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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<331>“血の入れ替え”断行で実力派ぞろいの編成に NTTプロサイクリング 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、各地でレースの中止や延期が続いているロードレース界。特に本記をご覧いただく時期には本来、伝統の春のクラシックシーズンだった。今は、この困難の収束を待ち、レース再開への思いを馳せつつ日々を過ごしていきたい。本コーナーでは、そんなレース再開時に向けた予習となるよう、ここしばらくの流れを汲んでいくことにする。UCIワールドチームのシーズン展望、今回はNTTプロサイクリング。アフリカ大陸初のトップチームは今季、体制を一新。入部正太朗の加入も大きなトピックとなり、より日本のファンに注目されるチームとなっている。

チーム体制を刷新し2020年シーズンを迎えたNTTプロサイクリング。ジャコモ・ニッツォーロがパリ〜ニース第2ステージで勝利するなどスタートダッシュに成功している =2020年3月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

名将リース氏がチームマネージャーに就任

 南アフリカのクラブチームとして発足後、おおよそ15年かけて国際レースを走る基盤づくりを行い、2013年にUCIプロコンチネンタルチーム(現・UCIプロチーム)に昇格。その3年後の2016年に、アフリカ大陸初の同ワールドチームへ。自転車競技の世界では大きく後れを取っていたアフリカにおいて、次々と新しい歴史を塗り替えてきた。

新タイトルスポンサーとしてNTTを迎えチーム体制を強化 =サントス・ツアー・ダウンアンダー2020チームプレゼンテーション、2020年1月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 加えて、アフリカ各地での自転車普及や、現地の人々への自転車の寄付といった取り組みも世界的に注目され、選手や関係者のみならず、ファンも含めた賛同を獲得。このチームがトップシーンに躍り出たときは「MTN・クベカ」というチーム名だったが、そのクベカは南アフリカをベースとするNPO法人。同法人による自転車普及の活動には、現在もチームが参画している。

 レース外での話題が多いチームだが、肝心のレースはというと、なかなか成績がともなわない。実力・実績とを兼ね備えた選手がそろいながらも、あと一歩勝利に届かないことが多々。ワールドチームに昇格した2016年から3年間はチームランキング最下位。昨年、ようやく最下位を脱し、ワールドチーム18チーム中17位としたが、苦戦している実情は変わっていない。最大所属人数30人という枠の中で、戦えるチームづくりと同時にアフリカ人選手の育成とを進める方針の中で、どうしても戦力バランスが保ちにくいという側面が見え隠れしている印象だ。

NTTプロサイクリングはビャルヌ・リース氏をチームマネージャーとして迎えた。主にチーム運営面のサポートを行っていく =サントス・ツアー・ダウンアンダー2020第1ステージ、2020年1月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ただ、ポジティブな材料が少ないわけではない。昨シーズン、有力選手が多数チームに加わり、今年も一挙12人が合流。ベテランを中心に退団選手が多かった一方で、こうした「血の入れ替え」が大きな刺激となることが期待できる状況にある。

 また、昨年までのメインスポンサーであるディメンションデータ社を買収した日本企業・NTT社の名を冠したチームは、デンマークのヴィルトゥサイクリングと提携。これによって、かつてのツール・ド・フランス覇者で、チームCSCやサクソバンクを率いた名将ビャルヌ・リース氏がトップシーンに復帰。チームマネージャーの1人として名を連ねる。実態としてはチーム運営の役職となり、ビジネス面でのサポートを行うことになる。

 体制の変化は、ときにチーム力や戦い方にも好影響を与えることがある。NTTプロサイクリングは果たして、飛躍のシーズンを送ることができるだろうか。

開幕ダッシュに成功 昨年を凌駕する勢い

 そんなチームは、スタートダッシュに成功したといえそうだ。パリ~ニースを終えてレース中断期間に入ったが、それまでに6勝。昨年のシーズン7勝に早くも迫る勢いだ。

チームを牽引するジャコモ・ニッツォーロ。早くもシーズン2勝を挙げて好調だ =サントス・ツアー・ダウンアンダー2020第5ステージ、2020年1月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 なかでもエーススプリンターのジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)が牽引役になっている。サントス・ツアー・ダウンアンダー第5ステージでチームにシーズン初勝利をもたらすと、直近ではパリ~ニース第2ステージを制覇。シーズンインして以降、2位フィニッシュも2回あり、好調さをアピールしている。

 2015年から2016年にかけて、ジロ・デ・イタリアのポイント賞で2連覇したが、近年は体調不良やけがが相次ぎ、不本意なシーズンが続いていた。そんな苦しかった時期を払拭する現在の戦いぶり。スピードではピュアスプリンターに対して分が悪いが、パリ~ニースで見せたような混戦に乗じての勝負強さや、単騎でもポジショニングできる巧みさで平坦ステージでの上位を押さえている。

