交通インフラ、心の健康維持に新型コロナ感染対策で自転車が活躍 ニューヨークで新たなトレンドに

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 新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって緊急事態宣言が発令され、事態はますます深刻化の様相を呈しています。徹底的な外出規制により世界各国で人々のストレスがピークに達しようというなか、ニューヨークでは社会の不安を縫うように、いま自転車が新たなトレンドとなっているようです。交通インフラとして、健康を維持する手段として自転車がどう見直されているのか、ニューヨーク在住のサイクリスト、平岡今日子さんに現地の様子を伝えてもらいました。

現在のニューヨーク、マンハッタン。いつもは人とクルマが道に溢れている五番街を1人走るサイクリスト Photo: Kyoko HIRAOKA

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 ニューヨークで初の感染者が出たのは3月2日、初の死亡者が出たのは14日、それから約40日程経った現在、感染者数は州全体で約16万人、死亡者数は7,000人(その内、ニューヨーク市は感染者数8.7万人、死亡者数5,100人)を超えた(4月12日現在)。全米では既に46.7万人が感染し、死亡者数は1.6万人と他の州にも感染が広がりつつある状況にある。

 ニューヨーク市では感染者数が400人を超えた3月12日時点で非常事態宣言が出され、レストラン・バー(テイクアウトやデリバリーを除く)・劇場・映画館・スポーツジム・スパ等人が集まる場所は全てクローズとなった。

人の姿が消えたタイムズスクエア周辺 Photo: Kyoko HIRAOKA

 その翌週からは、レストランは全てクローズ、路面店もクローズ、人も徐々に道から消え、ニューヨークはかつて見たことのないような景色へと一変した。いつも人と車が道に溢れ、ネオンが輝き、エネルギーが溢れ、人を避けて歩かないと通れないほどに混雑しているタイムズスクエアや5番街。 その場所が静まり返った光景に、自分がどこに居るのか分からなくなるようなとても不思議な感覚を覚えた。

 さらに3月20日の時点で日々2倍・3倍のスピードで感染者数が増加し、あっという間に8,500人まで膨れ上がった。このままのスピードで増加すると、病床・人工呼吸器等の医療サプライが不足する恐れがあることから、クオモ・ニューヨーク州知事は感染者数の増加スピードを抑えるために、同日ついに外出禁止令を発令した。

自粛の中にも「できること」「やってはいけないこと」を明示

  コロナウイルスの感染対策に対するクオモ知事の徹底したリーダーシップには全米から注目が集まっている。CNN等のニュースチャネルから、毎日お昼頃にクオモ知事からニューヨークのコロナ感染状況と対応について報告があり、筆者も欠かさず確認するようにしている。当初はこのニュースを見ないと、日々変わっていくニューヨークの街やルールに取り残される気さえもした。

 クオモ知事の説明はデータに基づいた内容で、その丁寧な状況・リスク説明によって、「人種のるつぼ」といわれているニューヨーカー達がスーパーでちゃんとマスクを着用し、 割り込みもなく、間隔を開けながら列を作って並ぶようになった 。事実、非常事態宣言から約1カ月強が経過した現在は、感染者増加数の伸びが横ばい状態になってきており、どのピークの予測値よりも低いレベルで抑えられている。

 ニューヨーク州の外出禁止令は、コロナ感染で弱者とされている「70歳以上や既存疾患を持つ人」向けと、それ以外の2種類に分けて提示されている。徹底的に「人との接触を避けなさい」という内容だが、幸いなことにどちらも精神的衛生を保つためのレクリエーションを目的とした外出は、一定の条件下で許可されている。

70歳未満・既存疾患を持たない人を対象とした外出禁止令(ニューヨーク州)

・不必要な集まりはキャンセルか延期をすること

・仕事は基本在宅勤務をする。生活に必須なエッセンシャルサービスに従事する従業員に限り、仕事場に行く

・外出は、食料品や薬品の購入や単独の運動(ランニング・ハイキング)に限る

・外出は必ず1.8メートルの距離を取ること

・アウトドアのレクリエーションは人との接触がないものに限る

・ 個人のパブリック交通機関の使用は必要な場合以外は避ける

・若い人はお年寄りとの距離を必ず守ること 等

参考:https://patch.com/new-york/new-york-city/stay-home-coronavirus-order-comes-new-york-state-cuomo

