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三船雅彦の「#道との遭遇」<7>酷道のすゝめ・国道166号高見峠 険しい旧道で想像の時間旅行へ

by 三船雅彦 / Masahiko MIFUNE
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 長距離のエキスパートでプロサイクリストの三船雅彦さんが、全国の道を普通と違った走り方で紹介する連載「#道との遭遇」。今回は国道に指定されながらも難所や通行の困難が多い、いわゆる“酷道”(こくどう)を紹介します。ただ通るだけなら辛い道ですが、そこに道がある意味を考えれば、また違う味わいが出てきます。

特に何もない高見峠頂上。県境の看板があるぐらいだ Photo: Masahiko MIFUNE

“酷道”に感じる懐かしさとは

 「道とはなんぞや これは道なのか、道ではないのか」

 そんな禅問答をしながら走るときがある。自分たちが生まれる遥か昔から、人々の往来には「道」が必要だった。そしてそれは通行量が増えると同時に道は進化を遂げていく。

 「箱根八里馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」

 大井川を越えることは今から300年も前だと命がけ。それが今大井川を普段車や自転車で橋を渡る際、昔の人のような命がけで渡る人はいないだろう。

国道166号線で鷲家(わしか)から高見へと抜ける新木津トンネルを避けて旧道の「木津隧道」へ向かう。この新道を見下ろすというのも、旧道を走るときのワクワク感だ Photo: Masahiko MIFUNE

 東海道に関しても箱根越え、薩埵峠や熱田からの海路、鈴鹿の山越え、「急がば回れ」な瀬田の唐橋、などなど難所はいくつも存在していた。文明開化以降車の通行で道は拡張され整備され、それらもトンネルやバイパスと進化し、いつしか以前の「旧道」というものも進化という時代の波に飲まれ、人々の記憶からも遠ざかっていくはずだ。

 全国各地を自転車で走っていると、バイパス化された道や長いトンネルにも出くわす。その都度、日本は特に車社会で車目線での「便利で走りやすい」道路に進化しているのだろうが、それは果たして自転車に乗るときにも同じだと言えるのか、という疑問を持ちつつ走り、時にはノスタルジックな気持ちに包まれつつ旧道へと迂回し、見たことはなくとも在りし日の旧道がメインの道路だった頃の何かを感じつつ自転車で走り抜けていく。

高見の集落からいよいよ登り始める。昔はここが頂上へ向かう最後の集落だったのだろう。集落内の旧道看板は錆び切って機能していない Photo: Masahiko MIFUNE

 「酷道」と揶揄される道路の多くはその地形などの険しさから十分な幅員が確保できなかったり、地形に合わせてくねくねと進んでいくしかない。四国の国道439号線、別名「ヨサク」や、紀伊半島の国道425号線、別名「死にゴー」などはその典型だ(それでもかなり改良されているが)。酷道と呼ばれる道路を進んでいると、ゾクゾクとしつつも何か懐かしかったりする。

 先の「ヨサク」や「死にゴー」だけでなく、特に四国や紀伊半島は酷道が多い。四国に関しては国道で酷道扱いしない道路が数えるほどで、三桁国道はすべて酷道と言っても過言ではない。近年はバイパス化されてしまっているが、ふと見える旧道へと舵を切ると、思わず声が出そうな道もあるし、逆に声が出なくなるような道もある。中には旧道過ぎるでしょ!とアスファルトのない道もあったりする。それ以前の道になると、ちょっとロードバイクでは進めないのでなるべく触れないようにしているが。

集落出口付近には高見山への登山道入り口があり、旧伊勢街道はこちらだったのだろう Photo: Masahiko MIFUNE
高見トンネルもいよいよ、と言うときに唐突に高見峠の看板が見える。写真中央が高見峠への道だが、車だとあまりにも道が細いのと唐突過ぎて、行き過ぎてしまうかもしれない Photo: Masahiko MIFUNE

旧道に刻まれた歴史をたどる

 そんな旧道、酷道デビューにおススメしたいのが、近畿と伊勢を結ぶ伊勢街道。国道166号線の東吉野~飯高間の高見峠だ。県境には高見山があり、高見トンネルという長いトンネルが伊勢と近畿を隔てているが、昔は高見峠という標高900メートルほどの峠があり、こちらは旧道である。

