自宅で自転車整備をする際に欲しい汎用工具のはなし。第6回目は、整備や組み上げの完成度を更に上げる「ヤスリ」の種類や使い方ご紹介します。
ヤスリを揃え、整備にひと手間かけて部品本来の動きを保ちましょう Photo: Shusaku MATSUOヤスリって何?
削ったり、磨いたりする作業用の工具ですね。鉄製の棒ヤスリがメインに使われます。フレームや部品のバリを取ったり、カットした断面を整えたり、また部品同士の合わせ面を均す際にも活躍します。
基本的に完成車メーカーは、最後の仕上げ作業を組み付けする人間に委ねています。そして、どんなに丁寧に作られたパーツも、最後がやっつけ仕事ではその性能を発揮することはできません。バイクの完成度、パーツの動きの善し悪しは、組み上げる前の仕上げで大きく変わります。
表面に細かい凹凸を施し、バリやざらつきを整える棒ヤスリ Photo: Shusaku MATSUO
というのも、フレームもパーツも、採用された規格を元に各部基本寸法は決まりますが、フレーム・パーツ双方のメーカーが違うので、許容誤差範囲も当然違っていたりします。また、カラーによっては塗装の厚みも組み上げの問題になる場合があったりしますよね。さらに、根本的な部分として、工場による製造精度の差もあって、基本的にロードバイクの各部品やフレームは、相性があるんですよね。それも「組み合わせ」に加えて「個体差」でも変わってくるので、毎回違う。そりゃ“ポン付け”じゃ合いませんよね。
ネジで留めるだけのパーツであっても、はめ込むだけのパーツであっても、まずは仮組みをして、綺麗にハマるか合わせを確認しましょう。パーツの精度がいくら高くても、メーカー側は組み付ける対象は選べない(専用部品はその限りではない)ので、仕方ないですね。
ヤスリは部品各部の合わせ面を綺麗に整える際に重宝します。ヤスリを使いこなして、ワンランク上の整備を施しましょう。
ヤスリを選ぶポイント
ヤスリを選ぶポイントをご紹介します。もっともポピュラーな「棒ヤスリ」は本体のサイズ、削り面(刃)の輪郭、目(刻み)の形状に加え、目の粗さで、削る強さ、仕上がり具合、詰まりにくさなど、その特性が大きく変わります。用途に合った物を選びましょう。
①棒ヤスリの本体サイズを選ぶ
自転車整備に使うのであれば、ほとんどが細かい作業になるため、小さめ(刃渡り100mm前後)サイズのヤスリが数本セットになった「組ヤスリ」がオススメ。また、最初は少々オーバースペック感がありますが、コラムなどパイプカット系作業もご自身でするのならば、中くらい(刃渡り250mm)サイズの「鉄工ヤスリ」も1本あると良いでしょう。
刃渡り25cmほどのヤスリ Photo: Shusaku MATSUO②棒ヤスリの刃の形状(輪郭)を選ぶ
ヤスリ部分(刃)の形状ですが、基本の「平」型からはじまり、「先細」「丸」「半丸」「角(四角)」「三角」など、複数の種類があります。その中で自転車整備用に一つ選ぶなら基本の「平」、もしくは「半丸」がオススメ。半丸はカマボコのような形状で、片面はフラットもう片面はラウンド形状の複合形で、汎用性が高くて便利です。
③棒ヤスリの刃の目の種類(刻みかた)を選ぶ
金属削りなどに適した「単目」「複目」、木材やプラなど非金属に適した「鬼目」「シャリ目」、アルミなど切子が多く出る素材を削っても目詰まりしにくい「並目」などが有り、また対象を選ばない万能型「特殊目」(下で紹介)なんてのもあります。
細い場所や複雑な形状の場所にも当てやすい丸型 Photo: Shusaku MATSUO
使いやすく一般的な形状なのが「複目」です。もしくは、万能とかステンレスと呼称される難削材対応タイプ「特殊目」がオススメです。特殊目は名称も形状もメーカー毎に微妙に違っていたりしますので、探すときは「ユニカット」「トリカット」「マジカット/ニコルソン」などで調べましょう。万能ヤスリは「ステンレスヤスリ」なんて言われたりしますが、素材がステンレスなのではなくて、硬くて削りにくいステンレスも削れるからですね。
