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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<330>勢いと経験の融合でビッグチーム喰いをもくろむ EFプロサイクリング 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 戦い方に派手さこそないものの、個の能力と経験とをミックスさせて上位戦線に加わるEFプロサイクリング。「土台固め」をテーマに戦った昨シーズンだったが、結果的にアルベルト・ベッティオル(イタリア)のツール・デ・フランドル制覇や、新鋭のセルジオ・イギータ(コロンビア)の台頭など、当初のチーム想定以上の成果を挙げた。そして、土台は固まりあらゆる局面でチャンスをうかがっていく今年。戦い方を知るベテランと、勢い十分の若手・中堅クラスとの融合によって、多くのタイトル獲得を目指せるところまでやってきている。

順調にチーム力を伸ばしているEFプロサイクリング。セルジオ・イギータ(左から3人目)の台頭はチームに勢いをもたらしている =ツール・コロンビア第1ステージ、2020年2月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

躍動する“イギータ・モンスター”

 チーム2年目、22歳のイギータが絶好調だ。

パリ〜ニース第3ステージまでを終えて個人総合5位につけるセルジオ・イギータ(写真は第2ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 3月8日に開幕したパリ~ニース。本記執筆時点で、全8ステージ中3つを終えて個人総合5位と好位置につけている。めまぐるしく変わる空模様や寒さ、そしてプロトンを再三分断する横風と、まさに「春のレース」を印象付ける戦いにあって、イギータの走りはたくましさと安定感に満ちている。

 しっかりと集団の好位置につけ、トラブルを避けながらの走りで上位をキープしている。山岳を前に個人総合優勝候補が次々と天候の犠牲となって絞り込まれていく中で、イギータはここまで総合系ライダーとしては実質トップのポジションにつける。これから待つ個人タイムトライアルと山岳ステージに向けて、絶好の態勢に入っている。

 昨年5月に現チーム入りし、トップシーンに躍り出た若きコロンビアンは、加入直後のツアー・オブ・カリフォルニアでいきなりの個人総合2位。その後はシーズン後半に調子を合わせて、8月のツール・ド・ポローニュで同4位、そしてブエルタ・ア・エスパーニャでは第18ステージにおける劇的勝利でシーズンのハイライトとして、プロライダーとしての地位を確実なものにした。

ツアー・コロンビアではステージ1勝にプラスして個人総合でも快勝したセルジオ・イギータ =ツアー・コロンビア2020第4ステージ、2020年2月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年も、パリ~ニースに臨むまでにすでに3勝。コロンビア選手権を制して、その後のツアー・コロンビアでも快勝。ここに至るまでのセンセーショナルさは、同国の先輩にあたるエガン・ベルナル(チーム イネオス)をもしのぐとの声もあるほどだ。

 持ち味はやはり登坂力。これまでの走りを見る限りは、緩急問わず勝負できるところを見せている。それを支えるのが、クライマーの中では屈指のスピードだ。一度アタックを決めれば、そのまま突き進んでいける速さを持つだけに、ライバルにとっては逃がしてはならない選手といえるだろう。パリ~ニースでも見せているスプリント力も見逃せない。この先、山岳での戦いでもつれる展開となることも多く出てくるが、そのときに武器となるのがフィニッシュ前での強さになるはずだ。展開次第ではスプリンターにも対峙できるのではと思わせるほどのスピードは、今後幾度となく観る者を驚かせるに違いない。

 エキサイティングな走りと底知れぬ才能に、チームを率いるジョナサン・ヴォーターズ氏が名付けたニックネーム「イギータ・モンスター」。今年はアルデンヌクラシックやツール・ド・フランスへのデビューも予定されているが、まずは現在戦うパリ~ニースでどこまでの結果をチームにもたらすかが見もの。その中身次第で、クラシックシーズンやツールの目標が定まっていくことだろう。

けがからの戦線復帰近いウラン

 イギータにとっては自国の大先輩にあたるリゴベルト・ウラン(コロンビア)。昨年は度重なる不運に襲われたシーズンとなってしまったが、けがが回復して戦線復帰に向け着々と準備を整えている。

