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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<333>チームの大型化で勝利量産が期待できる布陣に バーレーン・マクラーレン 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 史上初の中東籍チームとして動き出したのが2017年。バーレーンの国家プロジェクト的な位置づけでスタートしたチームは、紆余曲折ありながらも、プロトンの一員として確たる地位を築いてきた。そして4年目の今年、チームは大幅な刷新を行った。新しいスポンサーを迎えてチーム名を「バーレーン・マクラーレン」とし、新たなデザインのチームキット、新たなカラーリング、そしてビッグネームの大量加入。日本のエース・新城幸也も主力の1人として引き続きチームとともに歩みを続ける。レース中断期間を経て、“オレンジの軍団”がどんな走りを見せてくれるか、期待されるポイントを挙げていく。

新たな体制となって2020年シーズンを戦うバーレーン・マクラーレン。新城幸也も主力としてトップシーンを駆ける =サントス・ツアー・ダウンアンダー2020第3ステージ、2020年1月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

エリングワース氏こだわりの新加入選手

 2017年のチーム発足時からヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)をキーライダーに立て、グランツールやクラシックレースをメインに、着実に成果を挙げてきた。ニバリも期待に応え、3度のグランツール総合表彰台、5度のステージ優勝、さらにはチーム初年度にイル・ロバルディアを、2018年にはミラノ~サンレモを制覇。十分に役目をまっとうし、昨シーズン限りでチームを後にした。

新加入の目玉ミケル・ランダ。ブエルタ・ア・アンダルシアでまずまずの走りを見せた(写真は第4ステージ) =2020年2月22日 Photo: KARLIS / SUNADA

 ニバリの退団とタイミングを同じくして、チームは大きな変化を迎えることとなる。昨年からチーム運営におけるパートナーシップを結んでいたイギリスの自動車メーカー・マクラーレンが第2スポンサーに着任。昨年までバーレーン・メリダだったチーム名は「バーレーン・マクラーレン」となり、これまで以上に資金力のある体制となった。

 これにともなって、チームの内部も変わることになる。チームGB(イギリス自転車連盟)やチーム イネオスなどのスタッフ・コーチを歴任したロッド・エリングワース氏がゼネラルマネージャーに就任。チームも、エリングワース氏も、上昇気流に乗るこのチームを大幅に押し上げようと本気だ。

 それは、今季加入する選手の顔ぶれを見れば一目瞭然である。そこにはエリングワース氏のこだわりが見てとれ、プロロードレース界では当たり前の「マーケティング」の要素がどこにあるのか探るのが難しいほど。つまりは、“勝利至上”を貫くための布陣を敷こうとしているのだ。

グランツール路線の強化としてワウト・プールスが加わった =UAEツアー2020第5ステージ、2020年2月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 具体的には、ニバリに替わるグランツール路線強化として、チーム スカイ(現チーム イネオス)時代にリーダーとしてのイロハを伝えたミケル・ランダ(スペイン)と、ワウト・プールス(オランダ)を確保。ランダはすでにグランツールでの実績十分、プールスもかつてはリエージュ~バストーニュ~リエージュを制するなどエースとしての資質を備える実力者。恩師ともいえるエリングワース氏の誘いに二つ返事で応じ、総合エースとしての立場を手にすることになった。

 加えて、かつての“最強スプリンター”マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のチーム合流も実現。エリングワース氏とはチームGB時代からの間柄。近年は2度にわたるエプスタイン・バー・ウイルス感染もあって絶不調にあえぐ「マン島超特急」を復活させることも、同氏の使命となる。

 この3人を含め、12選手が加わって戦う状況は整った。既存のメンバーも含め、どこからでも勝ちに行ける態勢となり2020年シーズンを迎えたのであった。

マーク・カヴェンディッシュの移籍加入も大きなトピック。恩師ロッド・エリングワース氏のもとで完全復活なるか =UAEツアー2020第4ステージ、2020年2月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

適材適所のオーダーで収穫のシーズン序盤戦

 チームは3月半ばにレース期間中断となるまで、まずまずの戦いぶりを見せていた。グランツールのエースとして期待されるランダは、1月にトレーニング中の事故で負傷したが、傷を癒して挑んだブエルタ・ア・アンダルシア(スペイン、UCI2.Pro)で個人総合3位。力のある選手が集うシーズン序盤のポイントとなるレースで、しっかりと結果を残した。山岳では集団を破壊しレースを活性化させるアタックを見せるなど、格の違いを見せた印象だった。

