フランス在住・スーレ由美さんリポート外出禁止のフランスで、バーチャル・チャリティーレース9万8500kmを目指す日本人サイクリストの願い

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 新型コロナウイルスの感染拡大により日本では緊急事態宣言がゴールデンウィークまで発令されています。感染がより酷いヨーロッパでは、サイクリングを取り巻く環境は様々です。自転車での移動が禁止されているフランスの状況はどんなものでしょうか。厳しい外出制限生活のもと、サイクリスト仲間と「国境なき医師団」への支援のため、バーチャル・チャリティーレースに取り組むスーレ由美さんがリポートします。

晴天のもとピレネー山脈を眺めながら室内ライド Photo: Yumi Soule

ロックダウンから6週間

 「私たちは、ウイルスとの戦争状態にあるのです!」 3月16日午後8時、フランスのマクロン大統領が国⺠に向けた演説です。

 翌3月17日の正午から、フランスはロックダウンに入りました。 そこから自宅隔離生活は、6週目を迎えています。外出には「例外的移動証明書」が必要です。1時間以内の限られた用事だけが許され、車に乗るときの同乗者は身内が2人まで。屋外での運動は自宅から1km圏内、1日1回1時間以内に制限されました。違反すると罰金、もしくは罰金に禁固刑が加わる厳しい罰則です。4月28日、フィリップ首相から新たな発表があり、大型フェスティバル・スポーツイベント等は,9月まで開催不可とのことです。

 外出制限下での私の1日は、早朝のZWIFTから始まります。まだ日が上る前、イヤホンの音量を最大にして音楽を流し、目を閉じて、ペダルを踏む日々が続きます。

25か国から38名が参加

外出制限の中、毎朝Tans Global Bike Raceに挑むYumiスレさん Photo: Yumi Soule

 『The Trans Global Bike Race(トランス・グローバル・バイクレース) 98,500km』、4月8日から、チャリティー・バーチャルレースに始まったこのレースに参加しました。「国境なき医師団」の新型コロナウィルス感染症危機対応の活動を支援するため、25カ国から38人のサイクリストが参加。これまで、数々のウルトラレースで顔を合わせてきた、ベテランサイクリストが集いました。サイクリングを通して、今、私たちに出来ることをしたい! この 思いで企画したチャリティーレースです。メンバーの中には、感染患者の治療に当たりながら、新型コロナのワクチン開発に取り組みながら、ほんのわずかな空いた時間に、走っているメンバーもいます。

トランス・グローバル・バイクレース出場のメイングループの面々 Photo: Trans Global Bike Race

 4週間で、地球一周の2.5倍の距離9万8500kmを走ります。私も38人のひとりです。チャリティーレースがスタートしてから、今日 (4月28日現在) まで21日間。私の走行距離は、2778kmに達しました。グループ全体の走行距離は6万3268kmになりました。

グループ写真Day12 Photo: Trans Global Bike Race
グループ写真Day17 Photo: Trans Global Bike Race

トレイルのMTBも禁止

 フランスの新型コロナウイルス感染症対策は、すべての教育機関と美術館などが閉鎖された3月12日に始まりました。 2日後の14日、外出自粛要請が出ます。私は、この時点でグループライドを自粛しています。17日、自宅隔離が始まる日の午前中、多くのフランス人が日用品や食料品の買い出しをするなか、私はソロライドに出かけてお昼前に帰宅しました。 翌18日、外出制限が始まって2日目の午前、移動証明書を持って短距離のソロライドへ。その時点ではまだ、「どこまでサイクリングが許されるのか?」私を含め多くのサイクリストが戸惑っていました。

 その日の夜、テレビ放送を通して、フランススポーツ省より明確な通達が出されます。 野外でのサイクリングは、トレイルでのマウンテンバイクも含めて禁止となりました。医療の圧迫を防ぐためです。 数日後から、凄まじい医療現場の実態がニュースに流れます。フランスは、新型コロナの惨劇を防げなかったのです。

