title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<329>ピノ復帰でツール制覇へ再挑戦の1年に グルパマ・エフデジ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 大激戦だったツール・ド・フランス2019を盛り上げた1人が、ティボー・ピノ(フランス)であることはレースを追っている方なら誰もが納得するだろう。34年ぶりのフランス人選手によるマイヨジョーヌ獲得が見えてきたそのときに、まさかの負傷リタイア。涙をぬぐうことなく走り続けたその姿は、大会最大の悲劇でもあった。だが年が明け、心身ともリフレッシュして、ピノはレースに復帰。それに呼応するかのように、チームもシーズン序盤を良い形で進めている。チームとして、2020年はマイヨジョーヌへの再挑戦を決めて臨んでいるグルパマ・エフデジ。今回は、フランス伝統のトリコロール軍団にスポットをあてる。

ツール・ド・フランス2019を盛り上げたティボー・ピノ(中央)。けがで離脱したこの大会のリベンジにチーム全体が燃えている =ツール・ド・フランス2019第14ステージ、2019年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

UAEツアーでゴデュが総合4位

 まず直近のレースでの活躍から見ていきたい。レース関係者による新型コロナウイルス感染のため、大会途中の2月27日で中止となったUAEツアーだが、第5ステージまでの順位を有効とした結果、ダヴィ・ゴデュ(フランス)が個人総合4位に。この大会での総合エースとしての任務をしっかりと果たしている。

UAEツアーで個人総合4位に食い込んだダヴィ・ゴデュ。山岳ステージで見せ場を作った(写真は第5ステージ) =2020年2月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 この大会では2つの山頂フィニッシュが設定されていたが、どちらもステージ4位。特に第5ステージは個人総合のトップ4が真っ向勝負となる大激戦。上位2つを占めたアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)とタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)が再三再四アタックを繰り出す中、ゴデュはテンポ(一定ペースでの走行)で対処。最後はフィニッシュ前での上りスプリントで屈してしまったが、直前には自らアタックを繰り出すなど、少ないチャンスに賭けるチャレンジングな走りを披露した。

 まずまずのリザルトを本人もポジティブに捉える。「さすがに上位2人(イェーツとポガチャル)に負けることは仕方がない」としながら、「シーズン序盤にこれだけ走れて満足している」と明るい。昨年の同大会での3位に続き、今回の好成績に自信を深めて、来たるシーズンに挑んでいくことになる。

2019年のツール・ド・フランスではティボー・ピノ(前から2人目)の山岳アシストとして貢献したダヴィ・ゴデュ。2020年大会も同様の大仕事が待ち受ける =ツール・ド・フランス2019第14ステージ、2019年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 23歳のゴデュは、早くから各年代のトップを走ってきたクライマー。特筆すべきは、若手の登竜門「ツール・ド・ラヴニール」の2016年大会を制していることだ。トップシーンでの活躍が約束される“アンダー版・ツール”の頂点に立って以降も、順調に経験を重ねている。昨年はツール個人総合13位。大会途中まで、ピノの山岳最終アシストとして何度もレースの流れを変えるペースメイクで貢献した。

 そんな気鋭の山岳巧者は、そろそろ独り立ちを期待したいところだが、チームとしてのリベンジを果たすべく今年もツールのメンバー入りに向けて準備中。役割はもちろん、ピノの山岳最終アシストだ。昨年との違いを挙げるとするならば、自身の総合順位アップを目指せる状況にあるところか。実力的にはトップ10入りは可能と見られ、レース展開次第では25歳以下の栄誉でもある新人賞「マイヨブラン」への挑戦権も手にすることになるだろう。

 スタートダッシュに成功し、当面はアルデンヌクラシックに照準を定める。なかでも、昨年6位となったリエージュ~バストーニュ~リエージュは脚質的にもチャンスは十分あるといえそうだ。

ピノはマイヨジョーヌ再挑戦への準備を着々

 ツールでの失意から半年が過ぎ、ピノはシーズンインとともに戦線に戻ってきた。若くしてチームを引っ張る立場となり、いまや押しも押されもせぬ絶対的リーダーである彼には、ツール制覇という大きなミッションが用意されている。

