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進化するカラダに「アミノバイタル」「自転車競技は勝敗や記録更新だけでは測れない」 猪野学さんに贈る西薗流‟理論派”レース考

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 「トレーニングの努力が結果に繋がらない」と打開策を模索する坂バカ俳優・猪野学さんが、栗村修さんに続いて訪ねたのは元プロロードレーサーの西薗良太さん。研究者のような独自のトレーニング理論で、かつて山岳・タイムトライアル(TT)の双方で最強を誇った異色の頭脳派ライダーだ。弱音や言い訳、燃え尽きる姿等を一切想像させない西薗さんに、いかにしてトップに上り詰めたのかを尋ねると、「レースは負けるもの。その結果に対して自分なりの尺度をもつことが重要」という哲学的な言葉が返ってきた。

ヒルクライムレースに対するモチベーションを失いそうな坂バカ俳優・猪野学さんに元プロロード選手の西薗良太さんが独自のレース論を展開 Photo: Shusaku MATSUO

ヒルクライムの自己ベストは「当たりくじ」

猪野 西薗さんでも選手時代にモチベーションを失いそうになったことはあるんですか?

西薗 高校時代は地元のヒルクライムレースが年に1度しかないので、失敗するとかなりむしゃくしゃしたこともありましたが、それでモチベーションを失うということはありませんでした。ただ、大学2年生の頃、全日本大学対抗選手権自転車競技大会で10位になった時、東大内ではそれが快挙で「できることはもうないかな」という気持ちになりました。そういう意味でモチベーションを失いそうになったことはありました。

西薗良太さん。元プロロードレース選手。1987年鹿児島県生まれ。高校時代から頭角を現し、東京大学工学部へ進学後は自転車競技部でインカレ個人ロード、個人TTを制する二冠を達成。卒業後2011年にシマノレーシングへ加入、12年はブリヂストンアンカー、13年にはUCIプロコンチネンタルチームのチャンピオンシステム プロサイクリングチーム(香港)で活動。2013年に一度引退するも、2015年に再びブリヂストンアンカーに復帰。全日本選手権タイムトライアルを3回優勝、富士あざみライン日本人記録保持者。2017年に引退し、現在は某企業の研究所に研究員として勤務。2児の父親 Photo: Shusaku MATSUO

猪野 なんか、かっこいい失い方ですね…(苦笑)。そこからどうやってモチベーションを取り戻したんですか?

西薗 大学時代に「ツール・ド・北海道」に出場したことが大きかったです。学生のレースもかなり競技性が強くて皆頑張ってるんですけど、やっぱりUCIのレースとなるとスピードも違います。とくにツール・ド・北海道って国内のレースの中でも地形的に欧州っぽいというか、距離も長いし道もまっすぐで、平均速度も高い。こんなに面白いレースがあるんだと思いました。

 初めてのレースでは落車してばっかりで全然走れませんでしたが、来年ここでもっと上のレベルで戦いたいというモチベーションが上がりました。そういう意味では、猪野さんも「台湾KOMチャレンジ」を走られてますが、新しいステージで刺激を受けるのもモチベーションを上げる一つの方法だと思います。

 ただ、ヒルクライムはなんていうか…飽きるんですよね(笑)。

猪野 飽きる…(苦笑)。でも西薗さん、上りも強いですよね。

西薗 ヒルクライムでタイムを競うのは、個人的にはそれほど意味はないと思うんです。その日の気候や風でものすごく影響を受ける競技なので、自己ベストを出せたときというのは結構な確率で「当たりくじ」を引いたようなものだと思っています。

 僕も2016年のツアーオブジャパンの富士山ステージ(ふじあざみライン)で日本人コースレコードを出しましたが、あの年が一番温かく、天気も良くて湿度も低かったりと好条件に恵まれていました。ペースもすごく安定していたし、そういう「当たりくじ」を引いたのだと思っています。

「自己ベストは“当たりくじ”を引いたようなもの」と西薗さん Photo: Shusaku MATSUO

 なので、そのときの実力がピークだったから出た結果、とは思わない方が良い。むしろもっと細かい視点で見ると、ヒルクライムの能力以外の部分でも色々な点で進歩していると思うので、そちらに目を向けるべきだと思います。