今季加入したスプリンター、マックス・ヴァルシャイドも好調だ。ツール・ド・ランカウイでステージ2勝を挙げてポイント賞を獲得。写真は最終の第8ステージ Photo: Phil Walter/Getty Images

 新加入組では、同じくスプリンターのマックス・ヴァルシャイド(ドイツ)が2月のツール・ド・ランカウイ(マレーシア、UCIアジアツアー2.Pro)でステージ2勝。ポイント賞も獲得し、アジアのレースでスプリント力の違いを見せた。昨年まではチーム サンウェブの一員としてアシストを務めることも多かったが、新天地でエーススプリンターの一角を目指すことになる。パリ~ニースではニッツォーロのケアに努め、第2ステージでの勝利に貢献。26歳と中堅だが、走りに幅のあるところが長所だ。

クライマーのベン・オコーナーも勝利を挙げた。ステージレースで実績を積む注目株だ Photo: NTT Pro Cycling

 ベン・オコーナー(オーストラリア)は、将来的にグランツールレーサーとなる可能性を秘めたクライマー。すでに1週間程度のステージレースでは上位フィニッシュを経験しており、3週間トータルでの走りもそろそろ期待できるところまできている印象だ。そんな彼は、2月のエトワール・ド・ベッセージュ(フランス、UCIヨーロッパツアー2.1)で山頂フィニッシュのクイーンステージを制した。このときは総合で大きく遅れていたこともあって逃げ切りを許された格好だったが、登坂力の高さを示すには十分な勝利に。シーズンが深まるにつれて調子を上げてくることだろう。

 そして今シーズンは、チームのお膝元である南アフリカのナショナルタイトルを獲得した。2月9日に行われた国内選手権でライアン・ギボンズが、ダリル・インピー(ミッチェルトン・スコット)ら強豪を撃破してビッグタイトルをつかんだ。

 軸となる選手が勝利を挙げてきたが、レース再開後もこの勢いが続くか。自然と期待が高まる。

入部が加入 より国際色豊かなチームに

 今年のチームに期待が持てる要因として、やはり実績豊富な選手がそろっているところにある。

ワンデーレーサーのミケル・ヴァルグレン。昨年後半から調子を戻して戦える態勢を整えている =パリ〜ニース2020第5ステージ、2020年3月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 この中断期間がいつまで続くかにもよるが、春のクラシックシーズンが再開されればエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)やミケル・ヴァルグレン(デンマーク)が中心になる。ボアッソンハーゲンは石畳系レースへの適性を評価されながら、近年はビッグタイトルになかなか届かずにいるが、経験に裏打ちされた戦いぶりを見せたいところ。また、2年前にはアムステル・ゴールド・レースを制したヴァルグレンは、チーム加入初年度の昨年こそ苦戦したが、チーム首脳陣が「結果がともなわなかったからといって才能が失われたわけではない」とフォローするように、信頼度の高さは変わっていない。昨年後半にはワンデーレースでトップ10フィニッシュを繰り返し、復調をアピールしていることも心強い。

 また、ワンデーレースとなれば、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)やエンリコ・ガスパロット(スイス)といった、タイトルホルダーも控えている。レース展開を見ながら勝ちに行けることも、アシストに回ることもできるユーティリティさでチームを上位へと押し上げる。ここにミヒャエル・ゴグル(オーストリア)が今年から加わり、戦術の幅が広がった。

 2年前に古巣に“凱旋”したルイス・メインチェス(南アフリカ)はグランツールの総合リーダーとなるはずだったが、この2シーズンは不本意な結果が続いている。過去にはツール・ド・フランスでトップ10フィニッシュを2度経験しており、実力は問題ない。28歳とまだまだ活躍が見込まれる年齢だけに、再浮上を誓うことだろう。何より、今シーズンは3年ぶりにツールへ復帰することを視野に入れており、相性のよいレースでしっかりと結果を残そうと意気込む。

アワーレコードホルダーのヴィクトール・カンペナールツ。加入早々、主力としてチームに貢献している =パリ〜ニース2020第1ステージ、2020年3月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 さらには、昨年のアンダー23世界王者のサムエーレ・バティステッラ(イタリア)や、タイムトライアルスペシャリストであり、アワーレコード世界記録保持者のヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)も加入し、タレントが豊富。ベンジャミン・ダイボールやディラン・サンダーランド(ともにオーストラリア)といった、これまでUCIアジアツアーを盛り上げてきた選手たちもワールドクラスへの飛躍を遂げようとしている。

日本チャンピオンジャージを引っ提げてNTTプロサイクリング入りした入部正太朗。目標だったUCIワールドチーム入りを果たし、トップシーンでの活躍を誓う Photo: NTT Pro Cycling

