山口和幸の「ツールに乾杯!」<1>「ツールがやってきた!」 自転車レースの古都・リエージュに歓喜

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 ツール・ド・フランスは4年に一度サッカーW杯と日程が重なるが、その中間年にもUEFA欧州選手権とダブる。当然取材陣と庶民の興味どころがサッカーに流れるので、ツールは海外都市を開幕地にするなどで話題をあおる必要がある。こうして今年のスタートはベルギーのリエージュになった。8年前の2004年と同じである。

 2006年はW杯ドイツ大会と日程が9日間も重なり、ちょうどその時期にツールはリエージュ近くを通っている。つまり隣国でありながら、この町は結構ツールの常連で、町の人も自転車レースを見る目が肥えている。

 それもそのはずだ。この町は現存する自転車ロードレースの中で最も古い、1892年に始まったリエージュ〜バストーニュ〜リエージュのスタート&ゴール地点なのだ。

 8年前の欧州選手権はツールの大会2日目に決勝が行われ、ギリシャがポルトガルを1対0で破っていて、ベルギーもフランスもドイツもオランダも意気消沈していたから町は平穏だった。そして今年もこの町はサッカーとは無縁で、おまけにベルギーは予選でさっさと敗退しているので、町の人たちの楽しみはツールの開幕だった。

 198選手が1人ずつスタートするプロローグの個人タイムトライアル。その朝にボクはツールを迎えるリエージュを歩いてみた。





 ここは西ヨーロッパの物流の要衝で、北欧・北海・ドイツ・フランスを結ぶ大動脈が十字に交わる地点。そのため豊富な食材が行き来し、節制を強要しない宗教観も手伝ってとにかく食べるものがおいしい。

 それにしてもフランスにはない雰囲気の町だ。古びた石造りの町並み。前夜からできあがった酔客。破壊された商店街の鉄格子。石畳の上で砕け散ったビン。あ、リエージュをホメるつもりが、ついありのままの姿を書いてしまった。

 話を自転車がらみに移すと、この町は急坂の多いことが特徴だ。ムーズ川という大河が丘を削り、町中を歩けばいたるところに落差があることに気づく。自転車も容赦なく石畳の激坂を上らざるをえない。登坂距離はそれほど長くはないが、アタックして後続に決定的な差をつけるに足りる。

 ああ、こういうところで生まれ育ったらベルギーの貴公子ジルベールのような一発屋が育成されるんだなと思った。ワンデーレースで世界の頂点を決める世界選手権にベルギー勢が強いことも理解できる。

 前日までのベルギーらしい天候、つまり常にどんよりとして急に思い出したように土砂降りとなる天候はおだやかな風とともに過ぎ去っていった。ツール・ド・フランスにふさわしい強烈な夏の日差しが降り注ぐなかで大会の幕は切って落とされた。ベルギー人たちはうれしそうにひなたぼっこし、子どもたちは公園の噴水に飛び込み、歩道に出したカフェのテラスでビールを飲む。

「ツール・ド・フランスがやってきた!」
「それじゃついでに短い夏を楽しもう」
「Tシャツなんか脱いじまえよ」
「だれが勝ったか知らないが、ソイツに乾杯だ!」

 みんなうれしそうだった。

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)
ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)。

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