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昼間岳の地球走行録<54>繰り返すつづら折りの坂に標高4000m級の峠、なすすべもなく自転車を押して歩いたアンデス山脈の旅

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 自転車旅行中では世界の山々を走ってきたが、僕が一番印象深く、一番長い期間走ったのが南米のアンデス山脈だ。中米でアンデス山脈と同じ環太平洋造山帯に属する山脈を、汗水たらして必死に走っている時だった。中米の山は暑くて湿気が多く走るのが大変だったのだが、南米から北上してきたサイクリストは口をそろえて、「アンデスはまだまだこんなもんじゃないよ」とアンデス山脈の厳しさや素晴らしさを、僕に興奮気味に伝えてきて僕を脅かせてきた。

ペルーの標高4000m付近に広がる台地。空が青く、アルパカやリャマが草を食べている様は、厳しい山での癒しの瞬間 Photo:Gaku HIRUMA

壁の様に立ちふさがる山

 旅行前からアンデス山脈に対する憧れはもちろんあった。かつて広大な地域を支配したインカ帝国にマチュピチュ遺跡。素朴な先住民のインディヘナの暮らし。富士山より高い標高の都市にウユニ塩湖。僕が描くアンデス山脈の憧れから分かる通り、ペルーとボリビアのイメージが強かったのだけど、実際はコロンビアから南米を縦断しているとても長い山脈だと旅行中に知った。

コロンビアの町の建物は傾斜に造られていることが多く、ホテルを探すのも一苦労だった Photo:Gaku HIRUMA

 初めてアンデス山脈と出会ったときのことをよく覚えている。コロンビアの港のカルタヘナから南米のスタートを切り、しばらく暑い平地を走ると突然、標高2000mアップ、壁のような山が目の前に立ちふさがる。

コロンビアとエクアドルの傾斜はきつく、実際に見ると本当に壁の様に立ちふさがる Photo:Gaku HIRUMA

 山は登り始めが一番きつい。身体が慣れていないのと気温の高さで汗が吹き出し、あっという間に体力を削られる。山道では一部傾斜のきつい区間などはあるが、コロンビアのアンデス山脈はそうではない。ほぼすべて傾斜が本当にきつく、たまに普通の山道くらいの傾斜になり、ホッとするというレベルだった。

 友人と走っていたので、なるべく遅れたくはなかったが、傾斜のきつさに自転車に乗れず、ほぼ押して上がるしか方法は無かった。

 それでも傾斜のきついコロンビアとエクアドルのアンデスを走り切り、一旦海岸線に降りて南下。再びアンデスに対峙したのはペルーの地上絵があるナスカからだった。

調味料がいらないほど甘い、アンデスのトマト

 ペルーは傾斜が緩やかで九十九折をひたすら繰り返すのが特徴だった。100kmほど続く上り坂や1000m上がっては1000m下がるを繰り返し、4000mから5000mに届きそうな峠をいくつも越えた。標高が上がれば上がるほど、空の濃さが増していく。アルパカやリャマが草を食む大地は、乾燥して色褪せているにも関わらず、これほどまで青々と見えるのかと驚いた。

アルゼンチンとチリの国境のチリ側の九十九折。ここまで綺麗な九十九折はなかなかない Photo:Gaku HIRUMA

 道や風景だけではなく、アンデス原産のトマトやジャガイモの美味しさにも驚いた。トマトは日本の夏の野菜でたっぷりの日差しと水、そして豊かな土が必要なのだと思っていたが、実はそうではないらしい。

アンデスには多種多様なジャガイモがあり、こんなシンプルな料理でもとても美味しい Photo:Gaku HIRUMA

 アンデス地域は昼夜の寒暖差が非常に大きく土地も痩せていて、時期によってはほとんど雨が降らない。本来作物に適さない過酷な環境でこそ、トマトはその少ない水分を必死に吸収しようとして身が凝縮。甘くなるのだと聞いた。

 現在のアンデス地域でもこのような育て方をしているのかは定かではないが、トマトは本当美味しかった。小さな商店で無造作に売られているものですら、日本の高級フルーツトマトのような甘さ。それまで塩やマヨネーズで食べるのが当たり前だと思っていたが、調味料が完全にトマトの美味しさを邪魔するほどだった。

 世界各地で休憩の時によくリンゴを食べていたが、アンデスではリンゴの代わりにトマトを、そのまま丸かじりするのが最高に美味しかった。

世界を走る上で絶対に外せない場所

 太平洋側からペルー、ボリビアとアンデスのハイライトを走り、北部アルゼンチンで久しぶりに平地に降りた。アンデス山脈の高地トレーニングの成果からか、この時はどんなにスピードを出そうが坂道を走ろうが全く疲れなかった。

 アルゼンチンを南下して、太平洋側のチリに向かって アンデス山脈を越えた。ペルーで標高4000mの峠を何度も越えさせられたが、この時は3000mの峠をひとつ越えただけでチリに着いてしまった。チリで海岸線まで南下し、アルゼンチンの40号線(ルータ・クワレンタ)を走るために再びアンデスを越えたが、ここは標高が1300mしかなかった。

 あのアンデス山脈の標高が1300mしかなくなったかと妙に寂しくなったのをよく覚えている。中米で散々脅されたアンデス山脈の旅が終わろうとしていた。パタゴニアに入ると山やアンデス山脈とは無縁で、暴風の無人地帯の荒野をひたすら歯を食いしばって進んだ。

 その後はパタゴニアの無人地帯を走り切り、アメリカ大陸最南端のフエゴ島に渡った。アルゼンチンのリゾートタウン・ウシュアイアを翌日の射程圏内に捉えたくらいで、標高500mほどの小高い峠を越えた。実はこの峠もアンデス山脈の端くれなのだ。

ウシュアイア手前にある最後のアンデス越え。標高4000mや5000mの峠を誇ったアンデス山脈が500mしかなかった Photo:Gaku HIRUMA

 アンデス山脈には本当に色んなことを教わった。厳しさ、苦しさ、美しさ、楽しさ。 世界を走る上で、南米大陸を走る上で、アンデス山脈は絶対に外せない場所だ。

 あの押して上がるしかなかったコロンビアの厳しい道のりがとても懐かしかった。最後に越えたアンデス山脈は、ほかの道を比べると圧倒的に優しく、旅の過程で成長させてもらったことへの感謝しかなかった。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録

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