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昼間岳の地球走行録<60>世界一周のスタート地・アラスカ 失敗続きだった経験で得たもの

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 自転車で旅をしようと決意した時「どこからスタートしよう」ではなくて、「どこをゴールにしよう」と考えていた。九州から北海道まで縦走した大学生の時は、ゴール地を北海道・稚内の宗谷岬に定めて旅を始めたけど、その理由は当時(2004年)、鹿児島・佐多岬(九州本島の最南端)が自転車の乗り入れができず「ゴールの感動が薄れてしまうのでは」と思ったからだ(現在の佐多岬は自転車の乗り入れが可能だ)。世界一周の旅に出発する時は「フェリーで日本に帰国したい」という思いから消去法でスタート地を定め、アラスカから南北アメリカ走行スタートさせた。

北極海に延びる全長666kmのダルトンハイウェイ。旅の途中で出会ったサイクリストに教えてもらい走ってみたが、結局北極海まではたどり着けず、北極線で引き返してきた Photo: Gaku HIRUMA

不安とともにペダルをこいだ旅のスタート

 初心者ながら世界一周を目指していた僕にとっては最適なスタート地だったけど、今思えば完全に準備不足だったのは否めない。なぜなら日本を自転車で走った経験から、先進国のアメリカのアラスカ州を走ることくらい訳ないと思い、ほとんど事前の情報収集をしていかなかったのだ。

白夜になかなか気が付かなったアラスカ空港で最初の一枚。フィルムカメラだったので画像が荒い Photo: Gaku HIRUMA

 7月の爽やかな気候の中、アラスカの空港に降り立った時はすでに夕刻。「もう少しで日が暮れるから、空港で夜を明かした方がいいのではないか」と思いながら、とりあえず自転車だけは組んでしまおうと作業していた。しかし待てど暮らせど一向に日が暮れない。そこでようやく「もしかして夏のアラスカって白夜だったか」と気が付いた。

 白夜という現象は知っているけど、日本を飛び出して世界一周の旅に出てしまったんだという不安から頭が真っ白になり、実際の体験に頭が付いて行かなかった。だからそのうち日が暮れるだろうと訳の分からないことを本気で思っていた。そんな不安な気持ちを乗せた世界一周初めてのひとこぎは、とても重かったのをよく覚えている。

ホットドッグを食べ、眠りについた世界一周旅の初日

 空港から最寄りの都市、アンカレッジの中心街までの道のりは、今思えば走りやすい道だったけど、当時はどこを走っているのかさっぱり分からなかった記憶がある。買い物もままならなかったので、水も食料もろくにないままでなんとか目的地に辿り着いたという感じだった。学生の時に何度海外旅行をしたにもかかわらず、この有様だった。

 日本国内を自転車で走った経験はほとんど役に立たず、その上自転車で世界を走るという重圧に押しつぶされそうになった。だから自分でも驚くほど英語が頭に入ってこなかったのを覚えている。

 アンカレッジの中心街は碁盤の目になっており、現在地が把握しやすい。なんとか目星を付けていたホステルを見つけ出せた。予約はしていなかったけど、部屋が空いていたのは本当に幸運だったと思う。

 その日はレストランで食事する勇気も自炊する体力もなく、宿の近くに売っていた数ドルのホットドックを「初日のご飯くらいアメリカっぽいホットドックで十分だ」と言い訳をして、もそもそと食べてから眠りに着いた。

簡易マップ通りの200km無人地帯

 翌日も珍道中は続いた。飛行機を使って入国する場合、食品や燃料の持ち込みが制限されるので、現地に着いたらまず食料と調理用バーナーの燃料を補給をしなければならない。

 僕はガソリンバーナーを使っていたので、ガソリンスタンドに行きレギュラーガソリンを専用のボトルに給油するのだが、アラスカのガソリンスタンドを初めて使おうと思ったとき、どこにもRegularの文字がなく、どれを給油すればいいのか全くわからなかった。

どう走っていいのか分からなかったので、まだ走れる時間帯でもキャンプ場に逃げ込むことが多かった Photo: Gaku HIRUMA

 また当時の僕にはセルフガソリンスタンドの使い方が難解に感じて、とても給油できる気がしなかった。慣れてくれば何てことないのだが、アメリカはレギュラーガソリンをUnleaded(無鉛ガソリン)と表記しているスタンドが多く、それが全く分からなかったのだ。今ならスマホやパソコンで調べれば、すぐに答えが出るけど、当時の僕はネットに繋がる機器を何も持っていなかった。現実問題ガソリンバーナーが使えないのは痛手だ。自炊ができないなら広大なアラスカを走ることは相当に厳しいだろうと思っていたからだ。

 旅の開始早々途方に暮れかけたけど、ツーリストインフォメーションで貰った市内マップを眺めていると、郊外に大型スーパーのウォルマートの表記があるのを見つけた。「ウォルマートだったらアウトドアコーナーでホワイトガソリンが売ってるかもしれない」と期待を込めて行くと、予想通りホワイトガソリンが売られていた。3.5L缶の巨大なアメリカンサイズしか置いてなかったけど、当時の僕はこれで先に進めるという安堵感と嬉しさからなんの迷いもなく購入を決め、ついでに1L醤油と米を2kgも買い足した。

 そのほかの準備を何とか済ませると、数日のうちにアンカレッジから出発できた。地図はインフォメーションで貰った無料のアラスカ簡略化図しか持っていなかったけど、アラスカは国道だけ走るつもりだったし、この地図で十分だと判断したからだ。

 アンカレッジを出発してから近郊の町をいくつか通過した。アンカレッジでは片側4車線あった車道は、3車線、2車線と減り、ついに1車線になった。僕が想像していたアラスカの道だ。そのまま広大で力強いアラスカの森林地帯を走り抜けた。

アラスカは思った以上に起伏が多く、走り出したばかりの僕には大変だったけど、筋力を付けるにはもってこいの道だった Photo: Gaku HIRUMA

 地図上では次の町まで200kmと表記があった。そうは書いてあるけど、持っている地図は簡略化されたものだから途中に小さな集落や商店、ガソリンスタンドくらいはあるだろうと勝手に思い込んだはいいものの、本当に何もなかった。日本では200kmも無人地帯が続くのは考えられないことだったので、とても驚いたのを覚えている。一応用心して食料を買っておいて本当によかった。

アラスカの失敗が教訓に

 今思い返すとよく無事に世界一周できたなと思う。右も左も分からず失敗だらけだったけど、アラスカの経験は初心者の僕をしっかり支えてくれた。

 夏のアラスカは気候も良く、道も分かりやすい。熊の出没には注意が必要だけど野宿もしやすい。人々も親切だし先進国の安心感もあるので、世界一周のスタート地として選ぶには最適な地域だと思う。

 僕はあのアラスカの失敗だらけの体験がその後の旅に教訓として大きく生かされた。旅に出て間もないころは何もわからず失敗ばかりだった。その時の気持ちは、今でも鮮明に覚えているし、笑い話になっているので、それはそれで良かったと思う。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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