整備の行き渡らない旧道は、雨の後などはあちこちで土砂が流れていたりするので注意が必要だ Photo: Masahiko MIFUNE

 中央構造線が近くを通っているという地盤の脆さから自然災害に弱く、三重県側は一部ダート。どうも改良されることもなくトンネルが開通したのだろう。旧道区間には民家もなく(三重県側の新道合流地点付近にはあるが)、この旧道が登山用アクセスルートとして奈良県側のみを残して三重県側を閉鎖する可能性もゼロではない。こういういつか朽ち果てそうな道は魅力的だ。

岩がご神体なのだろうか。昔はここで無事を祈りながら進んだに違いない Photo: Masahiko MIFUNE

 個人的に高見峠は、比較的難易度は低い酷道ではと思っている。酷道ビギナーでもアクセスしやすい。所々ガードレールもないしグラベル区間もある。そしてこの地域は三重県の中でも数少ないクマの生息域で地盤のもろい地域。落石も驚くことではない。絶対安全とは言わないが、その分慎重に安全に走ることで全国の酷道を走るためのいい練習になるのでは?そんなルートだと感じた。

 関西からだと桜井から女寄峠を登って宇陀に入るのが一般的で、三重側からだとそのまま国道を西進することになるだろう。今回は自分が関西人ということで西側ルートを紹介したい。

高見峠へのルートも頂上から登山に向かう人が多いからか、比較的道路のコンディションはいい方だと思われる Photo: Masahiko MIFUNE

 宇陀からのルートもトンネルを避けて旧道を走ることで、突然景色も何もかもがワープした感じにならず、徐々に畿内を離れて、伊勢へと向かっていることを感じるので好きだ。

 その昔ここは伊勢と和歌山を結ぶ街道で(和歌山側は「伊勢街道」三重側は「和歌山街道」)、東吉野村高見の集落から登っていくと、目の前に見えてくる高見山の険しい景色に、「よく車も何もなかった時に、この山を越えて伊勢に行こうと思ったよな…」と驚くとともに感心してしまう。一体誰がこの険しい山を越えて伊勢に参ったりしようと考えたのだろう。参勤交代で紀州藩はここを通っていたらしい。紀州松平も命がけだったに違いない。

 比較的走りやすく勾配も険しくない東吉野側を仮に登ったとして、頂上から飯高側を見たときに「あ、やってもうた!ここむっちゃ険しいやん!!冒険せんと初瀬街道(現国道165号)で良かったやん!どないしてこれ下るねん」とか思わなかったのだろうか。オレなら120%思う。

高見峠を越えて、しばらく下ると突然グラベル区間が現れる。ガードレールもないので無理せずに走ってほしい。ガードレールのあるところから下は、明らかに土盛りして道路修復している高さなので、一度崩落しているのだろうか Photo: Masahiko MIFUNE

 でもきっと誰かが「大丈夫!こっちのほうが伊勢に近い!」と歩きながら道を作り、頂上で引き返すの面倒くださいから、なんだかんだと言いながら高見山から地元の集落、きっと集落から出る煙などをめがけて下って行ったに違いない…あくまでも妄想だが。

 だいたいグーグルアースもなければ地図もない、そんな時代によくぞ目的地へと道を作ったものだ。

下り切って国道に合流し高見トンネルへ向かい登り始めると、目の前にはループで上る新道が目に入る Photo: Masahiko MIFUNE

プチ・時間旅行を終えて

 高見トンネルとバイパスの整備で、旧道を走ると完全に時空のはざまにはまり込んだかのようだ。

高見トンネルは高見峠よりも300mほど低いところを通過するため、峠という感覚をそれほど感じることもなく戻って来れるはずだ。全長2470mの長いトンネルは、「伊勢」「吉野」と言う歴史の香りを一瞬で変えてしまう Photo: Masahiko MIFUNE

 割れたアスファルト、散乱する木々や落石。登っていると下の方から国道を走る車の音が山あいに響く。高見峠は標高約900m。4kmほどで高低差300m。内陸部のため登り口がすでに標高が高い。これも比較的難易度が低いと感じる理由だ。三重県側は海側なので標高差は大きく、印象は違ってくるだろうが。

 峠を下りきり国道に合流してすぐに東吉野の方へとターンし、トンネルを抜ければ費やした時間が嘘のようにあっという間に戻って来ることができる。

三船雅彦(Masahiko MIFUNE)

元プロロード選手で元シクロクロス全日本チャンピオン。今でもロード、シクロクロス、ブルべとマルチに走り回る51歳。2019年は3回目の『パリ~ブレスト~パリ』完走を果たす。今年は新型コロナウィルスの影響でイベントがことごとく中止。その腹いせ?に関西圏の道を走り回っている。「知らない道がある限り走り続ける!」が信条。。

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