自転車の環境「withコロナ」でどう変わる③JCGA代表理事・渋井亮太郎氏に聞く<後編> 自転車利用の増加を“道路環境の間違い”正す機会に 

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 前編に続き、日本サイクリングガイド協会(JCGA)代表理事・渋井亮太郎氏へのインタビュー『自転車の環境 “withコロナ”でどう変わる』後編。新型コロナの感染拡大防止策として急速にニーズが拡大している自転車利用と、その背景にある道路問題を、車道走行をけん引するプロであるサイクリングガイドとしてどう見ているのか、解決策も含めて話を聞いた。

(一社)日本サイクリングガイド協会の渋井亮太郎代表理事 Photo: Kyoko GOTO

「新しい“自転車”生活様式」はハートでつくる

─自転車通勤者が増えているといわれている状況を、車道走行を牽引するプロの立場でどう見ていますか?

 渋井 確かに都心にいると宅配自転車を含めて自転車利用者が増えた印象はありますし、報道される機会も増えましたが、そもそも会社に出勤する人が減ったままですので、昨年同時期より自転車通勤が増えたのかわかるのはもう少し先でしょう。ただ、今後そうなるという気分を国民全体が感じているというのはすごく大きいです。

 国が示した「新しい生活様式」で「自転車利用」が推奨され、国連が「世界自転車デー」とする6月3日には、菅官房長官が「通勤での自転車利用の拡大を歓迎。東京23区内の国道での自転車レーン整備などに注力する」と言明されました。ならば日本は、これからの数年間を“道路環境の間違い”を正す機会として有効に使ってほしいと思います。

 自転車の乗り方を正しく理解していない人がこれから車道に増えることで、短期的にはリスクも増えるでしょうから、対策は必要だと思います。しかし、その‟無法状態”の罪は自転車に乗る人側の問題ではなく、むしろ日本人ドライバーに根強く残る“間違った”運転習慣や、自転車が法律通りに走行できない“間違った”構造の道路にあります。

 「クルマが法律通りに走行できない構造の道路」が存在しないことを考えれば、日本の道路がいかにクルマ偏重主義でつくられてきたかわかると思います。そしてそのクルマ偏重主義で法律を捻じ曲げ、自転車を歩道に追いやった挙句、自転車関連法の周知徹底を怠ってきた過去の“間違った”行政の方が明らかに罪深いと知るべきです。

 残念ですが、今の日本では車道を走る自転車を「邪魔」「危ない」と感じるドライバーが大半だと思います。なかには「自転車は歩道を走れ」という、道交法を知らないドライバーもいるようです。では、もし仮にそんなドライバーが日本の道路から一切いなくなったとしたら、どうでしょうか? そうなれば自転車も、狭くて歩行者も多く通行しづらい歩道などを無理に走らず、法律通りに堂々と車道を走ることでしょう。

 不条理なダブルスタンダードが常態化し、自転車利用者にイレギュラーな対応を強要する日本の道路環境は、サイクリングガイドを育成するプロである私たちにも難解な空間といえます。

 そうはいっても多くの日本人は賢く、思いやりがあるので曖昧な環境でも互いの気遣いで切り抜けてきてはいますが、「with コロナ」での自転車利用推進を国家として選択するのであれば、快適で円滑な自転車環境を目指すべきであり、最低でも「ケガをしないさせない、死なない、殺さない」という環境を、これから自転車人口が10倍、20倍になってもきちんと維持できる社会をつくる必要があります。

 繰り返しになりますが、日本の自転車が車道を走らずに歩道を通ってしまうのは、「自転車は車道」という法律を知らないからではなく、クルマのドライバーこそが無自覚な無法者だからです。ほとんどのドライバーは自転車が走るべき場所も当然知っているはずですが、その法律をハートで受け入れることができず、車道を走る自転車を無自覚に攻撃します。それが大きな原因だと思います。

「歩道を走る自転車より、自転車が走れない車道の環境の方が罪深い」と渋井氏は指摘する Photo: iStock.com/tupungato

─いますぐできる改善策は?

 渋井 例えば欧米の一部の都市では、市内の一部車道を通行止めにして一時的な自転車用レーンを設置しています。日本でも通行止めまではいかないにせよ、2車線ある都市部の道路なら左側一車線を自転車とバスの優先レーンにするとか、暫定的に半年間だけでも変えてみたら良いと思います。それで自転車の利用が増えて「自転車が多くてクルマが走りにくい」となったのなら、それだけ自転車のニーズがあるということです。

 そうなったら、例えば運送業等を除いたクルマの交通量を減らす施策を実施する。6月になってから明らかに都内のクルマが増えましたが、一人乗り普通車の比率がものすごく高いように感じます。宅配などが増えるのは状況的に仕方がないのですが、ただ「電車に乗りたくない」という理由のマイカー通勤ならぜひ自転車を選んでほしい。そういうマインドチェンジが必要だと思います。

 前述した東京23区内の国道での自転車レーン整備についても、ペイントなどの土木工事で予算を使うことに腐心されるのではなく、総理か官房長官がひとこと「withコロナの状況下では、一般道路の左車線は自転車とバスが最優先ですので車のドライバーは協力してあげてください。特に、自転車に対して無理な追い抜きや幅寄せなどすると、いわゆる危険なアオリ運転として処罰されます」などと発信するだけで、お金をかけずとも自転車空間の安全性はかなり改善されるでしょう。

