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つれづれイタリア〜ノ<139>欧州の移動制限における自転車の活用 「自転車に乗るか乗らないか、それが問題だ」

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 前回のコラムからおよそ2週間が経ちました。その間、日本国内を含め、ヨーロッパ各国での情勢は大きく変わりました。東京オリンピックの延期が決まり、とうとう政府と自治体は人々に対し、移動制限をお願いする事態に変化しつつあります。今回も新型コロナウイルスと自転車ライフに与える影響について書きたいと思います。

自宅でインドアトレーニングをするヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード) ©Treck Segafredo

 中国発祥の新型コロナウイルスの拡大を防止するため、義務的自宅待機の動きが広がり、イタリアに続きスペインとフランスでも発令。ドイツやイギリスでは移動制限はないものの、2人以上での集会は避けるべきと要請されています(現段階で罰則金はない)。ベルギー、ポルトガル、スウェーデン、その他のヨーロッパ諸国では、大規模な集会を行わないような通達がありますが、まだ移動制限は発令されていません。

移動制限下での自転車の使用

 前回のコラムではイタリアの例を紹介しました。3月9日にヨーロッパ国内で初めて自宅待機(義務)が発令されました。食料品店や職場までの通勤、通院以外の移動は厳しく禁止され、通行証がないと罰金、もしくは禁固刑が科されます。一般市民によるスポーツを含むあらゆる野外活動が禁止され、オリンピックや国際大会に出る予定のプロ選手にのみスポーツを行うことが認められます。

閑散するヴェネツィア市内。普通なら歩けないほど混雑ほど場所ばかり ©Corrado Cosmi
続く移動制限。観光地のヴェネツィアの公共交通機関に人の姿はほとんど確認されない ©Corrado Cosmi

 プロ選手以外は自転車の使用も制限対象となりました。一般市民とプロ選手は区別されており、規制は次のようなものです。

  自転車の利用に関しては、職場と居住地との移動や食料品店などへの移動が認められる。一方、サイクリングを含む娯楽としての自転車の利用が認められていない。許可されている移動方法は、次の条件の通りとする。

(1)複数での移動は禁止
(2)人と人との間の最小安全距離を1メートル維持

 居住地内(自治体内)での移動の場合自己申告書の携帯は不要

 練習として自転車を利用できる人は、イタリア自転車競技連盟登録のプロ選手やアマチュア選手に限ります。自転車トレーニング=仕事とみなされるので、練習は認められていました。練習をする際に、イタリア自転車競技連盟の会員証の携帯を義務化しています。しかし、首相令によってスポーツ活動が許可されているにも関わらず、多くのプロ選手は車のドライバーから理解されず、急な割り込み、罵声や誹謗中傷を浴びせられるなどして、一般市民の理解が得られないことが続きました。

 プロ選手から相談されたイタリア代表監督のダヴィデ・カッサーニは3月17日、深夜に自分のフェイスブックのページに次のようなメッセージを掲載しました。

 ドライバーや自転車利用者の皆さんへお願いです。現在、多くのプロ選手はトレーニングをしています。この悲惨な状況が終わったとき、プロたちはすぐにレースに復帰するためです。彼らは彼らの仕事をして、トレーニングしようとしています。

 トレーニングはプロのサイクリストの仕事であることを忘れてはなりません。逆に私を含め、アマチュアサイクリストはじっとする必要があります。オリンピックや世界選手権に出る必要がないためです。我々には、別の仕事があります。

 最近、プロ選手がドライバーから汚い言葉を浴びています。これはルールを破って、自転車で出かけたすべての人の責任でもあります。 自転車でのトレーニングは彼らの明日であり、彼らの未来でもあります。彼らを侮辱することは犯罪であり、それは労働者の権利を踏みにじる行為です。運転手の皆さん、プロ選手は私たちのために自転車に乗っています。彼らを侮辱しないでください。この緊急事態が終わったとき、彼らの勝利は多くの失われたもののために私たちを慰めるでしょう。私たちは彼らを侮辱するだけでなく、むしろ彼らに感謝するべきです。

 しかし帰ってきた反応は凄まじく、メッセージの意に反して、650件のコメントのほとんど否定的なものでした。この状況の中でトレーニングは仕事としてみなされない現れです。主なコメントは次のような感じでした。

問題となったカッサーニ代表監督のFBページ(Facebookから引用)

 「すべてのレースがブロックされているため、トレーニングも停止しましょう。 このパンデミックが終了すれば、誰もがゼロから始めます。皆、病院にさらなる問題を引き起こさないようにしています」

 状況を重く見たイタリア自転車競技連盟(FCI)とイタリアプロ自転車選手協会(ACCPI)は、3月18日に全ての選手に自転車での練習を控えるよう、共同声明を出し、3月19日からイタリア国内に住んでいるプロ選手は自転車での外出は取りやめました。

プロ選手はどのようにして体力を維持しているのか

 走るレースが無い選手にとって体力の維持は死活問題です。そこで唯一の救いは最新のローラー台の進化です。Zwiftやガーミンなどが提供するプログラムがアプリと連動し、ローラー台は自動的に負荷を変え、様々なコースが再現できる仕組みです。

引退をしてもトレーニングに励むダミアーノ・クネゴ。現在、ツイッターの公式アカウントでインドアトレーニングを公開している  © Damiano Cunego Cycling Project

 プロと直接戦えるオンラインイベントも盛んです。例えば3月21日にガーミン、Tack ItaliaとRCS Sports主催で「オンライン ミラノ〜サンレーモ」が実施されました。ゲストとして参加したのが、2018年の本大会に優勝した、ヴィンチェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード)のほか、アルベルト・ベッティオル(EFプロサイクリング)、マウリツィオ・フォンドリエスト(1993年大会優勝)、カッサーニ代表監督、イヴァン・バッソ、アレッサンドロ・バッランなど、全4221人のライダーたちがバーチャルの世界ででミラノ〜サンレーモの終盤57 kmを楽しみました。

インドアトレーニングをする自転車競技イタリア代表監督、ダヴィデ・カッサーニ。ローラー台のほか、自宅の階段を使って、体力の維持に気をつけている ©Davide Cassani
自宅の庭で体幹トレーニングに挑むジョヴァンニ・ヴィスコンティ。移動制限の中でも体力維持が必須 © Giovanni Visconti

他のヨーロッパ諸国の事情

 ヨーロッパの足並みは揃っていないのが現状です。フランス、スペインのように自転車での移動は禁止されている国もあれば、利用は可能ですが、国民感情が許さないイタリアでは自転車の使用を控える動きもあります。

 逆に自転車での移動を推奨する国もあります。濃厚接触がほぼなく、感染のリスクが極めて低いうえ、健康促進につながると訴える政府機関があります。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギーなどがそうです。

 感染者の多い国では、長引く不自由な生活とストレスの影響でやはり感情的な反応が多く、一方、感染者の少ない北ヨーロッパの国々では冷静的な対応が示されています。

 この数日、イタリアはようやく新規感染者の数が減りつつあり、未来に光が見えてきています。これから感染者の数が増えると思われる日本国内では、どんな政治的判断が示されるか、気になるところです。

Marco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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