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使ってよかった自転車グッズフラットペダルで振り返るMTBの30年 シマノの「PD-M8040」を愛用するに至るまで 

by 中村浩一郎 / Koichiro NAKAMURA
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 フラットペダルはマウンテンバイク(MTB)ならではのパーツ。「初心者向けでしょ」と軽く扱われがちだがその実、MTB文化の変遷や、その時代ごとの思想も反映しているのだ。最新鋭のクランクにも変わらず取り付けられる当時の“ヒラペ”を通し、マウンテンバイクの30年を追う。

この記事内で紹介するフラットペダルを並べてある。これらを基にマウンテンバイクの30年間を読み解く Photo: Koichiro NAKAMURA

なぜ人はフラットペダルを使うのか

 マウンテンバイキングでは、フラットペダルはなかなかに地位の高いパーツだ。ロードバイキングにおいてビンディングペダルを使えるのが初級者と中級者との境目とするならば、マウンテンではフラットペダルを使いこなせるかどうかが、上級者とマニア筋との境目となる。いわゆる一周回ってフラットペダルというやつだ。

 山を走る時にビンディングペダルを使うのは、ある意味安全のためだ。慣れればとっさに足を出せるし、体全体でフッと抜重すれば足裏に自転車がくっつくので、障害物などを飛び越すのに便利である。ガタガタ路面が続き、ヤバいと思ったら、自分から宙に浮けば空中で車体は地面へと垂直になり、安全性を取り戻せる。

 しかしその最大の弱点は、クリートをハメない限りペダルとシューズは、まったくくっつかないことだ。摩擦力もなくペダルとしての機能を果たせない。

なぜ使うのかって、そこにいいフラットペダルが売ってるからに他ならない。そこにトレイルがあるから走るというのと同じこと Photo: Koichiro NAKAMURA

 一方、フラットペダルはペダルに足を乗せた瞬間に踏み込む準備ができている。そのために自然のトレイルライドや、ジャンプなどアクション系ライドなど、とっさにペダルに乗せる必要のあるライドでフラットペダルを使う愛好家が多くいる。

 またフラットペダルを愛用しているのは、ペダルとシューズがくっついていなくても自転車と空を舞える技術を持つということだ。この会得には時間もかかるため、フラットペダルを日常的にトレイルで使うライダーは一目置かれる傾向にあるようだ。「引き足だって技術次第」というのが彼らの言い草である。

 加えてペダルは自転車で体が触れる3つのタッチポイントのひとつである。グリップ、サドルに加えた最高レベルに重要なパーツであり、しかもその好みは人それぞれの感覚に左右される。だからこそ現在も、毎年多くの新作フラットペダルが世に発表されているのだ。

30年超えて変わらぬペダル軸の規格

 スポーツ自転車機材の様々な規格はあっという間に変わっていくが、ペダル軸の太さは30年以上変わっていない。15mmレンチ、6mmアーレンキー、8mmアーレンキーと付け外しの工具は変わっても、クランクとペダル、オスメスの太さと噛み合わせは人の世同様、30年前から同じまま。右は正ネジで左が逆ネジなのもそのままだ。そのため80年代のペダルが今でも問題なくつけられる。

ペダルの面とクランクの回転方向を加味し、摩擦の効く方向へ力を優しく柔らかくかけ続けてペダルを掴む。ペダルを掴めば引き足は機材の結果ではなく技術のひとつとなる Photo: Koichiro NAKAMURA

 これまで僕が使ってきたいくつかのフラットペダルを今のクランクにつけてみた。30年前のペダルは今でも遜色なく使えるが、ただその年代別に流行り廃りがあるだけだ。どんなペダルがなぜ使われてきたのか。これら手持ちのペダル群を例に、マウンテンバイカーたちが30年かけてたどってきた時代背景を振り返る。

1990年〜 そこにはまず初期XTの “デカペ” があった

 1990年代前半に、MTBが街乗りバイクとしてブームとなった。街中にはMTBに乗る人々が一気に増えたが、そこにはもちろん街乗り勢とガチ乗り勢とがいた。その大勢の中からガチ乗り勢を見分けるのに使われていたのが、このシマノの初期時代XTのペダル、1987年に発売された「PD-M730」通称 “デカペ”だった。

トザンミチ野郎どもの間で流行った “デカペ”。売っていなかったので誰かにもらうしかなかった。これは先輩ライターの山本修二さんよりもらったもの Photo: Koichiro NAKAMURA

 それまでの山岳サイクリングなどで使われていたペダルと比べ、1.5倍はデカく安定感があった。登山靴のビブラムソールとの食いつき相性も良く、トゥークリップも装着できた。当時のMTBブームと共に増えた、登山道(トザンミチ)好きマウンテンバイカーに好まれた名作ペダルである。2015年ほどまで大切に使い続ける猛者もいたようで、あるいは今もいるかもしれない。

