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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<332>「ポスト・バルベルデ」擁立を目指す過渡期のシーズン モビスター チーム 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 UCIワールドチームでは最古参、1980年から世界のトップを走り続けるモビスター チーム。長年チームを引っ張るアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)は、その絶対的な存在感に違わず、39歳を迎えようとしている今でもここ一番での勝負強さは健在だ。また、近年は高いチーム力を発揮し、グランツールを中心に一定の成果を挙げてきた。そんなスペインの雄は今年、大きく変化を遂げようとしている。選手を大幅に入れ替え、伝統である山岳での登坂力だけでなく、スピード路線も強化。ヤングパワーの育成にも注力する方向性も定めた。2020年シーズンは、「新生モビスター チーム」として動き出す1年となる。

アレハンドロ・バルベルデ(左)に続く選手の育成が急務のモビスター チーム。若い選手も多く獲得し、チームは様変わりしようとしている =UAEツアー2020第4ステージ、2020年2月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

総合エースの離脱で大きく舵を切ることに

 2019年シーズン終了から今季開幕までのオフ期間、モビスター チームに関する話題はそう多くはなかった。例年オフのモビスターといえば、翌年のグランツールで誰が総合エースを務めるのかや、それに関連してエースクラスの棲み分け・共闘といった情報がロードレースシーンをにぎわせていたが、先のオフに至っては静かそのものだった。

2020年シーズンのモビスター チーム所属選手たち。女子チームも強力だ Photo: Luis Angel Gomez

 その理由は明快だ。ここ数シーズン、総合エースを担ってきたビッグネームが軒並みチームを離れたことにあるからだ。2014年にジロ・デ・イタリアを、2016年にブエルタ・ア・エスパーニャを制したナイロ・キンタナ(コロンビア)はアルケア・サムシックへ、一気の成長で昨年のジロを制したリチャル・カラパス(エクアドル)はチーム イネオスへ、彼らと同様にチームを率いたミケル・ランダ(スペイン)はバーレーン・マクラーレンへそれぞれ移籍。オフの話題をさらってきたモビスターのエース陣は、ついに離散することとなった。

 この中で、キンタナとランダに関してはチームメートや首脳陣との確執もささやかれていたこともあり、離脱は既定路線だった。一方で、大きな誤算だったのがカラパスの退団だ。前途が明るい26歳の離脱は失望が大きかっただけでなく、追い打ちをかけるように彼のアシスト役であるアンドレイ・アマドール(コスタリカ)の契約問題も発生。結果的にアマドールもチーム イネオスへと移ることとなったわけだが、チームが大きく舵を切る決断を下した背景には、少なからずこれらの“カラパス・ショック”が影響しているであろうことは、想像に難くない。

 そんな静かなオフに、チームは改革を進めた。所属選手のおおよそ半数を入れ替えたのだ。離脱したエース格にとどまらず、実力的にチームの戦力になるには厳しいとみられる選手には容赦なく戦力外を通告。引退選手を含めると実に11人がチームを去ることになった。かたや、新加入選手は今季所属28選手のうちちょうど半分の14人。特徴としては即戦力よりも、将来性を重視したスカウティングを行った点にある。これによって、25歳以下の選手が13人となり、平均年齢は27.6歳に。ベテラン・中堅・若手と、バランスの良い編成になった。

これまで山岳比重の高かったチームだが、選手の大幅入れ替えによってスピードマンも加わった。プロ1年目のガブリエル・クレイはスプリントと石畳に強いイギリス人ライダーだ Photo: Luis Angel Gomez

 加えて、お家芸の山岳だけではなく、あらゆる脚質の選手をそろえたあたりも特筆すべきポイントだ。もちろん主戦場はグランツールであることは変わらず、登坂力のある選手が多く名を連ねるが、同時にスプリンターやワンデークラシックも見据え、スピードのある選手たちが加わることになった。

 新型コロナウイルスの感染拡大によるシーズン中断で、春のクラシックレースが中止または延期となったが、もし予定通り開催されていたならば…。昨年までとは違ったライトブルー軍団の走りが見られていた可能性は高かったはずだ。

バルベルデはチームの変化に協力する姿勢

 将来を見据えたチーム作りに着手するもう1つの理由として、バルベルデの動向も関係していると見ることができる。

2021年シーズンでの引退を予定しているアレハンドロ・バルベルデ。目下最大のターゲットは東京五輪での金メダル獲得だ =UAEツアー2020第4ステージ、2020年2月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年4月に40歳になるバルベルデは、2021年シーズンをもって現役を退く意向を表明している。予定では、今年の東京五輪を最大の目標に定め、残る1年半は引退に向けたカウントダウンしたいという。

