自転車の環境「withコロナ」でどう変わる②JCGA代表理事・渋井亮太郎氏に聞く<前編> ソロライドは緊急事態宣言下の暫定措置

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 人々の生活を激変させてしまった新型コロナ。サイクリストにとっては“自粛”、“ソロライドの推奨”といった言葉が飛び交う一方で、社会的には移動手段として自転車利用が推奨される等、自転車の活躍が注目されている。「with コロナ」の世界で我々のライド環境はどう変わるのか、そして社会は自転車に対してどう変わるべきかなのか。栗村修さんに続くインタビュー第2弾は、サイクリングガイドの育成と認定を手掛ける「日本サイクリングガイド協会」(JCGA)代表理事の渋井亮太郎氏。前後編の2回に分けて紹介する。

(一社)日本サイクリングガイド協会の渋井亮太郎代表理事 Photo: Kyoko GOTO
(一社)日本サイクリングガイド協会の渋井亮太郎代表理事 Photo: Kyoko GOTO

ロジカルな思考を奪うパンデミックの怖さ

─新型コロナウイルスの出現前後で、サイクリストを取り巻く環境として大きく変わったことは?

 渋井 一番大きく変わったのは、集団走行に対する認識でしょう。移動手段や体力増強の道具という観点なら自転車はパーソナルな乗り物ですが、レジャースポーツとしてのサイクリングですと、週末に複数人で集まってグループライドを楽しんだり、大型サイクリングイベントへの参加を毎年心待ちにされているサイクリストもとても多いですよね。そんな集団サイクリングの素晴らしさを堂々と楽しめない状況になってしまったことは大きな損失であり、本当に残念です。

 一方、この数カ月間に生じた問題の多くは、新型コロナウイルス感染による直接的な健康被害ではなく、ウイルスに対する社会の反応によって増幅された問題であり、それこそがパンデミックの怖さの本質だということを思い知ることになりました。私自身、日本国民として、あるいは日本の一サイクリストとして日頃感じていた、ロジカルになり得ない社会構造とそれに翻弄される日本の自転車の問題が、コロナ対応で噴出し続ける諸問題と二重に感じられ、いまさらながら一人で怒ったり悲しんだりしています。

 サイクリングの領域でも「本当にグループライドはダメなのか?」「県境を越えるサイクリングはダメなのか?」という問いかけが起き、それに対して誰も正しい答えを出せない緊急事態宣言下のネット空間で、「ソーシャルディスタンス」や「外出自粛」という社会通念が自転車に当てはめられてしまいました。

 そして世界的な外出制限や義務教育の一斉休止という異常事態も相まって、ロジカルというよりは感情的、あるいは道徳的とでもいうべき同調圧力が、極めてリスクが低いはずのサーフィンや、ランニング、サイクリングなどの屋外レジャースポーツまでも飲み込みました。

 その圧力の下では、私を含めた自転車乗りも「サイクリング自体には感染リスクはほとんどないと思うけど…」などとは決して口にできず、せめてソロライドで走行環境を確保することと引き換えに、自らグループライドを否定せざるを得ませんでした。

 白状しますと、私自身も5月初旬まではSNSで「#soloride」を発信していました。ただ、感染拡大が深刻な欧米発のハッシュタグを日本で無分別に流布することの功罪や、報道され始めた自粛警察の心理状態を考え直し、発信を止めました。

 もちろん最悪の事態を想定して先手を打つのも間違いではなく、当初はそれ以外に仕方なかったのだと思ってはいます。ただ、ロジカルな理由もなしに線引きをしてしまったので、後々ロジカルな理由をあげたところで、それだけではなかなか是正もできず、そのまま今に至っているという印象があります。それはサイクリングに限らず屋外レジャースポーツの多くが同じ構造なのだろうと思います。インターハイ中止のニュースを聞いた時は心が痛みました。

「ロジカルが通用しないパンデミックの怖さを知った」と渋井氏

 東京都も6月から「ステップ2」に緩和されましたが、残念ながら当面は「withコロナ」での経済活動しか選択肢がありません。とはいえ、これ以上の停滞ももはや許されず、私たち一人一人がそれぞれの立場と状況に応じて、できる限りロジカルに、サイクリングという行為を再検証する必要があります。

 例えば私の場合、サイクリングは生きる糧となる業務ですが、サイクリングガイド登録者でも本業は別にあるという人の立場では、サイクリングはやや真面目な趣味という感じでしょう。先月までは感染学的な見地から私たち全員が「0か100か」という極論レベルで感染対策に取り組みましたが、約5カ月間にわたって全世界的に知見を得た今は、各自が持続可能な取り組みを検討すべきで、私と他のサイクリングガイド、ガイドと一般サイクリストとでは、それぞれ取り組み方も違って当然と考えるべきです。