 それでも発令当初は公園で集団行動する人々やバー等に出入りするなど、禁止令を守らない人たちが多数存在したため、罰金が課せられる事態に。さらに4月頭には罰金の額が2倍に引き上げられ、1,000ドルを課されることになった。

売り上げが50%増の自転車ショップも

 非常事態宣言が発令されてからは、平日の日中はすっかり人を見かけることはなくなった。一方で、エネルギッシュなニューヨーカー達の中には、天気の良い週末になると、セントラルパークやマンハッタンのハドソン川沿いを散歩する人やランニングをする人々が増えてきた。

週末、人との接触を避けてスポーツに励む人々 Photo: Kyoko HIRAOKA

 そんなコロナ禍によって生活が一変したニューヨークにおいて、新たなトレンドと化しているのが自転車だ。

セントラルパークではサイクリストの姿を見かけることが増えた Photo: Kyoko HIRAOKA

  自宅にいるように、公共交通機関は出来るだけ使わないように、と言われるなか、体を動かすエクササイズや移動のための手段として新たに自転車を選択する人が増え始めている。

  一方で自転車は交通インフラとしても重要な役割を果たしている。エッセンシャルサービス(※)であるデリバリーの移動手段としても推奨されており、それをサポートするための自転車ショップもエッセンシャルサービスとして食料品店と同様に営業が許されている。

※エッセンシャルサービス:医療関係、食料品の流通、物流、電力・水道など公共企業等生活に必須のサービス

「エッセンシャルサービス」の1つに加わった自転車ショップ Photo: Kyoko HIRAOKA

 街の自転車ショップの店員の話によると、老若男女問わず様々な人が訪れ、様々な種類の自転車を購入しているそうで、 3月の月間の売上は「通常の50%増し」にまで伸びているとのこと。そのため、現在は営業時間を短縮しつつも毎日店を開けているという。この自転車ショップでも店内にしっかりとした自転車のメンテナンス場所を設置し、いつ来客があってもすぐにメンテナンスができるように備えていると話していた。

車道を一部閉鎖し、自転車移動をサポート

ニューヨーカーの重要な移動手段となっている「Citi Bike」 Photo: Kyoko HIRAOKA

 もともとニューヨーク市には「Citi Bike」という街乗り用のレンタサイクルがあちらこちらに設置されているが、3月中旬の時点でそのCiti Bike利用頻度が昨年比で既に67%も増加し、エッセンシャルワーカーやエクササイズに使われているという状況が報告されている。一方で、新たな自転車利用者によるケガも49%増加しているという実態も報告されている。

 自転車利用者の行き先として最も多いのは医療機関とのこと。また、ニューヨーク市では医療に関わる人たちに対して健康維持をサポートするため、自転車のメンバーシップ保有者には1カ月間の無料利用を提供している。

Citi Bikeの利用者は前年比67%増! Photo: Kyoko HIRAOKA
クルマの交通量が減ったニューヨークでは、一部車道を閉鎖して自転車を走りやすくしている Photo: Kyoko HIRAOKA

 また、クルマの交通量が減ったニューヨークでは、一部車道を閉鎖し、自転車用に道路を解放する等、自転車での移動時も個々人の間隔を保てるようサポートする取り組みも始まっている。

ニューヨークでお花見サイクリングを楽しむ筆者 Photo: Kyoko HIRAOKA

 4月に入り、ようやくニューヨークも暖かい陽射しに包まれ、春らしい陽気になってきた。私も晴れた気持ちの良い週末には、自転車で散策や観光ライドをしながら気晴らしをするようにしている。もちろんソーシャルディスタンスを意識しながら。

 こんな情勢だからこそ、生活における移動や心の健康維持において、自分を保つための手段として自転車に救われていると感じている。飲食関連や医療関連に従事する方々の移動手段として利用している人も含めて、おそらく多くの人がそう感じているのではないだろうか。

 このコロナウイルスをきっかけに自転車を利用する人が増え、都市での自転車の活用方法が見直されることで、将来のニューヨークの交通の在り方が大きく変わる可能性もあるのかもしれない。

平岡今日子平岡今日子(ひらおか・きょうこ)

ニューヨーク在住。外資系コンサルティング企業勤務。8年前からトライアスロンを始め、最近は世界中の景色を自転車で見て回ることに楽しみを見出す。4年前からフランスのアルプスやピレネーをはじめ、イタリアのステルビオ、ドロミテの他、イギリス、スコットランド、スペイン、オランダ等の国々をバケーションや仕事の機会を用いて巡っている。

 

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