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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<58>野生動物のテリトリーを走ったアフリカ大陸 動物園では見られない自然の姿

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 車やバイクでは得られない感覚を体験できるが自転車旅の魅力だ。中でも野生動物との遭遇は彼らの息遣いを感じるほどに近く、絶対に逃げきれないという緊張感をはらむものであり、自転車旅でしか体感できないものだと思う。野生動物との出会いといえば僕はアフリカ大陸が思い浮かぶ。

自転車から初めて見たキリン。あまりにも動かないので置物なのではとも思ったが、突然身を翻してブッシュに消えていく身のこなしは、動物園のキリンとは全く違う生き物だった Photo: Gaku HIRUMA

野生動物との出会いは限られている

 アフリカ大陸の中でも路上で大型の野生動物に出会える地域は限られている。僕の走行したルートではタンザニアのミクミ国立公園とボツワナくらいだった。サイクリストの情報では自転車で入れる国立公園もいくつかあると聞いていたが、僕のルートとは外れていたので行くことができなかった。

ボツワナに入り初めて象の標識を見た。この時はまだ野生の象を見たことが無かったので、会えるのが楽しみだった Photo: Gaku HIRUMA

 通常、野生の動物を見たいのであれば、「ゲームドライブ」とよばれるサファリツアーに申し込むのが一般的だ。僕の走行した国ではケニアのマサイマラ国立公園やタンザニアのセレンゲティ国立公園、ンゴロンゴロ自然保護区など世界的にも有名な国立公園があり、ツアーの拠点となる街を通る度にサファリに行こうかどうか迷っていた。考えた末に毎回行かなかったのは、初めて見る野生動物は自転車で見たいと思っていたのもあるが、正直な所を言えばやはり料金だった。

 国立公園までの遠さと早朝に活発に動くという野生動物の習性から、ツアーは泊りがけで行くところがほとんどで、値段は大体3万円以上と僕にとってはなかり高額だった。今思えば宿泊込みの3万円で生き生きとした野生動物を見れるのであれば、充分払う価値はあるとは思うが、当時はなかなかやすやすと払える金額ではなかった。

 金額以外で踏ん切りがつかなかった理由がもう一つある。僕の走行予定上にボツワナのカサネというツーリストに人気の町があったからだ。ここの町はチョベ国立公園に隣接しており、他の国立公園よりも格安でゲームドライブが楽しめた。数々の国立公園の誘惑を振り切ってこの町に辿り着いた時は、本当に興奮した。

 アフリカを旅で訪れるのは、バックパッカーやサイクリストなども多いが、やはり大半は野生動物を見に来た欧米からのツアー客だ。そのせいかこの田舎町カサネに安宿がなく、リゾートタイプのホテルやロッジしかなかった。

 しかし旅人の情報網はありがたいもので、チョベサファリロッジという4つ星のリゾートホテルのキャンプサイトに10ドルでテントを張れるというのを聞いていた。

 サファリのリゾートホテルのという趣のレセプションで手続きをして、敷地の端にあるキャンプサイトでテントを張って、早速翌日のゲームドライブとサンセットクルーズの両方を申し込んだ。国立公園の入園料の関係で一日で両方に行った方がお得だった。料金は日本円で約6000円ほど。他のサファリが軒並み3万円以上だと考えると破格の料金だ。

 ゲームドライブで訪れたチョベ国立公園は象の生息密度が世界一で、象以外にもカバ、インパラ、キリンなど様々な野生動物を見れた。中でも肉食獣のヒョウを身近で見れるのは感動的だった。鋭い目つきに、艶めかしささえ覚える筋肉の動き、足音が全く聞こえない野生の動きに圧倒され見惚れてしまった。

ゲームドライブで見たヒョウ。興奮したが自転車に乗ってる時じゃなくて本当に良かった。威圧感が全然違った Photo: Gaku HIRUMA

 自転車で走りながら初めてキリンを見た時も、ジッとこちらを観察してきた後に、サッと身を翻してブッシュの奥に消えていった。その動きは動物園のキリンとは全く違うもので、信じられなほど軽やかで、そのまま空に飛んで行ってしまうんではないかと思わせるくらい美しかった。

