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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<341>フルーム参戦のバーチャルレースの結果 ベルナルのツール連覇に不安要素も

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 シーズン再開へ向けて、日々前進を続けるロードレース界。多くの国で新型コロナウイルス感染拡大のピークが過ぎたとの判断もあり、レーススケジュールがおおよそ固まってきた。それに呼応するかのように、選手・チームそれぞれにエンジンの再始動がかかろうとしている。そこで今回も、レースに関するビッグトピックを厳選して紹介しよう。クリストファー・フルーム(イギリス、チーム イネオス)らが参戦した注目のバーチャルレースイベントの結果、ツール・ド・フランスを目指すコロンビア人ライダーたちの動向をお届けする。

バーチャルレースイベント「ザ・チャレンジ・オブ・スターズ」に参戦したヴィンチェンツォ・ニバリ。パソコンのモニターを見ながらペダルを踏み込む Photo: SHIFT Active Media

ヤコブセンがバーチャル界最強スプリンターに

 前回紹介した、トップライダーたちによるバーチャルレースイベント「THE CHALLENGE OF STARS(ザ・チャレンジ・オブ・スターズ)」。ジロ・デ・イタリアなどを主催するRCSスポルト主導のもと、脚質別にバーチャルレースのトップを決める熱い戦いが展開された。

 5月23日から24日にかけて開催されたイベントは、まず大会初日にスプリンター・ルーラー部門を実施。イタリア・トスカーナ地方をイメージした、平均勾配0.97%、最大勾配2.53%、レース距離1.2kmによるスピード決戦。

バーチャルレース画面。スプリンター・ルーラー部門はトスカーナ地方をイメージしたコースで熱戦が展開された Photo: SHIFT Active Media

 8選手によるノックアウト方式を勝ち上がったのは、ロードのオランダ王者であるファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)と、個人タイムトライアルのイタリア王者であるフィリッポ・ガンナ(チーム イネオス)。両者の一騎打ちとなったファイナルは、実際のレースシーンでも世界有数のスプリンターであるヤコブセンに軍配。

 バーチャルレースのナンバーワンスプリンターの称号を手にしたヤコブセンは、「この成功にとても満足している。1200mというレース距離は通常の集団スプリントより長く、実際に走ってみて脚がとても痛い!」とコメント。勝因として、「画面をチェックしながら、対戦相手をしっかりマークしていた。そして、最後の500mですべてを出し切った」ことを挙げた。普段から、荒天時は屋内でトレーニングしているといい、慣れた状況下で勝負できたこともプラスに働いたよう。

 あと一歩及ばなかったガンナは、メカニカルトラブルに見舞われたことを打ち明けつつも、ヤコブセンを祝福。実際のレースとの大きな違いとして「通常なら集団内の動きがよく分かるが、今回は画面を注視する必要があった」と述べる。一方で、決定的な共通点を発見したといい、それは「レースが終わった後の脚の痛み」だとか。

スプリンター・ルーラー部門勝ち上がり表 Photo: SHIFT Active Media

クライマー部門はチッコーネ頂点に

 翌24日に行われたのが、フルームやヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)らグランツール覇者も参戦したクライマー部門。そんな激戦を制したのは気鋭の山岳ハンター、ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)だった。

クライマー部門を制したのはジュリオ・チッコーネ Photo: SHIFT Active Media

 チッコーネは、4月下旬から5月上旬にかけて行われたジロ・デ・イタリア・バーチャルの覇者であるヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ プロチーム)を1回戦で破ると、準決勝ではシモン・ゲシュケ(ドイツ、CCCチーム)を撃破。決勝は、バーチャルライドを得意とするトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)と対戦。スタートからしばらくはデヘントが先行したが、後半にペースを上げたチッコーネが逆転。トップクライマーの称号を手にした。

 戦いを終えてチッコーネは、「トーマスのスタートが非常に速かった」と、前半から飛ばしたデヘントのペースに驚いたという。さらには、「どれだけのペース配分で上り続けられるかを計算しながら走っていたが、正直言うと彼(デヘント)が失速することを祈っていたんだ」と打ち明ける。さすがにハードなレースだったようで、「これから少しリラックスさせてもらうよ」とも。

クライマー部門に参戦したクリストファー・フルームだったが初戦敗退に終わった Photo: SHIFT Active Media

 一時はチッコーネに対して7秒差をつけてリードしていたデヘントだったが、1回戦や準決勝で見せたような好調さは示せなかったと悔やむ。「後半にジュリオが追いついてきて、そのまま抜かれた瞬間、私の夢は終わったと悟ったよ」と敗戦の弁。結果的にクライミング能力が勝敗を分けたと分析し、クライマーとして伸び盛りのチッコーネの強さを素直に認めていた。

 クライマー部門は、ジロでもおなじみのステルビオ峠をイメージした、平均勾配8.69%、最大勾配12.75%、レース距離2.9kmの山岳コース。その走りが注目されたフルームは1回戦でワレン・バルギル(フランス、アルケア・サムシック)に、ニバリも1回戦でゲシュケに敗れ、勝ち上がることができなかった。