昨シーズンは不運の連続だったリゴベルト・ウラン。けがを癒して本格復帰が近づいてきている =ツール・ド・フランス2019第14ステージ、2019年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨シーズン、好調で開幕を迎えたパリ~ニースだったが、クラッシュにより鎖骨を骨折し第2ステージでリタイア。これが癒えてツールでは個人総合7位とまずまずの結果を収めたが、連戦で迎えたブエルタで再び途中リタイアを喫してしまう。第6ステージでのクラッシュで、鎖骨と肋骨を骨折。さらには肺を損傷する重傷。わずか46日間のレース出場に終わってしまった。

 それでも、転んでもただでは起きないのがウランの強さでもある。これまでも多くのアクシデントに見舞われ、ときにビッグチャンスを逸することもあったが、そのたびにリベンジを果たしてきた男だ。2017年にはツールで、その前の2013年と2014年には個人総合2位と、数々の大仕事を成し遂げてきたベテランは、今年もトップ争いに加わるべく現在はコンディションを整えている段階だ。

本格復帰に向けて手始めとしてツアー・コロンビアを走ったリゴベルト・ウラン。順調な回復もあってか表情も明るい =2020年2月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロトン最前線へ戻るのはまもなくといったところだが、すでにコロンビアではレースに出場。手始めとしてツアー・コロンビアに臨んで、イギータの個人総合優勝をアシストしている。自身のリザルトは目覚ましいものではなかったが、きっちりと全ステージ走り切って次へとつなげている。

 本来であれば、高いクオリティで一貫して走ることで総合成績につなげていくスタイル。安定感と取りこぼしのない堅実さで上位を確保するウランらしさが今年も見られるだろうか。山岳比重の高い今年のツールこそ、彼向きといえるところだが果たして。今後めぐってくるであろう、イギータとの共闘にも期待度が増すところだ。

レース巧者がそろいクラシック戦線も強力に

 グランツールを含むステージレースではイギータやウランが中心になるとして、近々控えるクラシックレースに向けても、軸となるべき選手たちが調子を上げてきている。

2020年シーズンはワンデーレースをメインに戦うマイケル・ウッズ =パリ〜ニース2020第1ステージ、2020年3月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 登坂力とスピードを兼ね備えるマイケル・ウッズ(カナダ)は、これまでの経験を生かしてタイトル獲得を目指すと意気込んでいる。得意とするリエージュ~バストーニュ~リエージュは、一昨年2位、昨年が5位と、戦い方を熟知している。また今年は、その前に開催される激坂勝負のラ・フレーシュ・ワロンヌでも結果を残したいと話す。これらにアムステル・ゴールド・レースを含めたアルデンヌ3連戦を1つとして考えたいとも述べており、独自の調整法でこれらのレースが開催される4月下旬を迎えようとしている。

 以前はグランツールでの総合成績を意識して走っていた時期もあったウッズだが、当面はワンデーレースの結果を追い求めていくという。特に、東京五輪がモチベーションとなっているようで、ツール出場後に東京へと向かう予定でいる。また、シーズン後半はロード世界選手権が目標に。2年前には銅メダルを獲得しているが、起伏に富む今年のコースも自分向きだとして意欲的な姿勢を見せている。

パヴェから丘陵、ステージレースまでマルチに戦えるアルベルト・ベッティオル(右から2人目) =パリ〜ニース2020第1ステージ、2020年3月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 丘陵系クラシックにとどまらず、パヴェが大きなウエイトを占める北のクラシックも有力だ。昨年のフランドルを制したベッティオルの印象が強くなりがちだが、長年にわたり上位争いに加わっているセップ・ファンマルク(ベルギー)も忘れてはならない。ここにベテランのセバスティアン・ラングフェルド(オランダ)や、加入組のイェンス・クークレール(ベルギー)、同じく加入組で悪路に強いマグナス・コルトニールセン(デンマーク)と、一気に層が厚くなった。レース巧者をそろえて、どこからでもチャンスをうかがうことのできるオーダーが組めそうだ。

 また、かねてからのお家芸でもあるスプリントは、モレノ・ホフラント(オランダ)やこれまた加入組のクリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー)が担当する。両者とも、シーズン序盤のレースでリードアウトマンとの連携を深めており、勝利する日も近い印象だ。