 したがって、知見がなかった緊急事態宣言解除までの非常時は、暫定措置としてのソロライドにも一定の意義はありましたが、今後はそれぞれの立場と状況次第でグループライドを再開すべきと考えています。また、県境を越える移動や屋外の大型イベントも6月19日から開催可能という方針が示されましたので、JCGAメンバーもガイドツアー事業の再開に向けて準備を始めています。

2019年4月、満開の桜が咲き誇る富山を訪れた台湾ツアーを地元のJCGAガイドが引率 Photo: Ryotaro SHIBUI

─先日JCGAとしてサイクリングツアー事業の再開に向けてガイドラインを発表しましたが、一般のサイクリストにとっても参考になる部分があります。

 渋井 JCGAが5月20日付で発表したガイドラインは、ビジネスもしくは地域貢献としてサイクリングガイド活動を行うJCGA会員向けのものです。緊急事態宣言以降、乗車中のマスクの要不要、サイクリングの途中で店舗に立ち寄る是非、その他様々な状況における感染対策について情報が錯綜していましたので、会員の活動を担保する一定の見解が必要だと感じていました。

 5月14日に8都道府県以外で緊急事態宣言が解除され、同日に日本スポーツ協会(JSPO)のガイドラインが公開されたので、それをベースにJCGA版としてまとめました。ですので、サイクリング中に関する部分は一般サイクリストにも参考になるはずですが、原則的にはガイド事業者としての技術とビジネス感を前提としています。いずれにせよ、この原稿作成時点でも状況や政府などの方針は刻一刻と変化していますので、ガイドラインも常に変化するものだと理解いただく必要があります。

「JCGA サイクリングツアー COVID 19 感染拡大予防ガイドライン 」(抜粋)

5、サイクリング中
感染防止対策および怪我や体調悪化のリスクを軽減するために、以下のア〜ケに留意すること。

ア:マスク着用について:サイクリング中も携行すること。着用の是非は以下のとおり。
・受付や休憩などサイクリング以外の時間や、会話するときは着用する。
・サイクリング走行中の着用は原則として不要だが、自己判断での着用も認める。
・歩行者等が密集したエリアを低速で通過する場合等は、主催者がマスク着用を指示する。
・走行中に着用するなら、通気性の高いもの、バフ、フェイスガードなどを推奨する。
・気温の高い屋外での運動中に着用すると熱中症のリスクが高まることに留意する。

イ:車間距離
・休憩からの再出発や信号待ちの停車時は、車間距離を自転車一台強(約2m)とする。
「新しい生活様式」では「1m(できれば2m)」とされるが、運動で呼気が荒くなることも想定し、目測でも意識しやすい自転車1台強(2m)とする。また、屋外では2mまで到達する前にほとんどのウイルスは乾燥して感染性を失うとされている。
・走行中は、飛沫の到達距離が伸びる懸念もあるため、車間距離を2台分(約4m)とする。
当協会は平時より、走行中の車間距離を自転車1.5〜2台分(約2.5〜4m)、速度が速い場合は自転車4〜6台分(約6.5〜8.5m)としているが、感染対策のためにやや広めの車間距離を推奨する。

ウ、走行中の隊列
道幅に余裕のある車道を走行中は、前方の視認性を高め、前走者の呼気を受けるリスクを抑えるために、一直線の隊列ではなく、前後左右に互い違いとなる千鳥を原則とする。※ただし、並進とならないように留意し、法規に適う1列走行を遵守する。

エ:組み分け人数
サイクリングガイド1名あたりの引率人数は、平時の6〜8名ではなく、4名を上限とする。

 前段でも触れましたが、非常事態下の自粛ムードに飲み込まれたグループサイクリングの楽しさを取り戻すには、グループサイクリングが「感染しない・感染させない」ことをサイクリスト自らが立証し続けるしかないのだろうと思います。そしてそれは決して大げさな対策ではなく、政府が提示した「新しい生活様式」をベースとした、サイクリング特有の行動や基本的なリスクに応じた現実的で持続可能な対策でなければなりません。

 一方で、バランス感覚を欠いた対策でさらなるリスクを呼び込む懸念はサイクリングに限りません。例えばこれからの季節は熱中症リスクが高まりますが、サイクリストなどの屋外スポーツで取りざたされている「マスクによる体温上昇」のリスクと、「マスクなしで感染する・させる」リスクとを世間が納得する形で応分することが重要です。

 その判断の要素に、ロジカルとはいえない他人の目が入ってくるのもこの問題の厄介なところですが、それも含めて対応すべきと考えています。ただ、今年の夏の熱中症の原因が「マスク警察」とならないよう、これは社会全体で取り組む課題だとは思いますが。

 JCGAのガイドラインも、そうした世間が納得する形を前提としました。例えば、交差点で停まるときに他者と一定の間隔を置く、自分のグループ以外の他者とはさらに距離を置く、信号待ちでは前者から一呼吸してスタートすることで車間を空ける、マスクを携行して店舗等に入る前には着用する。誤解を恐れずに言えば、これらすべてにロジカルな理由があるわけではありませんが、それらをひっくるめて誰もが持続可能で納得がいく行動であれば、利用価値はあると考えています。

これからは「マイクロサイクルツーリズム」

─インバウンドを期待できなくなったいま、観光業は国内需要に頼るしかありませんが、サイクルツーリズムはその手段になり得るでしょうか?