④棒ヤスリの目(刻み)の細かさを選ぶ
サンドペーパーなどを使い慣れている方は、目の粗さを番手(#400とか)で表示するのに慣れていると思いますが、棒ヤスリは呼称で区別します。目が粗い方から「粗目」→「中目」→「細目」→「油目」の順。使いやすいのはニュートラルな「中目」です。ちなみに特殊目のヤスリにはこの細かさの表記が無い場合も多いのですが気にしなくてOKです。
⑤ブランドで選ぶ
ジャパンヤスリの鉄板ブランドと言えば「ツボサン」。焼き入れの際に刃に特殊な味噌を塗っているのは有名ですよね。ブランドロゴのツボもその味噌壺とか。現代に通用する日本古来の技術とかもう最高。同社の「ブライト」シリーズはもう間違いない逸品です。個人的なオススメブランドとしては、ヤスリマイスター「ワタオカ」。こちらは刀匠をルーツに持ち、130年の歴史を誇る老舗ブランドです。ヤスリ自体も当然良いのですが、他にも色々センス良いです。ココのカタログとかもう工具好きならずーっと眺めてられるんじゃないでしょうか。変わった商品だと、猫用ヤスリ(ブラシ)なども!? 注目してほしいブランドです。
海外ブランドでは、時計部品の加工用ヤスリで有名なスイスの「バローベ」、万能ヤスリのマジカットで有名なアメリカの「ニコルソン」など、これらも所謂テッパンブランド。これらのブランドならどこのモノを買っても後悔しないでしょう。
用途
先ずは、前回ニッパーの紹介でも書いたケーブルアウター(ケーシング)カット後のエンド処理です。これはケーブルをカットするなら絶対にやった方が良いです。というのも、ケーブルはインナーケーブルの表面処理や、アウターのテフロンチューブなどで抵抗を減らし、動きを良くしていますが、アウターケーブルのエンドやワイヤー受けなど、メタルパーツにインナーケーブルが干渉していたら、それらは全部台無しになってしまいます。「ケーブルカッターを上手く使えば処理は必要無い」という方もいますが、挟み切る構造の工具での作業で内部のテフロンチューブを潰さないとか僕には無理でした。個人的には、カット作業自体に気を使うよりも、毎回エンド処理をしてもらった方が確実かと思います
ワイヤーカッターで切ってもバリが残る可能性大 Photo: Shusaku MATSUO
次に、インナーケーブルのエンドを整える作業。コレはあまり聞かないと思いますが、結構重要。例えば、ケーブル内装式のハンドルやフレームなど、アウターの湾曲がキツくなっている部分ありますよね。そこに最初にインナーを通す時に、エンドがささくれていたりすると、ケーシング内部のテフロンチューブにキズが入ったり、最悪バラけたインナーがチューブに刺さって穴が開いたりします。編まれていない状態のインナーケーブルは簡単に折れるので、チューブに刺さった状態のケーブルの切れ端が残り、入れ直したケーブルに干渉したりと悪さをするんですね。動きが渋くなったり、引っかかってインナーケーブルのコーティングを傷つけたりと、良いことはありません。ちょっとヤスってあげればこれらの悪さをする可能性が減るのでオススメです。
押す方向に削りましょう Photo: Shusaku MATSUO
綺麗に整えるとワイヤーの摩擦も減り、タッチも軽やかに Photo: Shusaku MATSUO
他にも、コラムやハンドルなどパイプ状の物をカットした後の断面のバリ取り処理には半丸の棒ヤスリが最適です。内側はラウンド面、外側と断面はフラット面で整える。なんて具合に、作業の内容に合わせて両面が違う特性を発揮するので1本で色々使えて超便利。片面だけ見ても、フラット面は先細と同じように使えるので、先述のケーブル類のエンド処理とかもOK。とりあえず半丸が有れば、大抵の作業はOKですね。
ヤスリの使用方法
使用方法
①棒ヤスリは基本、「押し方向」でのみ削れます。
※引く際にも力を入れてしまうと、刃が痛むのでNG。
②削る対象物はしっかり固定しましょう。
※小さいモノ、細いモノの場合は更に注意。
使用上の注意点
①削り過ぎに注意!