猪野 そういってもらえると光明が差します(笑)。

西薗 それにヒルクライムって、多々ある要素の中で最も切り取った要素でしか評価されませんよね。例えばロードレースだったら長時間走ったあとに出す一発の速さとか、ハンドリングスキルが上がって楽に走れるようになったとか色々な尺度が多面的にありますが、ヒルクライムは速く上れたかどうかだけが注目されがちです。

 「ロードレースの中で一番ヒルクライムが好き」というのはあって良いと思います。僕も勝てるレースとしてTTを最重要視していたので、そういう強みが自分の中にあることは良いことだと思いますが、それだけにこだわっていると、次第に息詰まってくるんじゃないかと思います。

 逆にその強みを大事にするのなら、違う世界のハイレベルなレースを見たり、グランフォンドとかに参加すると良いと思います。そこで勝てなくてもいい。違った刺激や能力を得るだけでも良くて、その中でヒルクライムに戻ってくるとまた違った進化を遂げる可能性もあります。

猪野 ヒルクライム以外のレースでヒルクライムのスキルを磨く、ですか…。

猪野学さん。俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名をもつ。Cyclistの人気コラム『坂バカ奮闘記』連載中 Photo: Shusaku MATSUO

西薗 室内トレーニングもそうなんですが、物事を単独で見ていると長期的な視点を持ちにくい。学生当時、僕も熱心にやっていたのでわかりますが、強くなろうすると限界レベルで追い込みたくなるのが常で、それでも初めのうちは伸び幅も大きいので、練習量に比例してどんどん記録も更新していました。

 しかしある程度トレーニングを重ねると伸び幅が狭くなるので、敢えて8~9割の力で終える日を作って調整する必要性が出てきます。そんなときに目標となる数値があると、目の前に“おとり”があるようなもので、頑張れる人ほどついそれを追ってしまう。そういう意味で単に追い込むだけのトレーニングは、猪野さんのいまの段階の練習法としては、あまり向いていないように思います。

TTの強さの裏にある緻密な試行錯誤

猪野 西薗さんは上りだけでなくTTも強かったですよね。両者は相反するものだと思いますが、なぜ両方強くなることができたんですか?

西薗 欧州のチームで走ることを目標としていたからです。選手としては上りのほうが得意でしたが、欧州のチームで走る場合、上りだけが速い選手にはほとんど席がありません。もしあるとしたらその選手は上りなら全部勝てるような選手です。

 グランツールのレベルだとまた話は別ですが、そのちょっと下の、僕が狙っていたUCIプロコンチネンタルチームのレベルでは、むしろ集団をコントロールしたり、逃げにうまく入ったり、そういうときにきちんと働ける選手の方が評価される。そこで基礎的な平坦を踏める能力がものすごく重要となるので、そういうことに対応できるよう戦略的にTTを練習しました。

2017年の全日本選手権個人TTで2連覇を果たした西薗さん(写真中央、当時ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Shusaku MATSUO

猪野 自分の脚質は顧みなかったのですか?

西薗 考えましたが、日本でTTをさくっと勝てるぐらいでないとまず世界では話にならない。TTを強化した上で上りもきちんとできるという力をつけることが欧州を目指す上での最低条件でした。

 さきほど、ヒルクライムのタイムは状況によって左右されるという話をしましたが、平坦はより外的な影響を受けますよね。その中で空気抵抗を減らすために試行錯誤を繰り返すのですが、突き詰めていくと「こうすれば速くなる」という関係性をある程度理解できるようになるので、結果的にそれはロードレースでも役に立ちましたね。

西薗さんいわく、TTで速くなるための試行錯誤は自転車と空力との因果関係を追求する研究そのものだった(=2014年12月撮影、静岡県伊豆市) Photo: Ikki YONEYAMA

 自転車って速くなる因果関係が曖昧なことが多いですよね。自転車を軽くして、体重を軽くしたら上りが速くなるというのは一番わかりやすい因果関係ですが、それ以外の要素ですぐに違いを実感することは難しい。

 いまはパワーが可視化できるようになったので、比較的わかりやすくなってはきましたが、それでも「パワーを増やしたけど、あまりスピードが変わらない」と感じることは多々あるし、その測り方もすごく考える必要があります。そういった因果関係が曖昧な部分を少しでもクリアにしようと厳しく試行錯誤を繰り返したことで、結果につなげることができたのだと思います。

6割程度達成できる目標を立てる

猪野 非常に緻密に計算されたトレーニングですが、西薗さんがそういう科学的なトレーニングに目覚めたきっかけのようなものはあったんですか?