 そしてなんといっても、われらが入部のチーム加入が今シーズンを語るうえで最大のトピックといえるだろう。日本から世界へと広がりを見せるNTTがメインスポンサーを務めるチームに、晴れて日本チャンピオンジャージホルダーが加わったのだ。すでにチームにも溶け込んで、多くの選手が拠点とするイタリアでトレーニングに励んでいる。チームデビューはランカウイで果たし、これから各地のレースで力強い走りが見られることだろう。やはりレース再開が待ち遠しい。

 今シーズンの所属は29選手。14カ国から精鋭が集まり、国際色豊かな構成であることも特徴的だ。

NTTプロサイクリング 2019-2020 選手動向

【残留】
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)
ステファン・デボッド(南アフリカ)
ニコラス・ドラミニ(南アフリカ)
エンリコ・ガスパロット(スイス)
アマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(エリトリア)
ライアン・ギボンズ(南アフリカ)
レイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ)
ベンジャミン・キング(アメリカ)
ロマン・クロイツィゲル(チェコ)
ジーノ・マーダー(スイス)
ルイス・メインチェス(南アフリカ)
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
ベン・オコーナー(オーストラリア)
ジェイロバート・トムソン(南アフリカ)
ラスムス・ティレル(ノルウェー)
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)
ダニーロ・ウィス(スイス)

【加入】
カルロス・バルベロ(スペイン) ←モビスター チーム
サムエーレ・バティステッラ(イタリア) ←ディメンションデータ・フォー・クベカコンチネンタルチーム
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー) ←ロット・スーダル
ベンジャミン・ダイボール(オーストラリア) ←チーム サプラサイクリング
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア) ←トレック・セガフレード
入部正太朗(日本) ←シマノレーシング
ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア) ←バーレーン・メリダ
マッテオ・ソブレロ(イタリア) ←ディメンションデータ・フォー・クベカコンチネンタルチーム
アンドレアス・ストクブロ(デンマーク) ←リワル・レディネスサイクリングチーム
ディラン・サンダーランド(オーストラリア) ←チーム ブリッジレーン
ミケル・スヴェンゴール(デンマーク) ←チーム ワオー
マックス・ヴァルシャイド(ドイツ) ←チーム サンウェブ

【退団】
ラースユティング・バク(デンマーク) →引退(アシスタント・スポーツディレクター就任)
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス) →バーレーン・マクラーレン
ステファン・カミングス(イギリス) →引退
スコット・デーヴィス(イギリス) →バーレーン・マクラーレン
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア) →引退
ジャックス・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ) →引退
マーク・レンショー(オーストラリア) →引退
トムイェルト・スラフテル(オランダ) →B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト
ジュリアン・ベルモート(ベルギー) →コフィディス

今週の爆走ライダー−カルロス・バルベロ(スペイン、NTTプロサイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 もう深く悩む必要はなさそうだ。今季加入したスペイン人ライダー、カルロス・バルベロの脚質はスプリンター。2016年には世界選手権の代表にも抜擢されるなど、自国では有数の平地系ライダーである。

NTTプロサイクリングに加入したスペイン人スプリンターのカルロス・バルベロ Photo: NTT Pro Cycling

 ただ、それゆえの悩みが数シーズン続いた。昨年まで所属したモビスター チームは、プロトン随一の山岳系チーム。2017年に合流したときは希望に満ち、スプリント路線を突き進むつもりだったというが、どうにもそればかりでは生きる道がないことをやがて悟ることになる。シーズンが変わるたびに、「課題は登坂力」と自国のメディアにも語っていたそうだが、かといってクライマーと同じように山を登ることはできっこない。北のクラシックやスペインでの小さなレースでエースを務めることはあったが、出番が制約される状況を打破することは難しかった。

 心機一転、多国籍からなるチームで新たなチャンスに賭ける。今まで、スペインチームで過ごしてきたキャリアだったが、「国外のチームに仲間入りできたことが本当にうれしい。これは新しいチャレンジ」と大喜び。ステージ優勝に比重を置くチームと自身の事情がマッチしたことも決断を後押しした。当面は登坂のことは考えず、ステージレースでの勝利とワンデーレースでの好成績を意識していく。

 今年は2月のサウジツアー(UCIアジアツアー2.1)で個人総合6位。平坦ステージが続いたレースで上位フィニッシュを連発。まずは幸先よいスタートを切った。ちなみに、「北のクラシックはどちらかといえば得意」とのこと。確かに、昨年はヘント~ウェヴェルヘムで12位をマークしている。レース中止・延期が続く状況で、さらに順位をアップさせる機会がやってくるかは不透明だが、この先タフなレースで一仕事果たすところを目にすることがあっても決して不思議ではないだろう。

モビスター チーム時代のカルロス・バルベロ(右)。当時は登坂力を鍛えてメンバー入りを目指したが、新天地でのこれからは本職のスプリントに集中する =ミラノ〜トリノ2019、2019年10月9日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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