 世界的にも注目を集めたイベントは、スマートトレーナーを製造・販売するビークール、イタリアの電力会社・エネル、スイスの時計メーカー・ティソが公式パートナーに就き、選手たちの走りを支えた。

クライマー部門勝ち上がり表 Photo: SHIFT Active Media

ベルナルのツール連覇に黄色信号? コロンビアで海外渡航禁止が延長

 開幕を約2カ月遅らせて、8月29日にスタートが切られる見込みのツール・ド・フランス。世界的なロックダウン(都市封鎖)や緊急事態宣言の解除にともない、選手たちの多くが屋外でのトレーニングを再開すると同時に、改めてシーズンの目標設定を口にし始めている。

ツール・ド・フランス2連覇を狙うエガン・ベルナル。コロンビア情勢次第で2020年のツール参戦が決まることになる =ツール・ド・フランス2019第20ステージ、2019年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 こうした状況下で、前回覇者のエガン・ベルナル(チーム イネオス)らコロンビア勢のツール参戦に「黄色信号か?」といった事態が発生しているという。

 同国ではこのほど、8月31日にまでの緊急事態宣言延長が発表。南米の多くで、国をまたぐ移動に厳しい制限が課されているが、コロンビアも同様に宣言解除になるまでの海外渡航禁止継続が決まった。これにより、ベルナルら帰国している選手たちのツール出場は原則不可能になった。

 これらの決定を受けて、コロンビア自転車競技連盟は政府に対して特例の申請を図ると声明。シーズン再開時にヨーロッパ内の各拠点へと戻れるよう調整していくとしている。また、南米系ライダーの多くを顧客とする代理人のジュゼッペ・アクアドロ氏も、「プライベートジェットでの移動を特別に許可してもらえるだろう」と楽観的なコメントを残している。

ツール・ド・フランスデビューを予定しているセルジオ・イギータ。出場できるかはヨーロッパへの移動が許可されるか次第 =ツアー・コロンビア2020第6ステージ、2020年2月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 コロンビアでは、現時点で1万7000件以上の症例が確認され、そのうち630人が亡くなっているという。国内では段階的な規制緩和に取り組んでおり、自転車選手の屋外トレーニングも条件付きながら許可されている。

 プロトンの一大勢力であるコロンビア勢。UCI登録だけでも111人ものプロライダーを数え、うち22選手が同ワールドツアーを主戦場としている。なかでもベルナルを始め、リゴベルト・ウラン、セルジオ・イギータ(ともにEFプロサイクリング)、ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)らはツールのマイヨジョーヌ有力候補。これまで幾度となく自転車競技で国威発揚してきたコロンビアだが、シーズン再開に向けて国を挙げてどのような動きをとるか見ものである。

今週の爆走ライダー−アンドレア・バジオーリ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今回も、シーズン再開に向けて楽しみな若手の紹介。イタリア人オールラウンダーのアンドレア・バジオーリを知ってほしい。

ドゥクニーニンク・クイックステップのルーキー、アンドレア・バジオーリ © Sigrid Eggers | Deceuninck - Quick-Step Cycling Team

 3月に21歳になったばかりだが、早くから数々のトップチームがチェックしていたという逸材。2018年の後半にはUAE・チームエミレーツのトレーニー(研修生)として走ったほか、その冬にはチーム スカイ(現チーム イネオス)のトレーニングキャンプに招待参加。プロの世界に飛び込むにあたって、強い選手たちがいかにしてプレッシャーをはねのけて勝利をつかんでいるかが理解できたという。

 プロデビューの場にドゥクーニンク・クイックステップを選んだが、よい仲間に恵まれていることもうれしい。同世代のレムコ・エヴェネプール(ベルギー)とは「宇宙人のように思っていたけど、実際話してみたらものすごく優しいんだ」とすっかり仲良し。4歳年上のダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)からは、「トレーニングのやりすぎには注意」とくぎを刺されているのだとか。できる限り重圧のない環境で走りたいと思っていたが、いまのチームは心身ともにフィットする手ごたえをつかんでいる。

 少し前までは機械工学を専攻する学生だったが、学業も一区切りし、レーサーとしての歩みを本格化させる。アンダー時代までは要所でのアタックやスプリントで勝つことが多かったが、個人的には「ステージを経るごとにコンディションが上がっていく」との理由から、ステージレーサーとして活躍することを目標とする。昨年までNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネで走った兄・ニコラ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)にして、「才能は圧倒的にアンドレアが上」。近いうち、その真価を目にすることができるだろう。

将来を嘱望されるイタリアンライダーのアンドレア・バジオーリ。スピードに自信を持つが、これからはステージレーサーとしても力をつけていきたいと意気込む © Sigrid Eggers | Deceuninck - Quick-Step Cycling Team
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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