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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<335>ツール・ド・フランスが8月に延期も コロナ禍で混迷深めるロードレース界の動向

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 昨年末に中国・武漢に端を発した新型コロナウイルスCOVID-19は、日を追うごとに…いや、もはや秒単位で国内外の情勢を変化させている。自転車競技も他に漏れず、レース予定日での開催をキャンセルし、「延期」を判断したレースについてもその代替開催日を決めることができない状況にある。こうした中、決断を迫られた1つのレースがいよいよ追い込まれつつある。ツール・ド・フランス。世界最大級のスポーツイベントでもある自転車レースは果たして。そこで今回は、新型コロナウイルス感染拡大によって一変したロードレース界の流れをまとめるとともに、今後の展開を探っていこうと思う。(2020年4月15日時点)

新型コロナウイルス感染拡大によって次々とレースが中止・延期となっている。目下注目はツール・ド・フランスが開催されるかどうかになってきている(写真はツール・ド・フランス2019) =2019年7月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

サイクルロードレース界激動の日々

 日本を含む東アジアを中心に感染が拡大していた新型コロナウイルスがロードレースシーンに影響を与え始めたのは、2月のこと。同23日にスタートしたUCIワールドツアー第3戦「UAEツアー」で選手・関係者に感染者が発生したことだった。第5ステージ終了後、残る2ステージを残して大会の打ち切りが決まった。

2月下旬に開催されたUAEツアーで新型コロナウイルス感染者が発生。サイクルスポーツ界に大きな衝撃を与えた Photo: Yuzuru SUNADA

 これに前後して、このウイルスがヨーロッパで急速に猛威を振るい始めた。なかでもイタリアは今に至るまで感染拡大が進行し、特にそれが顕著な同国北部ではとてもレースができる状態にはないことが明白になる。3月7日に開催が予定されていたストラーデビアンケ、同11日に開幕予定だったティレーノ~アドリアティコなどのレースがキャンセルとなり、シーズン最初のグランツールで初の東欧開幕(ハンガリー)が控えていたジロ・デ・イタリアの延期も余儀なくされた。

パリ〜ニースは第2ステージ以降無観客でのレースに。だが、感染拡大や周辺国の国境封鎖を受けて1ステージを残して打ち切りとなる Photo: Yuzuru SUNADA

 この時期、フランスではパリ~ニースが3月8日に開幕。前述のイタリアンレースへの出場を見据えていた選手たちがこぞって春を呼ぶ“太陽のレース”へと移動。ビッグタレントたちが集結する注目の一戦だったが、こちらも第2ステージ以降スタート・フィニッシュ地を「無観客」として実施することに。ときを同じくしてヨーロッパ各国で国境封鎖が始まったこともあり、慌てた選手またはチームが大会から続々と撤退する事態に。結局、1ステージを残して大会そのものが打ち切りとなった。

 その後南米で数レース行われていたものの、事実上パリ~ニースをもってサイクルロードレースシーズンは中断となる。3月19日、UCI(国際自転車競技連合)が4月いっぱいまでの公認レースの中止、ならびにUCIポイントの凍結を発表。UCIの措置とは直接的な関係こそないものの、同24日には東京2020オリンピックの延期も正式に決定している。

 レース中止・ポイント凍結の決定は、「あくまでも現状措置」「世界情勢を見ながら都度新たな判断を下していく」というのは誰の目にも明らかであった。事実、4月1日にはこの措置の延長が決定。大小さまざまな、そしてヨーロッパのみならず日本のレースに関しても中止という苦渋の決断を余儀なくされた。

