一端を担うことになった。

 昨年のパリ~ルーベでは死闘の末2位になるなど、ここ数年でブレイクしている26歳は、前シーズンのストーブリーグでも名が挙がっていた。それまで所属していたカチューシャ・アルペシンの事実上の解散のあおりを受ける形で新天地が決まらない日々が続き、同チームのUCIワールドチーム登録権利を引き継いだイスラエル・スタートアップネイションが結果的に受け皿になるような形で今シーズンを迎えていた。

 ボーラ・ハンスグローエのチームマネージャー、ラルフ・デンク氏は数年にわたってポリッツを追っていたことを明かし、これからは勝てるライダーへと育てたいという。ポリッツが主戦場とする石畳系クラシックでは、ペテル・サガン(スロバキア)やダニエル・オス(イタリア)、マークス・ブルグハート(ドイツ)といった実績・経験申し分なしの選手たちがそろっており、来年以降はどこからでも勝ちに行ける布陣が組めそうだ。ポリッツ自身もここ数年の戦いを「“孤独な戦士”だった」と振り返り、戦力が整う新たな環境では「間違いなく膨大な数の戦術がある」と、希望に胸躍らせている。

タイムトライアルスペシャリスト、エドアルド・アッフィニはユンボ・ヴィスマ入り。スプリントトレインの牽引やクラシックでのアシストも期待される =UCIロード世界選手権2019男子エリート個人タイムトライアル、2019年9月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのほか、UCIワールドチーム間での移籍では、エドアルド・アッフィニ(イタリア、ミッチェルトン・スコット)のユンボ・ヴィスマ入りも決定。昨年のヨーロッパ選手権の個人タイムトライアル銅メダリストは、オールラウンドに強化を図ろうというオランダチームの求めるところとピッタリ合致。タイムトライアルで勝利を狙えるだけでなく、ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)を支えるスプリントトレインの一角に、さらにはワウト・ファンアールト(ベルギー)擁するクラシックメンバーとしても大きな期待をかけられている。

今年の移籍市場はチーム財力がそのまま反映か

 今シーズンが契約最終年の大物ライダーが多数控えており、今後次々と注目を集める動きが見られることだろう。

 そうした中でも、このストーブリーグのポイントになってくるのがパンデミックによる影響だ。シーズン中断によるレース活動ストップでは、ロードレース競技の経済的な弱点が顕著に表れた。例えば、所属選手の給与カットや契約スタッフの解雇、さらにはCCCチームのようなタイトルスポンサーの撤退決定といった事態まで発生。また、チームによってはツールが開催されるか否かでスポンサーとの関係性が大きく変わるといったケースもあり、今もなお緊張の日々が続く。

このストーブリーグの目玉と言われているアダム・イエーツ。契約延長か移籍か、決断に注目だ =UAEツアー2020第3ステージ、2020年2月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 こうなってくると、チームの財力がダイレクトに選手のスカウティングにも表れる可能性が高まってくる。実際に欧米のサイクルメディアを中心に、資金力のあるチーム イネオスやユンボ・ヴィスマといったチームはコロナ禍をうまく乗り切ったとの見方も挙がっており、現有戦力の契約延長や新規ライダーの獲得など、抜かりのない基盤整備が進むものとみられる。これからしばらくは、選手たちの動きとともにチームの態勢も注視していきたい。

移籍決定間近との噂もあるロマン・バルデ =パリ〜ニース2020第7ステージ、2020年3月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ちなみに、今年の移籍市場ではグランツールレーサーの動きが見もの。アダムとサイモンのイェーツ兄弟(イギリス、ミッチェルトン・スコット)にはそれぞれ異なるチームからのオファーがあると言われ、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)は移籍決定間近との情報も。リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)は今年のツールでグランツールの総合狙いは最後にすることを宣言しているが、山岳アシストとしてはまだまだ需要は高い。また、CCCチームが後継スポンサーを見つけられなかった場合、所属する28選手がそのまま市場リストに名を連ねることも考えられ、そうなるとグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)らエースクラスは争奪戦となるだろう。

 本コーナーでは、引き続き移籍市場の動向を追っていくこととする。

今週の爆走ライダー−アレックス・アランブル(スペイン、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 8月3日にイタリアで行われたグラン・トリティコ・ロンバルド(UCI1.Pro)はアスタナ プロチーム勢の独壇場。終盤にアタックを決めたゴルカ・イサギレ(スペイン)が勝利し、27秒差で続いたメイン集団に待機したアレックス・アランブルが2位。ワン・ツーフィニッシュを達成し、シーズン再開を美しく飾っている。

アレックス・アランブル Photo: ASTANA PRO TEAM

 このレースではゴルカ・イサギレのアタック後、メイン集団の抑え役に徹した。ファンアーヴェルマートやミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、チーム イネオス)らビッグネームを相手に堂々たる戦いぶり。追撃の芽を摘み取り、エースの優勝を好アシスト。そして最後は自らもスプリントで締めたのだから、100点満点の働きだったといえるだろう。

 アランブルにとって、ゴルカとヨンのイサギレ兄弟は同じスペイン・バスク出身であり、アマチュアチームでも同じ系譜をたどったという大先輩。ずっと憧れていたというゴルカとの表彰台は特別で、キャリアにおける大成功の日だと喜んだ。

 そんな快走は、現チーム加入後に積み重ねてきた自信が支えている。特に、3月上旬に出場したクールネ~ブリュッセル~クールネ(UCI1.Pro)は、トップレベルのプロトンにも自らが適応できる手ごたえをつかんだレースとして挙げる。得意とするスプリントに持ち込むことはできなかったが、早いペースや石畳への対応、勝負どころでのポジショニングなど、自身の走りを肯定できる要因が多数見つかったのだとか。

 大幅にレーススケジュールが変更された今年はジロ・デ・イタリアをメインとしながらイタリアのレースを転戦する見込みだが、将来的な目標としてはツール・デ・フランドルを掲げる。石畳の急坂に「あれはクライマーとしても通用するくらいじゃないと戦えないと思う」といい、自らが強化すべきポイントと述べる。丘陵系のレースを得意とし、勝ちパターンは混戦からのスプリント。確立済みのスタイルがプラスに働く日がいずれやってくるはずだ。

 地元メディアのインタビューで現チームの印象を問われ、「世界一のチーム」と胸を張った。年齢的にも24歳と前途は洋々。実力者ぞろいのビッグチームにまた1人、若きタレントが現れようとしている。

2020年シーズンはイタリアのレースをメインに走るアレックス・アランブル(右)。将来的にはツール・デ・フランドルでの活躍を目指している(写真はブエルタ・ア・ブルゴス2020第1ステージ) Photo: ASTANA PRO TEAM
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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