西薗 まず、周囲に指導者がいなかったことがあります。中高時代は近くにあった企業の工場に自転車部があって、そこに混ざって一緒に走っていましたが、大人になってから始めたアマチュアのサイクリストたちで、皆さん本格的な競技経験等はなかった。なので、図書館から本を借りて自分で勉強する他に方法がありませんでした。

 当時、市立図書館にあったのは三浦恭司さんやエリック・ツァベルのトレーニング本、あとはランス・アームストロングのコーチが書いた本があったり、鹿児島ではそうやって本を通してしか学ぶ方法はありませんでした。あとは雑誌に載っていた心拍トレーニングの最新記事を読んで勉強したり。でも大学に入ったら誰もそういうことを気にしていなかったので、逆に衝撃を受けました(笑)。

「理論派ライダー」の異名をもつ西薗さんのルーツは高校時代からの独学にあった Photo: Shusaku MATSUO

猪野 そんな西薗さんから見て、いまの僕に足りないものは何ですか?

西薗 猪野さんの著書を読ませてもらいましたが、色々あります(笑)。まず上り方一つをとっても「平地で踏む」とかはエネルギー効率的にダメで…

猪野 えっ!ダメなんですか? タイムを縮める頑張りどころだと思っていますが…。

西薗 まあそれはさておき(笑)、さきほど「ヒルクライムとは曖昧なもの」だといいましたが、猪野さんはタイムや順位以外の評価基準は自分の中にありますか?

猪野 うーん…、それが全てだと思っているところはあります。ただ、タイムは良くなかったけど感触は良かったというのは次につながるので、そこは大事にしています。西薗さんはどうでしたか? 選手時代は勝敗以外の尺度はありましたか?

西薗 ロードレースは基本的に負けます。すごく強い選手でも勝率3割いったら神みたいな人になれるでしょう。なので、選手になってからは「チームの勝率を少しでも高めることを最大限にできたか?」という尺度で常に点検するようになりました。

 若い時にはもう少し勝敗にこだわっていましたが、こだわりすぎて悪影響もありました。それから福島晋一さん(元NIPPO・ヴィーニファンティーニ監督)が「自転車選手は勝てる時に勝っていれば、みんなしっかり覚えていてくれる。それ以外は辛抱だ」と言っていたのもかなり印象に残りました。だからこそ勝てるチャンスが回ってくるとものすごく集中力が出た気がします。それほどはないチャンスだとわかっていたから。

2016年の全日本で優勝した初山翔元選手と2位でゴールした西薗さん(ともに当時ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Shusaku MATSUO

猪野 レースで思うような結果が出なかったときは、どんなことを考えるのですか?

西薗 全体を考えられるようになれば、自分できちんと評価はできるものです。シーズンの中でこのレースはどういう位置づけか、体調はどうか、チームで期待される役割は果たせたかとか。その上で予想と結果を比べます。それには大学の時の練習日記も役に立ったし、選手になってからは帰りの車の中でのディスカッションなども役に立ったと思います。

 基本的にタイムや順位の記録はうつろいやすいものです。選手はそれが仕事ですが、アマチュアサイクリストにとっては1年間頑張ってそれでは悲しい気もするので、例えばトレーニングの時から計算して、本番でこれぐらいができるという準備をしてレースに臨み、それを達成するかどうかという目標を立てる。その中で6割ぐらい達成できる、ちょうど良い目標を常に設定できるかがカギだと思います。

猪野 6割、で良いのですか…。

西薗さんの言葉を聞き逃すまいと熱心に耳を傾ける猪野さん Photo: Shusaku MATSUO

西薗 あとはアマチュアの方はプロ選手より難しい面があることも常に自覚しておく必要があると思います。皆さん「アマチュアのすごい人」を目標のモデルとしがちですが、それはトレーニングで1000km乗りつつ、かつ自転車以外の生活もこなすという超人みたいな人がアマチュアのトップにいるということ。そんな彼らをマネしようとすると体が崩壊してしまいます。

 ボリュームのあるトレーニングには、その分「リカバー」に必要な時間も増えます。プロと違って一般の方だと使える時間に上限があるので、その中でどうやりくりするかも重要。上限がある中でトレーニング効果を上げようとするとどうしても強度を上げなくてはならず、それをどれくらい安全にできるかというせめぎ合いが生じると思います。

猪野 西薗さんはリカバーを促すためにどんな方法を取り入れていましたか?

