エヴェネプールもシステムを利用前面投影面積をリアルタイムで可視化 最適なフォームを導く最新設備

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 自転車競技コーチ、フィッターの福田昌弘さんがベルギーの計測施設を訪問したリポート記事の1回目では、関節や特徴点にマーカーを置き、リアルタイムの体の動きを計測した内容をお伝えしました。第2回目は、空気抵抗を削減するために、実際にトッププロ選手も活用しているという「Bioracer Aero」を紹介します。

レムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)も Bioracer Aeroを利用 Photo: Masahiro FUKUDA

高速化でエアロダイナミクスが重要に

 近年では、レースの高速化に対応するため、自転車とライダーをあわせたエアロダイナミクスの重要性が増してきました。空気抵抗は、速度に対して二乗で影響するため、速度域が速くなるほど影響が大きくなるからです。一説には、アワーレコードの速度が未だに速くなっているのは、空気抵抗の削減からもたらされたものだとも言われています。

前面投影面積を計測する高岡亮寛(Roppongi Express) Photo: Masahiro FUKUDA

 空気抵抗をあらわす指標であるCdAは、前面投影面積であるAと、ドラッグであるCdの掛け算で表現されます。ドラッグは空気の流れが大きく影響するため、計測するには風洞などの装置や、環境の変化が少ない場所を走行したデータから逆算するなど、計測が大変です。また、ちょっとしたパーツの形状や、その表面の素材などによっても大きく変わります。このためにゴルフボールなどで有名なディンプル加工を施したり、翼断面構造をベースに、UCI(国際自転車競技連合)のレギュレーションに収まるようにカムテール構造などが採用されています。

 Bioracer Aeroでは、空気抵抗全体を測定することはできませんが、代わりに前面投影面積を容易に計測することが可能です。システム的にも、PCに接続されたカメラの情報のみをベースとしてしており、シンプルな構成となっています。

理想のポジションを持続させる練習を

 特別、決まった使い方があるものではないとのことですが、よくあるユースケースとしては、ベースのポジションを測定し、それに対して何かを変更したときの差分を確認しながら、より空気抵抗の少ないポジションを模索していくという使い方があるそうです。

リアルタイムで計測をしつつ、フォームの指導を受ける高岡亮寛(Roppongi Express) Photo: Masahiro FUKUDA

 具体的に見ていきましょう。まず最初にブラケットを持ったポジションで測定し、これをベースポジションとします。画面上にはベースポジションの輪郭が表示されます。ここから、ドロップ部を持った時や頭を下げたとき、ハンドルの持ち方を変えた時など、色々なポジションをテストしていきます。選手によってはサドルやハンドル位置の変更が前面投影面積に大きく影響を及ぼすこともあるそうです。

 画面上には、設定した速度に対して必要な想定パワーや、想定距離を走るときのタイムが、ベースポジションに比べてどのように変化するかもリアルタイムで表示されます。このためライダー自身が、乗車したままでポジションを模索していくことが可能となっています。

 実際に前面投影面積の低いポジションが見つかったとして、そのポジションで走っているときに今までと同じパワーを出せるのか?あるいは、そのフォームを維持し続けることができるのか?というのも重要なポイントです。

 そこで、Bioracer Aeroにはトレーニングモードも搭載されています。この間は、事前に決めたポジションに対する差分がリアルタイムで表示され続けるので、ライダーは常にポジションを確認しつづけながらトレーニングをすることが可能です。

 よくタイムトライアル競技では「持続性」と言われますが、どんなにいいポジションであっても、それを持続できなければ意味がないということです。トレーニングの要素に「空気抵抗を低いポジションを維持し続ける」を追加出来る意義は大きいでしょう。

 実際に、Bioracer社のデータを見ると、トニー・マルティン選手(ユンボ・ヴィスマ)やレムコ・エヴェネプール選手(ドゥクーニンク・クイックステップ)らも計測していました。ツール・ド・フランスで総合優勝する選手も、このシステムを使って日常的にトレーニングをしているそうです。

トレーニングプランやシミュレーションも可能 Photo: Masahiro FUKUDA
高速レースを展開するトラック選手もフォームのチェックを行っている Photo: Masahiro FUKUDA

 前面投影面積を下げるためには、どのようなことが重要になるでしょう。 特に高さを気にしているライダーは多いのではないでしょうか? 具体的にはハンドルの高さや頭の高さなどです。もちろん高さも重要ですが、それと併せて大きく影響してくるのが幅です。ハンドルの幅、肘の幅、肩の幅など。

 最近のトラック競技を見ていると、どんどんハンドル幅が狭くなっていますが、これも計測データが集まってきた結果が影響していると思われます。ロード競技では操作性も影響するので、ある程度の幅におさめるほうがよいでしょう。肘の幅はハンドルの取り付け角度などが影響します。

 そして、特に重要となってくるのが肩幅です。実は肩幅は変えることができます。肩関節は肩甲骨にありますが、肩甲骨自体は鎖骨で胸の前にある胸骨につながっているだけなので、肩甲骨を動かすことができれば肩幅を変えることが出来るのです。ベルギーやオランダなどでは、このために肩甲骨を動かして肩幅を狭く維持するためのトレーニングを指導するコーチもいるそうです。

 空気抵抗は、目に見えづらいということもあり、どうしても後回しにされることが多いようですが、パフォーマンス全体を改善するためには重要なパラメータとなってきています。最近では、スマートフォンのカメラで撮影することで前面投影面積の計算をするアプリケーションも出てきました。

 機会があれば、みなさんも計測してみてください。

福田昌弘福田昌弘

自転車競技コーチで、「ハムスタースピン代表」。現職はソフトウェアエンジニアだが、身体の動きに興味を持ったことがきっかけで、医学部博士課程にも進学。海外の自転車学会でも積極的に発表を行っている。社会人チーム「Roppongi Express」で趣味のレースも楽しんでいる。2018年の全日本マスターズTTでは3位、トライアスロンでも表彰台に上るなど、各方面で積極的に活動している。

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