 いま一度、新型コロナウイルス感染拡大にともなう、サイクルロードレース界の流れを整理しておこう。

2月27日 UAEツアー関係者に新型コロナウイルス感染者が判明。第5ステージ終了後に打ち切り
3月上旬 感染拡大の不安から、EFプロサイクリング、ユンボ・ヴィスマ、チーム イネオス、ミッチェルトン・スコットなどが直近のレースを欠場、レース活動停止を発表。
3月5日 ストラーデビアンケの延期が決定
3月6日 ティレーノ~アドリアティコ、ミラノ~サンレモ、ジロ・ディ・シチリアの延期が決定
3月8日 パリ~ニース開幕
3月9日 開催中のパリ~ニース、スタート・フィニッシュ地での無観客開催へ
3月12日 ボルタ・ア・カタルーニャ、AGドリダーフス・ブルージュ〜デパンヌ、E3ビンクバンククラシック、ヘント〜ウェヴェルヘム、ドワーズ・ドール・フラーンデレンの延期が決定
同 UAEチームエミレーツ所属のフェルナンド・ガビリア(コロンビア)、マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)が新型コロナウイルス感染を公表
3月13日 ジロ・デ・イタリアの延期が決定
同 パリ~ニース出場中のバーレーン・マクラーレンが撤退。その他選手単位でのレース撤退も
3月14日 パリ~ニースが1ステージを残して打ち切りを決定。第7ステージが最終に
3月15日 UCIが同日から4月3日まで、感染拡大地域での公認レース中止を大会主催者に通達
3月16日 ツール・ド・とちぎの中止が決定。国内UCIレースでは最初の中止決定
3月17日 パリ~ルーベ、ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュの延期が決定
3月18日 UCIによるレース中止措置が4月30日まで延長される
3月24日 東京2020オリンピックの開催延期が決定
3月25日 ツアー・オブ・ジャパン2020年大会の中止を発表
3月27日 Jプロツアー第1戦「東日本ロードクラシック 群馬大会」、同第2戦「西日本ロードクラシック 広島大会」の中止を発表
4月1日 UCIによるレース中止措置が6月1日まで延長される
4月2日 ツール・ド・スイスの中止が決定
4月3日 ツール・ド・熊野2020年大会の中止を発表

※一部抜粋

中止または延期となった主なレース

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止または延期となったレースは、本記執筆時点で約240にのぼる。これはUCI公認で、なおかつ男女、さらにはエリート、アンダー23、ジュニアすべて含めた数である。直近では、8月3日にスタートする予定だったツアー・オブ・ユタの中止が決まった。

 中止・延期となるレースの多くは、世界情勢を鑑みつつの判断となっているが、ツアー・オブ・ユタのように、収束が見えないことから早めに決断を下すものも少なくない。この執筆段階では、ユタの中止が最も遠い時期のレースである。

 実情としては、今後も続々と中止または延期を決めるレースが出てくることだろう。

 現時点で中止または延期となっている国内外の主なレースを以下にまとめておく。

2月27日 UAEツアー UCIワールドツアー(※)
3月7日 ストラーデビアンケ UCIワールドツアー
3月11日 ティレーノ~アドリアティコ UCIワールドツアー
3月14日 パリ~ニース UCIワールドツアー(※)
3月20日 ツール・ド・とちぎ UCIアジアツアー2.2
3月21日 ミラノ~サンレモ UCIワールドツアー
3月23日 ボルタ・ア・カタルーニャ UCIワールドツアー
3月25日 AGドリダーフス・ブルージュ〜デパンヌ UCIワールドツアー
3月27日 E3ビンクバンククラシック UCIワールドツアー
3月29日 ヘント〜ウェヴェルヘム UCIワールドツアー
4月1日 ドワーズ・ドール・フラーンデレン UCIワールドツアー
4月1日 ジロ・ディ・シチリア UCIヨーロッパツアー2.1
4月5日 ツール・デ・フランドル UCIワールドツアー
4月6日 イツリア・バスクカントリー UCIワールドツアー
4月12日 パリ~ルーベ UCIワールドツアー
4月12日 プルデンシャルサイクリング・ツアー・オブ・ターキー UCIプロツアー
4月15日 ブラバンツ・ペイル UCIプロツアー
4月19日 アムステル・ゴールド・レース UCIワールドツアー
4月20日 ツアー・オブ・ザ・アルプス UCIプロツアー
4月22日 ラ・フレーシュ・ワロンヌ UCIワールドツアー
4月26日 リエージュ~バストーニュ~リエージュ UCIワールドツアー
4月28日 ツール・ド・ロマンディ UCIワールドツアー
4月30日 ツール・ド・ヨークシャー UCIプロツアー
5月1日 エシュボルン・フランクフルト UCIワールドツアー
5月9日 ジロ・デ・イタリア UCIワールドツアー
5月17日 ツアー・オブ・ジャパン UCIアジアツアー2.1
5月21日 ツアー・オブ・ノルウェー UCIプロツアー
5月28日 ツール・ド・熊野 UCIアジアツアー2.2
5月31日 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ UCIワールドツアー
6月7日 ツール・ド・スイス UCIワールドツアー
6月10日 ツアー・オブ・スロベニア UCIプロツアー
6月27日 ツアー・オブ・オーストリア UCIプロツアー
7月25日 東京2020オリンピック・男子ロードレース
7月26日 東京2020オリンピック・女子ロードレース
7月29日 東京2020オリンピック・男女個人タイムトライアル
8月3日 ツアー・オブ・ユタ UCIプロツアー