ツール・ド・フランス2019ではトゥールマレー峠に登頂した第14ステージで勝利したティボー・ピノ。大会のハイライトの1つとなった =2019年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 脚の負傷で大会を去るまでは、要所でこれまでにないほどの強さを発揮していた。大会半ばで横風分断の犠牲になる場面こそあったものの、第2週のピレネー山脈から猛追を開始。第14ステージのトゥールマレー峠では劇的な勝利も挙げた。フランス国民だけでなく、大会にかかわる多くの関係者がフランス人ライダーのマイヨジョーヌ獲得を期待し、意識していたところでの負傷離脱となっただけに、自他の失望は大きかったが、それを乗り越えてツールへ再挑戦するという強い決意に満ちている。

山岳を攻めるティボー・ピノ。上りの比重が高まるツール・ド・フランス2020ではマイヨジョーヌ争いに加わることだろう =ツール・ド・フランス2019第15ステージ、2019年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年のツールで山岳での強さや積極性、さらにはタイムトライアル能力の高さも証明し、山岳比重がより高まった今年の大会にも十二分にフィットすることだろう。かつて見られたメンタル的な波もなくなり、好調時の心身の充実度は高い。あとは落車やその他トラブルに見舞われないこと。こればかりはレース展開にゆだねられる部分だが、チーム一丸となってピノを守りながら走ることになる。事実、昨年の大会ではピノ自ら走りやすいペースやポジショニングをアシスト陣に指示し、レースを進めていた。ときに、平坦ステージでもメイン集団の最前方に位置するなど、クラッシュなどを未然に防ぐためにあらゆる策を講じていた。今年も同様の作戦を組むものと思われる。

 ちなみに、2月に入って今年のレース活動を始めており、フランスでの2レースはそれぞれ個人総合7位と6位。ハードな上りもある中で、トップこそ獲れずともしっかりと地に足をつけて走ることはできているようだ。この後は、予定通りいけば3月8日からのパリ~ニース、同23日からのボルタ・ア・カタルーニャ、4月6日からのイツリア・バスクカントリーに臨むことを明かしている。

コアグループを明確化 数人を軸にレースを組み立てる

 ツールを視野に入れる総合系ライダー2人とは対象に、スプリント戦線でチームを引っ張るアルノー・デマール(フランス)は、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝に挑戦する。

ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャでのステージ優勝を目指すアルノー・デマール。2019年のジロでは第10ステージで勝利した =2019年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年もジロに臨んでステージ1勝。ポイント賞争いでは惜しくも2位だっただけに、今年はスプリンターにとっては最大の名誉でもある同賞ジャージのマリアチクラミーノにもトライしたいところ。リードアウト役のアシスト陣にはラモン・シンケルダム(オランダ)らスピードのある選手が多く、最終局面に向けたトレイン形成もこのチームの見どころでもあるが、果たしてデマールの勝利に結びつけられるか。

 ジロの前には、デマールにとってもう1つのヤマ場ともいえるクラシックシーズンが待ち受ける。2016年に制したミラノ~サンレモや、「得意」と言い切る北のクラシックでタイトルを狙っていく。なかでも、2017年に6位に入ったパリ~ルーベへの思いは強く、自身はもとより「チームとしてもチャンスはあるはず」と意欲的だ。

昨年のロード世界選手権で銅メダルを獲得したシュテファン・キュング。タイムトライアルとパヴェを得意とするスピードマン =2019年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな北のクラシックで、デマールとともに重責を担うのがシュテファン・キュング(スイス)。昨年のルーベではチーム最上位の11位でフィニッシュしている。パヴェに限らず、悪条件のレースに強さを発揮する印象だ。本来はタイムトライアルスペシャリストだが、ステージレースでは逃げも得意とする。何より、冷雨が多くの選手の力を奪った昨年のロード世界選手権での銅メダル獲得が、この選手の価値を表しているといえるだろう。2月29日に行われた今季北のクラシック初戦のオンループ・ヘットニュースブラッドは9位でまとめている。

 そのほか、スプリントから要所でのアタックまで何でもこなせるスピードマンのマルク・サロー(フランス)や、昨年のジロで個人総合13位とグランツールレーサーとしてのきっかけをつかんだヴァランタン・マデュアス(フランス)といった選手もエース候補として押さえておきたい。2018年のブエルタでリーダージャージ「マイヨロホ」を着用したルディ・モラール(フランス)も、しっかりと主力として機能中だ。

 今シーズンは28選手が所属。平均年齢は27.5歳で、中堅クラスと伸び盛りの若手がチームを盛り立てている。その中でも、本記で名前の挙がったピノ、ゴデュ、デマール、キュング、サロー、マデュアス、モラールがコアグループとしてチーム内でも位置付けられているという。基本は、彼らを中心にレースを組み立てていくことになるようだ。