 感染者急増による仮設病院の設置。空軍機や高速鉄道(TGV)を使った患者の搬送。人工呼吸器が間に合わず、治療を制限された患者たち。治療医療に携わる方々の感染。私が住むフランス南⻄地方へも、感染患者の搬送が始りました。 状況を把握しきれないほどの早さで、感染拡散は悪化したのです。ヨーロッパ中に広がったコロナウィルスのオーバーシュートは、なぜ止められなかったのでしょうか。

 その理由のひとつとして、多くの感染者は症状が出ないか、せきや微熱など症状が軽いことがあげられています。自覚のない感染者が、知らずに拡散しているのです。もし自分たちが感染すれば、その先に高齢者や持病のある人を重症化させる可能性がありま す。慣れない隔離生活のもと、私たちは家に留まることで、ウイルス拡散を防ぐ効果があることを理解し始めました。

医療の圧迫を避けるため、プロも屋外禁止

 禁止されたバイクライドは、プロの自転車選手でさえ、屋外を走ることは許されていません。万が一事故が起これば、医療機関を圧迫するからです。無症状で感染していれば、感染拡大に繋がります。多くの人が新型コロナウイルスと戦っている今、医療で優先されるべきは、新型コロナウイルスの患者。また他の病気で治療が必要な人たちです。 一人ひとりがこの状況に正面から向き合い、各自が責任を持った行動をとることが、私たちに できる唯一の闘いです。そして、願いです。

(ロマン・バルデもインスタグラムで「ソーシャルディスタンスを保ちながら、自粛中の自宅より、感染拡散のもと、影になり日向になり懸命に働いている皆さんに敬意をおくります。一緒に頑張りましょう!」と呼びかけ)

 The Trans Global Bike Race(トランス・グローバル・バイクレース)に参加している、25カ国のサイクリストの各国の感染状況は違います。私を含む17人が、インドアライド。21人は屋外ソロライドとインドアライドを兼ねての参加です。みな、その国の規制を遵守しています。屋外走行を許されている海外のサイクリストは、医療機関に負担をかけないよう、怪我のリスクが高い走行や免疫力を下げるような激しいライドを避けています。

インドアグループに300km差をつけ、ホワイトジャージ獲得。室内長距離ライドをする時のモチベーションのあげ方はお気に入りソックスを履くことと、音楽を騒音で聴くこと。 Photo: Trans Global Bike Race

 健康維持の一環として、サイクリングを推奨している地域もあります。自転車は他人との接触を避けながら移動できる手段だと利点を挙げる一方、行動いかんによっては感染拡大を招くと指摘されています。ソロライドをする場合は、サイクリストとして、秩序ある行動、感染拡大を招かない乗り方が求められます。

日本の終息を祈る日々

毎朝サドルから見る日の出 Photo: Yumi Soule

 バーチャル・チャリティーレースにインドアライドで参加することが、唯一、私が置かれた場所、環境でできる感染終息に向けての活動であり、サイクリングの楽しみ方です。世界中に感染が拡大し、先が見えない不安な毎日。ひとり室内ライドに集中しながら、1日も早いコロナ禍の終息を祈っています。緊急事態宣言後も感染が広がる日本が、ヨーロッパやアメリカの一部地域と同じような悲惨な道をたどらないことを、切に願っています。私たち一人ひとりの意識、責任を持った行動が、この感染下の世界を大きく変えていくに違いありません。

 今日もサドルの上から、上る朝日を眺めています。 私たちの日常とサイクリングライフが戻ることを信じて。

福光俊介
Soulé Yumi (スーレ・ユミ)

福岡県出身、フランス在住。20代後半、結婚を機にアメリカのシアトルに移住。ロードレース、クリテリウムをしていた夫の影響で、ロードバイクを始める。シアトルでサイクリングクラブを発足。数多くのサイクリングイベントを企画運営、コーディネート。夫の故郷であるフランスピレネー地方で2007年、サイクリングツアー会社VéloTopo を設立。ピレネー山脈トゥールマレ峠の麓に拠点をおき、フランス、スペイン、イタリア、スイスの山岳地帯を中心にカスタムサイクリングツアーを企画提供。その傍ら、本格的に山岳アマチュアレースに出場。近年は、ルションバイヨン(320km/6000m) 女性部門1位で完走。2019年ノールカップタリファ(7400km/80.000m) 大会初のペア完走タイトルを獲得。

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