 プールスも2月上旬にボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(スペイン、UCI2.Pro)で個人総合6位。共闘したディラン・トゥーンス(ベルギー)が同5位となり、戦力に厚みがあることを示してみせた。

ブエルタ・ア・アンダルシア第5ステージを勝ったディラン・トゥーンス。タイムトライアルから上りまで幅広くこなせるのが強み =2020年2月23日 Photo: KARLIS / SUNADA

 そのトゥーンスは、アンダルシアでも最終日の13km個人タイムトライアルを制し、3月のパリ~ニースでは第1ステージ2位を皮切りに総合争いに参戦。最終的にチームが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大会を去る判断を下したが、最後まで戦い抜いていれば…との思いを抱かせる走りだった。

 好調な選手たちの中でも圧巻なのは、スプリンターのフィル・バウハウス(ドイツ)だ。ツール・ド・フランスと同じくA.S.O.が主催する新規ステージレース、サウジツアー(サウジアラビア、UCIアジアツアー2.1)で個人総合優勝。大会全体を通して砂漠の中を走る平坦基調のレースとあり、スプリンター向けのレースだったわけだが、ステージ2勝を挙げて文句なしで頂点に立った。各ステージ途中の中間スプリントポイントでもしっかりとボーナスタイムを稼ぎ、混戦を抜け出す勝因とした。

 Cyclistでもレポートしたパリ~ニース第3ステージのイバン・ガルシア(スペイン)の勝利も含め、このシーズン序盤は充実度をはっきりと示した時期になった。いよいよこれから、というタイミングでのレース期間中断は惜しまれるところだが、コースやレース展開に合わせて適材適所のオーダーが組めることが明確になった点で、チームは大きな収穫を得たことだろう。

シーズン再開に向け走りを磨く新城

 バーレーン・マクラーレンを語るうえでは絶対に外せないのが、われらが新城の存在だ。

シーズン序盤を順調に戦った新城幸也。UCIポイントの積み重ねにも成功している =UAEツアー2020第2ステージ、2020年2月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年は春先のタイでのトレーニング中に落車負傷。シーズン前半を棒に振ったが、半ばから戦線復帰し、ブエルタ・ア・エスパーニャを完走。その後のジャパンカップでも元気な姿を見せた。

 今季はシーズンを通してチームの戦力になるとともに、東京2020五輪の日本代表入りを決めるためのUCIポイント獲得を念頭に序盤戦を走ってきた。1月のサントス・ツアー・ダウンアンダー、2月のカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース、UAEツアーと連続してUCIポイントを獲得。日本自転車競技連盟が定めた五輪の選考基準では、順当にトップを走り続けてきた。

 ここまでけがやアクシデントなく戦えているだけに、シーズンが再開後のリスタートが楽しみな状勢。現在は本拠地ともいえるタイでトレーニングキャンプ中で、走りを磨いてもう一段階上がっていこうというところだ。

ステージレースの総合成績も狙える力を持つマテイ・モホリッチもチームの重要戦力だ =ブエルタ・ア・アンダルシア2020第4ステージ、2020年2月22日 Photo: KARLIS / SUNADA

 チームは今シーズン、12カ国から29選手が集まった多国籍軍。アンダルシアでランダと共闘したペリョ・ビルバオ(スペイン)は総合力が高く、シーズンイン直前で合流したエンリーコ・バッタリーン(イタリア)は短い上りでのパンチ力だけでなくスプリントにも強いスピードマン。彼ら即戦力とともに、石畳から上りまでおまかせのソンニ・コルブレッリ(イタリア)、このところはステージレースでの総合も争える力がついたマテイ・モホリッチ(スロベニア)といった既存の主力選手たちも順調な仕上がり。

 実力通りの走りができれば、昨年挙げた16勝、UCIワールドツアーランキング14位を上回るのは間違いないと見られていた。懸念される新型コロナウイルスの収束次第ではあるが、シーズンが再開されれば上位戦線にオレンジのジャージが都度目にすることができるはずだ。