 本記執筆時点で、レース活動再開の見込みが立っていないことや、東京五輪開催延期の検討に入るとの報道もあり、その動向は流動的になっているのが実情だ。ただ仮に、当初の話通り2021年限りで引退するとあれば、翌年以降は彼に代わってチームの柱になる選手を擁立する必要性が生じる。その意味では、これからの2シーズンは「ポスト・バルベルデ」を育成する期間でもある。

チームの若返りにも積極的に協力するというアレハンドロ・バルベルデ。グランツールもアシストとしてチームに尽くすつもりだ =UAEツアー2020第5ステージ、2020年2月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 条件は整っている。バルベルデ自身が「自分の経歴にないのは五輪金メダルだけ」と語るように、今のところは東京五輪ロードに集中しており、グランツールの成績にはかつてほど執着していない。また、「チームが変わらないといけない」とも語り、世代交代にも柔軟に対応していく姿勢を示している。あくまでも予定通り開催されれば、の話だが、今年のツール・ド・フランスではマルク・ソレルとエンリク・マス(ともにスペイン)の両エースをアシストすると宣言。若い選手たちを後押しする姿勢を示している。

 昨シーズンは前半のけがを乗り越えて、ツールで個人総合9位、ブエルタでは殊勲の個人総合2位。さらには最終戦のイル・ロンバルディアでも2位と、まだまだ戦えるところを示したバルベルデ。今年も夏以降にピークを持っていくべく、前述のツール、東京五輪、さらにはブエルタを目指すと明言し、シーズン序盤は無理のない走りに終始していた。今後は情勢の変化を見ながら判断していくことになるだろうが、「東京五輪での金メダル獲得」というターゲットだけは崩すことなく活動していくものとみられる。シーズン再開が待たれるところだが、キャリアの幕引きが近づく中で、目標に向けたプログラムをどう組み立てていくかも、注目していきたいところである。

ソレルとE・マスでグランツールの上位進出を狙う

 新エースの確立も急務となっているが、グランツールに関してはひとまずソレルとエンリク・マスで決まったと見てよいだろう。

1週間のステージレースで結果を残してきたマルク・ソレル。いよいよチームの総合エースに昇格する =ブエルタ・ア・アンダルシア2020第3ステージ、2020年2月21日 Photo: KARLIS / SUNADA

 両者とも実力・実績ともに申し分ない。26歳のソレルは、2018年のパリ~ニースを制するなど、1週間程度のステージレースでは確実に総合上位を争えるだけの力を見せる。グランツールにおいても、昨年のブエルタでは初のトップ10フィニッシュとなる個人総合9位。スーパーエースたちのアシスト役として3週間を過ごすことが多かったが、それでいながら自らの結果も残すことができたあたりに、実力の一端を証明したといえそうだ。このブエルタでは、第9ステージで「キンタナへのアシスト拒否事件」で話題を作ってしまったが、これからは自身の成績でロードレース界を盛り上げていきたいところ。

2018年のブエルタ・ア・エスパーニャ個人総合2位のエンリク・マスがモビスター チームに加入。即戦力としてグランツールをメインにリーダーシップをとる =ブエルタ・ア・アンダルシア2020第3ステージ、2020年2月21日 Photo: KARLIS / SUNADA

 そのソレルを上回る実績を持つのが、この1月に25歳になったエンリク・マスだ。彼を語るうえでは、何といっても2年前のブエルタでの快進撃は外すことができない。驚異の追い上げでの個人総合2位は、スペイン自転車界を背負って立つ選手であることを決定づける好走だった。満を持して臨んだ昨年のツールでは不発に終わり、大会後半では山岳アシストに回ったが、今年から環境を変えて再挑戦する意欲に燃える。

 並行して進める若い選手の育成では、マッテオ・ヨルゲンセン(アメリカ)、フアンディエゴ・アルバとエイネルアウグスト・ルビオのコロンビア人コンビが将来の総合エース候補として英才教育を受けていくことになる。各選手とも昨年はヤングライダーの登竜門と呼ばれるレースで結果を残している。ヨルゲンセンはツール・ド・ラヴニールの山岳ステージで再三上位進出を果たし、ルビオとアルバはアンダー23版ジロで個人総合2位と3位。チームが再びクライマー王国を構築できるかは、彼らを順調に成長させられるかにかかっているともいえよう。

 スペイン唯一の最上位カテゴリーチームは、11カ国から選手が集い国際色が豊かに。同時にあらゆる脚質の選手がそろい、なかにはセバスティアン・モラやアルベルト・トーレス(ともにスペイン)といったトラック競技でワールドクラスの選手も名を連ねる。チームの体制変化を機に、よりバリエーションに富んだ戦いぶりが見られることだろう。