EFプロサイクリング 2019-2020 選手動向

【残留】
ショーン・ベネット(アメリカ)
アルベルト・ベッティオル(イタリア)
ヨナタン・カイセド(エクアドル)
ヒュー・カーシー(イギリス)
サイモン・クラーク(オーストラリア)
ローソン・クラドック(アメリカ)
ミッチェル・ドッカー(オーストラリア)
セルジオ・イギータ(コロンビア)
モレノ・ホフラント(オランダ)
アレックス・ハウズ(アメリカ)
タネル・カンゲルト(エストニア)
セバスティアン・ラングフェルド(オランダ)
ダニエル・マルティネス(コロンビア)
ラクラン・モートン(オーストラリア)
ローガン・オーウェン(アメリカ)
トム・スクーリー(ニュージーランド)
リゴベルト・ウラン(コロンビア)
ジュリアス・ファンデンベルフ(オランダ)
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)
セップ・ファンマルク(ベルギー)
ルイス・ビラロボス(メキシコ)
ジェームス・フェラン(オーストラリア)
マイケル・ウッズ(カナダ)

【加入】
シュテファン・ビッセガー(スイス) ←スイスレーシングアカデミー ※2020年8月1日加入予定
マグナス・コルトニールセン(デンマーク) ←アスタナ プロチーム
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル) ←カチューシャ・アルペシン
クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー) ←チーム イネオス
イェンス・クークレール(ベルギー) ←ロット・スーダル
ニールソン・ポーレス(アメリカ) ←ユンボ・ヴィスマ
ヨナス・ルッチ(ドイツ) ←ロット・カーンハウス

【退団】
マッティ・ブレシェル(デンマーク) →引退
ネイサン・ブラウン(アメリカ) →ラリーサイクリング
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ) →UAE・チームエミレーツ
ダニエル・マクレー(イギリス) →アルケア・サムシック
サーシャ・モードロ(イタリア) →アルペシン・フェニックス
テイラー・フィニー(アメリカ) →引退

今週の爆走ライダー−ニールソン・ポーレス(アメリカ、EFプロサイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 1月のサントス・ツアー・ダウンアンダーからおおよそ半月にわたって続いたオーストラリアでのレース転戦では、総合エースの役割を与えられた。ダウンアンダーでは個人総合15位、ヘラルド・サン・ツアー(UCIオセアニアツアー2.1)では同4位。特に後者では2回ある山頂フィニッシュで上位を押さえ、エースにふさわしい走りを披露。移籍加入したばかりでの好結果は、チーム内での信頼を勝ち取るに十分なものとなった。

エースを任されたサントス・ツアー・ダウンアンダーでは個人総合15位。まずまずのEFサイクリングデビューとなったニールソン・ポーレス(中央) =2020年1月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 とにかく、深く考える必要がなくなった。昨年まで2シーズン所属したユンボ・ヴィスマでは、急激に上がるチーム力に反比例するように自らのチャンスが失われていくような感覚に陥っていたという。アシストとしての働きを評価されていた一方で、どこか物足りなさを感じずにはいられなかった。もともとは豊富なトレーニング量が自身の走りを支えていたが、チームから出されるメニューは質重視となり、食事制限まで加わっていた。やがてパワーを失い、イメージ通りの走りからは程遠いものになってしまったのだ。

 自分で考えてトレーニングを組み立てていくため、環境を変えることを決意。考えを尊重してくれる現チームは、いまの自分にピッタリだという。何より、自国のチームとあって、理解し合える仲間が多いこともうれしい。

 悩みながらでも、昨年のブエルタで頂点に立ったプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)を支えた経験は大きな自信になっているという。エースとして走るようになった今、不安や迷いなくアタックできるのはスペインでの3週間があったからだと話す。

 チーム内では同年代の選手たちの台頭が目覚ましいが、ポーレスには焦りがない。「エースとして走る実力がある」と認めてくれたチーム首脳陣の言葉を信じつつ、今年はトレーニングやレースのバランスを図っていく1年と決めている。

ヘラルド・サン・ツアーの山岳ステージで力走するニールソン・ポーレス。トレーニングとレースのバランスを図りながら、チームのエースとしての役目を果たしていく =2020年2月6日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー ロードレース 週刊サイクルワールド

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