title banner

旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<50>自転車旅の糧になった登山 しつこい勧誘が導いたアフリカ最高峰「キリマンジャロ」

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
  • 一覧

 キリマンジャロはタンザニアにあるアフリカ大陸最高峰の5895mもの高さを誇る。火山と山脈に属さない山としては世界最高峰だ。そんな山だが特別な登山経験が無くても登れることで知られている。ただ山頂付近は険しく、多くの人が高山病で苦しむというような場所だった。

キリマンジャロを一望しながら登れるのは、本当に気持ちが良かった Photo: Gaku HIRUMA

「登ってない」から始まるしつこい勧誘

 僕はキリマンジャロに興味がないわけではなかったが、その当時ケニアから自転車旅行の再出発を切ったばかり。旅のカンがまだまだ戻っていなかったので、できるだけ走っておきたかった。加えて一緒に行く登山仲間も見つけられなかったのでキリマンジャロに行くつもりはなく、麓でキリマンジャロコーヒーでも飲み、先へ急ごうと思っていた。

 ところが、走行ルート上のモシという町が登山の拠点となっており、多くの人が挨拶の様に「キリマンジャロにはもう登ったのか?」と聞いてくる。「登っていないよ」と言うとしつこい勧誘が始まり、だんだん断るのがわずわらしなってきた。

 これはむしろ登った方が早いのでないかと思い始めた時、信頼できそうな人が話しかけてきたので、そのまま事務所で話を聞くことにした。なにせ登るつもりが無かったので事前に何も調べてかったのだ。

「マラングルート」使い、4泊5日の登山へ

 話によるとキリマンジャロ登山では、いくつかのルートがあるそうだ。個人の場合は、山小屋や登山道が一番整備されている「マラングルート」と呼ばれる道を、4泊5日で登るのが一般的だとのことだった。キリマンジャロは1人で登ることができず、必ずガイドを雇わなければならない。それに荷物を運んでくれるポーター兼コックも一緒とのとこだった。

 何はともあれ、一番ネックで気になるのはやはり値段だ。聞くと「1人で登ると1050ドルで、2人だと950ドル。翌日出発だと1人いるから950ドルだ」と言われた。もちろん高額だが、1000ドルはかかると思っていたので高額を吹っかけてきているわけではなさそうだった。(2013年当時)

 正直、キリマンジャロ登山で最大限気を付けなければならないのは、高山病や体力でもなく、旅行会社との交渉だった。なにせ10万円もの大金を動かすのだ。アフリカでこの金額を動かすのは本当に一大事だ。

 そこは自分から探し当てるのは不可能なくらい小さい事務所ではあったが、欧米人旅行者も利用しており、信頼できる雰囲気があった。それに彼らの話す英語は解りやすかったので、そこで結局申し込んだ。

非常に狭い事務所だったが、信頼できると判断し申し込んだ。申し込みには細心の注意を払わねばならない Photo: Gaku HIRUMA

 登山用品は支払った料金で全てレンタルできるのだが、レンタルの装備では寒くて寝られなかったという話も聞いたので、寝袋や防寒具などは自分のを使い、足りないものはレンタルすることになった。

 キリマンジャロの登山口で登山料と山小屋使用料の525ドルはカードで支払えるとのことだったが、旅行会社に支払うお金は現金だ。

 銀行でも70万シリング(当時のレートで約430ドル)という大金はATMで一度におろすことができないので、何回にも分けておろし、今日出会ったばかりのアフリカの旅行会社の机に「もうなるようになれだ」と祈るように札束を叩き付けた。キリマンジャロ登山で一番スリリングな瞬間だった。

 翌朝は8時半に事務所に来てくれとのことだったが、登山の不安より騙されていないかという不安でなかなか寝付けなかった。ホテルをチェックアウトして、自転車で事務所に向かい、自転車と旅の装備を全て預かってもらった。事務所に着くと出発の準備をしていてまずはホッとする。

 前日に2人で登ると聞かされていたが、 車に乗り込んで登山口に向かうのは僕1人しか居なかった。しかしそこは特に突っ込まなかった。登山口でガイドとポーター兼コックを紹介してもらい、入山の手続きなど諸々を済ます。ほとんどガイドがやってくれたので、僕は個人情報を書き込みサインをして、入山料をカードで切るだけだった。

キリマンジャロに続く一本の登山道

 初日はジャングルをひたすら歩き、「ハット」と呼ばれる山小屋に着いた。山小屋と言えば広間にすし詰めで寝るイメージがあったが、驚いたことに、1棟が十分な広さの4人部屋で、木のぬくもりが漂うとても綺麗で快適なものだった。

初日のマンダラハット。思っていたよりもとても綺麗で驚いた Photo: Gaku HIRUMA
4人部屋の山小屋は、山では十分な広さで快適だった Photo: Gaku HIRUMA

 ひと段落したら顔洗いのお湯を持ってきてくれたり、「ティータイムだ」と言ってお菓子などを用意してくれたりして、昨日の心配をよそにとてもスマートに事が進行していった。食事も十分な量が出て大満足だった。

 登山は1日約1000m上がるペースだが、山頂直下以外の傾斜はきつくない。それに荷物は基本的にポーターが運んでくれるので、僕はその日の分の水と昼飯、行動食に防寒着くらいなので、問題なく登れる。

荷物はポーター兼コックが力強く運んでくれる Photo: Gaku HIRUMA

 2日目からキリマンジャロの山頂が見え始めるが、圧巻は3日目から。森林限界を突破し、4000mを超えているとは思えないほど、広大でなだらかな砂礫(されき)地にでるのだ。そこから山頂に氷河を抱くキリマンジャロの全容を見渡すことができた。砂礫地の中を一本の登山道がキリマンジャロに向かって悠々と延びている様は、身震いするほど力強く美しい風景だった。

砂礫地に出ると高所に居るとは思えない風景が広がる Photo: Gaku HIRUMA

 4日目は山頂にアタックする日なのだけど、聞いていた通り、この日は大変だった。もちろん急こう配や酸素の薄さはきつかったけど、なにより登山の時間だ。深夜0時にアタックを開始して山頂に立ち、2つ下のハットまで一気に下りついたのが昼の12時だった。途中もちろん仮眠や休憩はあったが、本当に疲労困憊だった。5日目に無事に登山口まで下りてきて、下山手続きをして終了となった。

 真面目で時間にも正確に対応してくれたガイドとポーターに、心ばかりの感謝のチップを手渡し、モシの町へ帰った。

アフリカ走行の弾みに

 なんやかんやいちゃもんをつけられ、追加料金をねだられるのを覚悟していたが、旅行会社の兄ちゃんも最後まで親切で、「よし、帰ってきたから温かい飯にしよう! もちろんこれも登山料金に含まれているから安心しろ」と、ご飯とコーラを持ってきてくれた。彼らを信用して本当に良かった。

 礼を言い、宿を取って久しぶりのシャワーで生き返り、早速レストランにでかけた。キリマンジャロという銘柄のビールを感慨深く煽っていると、例のごとく客引きがやってきて、「もうキリマンジャロには登ったのかい?」と聞かれた。

 「登ってきたよ。最高だった」と答えると、「そうか。おめでとう!」と気持ちよく去っていた。その後の自転車世界一周旅においても、キリマンジャロに登ったことがとても気持ちを強くしてくれた。そしてアフリカ走行のとても良い弾みになった。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

この記事のコメント

この記事のタグ

旅サイクリスト昼間岳の地球走行録

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載