 また、東京都なら都知事も説得力がありそうです。特にコロナ後の定例会見では具体的にわかりやすくコメントいただいていますので、「自転車はクルマと対等に車道を走る権利と義務がございます」とか、「会社までの距離が20km以下の人なら天気が良い日は自転車で通勤をいたしましょう」とか、「駐輪場が足りなければ警視庁が車道や歩道に交通規制をしますので、パイロンやビニールテープなどで充分ですので臨時の駐輪場を整備してください」と発言いただくだけで状況は変わり始めると思いますし、企業も動きやすいのではと思います。

 なにしろ真面目な日本人ですし、その呼び掛けの理由も、その意味も、「with コロナ」の今なら理解を得やすいはずです。そこでもし専門家の知見が必要となれば、その時は私たちがお手伝いいたします。小池都知事、ぜひお願いします! 

自転車の有効利用には電車も重要

 渋井 遠方から通勤する人や、前編で話した「マイクロサイクルツーリズム」推進のために、電車に自転車をそのまま載せるサイクルトレインもぜひこの期に常態化すべきでしょう。これも過去には「出来ないことの言い訳」が繰り返された事案ですが、数多くの私鉄が何年も前に実現できていることをJRにできない理由がありません。実際、やると決めさえすれば、今あるインフラで実現できる路線も多いはずです。

 ちなみに、台湾は世界で最も新型コロナ対策が成功している国といわれていますが、自転車施策もかなり成功しています。台北市内だけで総延長数百kmものサイクリングロードが河川敷を主体に整備されているので、誰もが日常的に快適なサイクリングを楽しむことができます。

 さらに地下鉄の主要路線は朝晩のラッシュタイム以外なら自転車をそのまま載せることができます。先頭車両と最後尾車両に各6台までと決まっているだけで、特別な装備も固定具もない普通の車両です。料金は一律で1回80NT$(ニュー台湾ドル)=約300円。台北から淡水まで50NT$=約180円ですので2倍以上にはなりますが、利用するスペースと、輪行として自転車を分解して袋にしまう手間を考えれば受益者負担として充分に納得できます。

台北MRTの最後尾車両に自転車を積載。日常的な光景なのか他の乗客の興味を引くこともない 画像提供: JCGA

 日本も欧州や台湾を真似て、先頭と最後尾の車両を荷物優先車両としてはどうでしょうか。もちろん車両はノーマルのままで特別装備も不要です。改札からホームへのアプローチが比較的スムーズな駅に限定して自転車の乗降を許可し、自転車専用の待機ラインをホーム上に定めます。そのラインもとりあえずはビニールテープなどで充分です。

 もちろん利用者側にも条件を課します。1000円ぐらいの持ち込み料(もちろんバラさずに載せるための料金)を徴収し、持ち込む場合の最低条件を「エレベーターを使わずに自力で持ち抱え、階段を乗降りできる体力と軽量な自転車」として、折り畳み自転車や一人で運べる程度の軽量なスポーツサイクルに限定するという方法もあります。

 そしてここでも総理が「一番端の車両は自転車もベビーカーも乗ります。荷物料金を負担していただいてますので、大型の荷物や自転車をお持ちの人を優先してあげてください」と公式会見で発表すれば、翌日から日本中で実施できると思います。それで「自転車が多くて困る」となったら利用者が多いという証になりますので、それは国民のニーズと受け止めてサービス側が変わるべきです。

 その例が東海道・山陽・九州新幹線です。ちょうどこの5月20日から「特大荷物スペースつき座席」がスタートし、利用には指定席かグリーン席の事前予約が必要で、予約なしの場合は車内で1000円の手数料を支払うルールとなりました。輪行利用の観点からSNS上のサイクリストの間でも話題となっていましたが、皆が使いたい価値のあるスペースなら予約の手間やコストが掛かっても全く問題ありません。

五輪までの1年間で都心を自転車都市に Photo: Kyoko GOTO

 日本の自転車環境には、法律や運用において、先進諸国では「非常識」となることがいくつもあります。そのすべてを変えることは難しいですが、「withコロナ」と「首都での五輪」という状況を、平時では動かせなかったことも動かせる好機として前向きに捉えていただきたいと思います。

 いつの日か日本に戻ってくる外国人旅行者の方々に、「美しい自然と美味しい料理、優しいクルマと自転車好きのホテルが全国にあるサイクリングパラダイス日本」と言っていただけるようになれば─などと妄想しています。

渋井亮太郎渋井亮太郎(しぶい・りょうたろう)

国内外の自転車メーカー専業の広告代理店「株式会社エスピーエーディ」を1999年に創業。メディア対応などの広報業務からカタログや専門メディア広告の制作を手掛ける一方、各種イベント、国内外のサイクリングツアー、自治体との協業まで、サイクルビジネス・プロデューサーとして広範な業務に携わる。2014年、一般社団法人日本サイクリングガイド協会の代表理事に就任。サイクルツーリズムを担うサイクリングガイドの普及活動をライフワークとして協会運営や講習会に勤しむ。1967年東京都出身。明治大学政治経済学部卒業。

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