一度削ってしまうと後戻りできません。特にカーボン部品は思いの外簡単に削れてしまうので、作業時は細心の注意が必要。例えばBB圧入部で削り過ぎとかしちゃうと、フレームが終わります。替えがきかない部品の調整はプロに任せましょう。
②ヤスリの刃の移動範囲、刃先や角が他に干渉しないように注意
頑丈な工具です。作業中に工具が他の部品などに当たると、そちらにキズが付いたり、壊してしまう場合も有ります。周りに気をつけて作業しましょう。
③手袋を着用して作業しましょう。
バリが刺さったり、指先を削ったりしたら怖いよね、指は大事。
④保護めがねを着けて作業しましょう。
なんか飛んできたら怖いよね、目は大事。
⑤刃(溝)の掃除をしましょう。
アルミなど、切り屑(切子)が多く出る素材、木材なども詰まりやすいですね。掃除には、刃を傷めないヤスリ用ブラシなどを使用しましょう。
目が詰まるとよく削れません。使用後のメンテナンスも忘れずに! Photo: Shusaku MATSUO⑥使い終わったら、錆びないよう油を差して保管しましょう。
ヤスリは鉄製の刃物ですよ。錆びたら悲しいよね。
まとめ
ヤスリは見栄えを良くし、部品同士の合わせ部分を整え、スムーズな動作を促します。主な役割はニッパーと同じで整える事ですね。バイク本体の性能を引き出すのには必ず必要になる工具です。機械イジりするのであれば最低1本は持ちましょう。自転車以外でも活躍しますよ!
おすすめの商品
とりあえずの1本ならコレ。呉の「綿岡」謹製の半丸シェイプ万能型。小ぶりで取り回しやすく細部に使いやすい5号(全長215mm)サイズ、目の種類はステンレスからプラまで何でもOKなユニカットと、欲しい要素全部入り。プラパーツのバリ取りから、ステンケーシングのエンド処理まで、何でも使える。さすがに磨きを含めた仕上げ作業に使うには目が粗いものの、弱点らしい弱点はそれくらい。もう削り作業しなくても欲しい。オススメ。
広島は呉発信の日本を代表するヤスリブランド「ツボサン」。そのラインナップの中でも、主役級の人気商品がこの「ブライト900」シリーズ。実際よく削れて、削り屑が溜まりにくく、目詰まりが起きにくく、耐久性も高い。そのうえ、この組みヤスリセットなら、自転車整備に最適なサイズで、形状も5種類入ってるとかお得すぎる。汎用品に比べれば高いけど、長く持つので損はしないでしょう。ステンレス等の難削材以外は、大体なんとでもなります。超万能。もうテッパン過ぎて、持ってない方が不思議。
商品
★バローベ ニードルヤスリ 半丸 200mm #0 LA24022000
彫刻刀や彫金工具と共に、ハイエンドなヤスリを作り続けるスイスブランド「バローベ」。精密・緻密な構造を持つ機械時計の技師や、各種ジュエリーなどのアーティストなどに愛用され続ける。高い品質と抜群のクオリティが特徴。工具自体のシェイプも美しく、もうなんか工具というか工芸品というか……意味も無く欲しくなっちゃう。こちらは精密加工用の小ぶりな半丸タイプの中目。普通に使える内容だがそれよりも見た目が凄まじく色っぽい。欲しい……
■村田悟志(むらたさとし)プリートことホアキン・ロドリゲス氏が来日した際、一緒に鎌倉で遊び歩いてたらなんか適当につけられたあだ名がラモーン。理由はまだ無い。元はモーターサイクル雑誌の編集者、なんか色々あってロードバイクの輸入代理店勤務ののち、秋葉原のバイクショップ【ラモーンバイクス】(現U2バイクス)でついこの間までメカをしていた。スシドラゴンこと小林海選手の飲み仲間、たまに日本でのメカを担当したりもする。所属:(株)オールトラスト
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