title banner

昼間岳の地球走行録<55>氷点下の世界で走り、震えながら野宿した東ヨーロッパの旅

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
  • 一覧

 ブルガリアの首都ソフィアのホステルに入った時、旅人が多くて驚いた。ヨーロッパは無限にルートが選べたので旅人は散り散りになっていたけど、トルコのイスタンブールに向かい次第にルートが限定されてきて、大体の旅人がこのソフィアに立ち寄るらしかった。

氷点下10度まで下がった野宿。パリパリに凍ったテントを撤収するのが本当に辛かった Photo: Gaku HIRUMA

冬の町とホステルのギャップを楽しむ

 氷点下に下がる寒空のもとしばらく旅人とは出会わない走行をしてきたから、東と西の情報が飛び交うこの温かく雑多なホステルがとても居心地が良かった。寒さが厳しかったこともあり、東ヨーロッパではほとんど観光していない。

 少しだけ遠回りしてボスニア・ヘルツェゴビナの世界遺産、ソコルル・メフメト・パシャ橋を見に行ったり、ソフィア滞在中に山奥にひっそりと建つリラ修道院へ観光に行ったくらいだ。

ブルガリアの世界遺産リラ修道院は山の中に建つ。中のフレスコ画は見事だったが、淡々と観光をこなしていた Photo: Gaku HIRUMA

 オスマン帝国の傑作と言われる橋や山奥に建つ荘厳な修道院を見てもあまり心を動かされず、「せっかくだから」と世界遺産観光を淡々とこなしているという感じだった。

 ソフィアでも旅人たちは、この近辺で有名な古着市に足しげく通って、その戦利品とエピソードを聞かせてくれたが、僕はどこか物悲しい冬のソフィアの町を歩いては、ホステルの賑わいとのギャップを楽しんでいた。

水が凍り、テントが固まる寒さ

 僕が東ヨーロッパを走ったのは11月から12月のことだ。ヨーロッパに渡る前はアメリカ大陸を走っていた。例えば北米で冬が近づいて寒くなってきたとしても、頑張って赤道に向かって南下すれば暖かくなり、季節を取り戻すことができた。

 しかし南北に延びるアメリカ大陸とは違い、東西に延びるヨーロッパ大陸は走っても走っても必ず冬に追いつかれてしまう。初めて体験したがこれは完全なる恐怖だった。

 それもそのはずで、野宿をした朝気温を確かめるとマイナス10℃まで下がり、全てが凍り付く世界になった。テントの中に入れておいたペットボトルの水も凍っている。こうなってくると朝陽が出て少しでも気温が上がるまで寝袋に入っていたいが、冬で日没も早い。

 寒さに震えながら夜明け前に起き、パリパリに固まったテントをなんとか撤収して走り出す。手足の感覚は寒いを通り越して痛かった。季節が進むにつれ日に日に寒くなっていくのだ。これは本当に寒くて辛く、恐怖だった。そして午前中は必ずと言っていいほど深い霧に覆い尽くされた。マイナス10℃の霧は身体に張りつき、そして凍っていった。

朝の濃い霧は気温の上昇と共に一気になくなる。すると今まで全く見えなかった景色が、全て霧氷になっており驚くほど綺麗だった Photo: Gaku HIRUMA

 東ヨーロッパだって夏に行った方がいいに決まっている。僕が走ったブルガリアのバラの谷は荒涼としていたが、季節が良ければその名の通りにバラが咲き誇って綺麗だったろうし、初めて見る黒海だって家族連れで賑わっていたかもしれない。ただ僕はスペインを夏にスタートして東に向かってきたので、必然的に冬になってしまっただけのことなのだ。

オフシーズンのブルガリアのバラの谷に一縷の望みをかけて来てみたが、荒涼とした谷あいが広がるだけだった Photo: Gaku HIRUMA

 ただ僕は寒くても、皆が敬遠したがる冬の東ヨーロッパは意外と好きだった。どこまで自由で明るい夏のヨーロッパより、どこか影を背負い身を縮めて足早に歩く人々に哀愁を感じることができた。

焚き木を運ぶ男性。家の煙突からは煙が上がっていた。ヨーロッパの原風景の様な光景を見られるのは冬の東欧ならではだと思う Photo: Gaku HIRUMA

 どこで孤独を感じたかと言うと無人地帯でも寒い東ヨーロッパでもなかった。眩しすぎる夏の西ヨーロッパの町で、とても綺麗な通りを1人でとぼとぼと歩いているときに感じていたりするので、冬のヨーロッパの寒々しい雰囲気はなかなか味わい深く、これはこれで趣があり好きだった。

 通り過ぎる村ではみな薪割や焚き木拾いに必死だったし、どの家からもモクモクと暖炉の煙が上がっていてヨーロッパの原風景を見ることができた。気温が寒い分出会う人々の温かさは格別で、こんな時期に走るサイクリストを称えてくれて本当に優しかった。

 凍えるような寒さと霧は確かに厄介だったけど、気温が上がり一気に霧が晴れると、木に白い花が咲いたような霧氷の世界が広がりとても綺麗だった。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

この記事のコメント

この記事のタグ

旅サイクリスト昼間岳の地球走行録

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載