グルパマ・エフデジ 2019-2020 選手動向

【残留】
ブルーノ・アルミライル(フランス)
ウィリアム・ボネ(フランス)
ミカエル・ドラージュ(フランス)
アルノー・デマール(フランス)
アントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ)
キリアン・フランキーニー(スイス)
ダヴィ・ゴデュ(フランス)
ケヴィン・ゲニッツ(ルクセンブルク)
ジャコポ・グアルニエーリ(イタリア)
イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア)
シュテファン・キュング(スイス)
マチュー・ラダニュ(フランス)
オリヴィエ・ルガック(フランス)
トビアス・ルドヴィグソン(スウェーデン)
ヴァランタン・マデュアス(フランス)
ルディ・モラール(フランス)
ティボー・ピノ(フランス)
セバスティアン・ライヘンバッハ(スイス)
アントニー・ルー(フランス)
マルク・サロー(フランス)
マイルズ・スコットソン(オーストラリア)
ロマン・シーグル(フランス)
ラモン・シンケルダム(オランダ)
バンジャマン・トマ(フランス)
レオ・ヴァンサン(フランス)

【加入】
アレクシス・ブルネル(フランス) ←グルパマ・エフデジ コンチネンタルチーム
シモン・グリエルミ(フランス) ←グルパマ・エフデジ コンチネンタルチーム
ファビアン・リーンハルト(スイス) ←イアム・エクセルシオール

【退団】
ダニエル・ホールゴール(ノルウェー) →ウーノ・エックス ノルウェジアンデベロップメントチーム
スティーブ・モラビト(スイス) →引退
ブノワ・ヴォルグナール(フランス) →引退

今週の爆走ライダー−ヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマ・エフデジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チームとしてはおおむね成功だったという2019年シーズン。チームを率いるマルク・マディオ氏は、「特に、若い選手たちがプレッシャーに負けずに結果を残し、自信をつけたこと」を成果の1つと述べる。なかでも、ヴァランタン・マデュアスはその名を挙げて、ゴデュやキュングとともに「輝かしい新世代」の1人と高く評価した。

初のグランツールとなった2019年のジロ・デ・イタリアで個人総合13位。積極的な走りが光ったヴァランタン・マデュアス =2019年6月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 初めてのグランツールとなった昨年のジロは、当初山岳逃げにトライしていたが、やがて総合上位に位置。一度は大きく順位を下げたが、大会後半の山岳で盛り返して、最終的に個人総合13位。チーム首脳陣の予想をはるかに超える好成績は、グランツールレーサーとしての資質を示すものになった。

 今年はその資質の「確認作業」を行う1年になるという。1週間程度のステージレースで上位を狙いつつ、夏にはチーム最大目標のツールでその力を試す見込みだ。もっとも、ピノをマイヨジョーヌに導くための山岳アシストという、これまでとは比にならないキャリア最大の仕事が待ち受けている。ベストメンバーで臨む自国での特別な3週間。すでに自身の席は大筋確約されているという。

 ジュニア時代はトラック競技に傾倒し、世代のトップを走ってきた。その名残というべきか、山岳だけでなく本来はタイムトライアルも得意なのだとか。順調に力をつけていけば、オールラウンダーとしてチームを背負う存在にもなり得る。いまは、そのために鍛練を重ねる時期といえそうだ。

 出身はブルターニュ半島西端のブレストという街。そんなこともあって、しばらくは地元プロチームのフォルトゥネオ・ヴィタルコンセプト(現アルケア・サムシック)で走ることに憧れていたこともあったのだとか。そうなっていれば、また違ったレーサーキャリアだったことだろう。

 自転車選手としてだけでなく、電子工学を専攻する学生としても優秀な成績を残していたのだそう。「柔軟にスケジュールを組むことができる」という理由で、プロ入りからしばらくは学業との両立も図った。「競技活動を終えた後に何をすべきか考えたら、エレクトロニクスの道は自然な選択だった」。引退してからも、この分野について学び続けるつもりだという。とはいえ、順調に走っているところを見る限り、それはまだまだ先のことだろうけれど。

しばらくは学業との両立でレース活動を行ったが、当面はロードレーサーとしてのキャリアを優先。それでもセカンドキャリアでは再び電子工学を学ぶと決めている =イル・ロンバルディア2019、2019年10月12日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

この記事のコメント

この記事のタグ

UCIワールドツアー ロードレース 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載