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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<342>ファンの心を動かすトップ選手による医療支援 トーマス、グライペルらの壮大な挑戦

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 新型コロナウイルスの感染拡大によって休止を余儀なくされているロードレースシーズンだが、この間に行われているトップライダーたちの社会貢献活動に注目が集まっている。なかには一見無謀ともいえる挑戦もありながら、強い意志とファンの後押しの甲斐あって実りあるものへと発展している。思わぬ形で失敗に終わったものもあったが、彼らの思いや姿勢に共感した人も多いことだろう。今回はそんな支援の取り組みをいくつかチョイスしてみようと思う。

Zwiftを使ってのチャリティライドを行ったゲラント・トーマス。SNSを駆使してユーモラスにチャレンジを展開してみせた(写真はTwitterから)

トーマスがZwiftライドで約5000万円寄付

 世界的な活動自粛真っ只中だった4月中旬、ホームトレーナーを利用してビッグチャレンジに挑んだのがゲラント・トーマス(イギリス、チーム イネオス)。新型コロナウイルス感染防止のため最前線で活動する同国の国民保健サービス「NHS」を支援する目的で、12時間のライドを3日間連続して行った。

 12時間の設定は、NHSにおける医療従事者の標準的な勤務時間に相当。トーマス自ら「Zwiftで一緒に走ろう」とファンへの呼びかけを行いつつ、期間中の寄付も求めた。その結果、募金の目標額10万ポンド(約1350万円)に対して、3日間で3倍以上の金額が集まった。

 大成功となったトーマスのチャリティライドだが、現在も募金は継続中。集まったお金は、同国の公的資金による医療制度が限界に達した時点でNHS慈善団体へと贈られることとなっており、本記執筆時点では日本円にして約5050万円に達している。

 3日間で1200kmを超える距離を走り抜き、ミッション達成後は大好きなビールで乾杯したトーマス。期間中はバイクの上から自身の様子や寄付のお願いをSNSに投稿するなど、あらゆる技術を駆使してイベントを盛り上げたあたりにも、ユーモアセンスに富む彼らしさが現れていた。

グライペルはALS支援の世界一周企画にチャレンジ

 ベテランスプリンターのアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)は、世界自転車デーの6月3日からストラバとの協力体制のもとALS(筋萎縮性側索硬化症)団体を支援するイベントを実施する。

アンドレ・グライペルの愛称“ゴリラ”をモチーフにしたイベントロゴ

 これはALSに対する認知度を広めたいというグライペルの希望を叶える形で実現。「Ride around the World」と銘打ち、ストラバを通じて集まった参加者と連携して世界一周(4万75km)を超える総距離を目指そうというもの。ストラバ内のイベントページによれば、参加は実際のライドのほか、バーチャルライド、ハンドサイクル、ベロモービル、車いすなども可能だという。

 また、同チームのウェアサプライヤーであるカチューシャスポーツからは、このチャリティイベント限定のサイクリングキットが販売される。ジャージ、ビブショーツ、キャップが2色ずつあり、イベント参加者は10%割引の適用となる。なお、これらの売り上げの15%は、ALS研究に生かされることになっている。

イベント限定のサイクリングキットも販売され、売り上げの一部はALS研究に生かされるという Photo: KATUSHA SPORTS

 自身にもALSで闘病中の家族がいるというグライペル。イベント開催にあたっては、「この数年間、人々が切望してきたALSの研究をサポートしたいという意識が高まっていた。新型コロナウイルス同様に治療法が見つかっておらず、現在のパンデミックの間は特に命のリスクが高いグループに属している。6月3日のミッションでは、ALSの世界的な認知度に大きな影響を与えたいと考えている」と意欲を示す。

 このほど自身の去就に関して、「フルシーズンを戦わないとさすがに引退は考えられないね」とコメントするなど、まだまだ本職のスプリント戦線の1人となることに意欲的。負傷していた肩のリハビリも順調で、今回にイベントもシーズン再開に向けた走り込みにも効果的な機会となりそうだ。

