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猪野学の“坂バカ”奮闘記<47>“坂バカ”から“ローラー馬鹿”に一時転向 いつか「あの自粛生活で強くなれた」といえるように

by 猪野学/Manabu INO
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 2020年、人類は再び自然から試練を突き付けられている。世界中の人々が全ての行動を抑制され、同じ想いの中にいる。サイクリストも世界トッププロからアマチュアまで、全てのレースやイベントの予定が白紙となった。そして、私も御多分に漏れずその一人だ。

坂を上りたい気持ちを抑え、自宅のベランダでひたすらローラーを回す筆者。お見苦しい姿ですが、自宅ということでご容赦を…

人生最高のコンディション!のはずが…

 今年こそはと、冬も休まず日々トレーニングを積み上げて来た。今年2月にNHK『チャリダー★』でスペインにロケ(近日放送予定)に行った時には、世界チャンピオンのアレハンドロ・バルベルデの走りに付いて行けるほどの好調ぶりだった(彼は翌日がレースだったのでホントに軽く流していたらしいが)。

2月まではスペインの猛者達とも対等に闘える好調ぶりであった
スペインロケで美女と戯れる筆者。この頃は後に絶望が訪れるとは知る由もない

 以前は2分のインターバルで320Wをキープしたら、新橋の酔っ払いのような千鳥足になるほどのダメージを喰らっていたが、350Wをキープしてもそんなに息が切れないほど心肺機能が仕上がっていた。FTPも恐らく20Wほど上がっていただろう。

 数値から見ても今年こそは確実に自己ベストを量産できる! 間違いない! 我が人生最高のコンディションだ。今シーズンだけは怪我でもしない限り明るい未来が待っていると信じていた。

1月の『チャリダー★』の坂バカ高知ロケでは、レースで4位に入る好調ぶりだったのに…

 しかし、そんな状況はあっけなく崩れ去った…。4月7日、新型コロナウイルスをめぐって緊張事態宣言が発令。行きつけのジムが閉鎖され、トレーニングができなくなってしまったのだ。

 ここ数年は、夏でも涼しいジムの「ワットバイク」でトレーニングしていた。ワットバイクはペダリングの感覚が実走に近く、パワーメーターも安定しているからだ。そんな頼みの綱のトレーニング機器も使えなくなった状況に、愕然とした。

「心のパワーメーター」作動

 何かの呪いだろうか? 私は調子が良くなるとそれを妨げる「何か」が必ず起こる…。3年前、己史上最高のコンディションに仕上がった時、ドラマの長期ロケが入り、好調な仕上がりは見事に水の泡となった。

愛用していたジムのワットバイクも使用できなくなり…

 私は気が付かないうちに何かに呪われてしまったのだろうか? お願いですから呪いを解いてください。少しのお金なら払います…。

 トボトボと家に帰り、気がつくと私は無心でベランダにローラーをセッティングしていた。考えるより先に身体が動いていた。ずっと積み上げて来たものを失いたくなかったのだ。

 しかし家にあるバイクにはパワーメーターが付いていない…。仕方ない、こうなったら困った時の「心のメーター」(感覚で値を再現)だ! 考えるな! 感じろ! 初心に返ってベランダローラー生活がスタートした。

抗うことをやめたら終わり

 やり始めてすぐ気付いたのだが、固定ローラーの方がキツい。ワットバイクは実走に近いペダリングができるため、ペダリングにモーメンタム(弾み・勢い)がつく。しかし固定での高トルクでのペダリングはモーメンタムが使えず、ただただキツい!

初心に戻ってベランダローラー再開

 待てよ…これは激坂でのヒルクライムと同じではないか! 過去の記憶が蘇る。私が自己ベストを量産し、最高順位7位に入ったシーズンは、重いギアで高トルクの練習ばかりしていた。固定ローラーでのダンシングはフレームに負担がかかるため、己にダンシング禁止令を発し、ひたすらシッティングで長時間踏み続けていた。その結果として強靭な足腰と筋持久力が鍛えられていたのだ。

 知らず知らず、私はとても効率の良いトレーニングをしていたのかも知れない。失うことで気付くこともある。悪いことの側面には必ず良いこともあるものだ。

 もちろん持久系だけでなく、心肺に刺激を入れるインターバルもやる。好調だった心肺機能を落としたくない。2分インターバルをする。しかしパワーメーターがないとやはり上手く行かない。指針となる数値がないと追い込め切れない。何とも追い込めてない不完全燃焼感が残る。こうやって徐々に堕ちて行くのだろうか…。

 しかし今ある機器でやるしかないのだ! 呪いなどに負けたくはない! 私は抗う。抗い続ける人生…。仏の教えのように抗うことをやめたら、人生はもっと楽に、上手く行くのだろうか…川の流れのように。

 しかし私は産卵期の鮭のように川を遡り、抗い続ける。自転車は抗い、もがくことをやめたら終わりだ。前に進まなければ…立ちゴケしてしまうではないか!

終息を迎える日を信じて

 こうやって私は今、「坂バカ」ではなく「ローラー馬鹿」になっている。バーチャルライドの「ズイフト」も大盛況だというし、恐らく日本…いや世界中にいま、私のようなローラー馬鹿が溢れているのだろう。

 想いはひとつ、「早く外で走りたい!」「レースに出たい!」─。自転車史の中で、ここまでサイクリストがひとつになることはなかったかも知れない。そういう意味では、我々はいま極めて貴重な経験をしているように思う。

 いつの日かこの騒ぎが終息を迎えてレース会場で再会できた時、声を揃えて言おうではないか。「自粛生活のおかげで強くなれた」と─。

(画像提供:猪野 学)

猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)
にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。
自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。
俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『
スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。
ウェブサイト「マナブログⅡ

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