※一部抜粋
※日程は開催日または開幕日。ただしUAEツアーとパリ~ニースは途中打ち切り決定日を記載

A.S.O.は6月27日開幕と発表

 さて、こうした状況下でノーコメントを貫いているのがツール・ド・フランスである。

2020年大会の開催可否についてノーコメントを貫くツール・ド・フランス。フランス国内事情から見て予定通りの開催は難しくなってきている =ツール・ド・フランス2019第9ステージ、2019年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ツールを主催するA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)は、パリ~ルーベやクリテリウム・ドゥ・ドーフィネなどその他主催レースについては、UCIによる中止措置に基づき開催延期の方針を表しているが、この措置に日程上該当していないツールについては“いまのところ”予定通り6月27日開幕のままとなっている。

 ただ、感染者が増える一方なのはフランスも同様で、3月には都市封鎖を行うロックダウンを断行。買い物など必要最低限の行動以外は外出制限が設けられており、大規模なイベントは開催禁止とされている。ツールとならび同国におけるスポーツのビックイベントである、テニスの全仏オープンも当初の5月下旬開幕を9月に延期すると発表している。

 さらに追い打ちをかけるように、同国では4月13日付で国内のロックダウン期間を1カ月延長すると発表した。5月11日までこの状況が続くことが決まると同時に、大規模集会については「少なくとも7月中旬まで禁止」の方針を打ち出した。

 これにより、ツールはいよいよ、予定通りの日程で開催することが厳しくなってきている。

ツール・ド・フランス開催に向け、1カ月先送りにするなどの憶測が飛び交っている(写真は2019年大会から) Photo: Yuzuru SUNADA

 ヨーロッパの各種メディアのレポートによれば、ツールが1カ月先送りとなり、7月25日にニースで開幕、8月16日にパリ・シャンゼリゼでのフィニッシュを目指す方向で主催者が水面下で動いているという。すでにA.S.O.と開催都市との合意も取り付けているとの情報もある。また、4月14日付のスペインメディア「マルカ」は、8月1〜23日に開催日を変更する可能性が高いと報道。その場合は、9月にブエルタ・ア・エスパーニャ、10月にジロ・デ・イタリア実施の方向で各主催者が調整するであろうことにも触れている。

 加えて同日には、フランス紙ドーフィネ・リベレが独占リークとして「8月29日に開幕し、9月20日にパリ到達になる」と報じた。なお、閉幕日当日はUCIロード世界選手権男子個人タイムトライアルの実施日。これが本当であれば、ツールを中心に大幅にレーススケジュールが変更になるものと思われる。