モビスター チーム 2019-2020 選手動向

【残留】
ホルヘ・アルカス(スペイン)
カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア)
エクトル・カレテロ(スペイン)
イマノル・エルビティ(スペイン)
ルイス・マス(スペイン)
ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
アントニオ・ペドレロ(スペイン)
エデュアルド・プラデス(スペイン)
ユルゲン・ルーランツ(ベルギー)
ホセ・ロハス(スペイン)
エドゥアルド・セプルベダ(アルゼンチン)
マルク・ソレル(スペイン)
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)
カルロス・ベローナ(スペイン)

【加入】
フアンディエゴ・アルバ(コロンビア) ←コルデポルテス・ゼヌ
ダリオ・カタルド(イタリア) ←アスタナ プロチーム
ガブリエル・クレイ(イギリス) ←チーム ウィギンス・ルコル
イニーゴ・エロセギ(スペイン) ←リザルテ(アマチュア)
ユーリ・ホルマン(ドイツ) ←ハイゾマット・ラドネット
ヨハン・ヤコブス(スイス) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
マッテオ・ヨルゲンセン(アメリカ) ←シャンベリーシクリズムフォーマション(アマチュア)
エンリク・マス(スペイン) ←ドゥクーニンク・クイックステップ
セバスティアン・モラ(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
マティアス・ノースゴー(デンマーク) ←リワル・レディネスサイクリングチーム
エイネルアウグスト・ルビオ(コロンビア) ←ベジュスTMF(アマチュア)
セルジオ・サミティエル(スペイン) ←エウスカディバスクカントリー・ムリアス
アルベルト・トーレス(スペイン) ←グループエスポルティウエスポルト(アマチュア)
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア) ←アスタナ プロチーム

【退団】
アンドレイ・アマドール(コスタリカ) →チーム イネオス
ウィネル・アナコナ(コロンビア) →アルケア・サムシック
カルロス・バルベロ(スペイン) →NTTプロサイクリング
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア) →引退
リチャル・カラパス(エクアドル) →チーム イネオス
ハイメ・カストリリョ(スペイン) →エキッポ カーンファーマ
ルーベン・フェルナンデス(スペイン) →フンダシオン・オルベア
ミケル・ランダ(スペイン) →バーレーン・マクラーレン
ナイロ・キンタナ(コロンビア) →アルケア・サムシック
ヤシャ・ズッタリン(ドイツ) →チーム サンウェブ
ラファエル・バルス(スペイン) →バーレーン・マクラーレン

今週の爆走ライダー−セバスティアン・モラ(スペイン、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 「五輪金メダル」という、長いキャリアにおける残されたミッションにトライするバルベルデと同様に、東京五輪でのメダルを目指す選手がモビスター チームには複数存在する。その1人が、今季加入のセバスティアン・モラ。32歳と年齢的にはベテランの域に達するが、トラック中距離種目の第一人者なのである。

トラック中距離種目の第一人者であるセバスティアン・モラ(左)。一緒にモビスター チーム入りしたアルベルト・トーレス(右)と組むマディソンで東京五輪のメダルを目指している。写真は同種目で3位となったW杯ミンスク大会 Photo: Movistar Team

 2月下旬から3月上旬にかけて行われたUCIトラック世界選手権では、非五輪種目のポイントレースで銀、スクラッチで銅と2つのメダルを獲得。五輪種目のマディソンでは上位に届かずも、五輪出場枠は問題なく獲得。この種目でも2016年の世界選手権で銅メダルを獲っており、五輪本番でもメダル候補と目されている。

 マディソンで長くペアを組むアルベルト・トーレスとともにビッグチームとの契約をつかんだが、「チームは東京五輪に向けたサポートを約束してくれた」と喜ぶ。チームとは、契約延長オプション付きの1年契約を結ぶ。

 モビスター チーム入りは、自らのキャリアを左右する大きな決断であることも明かす。「東京五輪の結果次第だけれど…」と前置きしたうえで、ゆくゆくはロードに転向するプランもあるという。カハルラル・セグロスRGAで走った2019年シーズンから本格的にロードでのレース数を増やし、今も可能性を探っている段階。チームの狙い目が山岳ばかりではなくなりつつあることにも触れ、「私にチャンスがめぐってくるかもしれないね」とロードへのモチベーションも高まってきた。

 五輪を含め、この先のレーススケジュールが不透明ではあるが、ひとまずは東京でのメダル獲得が最優先。2014年シーズンにはマトリックスパワータグに所属し、ツアー・オブ・ジャパンやツール・ド・熊野にも出場。そんな縁ある日本での五輪出場、さらにメダル獲得となれば、それはもう運命に導かれているものと言ってもよいだろう。

ブエルタ・ア・アンダルシア2020第1ステージでメイン集団をコントロールするセバスティアン・モラ。将来的にはロードへの完全転向を考えている =2020年2月19日 Photo: KARLIS / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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