ブッフマンはルール解釈のミスでエベレスト“登頂”ならず

 数々のチャレンジの中で、思わぬ形で失敗に終わるケースも出ている。

エベレスティングにチャレンジしたエマヌエル・ブッフマン Photo: Bora - Hansgrohe

 エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は5月30日に、ヒルクライムでエベレスト(標高8848m)と同じ獲得標高を目指す「エベレスティング」に挑戦。走行距離にして162.19kmを7時間28分で走りぬいたが、その後ルール違反の判断が下り、結果は無効になってしまった。

 エベレスティングは、オーストラリアのサイクリング団体であるヘルズ500クラブが企画。ブッフマンの挑戦までは、アメリカのマウンテンバイク王者であるキーガン・スヴェンソンの7時間42分が最速記録だった。また、バーチャルながらも4月にはマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、バーレーン・マクラーレン)が10時間37分で、ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)はエベレストをはるかに超えて1万メートル以上を獲得する超人的な走りを披露していた。

コース途中には応援する人の姿も見られた Photo: Bora - Hansgrohe

 ブッフマンは高度1mごとに10ユーロを自国の児童基金に寄付することを宣言して“登頂”を開始。標高1500mを超える山岳コースの上りを繰り返し、圧倒的な新記録でエベレストの“頂上征服”に至っていた。

 ただ、この結果に待ったをかけたのは企画したヘルズ500クラブ。ブッフマンのフィニッシュ直後から審議対象であることを示唆していたが、最終的に記録は無効であると決定した。その理由は、最初の上りを峠の反対側から行ったこと。同じルートを繰り返すことがルールになっており、1度でも異なる道を走るとその時点で記録は認められない。また、タイムとして認められるのは経過時間であり、ブッフマンの7時間28分は走行時間であることも指摘。実際の記録は7時間51分であり、いずれにせよ新記録とはならないことを明確にしている。

 ルール解釈の間違いからチャレンジ失敗に終わってしまったブッフマン。走行後には「自分の役割は果たすことができた。プロジェクトにしたがって寄付を行いたい」と述べていたが、現在の心中は果たして…。

今週の爆走ライダー−コナー・スウィフト(イギリス、アルケア・サムシック)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 コロナ禍における対応は国ごとにさまざまだが、とりわけスポーツイベントの開催に厳格な姿勢を見せているのがイギリスだ。8月16日に予定されていたUCIワールドツアー、プルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシックの中止が決定。また、同様にビッグイベントであったツール・ド・ヨークシャーやツアー・オブ・ブリテンも中止。予定していたコースを来年にスライドして開催する方向で調整している。

自粛期間中に1人でツール・ド・ヨークシャーのコースへと繰り出したコナー・スウィフト。ガールフレンドや友人を巻き込んでのチャレンジが話題となった(写真は2019年シーズン) Photo: Team Arkéa Samsic

 そうした状況下で、「だったら自分でやってしまえ」とばかりに、ヨークシャーのコースへ1人繰り出した選手が話題になっている。アルケア・サムシックに所属する24歳のコナー・スウィフトは、5月14日から4日間、レースコースを実際に走行。ガールフレンドをはじめ友人たちがメカニックや運転手、フォトグラファー、さらには応援団まで引き受けて、彼の挑戦を盛り立てた。

 自粛期間中とあり、チーム関係者が直接的に携わることはなかったものの、SNSを使ってできうる限りのサポート。強い風や難易度の高いコースにも負けず、見事に“優勝”してみせた。

 そんなユーモアに富んだアクションを見せた彼だけれど侮るなかれ、2018年のロードのイギリス王者だ。昨年のヨークシャーでは個人総合9位となるなど実力十分。いとこにはトップスプリンターのベン・スウィフト(チーム イネオス)がいるといえば、彼の力が本物であることを実感できるだろう。

 周りからは早くも、次なるチャレンジに「ひとりツアー・オブ・ブリテンはどう?」なんて声が飛ぶ。それよりやっぱり、実際のレースで実力発揮といきたいところ。シーズン再開が待たれる期待の1人として覚えておきたい。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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