西薗 選手時代は計画的にレストをしっかりとれていたし、栄養も食事で摂るようしていましたが、補足的にプロテインやアミノ酸サプリメントを使用していました。

画像左から、運動時のコンディションをサポ―トするアミノ酸サプリメント「 アミノバイタル® プロ」(顆粒)、ロイシン高配合必須アミノ酸配合で、ハードな運動後のリカバーにおすすめの「アミノバイタル® GOLD」(顆粒)と「アミノバイタル® GOLDゼリー」。そしてアミノ酸の働きでエネルギーを持続させる補給系ジェル「アミノバイタル® パーフェクトエネルギー」 Photo: Shusaku MATSUO
西薗さんが手にもつ「アミノバイタル® プロ」は、とくに運動前と運動中の摂取で理想のコンディションづくりをサポートする Photo: Shusaku MATSUO

 とくにトレーニング後はたんぱく質をしっかり摂ってリカバーすることを心がけていました。プロ選手と違い、レストの時間をしっかり確保できないアマチュアサイクリストにとっては、たんぱく質より素早く吸収されるアミノ酸をパフォーマンス前後に摂り、こまめにケアすることで、素早いリカバーはもちろん毎日のコンディションを維持することも大切な方法だと思います。

結果に対して自分なりの尺度をもつ

猪野 話を聞いていると、まるで一つの研究成果を見ているようですが、高校生の頃から始めてプロ選手に至るまで、西薗さんにとって自転車競技とは何でしたか?

西薗 最初は自由を得られる手段でした。地方なので車がないと交通の自由がほぼないのですが、自転車でどこにでも行けるのはすごく万能感がありました。同級生が知らない場所にひとりで出かけている、というような。それからなぜか自転車はものすごく向いているという根拠のない自信を、理由はわからないけれど最初からもっていました。

 ただ、最初からプロになろうという気はなくて、目の前の目標を少しずつクリアしていった気がします。それでも最後に大学から選手になる時には、かなり気合が必要でしたが、これは今しかできないと思ってジャンプした感じです。こうして考えると、現役引退もそうですが、自分が道を選択するときは「今しかできないこと」が判断の基準になっているように思います。

「強くなるには、結果に対して自分なりの尺度を持つことが大切」と西薗さん Photo: Shusaku MATSUO

 選手時代は自分のことを実験台にして、フルタイムで速くなることだけを何年も考えるというすごく純粋な時間でした。研究だと自分を実験台にするのは難しいし、家族が増えてからだと自分のためだけに時間を使うことは難しい。人生で一度くらいはそういう時期があって良かったなと思います。

猪野 いまは週末に仲間とライドを楽しんでいるそうですが、選手時代と現在とでは自転車に乗る気持ちに変化はありますか?

西薗 選手時代も練習もレースも楽しかったので、勝つことが仕事ではなくなったということ以外はあまり変化はないですね。選手の時は負けたら商売としてはダメで、自分の満足から離れたところにも尺度もあるという感じでしたが(それでも自分の尺度がないと長期的には強くなりませんが)、いまは自分の尺度しかないので。それはどちらが良いというものではないです。

猪野 達観してますね。レースに対してとても熱いものを感じますが、燃え尽きることはない。僕も自転車とそんなふうに向き合えたらと思いますが…。

西薗 むしろ社会人でありながら、毎年コンスタントにレースに挑戦し続けられる方が信じられないというか、僕からするとそれだけでも本当にすごいことだと思います。猪野さんもただ一つの結果にとらわれず、自分なりの尺度を色々もってヒルクライムを楽しんでみてください。

Photo: Shusaku MATSUO

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