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栗村修の“輪”生相談<184>10代男性「トレーニングのためのサイコンはどの程度の性能のものが良いですか?」

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 現在高校1年生で2年前からロードバイクを始めたのですが、このスポーツはお金がすごくかかります。学生にはなかなか厳しいものがあります。消耗品だけでも馬鹿にならない額がかかります。

 そんな中でやはり競技である以上、上のレベルを目指したいと思っています。そこでトレーニングなどをインターネットで調べますが、記事をみると「ケイデンスや心拍を管理しながら」と書かれています。

 そこで質問です。トレーニングではやはりケイデンスなどを管理するためのサイコン(サイクルコンピューター)を買った方がいいのでしょうか? また買うとしたらどの程度の性能のものが良いのでしょうか?

(10代男性)

 最近、お金に関する質問をよくいただきます。機材がどんどん高額化し、参入障壁が高くなってしまっている現状は、はっきりいって望ましくないと思っています。

 できれば、機材を高くない物で統一した「ワンメイクレース」をやるとか、資金力で差が生まれないように工夫をすべきだと思うんですが、メーカーや代理店、自転車屋さんにとっては機材を売るのが仕事ですから、そう簡単ではありません。悩ましい問題です。

 が、個人レベルでできることはあります。まずは、使えるお金がどれだけあるのかをしっかり把握することですね。年間予算が10万円の人が勢いで10万円のホイールを買ってしまったら、消耗品の更新ができません。家計簿を作るなどして、自分が使えるお金はいくらで、そのうちいくらを自由に使えるのかをチェックしましょう。まずはここからです。

 その上で、社会人なら貯金や副業をするとか、選手なら機材提供をしてくれるスポンサーを探すなどの手段がとれますが、質問者さんは高校生ですからどれも現実的ではないでしょう。なので、本当にサイコンが必要なのかを考えてみます。

 「今どきの若い者は…」「昔は…」と言うおじさんにはなりたくないのですが、あえて言いますと、昔は心拍計もパワーメーターも、サイコンもなしでトレーニングをしていたんです。それで速くなれないかというと、全然そんなことはありません。

 僕が高校を辞めてフランスに行った頃は、ちょうどサイコンが普及し始めた時期だったんです。といってもスピードと距離が分かるだけの原始的なものだったんですが、僕はうれしくて、サイコンに表示される数字ばっかり追いかけていました。

 すると、フランスのコーチに言われたんですね。「距離ばかり見ていてはいけない。時間と感覚、そしてトレーニングの結果のほうが大事だよ」と。今でいうなら、「パワーばかり見ていてはダメだよ」という感じでしょうか。数字だけじゃなく、内容や質を大切にしよう、という感じです。

バイクのハンドルに取り付けられるサイクルコンピューター。現代ではスピードや距離の他に、ケイデンス(ペダルの回転数)、心拍、出力(パワー)、高度、気温、地図など、多種多様な情報を表示できるものがあり、ライダーの走行状況を逐一測定・記録できる Photo: Yuzuru SUNADA

 この例からも分かるように、数値を測ることは楽しいんです。モチベーションになるんです。この場合の数値とは、速度・ケイデンス・心拍数・パワー、そのすべてに当てはまります。

 ただ、数字によるモチベーションアップは長続きしませんし、やりすぎるとオーバートレーニングなどの罠も待ち受けています。数字は指標にすぎませんから、その使い方のほうが大事なんですね。その意味では、質問者さんが気にされている心拍数やケイデンスを測れるサイコンはあったほうがいいですが、ないとダメということはまったくありません。

 そして何よりも重要なのは、ここは多くの方が勘違いしがちなのですが、数値は手段でしかない点です。目的ではないんですよ。

 いい例があります。僕がフランスにいたときは、当時のサイコンではケイデンスが測れませんから、時計を見ながらケイデンスをカウントしていたんですよ。30秒間、時計を見ながらペダルの回転数を数え、倍にします。すると、「なるほど、ケイデンス100回転というのはこのスピードではこのギヤか」と身体で覚えられるわけです。人間とは不思議なもので、デジタルな数字をいきなり見せられるよりも、若干面倒なプロセスを経た方が体得しやすい性質があるんですね。

 重要なのはここです。つまり、何のためにケインデンスを知るのかという点です。90回転とか100回転といった数字を眺めて楽しむためじゃありません。「〇〇回転のケイデンスとはこういう『感じ』なのか」という、頭と体で理解するためです。そして、その理解の結果、どんな成果に繋がるのかが大事なのです。

 フランスではミシュランの紙の地図を買って、走ったところを書き込みながらトレーニングコースを作っていたんですが、すごく道に詳しくなれるんですよね。自分の頭と身体を使い、いちいち考えながら走るからです。「あのタバコ屋を右に…」とか。その結果、とても効率よく道を覚えられた記憶があります。

 一方、スマホのナビに頼ってしまうと一向に道を覚えられなかったりしますよね。デジタルな情報に依存して頭と身体をないがしろにしてしまうと、実は一番大切な感覚が鈍るんです。

 まあ、道探しなら毎回ナビを使えれば問題ないんですが、選手が感覚を鈍らせて成果を挙げられないのでは本末転倒です。大負けしたレースの後に「練習では〇〇W出せたんですけど、なぜ勝てないの?」と言っても意味がありません。

 300Wとか500Wといった数値は、それだけでは液晶上のシミに過ぎないわけです。一喜一憂してもしょうがありません。問題は、その数値を出すときにどの程度苦しいのかとか、フォームを洗練して数値をどれだけ効率よくスピードに変えられるとか、つまり身体と関わる部分です。

 長くなりましたが、結論としては、ケイデンスや心拍数を機械が測ってくれることは大変ありがたいが、それらが表示されただけではなにひとつ成果にはつながらないということです。その上で、予算があればまずはケイデンス付きのサイコンを購入してみてはいかがでしょうか。心拍数は安いBluetoothセンサーなどを買えばスマホが記録してくれます。

 もちろん、予算と相談したうえで、買えるならパワーメーターも買うべきです。現状、指標としては最も有効な数値がパワーだからです。僕はそういった機器を否定するものではありません。むしろ重要だと思っています。

 ただ、「その先」にあるものを忘れてしまっては本末転倒だと言いたいのです。サイコンはゴールではありませんし、サイコンがあってもなくてもやることは変わりません。むしろサイコンを買って満足してしまい、考えること、感じることを一切止めてしまうくらいなら、買わない方がよい可能性すらあります。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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