Cyclist的“自転車通勤”考<3>スポーツバイクで自転車通勤デビュー リスクを回避して安全に車道を走るコツ

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 『Cyclist』の視点で解説する短期連載「“自転車通勤”考」の最終回は「安全・快適な走り方」について。原則車道走行、左側通行等基本的なルールを守ることはもちろん重要ですが、それは単に道路での走る位置の話。安全に走るためには、それに加えて周囲への観察力と臨機応変な判断力が必要となります。ここでは初めてスポーツバイクを購入して5~10kmほどの距離を走ろうとしている方に向けて、通勤経路の選び方、危険回避の仕方、そして自転車通勤を楽しむちょっとしたコツ、という実地的な視点で「走り方」をお話ししたいと思います。

初めての自転車通勤も、走行ルールとリスク回避のコツを押さえれば安心 Photo: Shusaku MATSUO

最初は5kmを基準に

 自転車通勤を始めるにあたって、まずすべきことは目的地までのおおよその距離と所要時間をイメージすることです。スポーツバイクでサイクリングをした場合、それほど頑張らずに楽に漕いだとしても平均時速15~20kmほどのスピードを出すことができますが、例えば市街地を走る場合は信号待ちや安全のための減速を考えると平均時速10km程度まで落ちることが想定されます。朝の限られた時間の中でどこまで移動時間に割けるのか、あるいは確保しなければならないのかを天秤にかけて走行距離を考えましょう。

 スポーツバイクを始めたばかりの人の場合だと、それまでの「自転車の移動圏」というのは自宅を中心として概ね3km程度かと思います。そういう意味では無理のない範囲で、でも少し頑張って5km程度を一つの目安として始めるのが良いと思います。

例えば秋葉原駅からとうきょうスカイツリーまでの距離が、車道を通るとおよそ5km ©Google

 すでにサイクリストの方々にとっては「たった5km」と感じるかもしれませんが、大事なのは最初から「心身が疲れてしまわない」こと。交通量の多さや経路の複雑さ等のストレスも緊張度合いに影響するので、エリアによっては5kmでさえ長く感じることもあるかもしれません。

 その場合、通勤距離を電車利用等と組み合わせて調整できるようであれば、最寄りの次の駅まで走ってみて、慣れてきたらその次の駅まで…という具合に少しずつ距離を伸ばしていくのもひとつの方法です。あるいは自転車購入後、すぐに通勤を始めるのではなく、ある程度の練習期間を経て気持ちに余裕が生まれたところで通勤に臨むのも良いでしょう。

クルマ目線でルートを作る

 実走可能な距離感をイメージしたところで、今度は具体的なルートを検索します。このとき重要なのは“クルマ目線”であること。自転車は軽車両ですから、走行ルールはクルマと同じく「車道走行」「左側通行」が原則。つまり、ルートはクルマ目線で考えなければなりません。これはスポーツバイクに限ったことではなく、ママチャリ等の軽快車を含めて適用されるルールです。

 ただし例外として、以下の場合は歩道の走行(※時速6~8km/h程度の徐行)が許されています。

自転車が歩道を走行できる4つの条件

(1)歩道に「自転車通行可」の道路標識や道路標示がある場合

(2)歩道に「普通自転車通行指定部分」の道路標示がある場合

(3)運転者が13歳未満又は70歳以上、または身体の障害を有する者である場合

(4)歩道を通行することが「やむを得ない」と認められる場合

 (3)は、いまだクルマ至上の車道で事故のリスクが高い車道的弱者に対するやむを得ない(グレーな)措置なので、自転車通勤をする世代の大半は当てはまらないでしょう。(4)の「歩道を通行することがやむを得ない」というケースも危険から緊急回避する場合を想定したものですから、毎日の通勤経路では起こるはずのない状況です。

その一方通行、「自転車を除く」になっている? Photo:gettyimages/y-studio

 歩行者感覚が抜けない自転車走行でありがちなのが「一方通行」の標識の見落とし。出会いがしらの対向車に驚いて緊急避難的に歩道に乗り上げる人もいますが、そのまま車道を走り抜ける人も多いです。これは事故のリスクが高い「逆走」という罰則付きのルール違反です(※)。 毎日通る通勤経路には、そのような事態を回避する道を選ぶ必要があります。

 もし初めて走る道路でそのような道に出くわしてしまったら、その道を回避するか、あるいは回避できない場合は自転車から下り、「歩行者」として押し歩きをしましょう。

※補助標識で「自転車(または軽車両)は除く」とある場合は通行可能です。ただし一方通行では、自動車側が逆走する自転車交通を想定していなかったり、逆走側に本来必要な一時停止やカーブミラーが設置されていなかったりするので、通行する際は通常より注意して走りましょう。

ぶっつけ本番でなく必ず試走を

 ルート検索には移動手段別に検索できる「Google MAP」などのアプリが便利ですが、その場合ネックになるのが最短距離しか加味されないという点です。クルマの場合ではそれで良いかもしれませんが、自転車の場合はもう一つ「走りやすさ」という情報が欲しいところです。