無人地帯の300kmを走り抜ける

 大満足でカサネの町を後にすると、その先は300kmの無人地帯だった。さらに町を挟みもう300km無人地帯を走り抜ける。ボツワナはほぼ全て、野生動物のエリアを走らねばらない国だった。野生動物を探しながら走れるなんて楽しそうだと思っていたし、自転車で走りながら象やキリン、ライオンを見れたたら最高だなと思っていた。でも理想と現実は当然違う。

 背の低いブッシュが立ち並ぶような所やサバンナを走行するのだけど、本当に町はおろか集落すらない。仕方なく木陰で昼飯を食べて休憩していると、タンクローリーが止まってバックしてきた。

 「なんだろうと」思っているとドライバーが近づいてきて「ここはライオンやヒョウが沢山いるエリアだ。危ないから止まらない方がいい」と怖すぎるアドバイスをもらう。どちらにせよ自転車なのだから止まろうが走ろうが襲われる時は襲われる気もしたが、素直にアドバイスに従い必死に走った。

こんな感じの道が300kmほど続くのに、道行く人に「ライオンに気を付けろ」とか「生きていけよ」など、あまりありがたくないアドバイスを貰う Photo: Gaku HIRUMA

 当然一日で300kmも走れないので、野宿をしなければならいのだけど、これは本当に恐ろしい。ライオンやヒョウに襲われるリスクは高くないと思うけど、物凄く大きい象の糞がそこらじゅうにゴロゴロと落ちていた。走っても走っても象のテリトリーから抜け出せず、震えながらテントを張った。

 結局何事もなく朝を迎えられて走り出した。走行開始から10分後に路肩で象を見つけた。興奮したけど「昨日、少しでもテントを張るポイントがずれていたら」と考えると身の竦む思いだった。

 300km先の町が近づくと、路肩の木陰に牛が休んでいた。暑い乾燥地帯ではよく見る光景だけど、近くに肉食獣がいない証拠だ。この時ほど牛を見れたのが嬉しいことは無かった。

 町に着きスーパーで買い物をして、自転車を傍らに置き食堂でご飯を食べていると、代わる代わる「なに? カサネから来てマウンへ自転車で行く? 象を見なかったか? この先もライオンやチーターやバッファローが多いぞ。生きていけよ」など、ゲームではなく現実の世界でこんなアドバイスを貰うことになるとは夢にも思わなかった。たくさんの人から気を付けようのない恐ろしいアドバイスを貰って300km先のマウンへと走り出した。

 本当にこんな感覚は車やバイクでは絶対に感じられない自転車旅ならではだと思う。恐ろしいが、自転車旅で見たキリンや象、シマウマの群れなどを見た感動は忘れない。

海外ツーリングは有毒生物に注意

 最後に、海外ツーリングする上で気をつけなけばいけないのは野生動物だけではない。特に野宿の時はサソリやタランチュラ、コブラなどの毒をもった生物に注意が必要だ。

 南アフリカを走行中に蛇が路上に居て脇をすり抜けようと思ったら、蛇も突然の自転車に驚いたのか鎌首をもたげて威嚇してきた。この時に初めてこの蛇がコブラだと気づいた。滅多に見れない姿に興奮して写真を撮ろうと思ったけど、コブラには毒を飛ばす種類もいると思い出し、十分な距離を取って横をすり抜けた。

喜望峰で見つけたコブラの注意喚起。これを見るまで南アフリカにコブラが多いとは知らなかった。無知とは恐ろしい Photo: Gaku HIRUMA

 コブラを見たのはこの一回だけだったけど、草むらでテントを張ることの多いサイクリストは本当に気を付けてほしい。特にテントを張った翌朝の靴の中はサソリやクモが入っていないか、必ずチェックが必要だ。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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