1995年〜 SPDシェア拡大の陰に隠れた “ヒラペ” への移行

 そして1990年に世界初のMTB用ビンディングペダル、SPDが誕生。1995年までに世界中に広まっていき、MTB界隈にも一気にビンディング時代が訪れる。「スポーツ自転車乗るならビンディング使えなきゃね」という例の感覚が広まり、登山道ガチ乗り勢もビンディングペダルを使い始めた。

SPDのファーストモデル、ではなくいつぞやのモデル。日本MTBのレジェンドライダー、世界の大竹雅一さん(MTBショップ オオタケ)が開発に携わったのは覚えておきたい Photo: Koichiro NAKAMURA

 そんな中、ノンビンディングペダルも密かに進化を続けた。先のデカペのような “ケージペダル”、ペダルの周囲をケージ(檻)が囲んだ形のペダルに替わり、BMXレーシングで主流だった平たい面を持つフラットペダルが出回り始めた。ケージペダルはケージ部が曲がりやすく、曲がるとグリップ力が減って使えなくなったためだ。

 平たいフラット面にピンを打ったフラットペダルは壊れにくい。さらに当時流行ったスケートボード系シューズの平たいソールとの相性がよかったのもその理由だろう。踏み外し時に脛を喰いにくくもあった。「ケージ」に対する「平たい」ペダルということで、長く乗る連中にはフラットペダルを “フラペ” ではなく “ヒラペ” と略す輩が多い。

2000年〜 グリップ番長 “新DX” が再び生んだ新たなる伝説

 2000年あたりにダウンヒル(DH)レースシーンに転機が訪れる。W杯をフラットペダルの勇者が制したことでヒラペに一気に注目が集った。トップレーサーもこぞって使い、一般ライダーもそれに倣った。そのブームの牽引役となったのが、グリップ番長の呼び名も高かったシマノ「PD-MX30」である。

 その性能もルックスもそうだが、マーケティングも秀逸だった。とある「幻のペダル」の現代版として販売されたのだ。BMXレース界の初期全盛期とも言えた80年代には、ダートの先輩諸氏ライダーたちが好んで使った1983年発売の「PD-MX15」通称 “DXペダル”があった。販売中止となっても大事に使い続けられているという伝説を聞くだけだった90年代のマウンテンバイカーには、幻の名作ペダルであった。

一斉を風靡した“新DXペダル”は、その性能もそうだがカッコよかった。これを開発した「スカンク デベロップメント」を率いたのが「シマノ・ハラサン」、プロアマ問わず当時の世界ライダー憧れの職業だった Photo: Koichiro NAKAMURA

 その幻が、シマノ御本尊による現代的なデザインで復刻し、その愛称も再びのDXペダルであるとして販売されたのだ。当時「スカンク デベロップメント」という名称でイケイケに活動していたシマノの新製品開発チームによる(であろう) “新DXペダル” 。形はかなりアップデートされていたがスタイリッシュ、狙い通りにヒットした。

 踏み面のコンケーブ(中央が凹む形状)もシューズソールの座りがよく、ピンが長短2種類付属し、好みに合わせて交換できたのも新しく素晴らしかった。ただ1つ残念だったのは、短いのは短すぎて滑りやすく、長いのはちょっと長めで食いつきが強すぎたことだ。

この中央が凹むコンケーブの具合がラバー製ソールに合っていた。横の “DX” の文字は 上下逆だと “XC” と読め、 “これ実はXC(クロスカントリー)用ペダルっすー” とネタにもした Photo: Koichiro NAKAMURA

 ヒラペの良さは、その日の路面や感じによって足を置くポジションをズラせるところにある。置いた時に違うなと思えば、瞬時にズラして踏み位置を微妙に調整するのが、膝を壊さずコケないための技術だ。しかしグリップが強すぎると行いづらく、踏み外したときも長いピンは脛に優しくなかった。それでもそのスタイリングと性能にシビれたライダーは、手持ちの自転車のペダルを全てこれに替えたほどだった。

2005年〜 ストリート発の自転車文化による “プラペ” の台頭

 2005年ごろ、ピストバイクを通した自転車のストリート文化への台頭が始まった。これに伴いビンディングなど興味すらない自転車乗りのマジョリティはプラスチック製のペダル、通称 “プラペ” を求めた。

 その代表的な存在となったのが、オデッセイの「PC TWISTED PEDAL」である。プラペダルの特徴はとてもわかりやすい。安い、軽い、かわいい、痛くないという、ストリートにぴったりの性能だった。

オデッセイ・PC TWISTED PEDALは、他のプラペと比べてもスタイル良く、喰いも良かった。雨の日には乗らないBMXには今もこれを使う。あれしても痛くないのがその一番の理由 Photo: Koichiro NAKAMURA