 通勤時間帯の主要道路は交通量が多く、それぞれがスピードを出します。とくに都市部の場合はたくさんのバスの往来・発着があったり、お客しか見てないようなタクシーが前方に急に割り込んできたり、至るところにリスクが存在します。そのような道路の状況を知り、他に走りやすい道がないか等を確認するためにはアプリの情報だけでなく、実際の試走が必要となります。

ピクトグラムがある車道が走りやすいとは限らない Photo: MachineHeadz / iStock / Getty Images Plus

 最近は、主要道路を中心に自転車専用レーン(ピクトグラム等)の整備も進み、車道における自転車の存在感を後押ししています。ですが、交通量が多い道では、レーンそのものが路駐するクルマで遮られていることもしばしば。それを回避するために車道の内側に寄るのも注意が必要ですので、不慣れなうちは少し回り道であっても極力安全な道を選ぶことをおすすめします。主線を少し外れるだけで、交通量は断然減りますし、クルマのスピードも落ちます。

自分も対人にも万が一の自転車保険

 あとは自転車通勤時の備えとして近年注目されているのが「自転車保険」です。自身のケガの補償だけでなく、自転車側が加害者となった対人事故時にも備える損害賠償保険が含まれるもので、 2015年に兵庫県で加入義務化が導入されたのを皮切りに、義務化する自治体が広がっています。

加害者側になる可能性もある自転車。事故によっては高額な損害賠償額を請求されることも Photo: iStock.com/akiyoko

 この流れを受け、自転車保険の商品数も多様化しています 。サービス内容も価格も様々で、例えば対人補償を重視し、自身がケガをした場合の補償内容を少なくすることで保険料を抑えたものもあります。またパンク等トラブル発生時に助けを求められるロードサービスが付帯したものもあったりと、自身の走り方やニーズに応じて選ぶことができます。ちなみに賠償責任保険については自動車保険等の特約に含まれているケースがあるので、自動車保険に入っている人は一度確認してみると良いでしょう。

リスク回避力は運転スキル

 ルールの順守とルート選び、そして自転車保険がリスク回避の「ハード」だとすると、もう一つ重要な「ソフト」として「SHARE THE ROAD(共存)の精神」と「譲る心」があります。それはすなわち、危険を予測するために必要な注意力につながります。これはルールではありませんが、日々自転車で走っている者として実は一番大切と感じていることです。

 例えば、車道で横を走っているタクシーを呼んでいる人が前方にいないか、前方で路駐しているクルマから人は降りそうなのか、バスの運転席からはどれくらい自分が見えていないのか(死角)を想像し、相手の次の動きを予測するということ。相手(クルマ)に対して「後方にいる自分が見えているはず」という期待は、ほぼ通用しません。 前方の様子と後方からの車両を確認して交わすか、場合によっては相手を先に行かせましょう。

 ルールを守っていても予測不能な事態に巻きまれることはあります。ただ、その被害を甚大にするかどうかはこちら側のスピードによるところも大きいです。ルールを守っているのに危ない目に合う不条理さは違法として指摘できますが、それでケガを負うのは非常につまらないことです。身を守るためと思って、周囲の状況を把握できるスピードで走行するように心がけてください。

ペダルを踏めば仕事のストレスも解消

 最後に自転車通勤の楽しむちょっとしたコツとして、「いつもと視点を変えてみる」ということをおすすめします。「通勤」となると、自転車を自宅から勤務先、あるいは駅まで往復するための道具と考えがちですが、それだけではもったいない! 自転車は満員電車のようにただ乗っている乗り物ではなく、自分の脚でストップ&ゴーができる乗り物です。

少し朝早く家を出て季節を感じる楽しみも Photo: Kyoko GOTO

 例えば出勤時、少し早めに家を出発して、経路途中にある公園やカフェで寄り道をしたり、時間を自由に使えるのも自転車ならではの楽しみ方です。

 漕ぐことに体が慣れてくると、終業後にペダルを漕ぎ出す瞬間の「ふわっ」と体が軽くなる感覚が楽しみになります。それはまるで、仕事のストレスからも一気に解き放たれるかのような気分。座りっぱなしだった体を使ってまた立ちっぱなしの電車で帰るより、ずっと心身に良いはずです。

◇         ◇

 スポーツバイクでの自転車通勤の始め方を3回に渡って紹介した短期連載『Cyclist的“自転車通勤”考』。仕事として、またプライベートでも日々自転車に触れる機会が多い立場で感じていることを、主観を交えた切り口で紹介しました。通勤ですから、疲れない程度の距離と経路で、安全対策さえしっかりしている自転車ならば個人的には車種は何でも良いと思います。

 ただ、もしスポーツバイクに興味をもたれたなら、その先には通勤だけじゃない新しい世界が広がると思います。この機会に、というのも現在は憚られそうな情勢ですが、いま、そして将来のご自身の健康のためにも“密”な電車通勤から脱出する一歩を踏み出してみてください。

後藤恭子後藤恭子(ごとう・きょうこ)

Cyclist編集部員。まとまった時間ができるとすぐに自転車旅へと出かける“放浪”サイクリスト。国内だけでなくスイス横断旅を始め、欧州各国を自転車で旅した他、2018年にはノルウェーで開催されたアマチュア最高峰のステージレース「Haute Route」に日本人女性として初参加・完走を果たした。最近はトライアスロンにも挑戦中。

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