 渋井 東京五輪が来年に開催されるとしても、観光業全体は最低でも1年半~2年程度は厳しく、インバウンドが今の水準に戻るのはさらに先になると予測されています。そこで改めて「旅」というものを最小単位で考え直してみると、自分の生活圏以外の場所で食事をする、買い物をするという行為も広義には旅だということに気付きます。

 星野リゾートの星野佳路代表がテレビで話されていましたが、観光業は「マイクロツーリズム」、つまり近距離の観光地などに保養目的で滞在する昔ながらの旅から復興していくしかないと。保養といっても温泉湯治等ということではなく、上げ膳据え膳してもらうことで家事ストレスから解放されるのも立派な保養であり、価値があるという考え方です。

 週末や2〜3日の休日、すなわち日常の合間に、ちょっとした移動で「非日常」を発生させ、それを楽しむ行為を「旅」として再定義する。まさに一昔前によく言われた「安・近・短」の日本型観光ですが、今はそこに現代的な価値をのせていくことで活路を見出すしかないのだと私も思います。

 そう考えると、「新しい生活習慣」における健康維持や移動の手段として脚光を浴びている自転車に、「日常の中に非日常を混ぜ込むことのできる“魔法のアイテム”」という価値をさらに上乗せするチャンスが巡ってきます。これまで自転車を「移動の足」としてしか考えていなかった一般の日本人に、「日常の中の非日常の価値を生む自転車」というマインドチェンジを起こさせることで、サイクリングを活用した「マイクロサイクルツーリズム」とでも言うべき新たな観光スタイルを生み出せるのではないかと考えています。

 例えば、昭和の時代には多くの宿泊観光客で賑わいながら、鉄道や高速道路網の整備によってすっかり日帰り主体になってしまった近郊の観光地に、現代的なサイクリングを結びつけたらどうでしょうか。国民の3割以上を抱える東京圏でいえば、三浦半島、湘南、熱海、箱根、富士五湖、奥多摩、秩父、軽井沢、筑波山、霞ヶ浦、房総半島などの名だたる観光地が半径100km以内に揃っており、それらの地がサイクリストを歓迎してくれるなら、可能性は大きく拡がっていくと思います。

 サイクリングはスポーツなので、良くも悪くも疲れますし、汗もかき、ウェアも自転車も汚れます。また、当然ながらルートの途中ではお酒を飲めず、たくさん走れば美味しいものをたくさん食べたくもなります。まさに温泉宴会旅館に泊まるための条件が揃っている“常客予備軍”でしょう。

 では、なぜこれまでのサイクリストはあまり泊まってくれなかったのか? あるいは、日本のサイクリングはスキーやゴルフより歴史があるホビーなのにマーケットサイズが大きく伸びないのはなぜか? 電動アシスト自転車はスポーツサイクリングなのか? そうした問いに一つ一つ応えていくことで、「マイクロサイクルツーリズム」は確実に大きくできると私たちは確信しています。そしてそこには、サイクルツーリズムを担う人材となるサイクリングガイドが不可欠なのです。

サイクリングガイド講習会で指導にあたる渋井氏(写真右) Photo: Kyoko GOTO

 ビフォーコロナの日本では、ビジネスとしてのサイクリングツアーはインバウンドなしでは成立せず、私たちも各地の事業者も、インバウンドを着地させる手法のひとつとしてサイクリングツアーやサイクリングガイド育成を手がけてきました。当然ながら今年2020年は大きな山場でしたし、アフター2020に向けたステップとなるはずでした。

 残念ながら目論見は崩れ、もう同じスタート台に立つことはないでしょう。しかしながら、国内すべての観光事業者とともに軌道修正を迫られたことで、サイクリングの有用性や可能性を様々な業種に携わる方々と深く共有できる好機になったとも感じています。

 数年後に再びインバウンドが活性化した時に、より強みを増した日本のサイクルツーリズムを全世界のアクティブな旅行者にご提供できるよう、いまは国内で「マイクロサイクルツーリズム」を盛り上げていくしかないと思っています。

渋井亮太郎渋井亮太郎(しぶい・りょうたろう)

国内外の自転車メーカー専業の広告代理店「株式会社エスピーエーディ」を1999年に創業。メディア対応などの広報業務からカタログや専門メディア広告の制作を手掛ける一方、各種イベント、国内外のサイクリングツアー、自治体との協業まで、サイクルビジネス・プロデューサーとして広範な業務に携わる。2014年、一般社団法人日本サイクリングガイド協会の代表理事に就任。サイクルツーリズムを担うサイクリングガイドの普及活動をライフワークとして協会運営や講習会に勤しむ。1967年東京都出身。明治大学政治経済学部卒業。

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