バーレーン・マクラーレン 2019-2020 選手動向

【残留】
新城幸也(日本)
フィル・バウハウス(ドイツ)
グレガ・ボーレ(スロベニア)
ダミアーノ・カルーゾ(イタリア)
ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
フェン・チュンカイ(台湾)
イバン・ガルシア(スペイン)
ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)
マテイ・モホリッチ(スロベニア)
ドメン・ノヴァク(スロベニア)
マーク・パデュン(ウクライナ)
ハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア)
ルカ・ピベルニク(スロベニア)
マルセル・シーベルグ(ドイツ)
ディラン・トゥーンス(ベルギー)
ヤン・トラトニク(スロベニア)
ステューブン・ウィリアムズ(イギリス)

【加入】
エンリーコ・バッタリーン(イタリア) ←カチューシャ・アルペシン
ペリョ・ビルバオ(スペイン) ←アスタナ プロチーム
サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア) ←チーム チネリ(アマチュア)
エロス・カペッキ(イタリア) ←ドゥクーニンク・クイックステップ
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス) ←ディメンションデータ
スコット・デーヴィス(イギリス) ←ディメンションデータ
マルコ・ハラー(オーストリア) ←カチューシャ・アルペシン
ケヴィン・インケラー(オランダ) ←グルパマ・エフデジ コンチネンタルチーム
ミケル・ランダ(スペイン) ←モビスター チーム
ワウト・プールス(オランダ) ←チーム イネオス
ラファエル・バルス(スペイン) ←モビスター チーム
アルフレッド・ライト(イギリス) ←100% Me(アマチュア)

【退団】
ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア) →未定
ローハン・デニス(オーストリア) →チーム イネオス
アンドレア・ガロシオ(イタリア) →ヴィーニザブKTM
クリスティアン・コレン(スロベニア) →未定(2021年5月14日まで資格停止)
アントニオ・ニバリ(イタリア) →トレック・セガフレード
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア) →トレック・セガフレード
ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア) →NTTプロサイクリング
ワン・メイイン(中国) →ヘンシャンサイクリング

今週の爆走ライダー−ヤン・トラトニク(スロベニア、バーレーン・マクラーレン)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 3月13日に行われたパリ~ニース第5ステージでは、あわや逃げ切りの力走。この大会最長の227kmのステージは、レース展開的にスプリンター有利と見られていたが、残り10kmを切って逃げグループから独走に持ち込んだことで、大方の予想を覆すあと一歩まで迫っていた。

CCC・スプランディ・ポルコヴィチェ時代の2017年、ジロ・デ・イタリアを走るヤン・トラトニク。このチームで走った2年間が現在に大きく影響しているという =2017年5月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 独走力には定評がある。個人タイムトライアルではスロベニアチャンピオンを経験し、2019年のツール・ド・ロマンディではプロローグを勝っている。逃げも得意で、メイン集団から飛び出せばレースをかき乱す。パリ~ニース第5ステージは、まさに彼の真骨頂といえよう。

 現チームでは2年目を迎えた。2月には30歳になったが、まだまだトップシーンで摘むべき経験はたくさんあると自認する。2011年にクイックステップ(現ドゥクーニンク・クイックステップ)入りしたときは順調そのもののキャリアに見えたが、いざレースに臨んでみて、あまりの力のなさに落ち込んだという。1年で地元のチームに戻ってからは、小さなレースを制しながら走りの技術を身につけていった。

 今でこそこうしてトップチームで走るが、それもCCC・スプランディ・ポルコヴィチェでの2年間があったからだという。かつてビッグチームで失敗した自分を受け入れ、再度大きなレースを走る機会を与えてくれたポーランドチームには、感謝してもしきれないという。ジロ・デ・イタリアを走り、国内王者にまで押し上げてくれたチームへの思いはいまもなお強いと明かす。

 バーレーン・マクラーレンで見せる走りは、少々遠回りをしながらも自信を取り戻した本来の姿。「スロベニア人ライダーやスタッフが多くて、いつだってリラックスしていられる」と居心地の良さも感じているという。これからの目標は、自国のスターになったプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)や、チームメートのモホリッチのように目立つこと。脚質的に彼らと同じようなリザルトは望めないというが、ならば十八番である逃げやタイムトライアルで結果を残してみせる。ビッグリザルトを残すイメージはもうできている。

逃げやタイムトライアルを得意とするヤン・トラトニク。同国のスター選手に負けじと勝つ日を夢見ている =ツール・ド・フランス2019第9ステージ、2019年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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