 そしてオデッセイのこれはオフロードでも遜色なく使えるほどグリップ性とズラし性がよかった。そのためストリート(街乗り用にしたMTBだ)で使うだけでなく、年々過激になっていったMTBシーンやパーツに少し食傷気味になったライダーたちにも受け入れられた。

 一方でプラスチックという素材の特性上、濡れたり泥がつくと滑りやすくなったが「雨の日はトレイルが傷むから乗らないよね」という現在では常識とも言える理由により、プラペは確かに愛好された。

2010年〜 トレイル主義が再燃しヒラペ思想も拡張

 そして2010年を前にMTBシーンは、レース至上主義からエンジョイ・トレイルライディングの思想へと向かっていく。トレイルライドこそマウンテンバイキングの本質だとするコンセプトで開発されるものが増え始めたのだ。

 その代表とも言える事例が、レース用最高級コンポーネントであるシマノXTRに、全く別ラインとなるトレイル用モデルが加わったことだった。言わばデュラエース・ツーリング仕様である。スペックにこだわる遊び人には最高だ。

シマノXTR初の “トレイルモデル” SPDである。レース用ではない最高級品、という自転車パーツの位置付けそのものが、史上初ではなかったか Photo: Koichiro NAKAMURA

 話をヒラペに戻すと、この時期に様々なブランドから己の信じるフラットペダルが多く出始めた。食いつきであったり、ずらしやすさだったり、大きさだったり、薄さだったり、クランクへの近さだったり、様々な方向性が打ち出された。先に述べたようにペダルは大切なタッチポイントであるため、さまざまなライダーのさまざまな好みに応じて多くのペダルが発表され、使われていった。

 シマノもドロップ系ライド向けの “セイント” のラインナップでヒラペをリリースした。しかし「プロライダーが崖から落ちても大丈夫」という、丈夫なスタイリングをモッさく感じるライダーも多かったようだ。危なみを感じるドロップ系ライド自体が一般ライダーに避けられたこともあり、大きな話題になることはなかった。

2018年〜  “新XT” の登場とすぐに発表された “新々XT” の謎

 そして2018年、ついにシマノが大きく動いた。コンポーネントXTの新作編成の中に、新DXペダル直系の後続と読めるペダルがあったのだ。それが今、僕が愛用している通称 “新XT”こと「PD-M8040」である。

今のところ僕が最高のペダルだと思い使う “旧新XT” M8040。そして最新型 “新々XT” M8140は、MX15を愛した先輩諸氏からの評価も高く、SMサイズが愛用されているとの話を聞く Photo: Koichiro NAKAMURA

 シマノは、1つのペダルに2つのサイズという新たなるコンセプトを打ち出した。SMとMLの2サイズを用意して、アジアの小柄な女性から北欧の大柄な男性まで、適切なサイズを乗れるようにしたのだろう。

 しかしライダーには用途別サイズとして見えた。SMはストリートやダートジャンプといった小回り重視のもの、そしてMLはトレイルライドなど確実な保持力重視のもの、という使い分けだ。

 このペダルは丸みが素晴らしかった。踏み外しを考えたか、ピンの直径は太くなり、脛に優しくなったと同時に短いピンでもグリップ充分、かつズラしやすいというちょうどのグリップ感となった。さらにあらゆる角はより丸められ、万が一でも痛みを減らす配慮がされた。

この太く丸いピンが、新世代ヒラペの特性となっていくのか。なおシューズはシマノ純正のフラットペダル用。純正なのでソールとの相性抜群だ Photo: Koichiro NAKAMURA

 シマノ擁するフリーライドの世界トッププロライダーによる近代的な研究の結果、最高レベルのプロがヒラペに求める最高の性能を突き詰めたヒラペ、というイメージでいる。ヒラペをすべてのマウンテンバイカーのものとしたい、その気持ちのシマノによる体現なんだろうと妄想した。

 しかし新世代ヒラペの話はこれで終わりではなく、これは単なる始まりだった。というのもこの新XT発表から間をおかず、なんとたった8カ月ほどでさらなる新作となる現行モデル、 “新々XT” こと「PD-M8140」が発表されたのだ。ピンは変わらず太く短く、スタイルは丸く、サイズも2つあるのだが、こまかなデザインの変更以外の変更点がわからない。

 気になるなら使えばいいのだが、1年半ほどしか使っていない “旧新XT” のMLサイズにはなんの問題もなく、変える理由が見当たらない。新DXなんか10年近く使っていまだに壊れてないんだぜ。どう変わったのかを発表記事で調べたが、どの日本語媒体にも書かれていないのはご時世だ。しかしあのシマノがこんな短期間でモデルチェンジした最新モデル “新々XT” には、 “旧新XT” を超える何かしらのアップデートが施されているはず。心あるジャーナリストが、この謎を解き明かしてくれる日を待ちたい。

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