 ツールの開催日程を取り巻く情報をさかのぼると、3月には同国のスポーツ省で大臣を務めるロクサナ・マラシネアヌ氏が、パリ~ニース同様にツールでも無観客でレース実施を目指してもよいのではないかとしたが、ツールのレースディレクターであるクリスティアン・プリュドム氏が否定。

 さらに、ベルギーのラジオ局RTBFがA.S.O.によるツール開催または中止・延期の判断を5月15日に設定していると報道。これは、開催都市における準備やロックダウンの状況を踏まえたうえでのデッドラインとの見方のよう。だが、前述の「ロックダウン期間1カ月延長」決定前の話であり、新たな方針が出た現在、A.S.O.のツール実施に向けた方向性が変化している可能性もある。

 こうした報道はどれも憶測にすぎず、確実性を欠いたものばかりである。1つ言えることは、フランス政府が打ち出した方針によって、当初のスケジュール通りツール・ド・フランスを開催することは非常に難しいということだ。

 出場予定のチームからは、「6月中のツール開幕は不可能に近い」といった声もあれば、「もし開催できないとなればチームは経済的に大打撃を受ける」という発言も聞かれる。選手からは、前哨戦であるドーフィネやスイスを走らない限りツール本番は心身ともに難しいとの声や、エガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)のようにシーズン再開が見えないためにトレーニングをストップした事例もある。ロードレースを含むスポーツイベントが軒並み中止され、自宅外でのトレーニングが多くの国で禁止されている中で、選手・チームのできることは限られている。

 あらゆる情報が飛び交う中、ツール・ド・フランスがどのような決定がなされるのか、動向が注目される。

夕映えのシャンゼリゼ通りを走るプロトン。安全な状況下でツール開催がかなうだろうか =ツール・ド・フランス2019第21ステージ、2019年7月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

今週の爆走ライダー−ティム・デクレルク(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 本来であれば、4月12日は彼にとってシーズン最大の仕事をする1日だった。パリ~ルーベ。新型コロナウイルス感染拡大にともない中止となった“北の地獄”。中止決定を受けてのインタビューで、「レースが開催されていれば、きっとすごい仕事ができていたと思うよ」との言葉は、偽りのない本心だったに違いない。

2019年のブエルタ・ア・エスパーニャ第21ステージでプロトンを牽引するティム・デクレルク。力強く引く姿に「トラクター」とのニックネームがつけられている =2019年9月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 キャリアで最も充実した時期を迎えている。31歳の彼に与えられている役割はアシストの仕事。チームを勝利に導くための第一波を作り出すことだ。その堅実かつ確実な仕事ぶりは、2018年と2019年に連続して自国で最優秀アシストマンの栄誉を与えられていることからも分かるだろう。そんな彼につけられたあだ名は“トラクター”。グイグイとプロトンを牽引する姿から名づけられた。もちろん、本人もお気に入りだ。

 アンダー23カテゴリー時代にベルギー王者になったことはあるものの、プロレベルでは勝利を挙げたことがない。2017年に現チーム入りを果たしているが、当時は彼を知るチームが他にはなかったほどで、実際にオファーがあったのは現チームのみ。突然鳴った知らない番号からの電話が、チームオーナーのパトリック・ルフェヴェル氏からで、呼ばれるままチームハウスに行くと「君にレースで勝つ目はない。アシストの仕事に集中してくれるなら採用する」と告げられた話はベルギーではよく知られた話なのだとか。

 当時二つ返事で入ったチームは、いまもなお「これほど恵まれた環境はないと思う」。本職の石畳は秋に延期される方針となったが、その通りになれば全力でチームに尽くすつもりだ。

 ベルギー最高学府の1つであるゲント大学を卒業。数年前にはコーチ資格も取得するなど、勉強熱心な一面も。「チームの若い選手にアドバイスを送るのも仕事だと思っている」と意識は高い。

2019年のブエルタ・ア・エスパーニャに出場したときのティム・デクレルク。自身のレース以外にも、コーチ資格を取得し若い選手へのアドバイスも欠かさない =2019年8月27日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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ツール・ド・フランス2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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