自転車の環境「withコロナ」でどう変わる①自転車業界だけでなく、行政を巻き込み早急にインフラの整備を 日本自転車普及協会・栗村修氏

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 人々の生活様式を一変させたコロナ禍。国内ではスポーツイベントが中止を余儀なくされ、自転車ロードレース関係者にも大きな影響を与えた。Cyclistでは『自転車の環境「withコロナ」でどう変わる』と題し、乗り手側、自転車普及をリードする人物にインタビュー。第1回目は、ツアー・オブ・ジャパンの大会ディレクターであり、日本自転車普及協会の主幹調査役の栗村修氏に業界の課題や、“withコロナ”を見据えた今後の展望についてオンラインでインタビューした。

コロナ禍における自転車業界への影響とこれからの展望を栗村修氏にオンラインインタビューを行った Photo: Shusaku MATSUO

1週間単位で景色が激変したレース業界

――コロナ禍がもたらしたプロ選手やプロチーム、UCIレース主催者への影響、ダメージはどのようなものだったのでしょうか

 栗村:まず振り返ってみると、今年最後のUCIワールドツアーとなったのが3月8日に開幕したパリ~ニースで、私もテレビの解説を予定していました。開幕時には「コロナの影響で最後まで開催できないのではないか」という噂はありましたが、3月のツール・ド・とちぎ、5月には大会ディレクターを務めるツアー・オブ・ジャパン(TOJ)も控えていたので、無事に進行することを願っていました。

 しかし、途中で中止が発表。とちぎもUCIの勧告で中止となり、3月25日にはTOJも中止を発表しました。1週間単位で景色が激変していたったわけです。感情がジェットコースターのように揺れ動きましたね。中止を決定することは経験したことが無く、とても大変でした。私個人としての解説やイベント出演の仕事もいくつも無くなりました。

 また、チーム関係者もコロナを機に相当なダメージを受けています。UCIワールドチームは選手の年棒を減額するケースが相次ぎ、CCCはスポンサーを降りることをすでに発表しています。日本でも来季のチームのスポンサー獲得が難航することも予想されますね。

 なお、日本の公営ギャンブルのなかで最も影響を受けたのが競輪です。現在、国内のUCIレースなどの大会の多くが競輪からの補助金を受けて開催しています。来年以降、ある程度長期間で影響がでてくるでしょう。

相次ぐ国内外のUCIレース中止の流れに逆らうことなく、3月25日にTOJの中止が発表された(YouTube配信よりキャプチャー)

――TOJは「日本の地域を元気にする社会貢献型の国際スポーツイベント」がテーマとして掲げられています。しかし、コロナ禍を機に、人々が多く集まるイベントに対してネガティブなイメージが地域の人々、観戦者についたことも考えられます。来年以降はどのように大会や地域を盛り上げていく予定でしょうか

 栗村:正直1年後のことまでは考えられておらず、スポーツ大会主催のガイドラインに目を通している段階です。しかし、参加型やスタジアム型イベントのガイドラインは存在していますが、ロードレースはその括りには入りません。

 TOJは周回コースを用いていますが、とても広範囲な公共空間の中で行います。閉鎖空間ではないので逆に人の流れをコントロールすることが難しいのです。ロードレースは花火大会や夏祭りに近いものだと考えています。

 無観客試合で、という意見もありますが、地域貢献を掲げている以上、現地に人を呼ばなければなりません。現地で人やお金が動いて初めて価値が生まれるわけです。例えばツール・ド・フランスであれば無観客で開催できるかもしれません。多額の放映権料が見込めるテレビ配信の価値が半分以上を占めているからです。しかし、地上波でのテレビ放送が望めない国内のロードレースにはあてはまりません。

 とはいえ、来年へ向けて対策は考えていきます。このままの状況が続けば来年でさえも開催は難しくなるでしょう。ネットを中心とした戦略に切り替えるなど、新しい施策を加速させなければならない状況です。

変化を促す機運を高めたコロナ

――コロナで国内外のプロの大会のみならず、一般サイクリスト向けのレースやイベントも激減しました。今後サイクリング文化の発展に何か影響はあると思われますか?

 栗村:人が集まるイベント運営には逆風が吹いていますが、自転車自体は追い風基調です。世界的に低価格帯のバイクの売り上げが急増しています。しかし、国内では走る環境の整備が追い付いていない問題があります。自転車という移動手段をさらに定着させるためには自転車業界だけでなく、行政を巻き込んでインフラの整備を進めなければなりません。

 東日本大震災の際にも自転車の売り上げ、販売台数が伸びました。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうもの。自転車レーンの整備や、市民権の確保など、道路環境はまだ充実したものとは言えません。コロナが一過性のもので終われば、また同じことの繰り返しになってしまいます。自転車業界としてはこれを機に何かアクションを起こさなければならないのですが、今を乗り切ることにリソースが割かれて、マインドやパワーが足りない現状があります。他の国を見ると国単位で政策を打ち出していますね。自転車業界だけでなく、行政を巻き込んで早急に変化を促す必要があります。

 一方、企業では時差通勤やリモートワークが推進され、働き方も変化してきました。社内規約を変え、自転車通勤をOKとするケースも増えていると聞きます。事故などのリスクはもちろんありますが、自転車が移動手段として有効であることはコロナ禍を機に見直されているとものだと思います。

イベントやメディアへ出演し、自転車の楽しみ方を啓もうしている栗村修氏 Photo: Kyoko GOTO

――コロナ禍を機に、移動手段として自転車が再評価されています。スポーツバイク人口も拡大が見込まれると思いますが、これをきっかけにサイクリング人口、競技人口の向上へなにか施策を考えられていますか?

 栗村:いかに間口、分母を広げて良い逸材を探すか、というテーマは20年くらい考えてきました。実際に現在、コロナを機にスポーツバイク人口は増えているでしょう。ネガティブな面も含みますがブームであると言えると思います。しかし、これまでいくつもの自転車ブームが起こりましたが、一過性のもので終わり、それを受け止めきれずに取りこぼしてきた現実があります。

 自転車やパーツなどハードを売ることを業界は頑張ってきましたが、楽しく安全に続けるためのソフト面の整備が行われてこなかったのが根底の問題です。前述のインフラ問題に加えて、安全にロードバイクに乗るためのレッスンを受ける場が圧倒的に少ない状況ですよね。スポーツバイクを買ってみたのはいいけど、どう楽しんでいいかわからないと感じるユーザーは多かったはず。今はハードコアの残っている人が残っているというイメージですね。

 現在、すでに競技をしている選手たちを取り巻く環境も欧州組、JPT、学連、高体連などそれぞれ縦割りのセクターが区切られており、安定した人材育成ピラミッド、システムがありません。ここを構築することも必要です。ピラミッドの底辺部に人が流入している状況ですが、上を目指そうにも統一した目標、目的が持てる育成システムが無いと競技力の向上は望めません。“ロードレース”という全員が同じ方向を向けるピラミッドをいち早く整備しなくてはいけませんね。

 これまで述べたように、自転車業界はコロナ禍を機に景色が一変しています。変えたくても変えられなかった“当たり前”が変わりつつあります。一刻も早く収束してほしいと思う反面、状況が好転していることも存在しているわけで、とてもジレンマに思います。良くも悪くも変化を促しているのが皮肉にもコロナだったというわけですね。チャンスになりえるピンチでもあるし、またその逆でもあります。自転車業界が抱える課題はずっと同じであると認識しています。

栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

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