title banner

栗村修の“輪”生相談<174>10代男性「自転車でのフィジカルの才能が自分にあるかをどう判断したらいい?」

  • 一覧

 
 10代男性です。自転車でのフィジカルの才能が自分にあるかどうか、どう判断したら良いですか?

(10代男性)

 短いですが、秘めた情熱を感じさせるご質問ですね。

 僕はなんども、選手としての能力は才能+努力の結果だと話してきました。努力が美化されがちなこの国では、才能を重んじると反感を覚える方が多いことも事実です。しかし、競争のレベルが上がれば上がるほど努力だけで目標を達成しにくくなるのは間違いありません。努力だけでツール・ド・フランスを勝った選手がいるでしょうか? 才能だけでツールを勝った選手がいないのと同じです。

 もちろん、才能を重視した意見は努力をサボる言い訳に使われるリスクがありますから、正直言えば選手にはあまり聞かせたくないのですが、指導者は才能の重要性を知っておく必要があります。

 さて、その上でご質問に答えましょう。才能は重要ではあるのですが、才能の有無を判断するのは簡単ではありません。ジュニアやU23の最前線にいる世界トップクラスのコーチ陣ならある程度は選手の将来を見通せるのかもしれませんが、かといって誰が10年後のツールを勝っているのかはわかりません。

 もちろん、1年間真剣に練習しても日本のホビーレースの初心者クラスを完走できない若者が、将来ツールを勝つ可能性はほぼゼロです。しかしそんな極端な例はまずありませんし、さほど顕著な成績を出せなかった選手がその後大成するケースも珍しくありません。たとえば、若いころのクリス・フルームは確かに強かったですが、ずば抜けて強かったわけではありません。22歳で出場したツアー・オブ・ジャパンでは、伊豆ステージで勝ったものの富士山ステージでは6位で、個人総合成績も6位でした。したがって質問者さんがご自身の才能を把握するためには、知識のあるコーチの下で、最低でも1年間はみっちり練習しなければいけません。

2007年、22歳のフルーム。ベルナルが昨年22歳でツール・ド・フランスを総合優勝したが、22歳のフルームは当時まだずば抜けた選手ではなかった。しかしこの後10年でツール・ド・フランスを4度制覇する Photo: Yuzuru SUNADA

 その上で、年齢やキャリア、練習内容などの環境が自分と似ている周囲の選手よりも強くなれば、質問者さんにはフィジカルの才能があることになります。理論的には、その後も同じ環境にある者にずっと勝ち続けていけば、いずれはツール・ド・フランスにもたどり着けるということになるでしょう。

 才能を判定する難しさは条件によって変わります。まず年齢。10代だという質問者さんですが、もし15歳なら将来の伸びしろが多いため、1年間のトレーニングで完璧に見抜くのは困難です。

 また、目標のレベルが高いほど才能の判定は簡単になります。冒頭で述べたように能力とは才能+努力ですが、困難な目標であるほど能力に占める才能のウェイトが高まるからです。もし質問者さんがツールの総合優勝を狙っているなら、1年もあれば必要な才能があるかどうかは分かるでしょう。しかし目標が全日本選手権の勝利だったら、才能がそれほどでなくても努力のウェイトを増やせば目標に手が届く可能性がありますから、才能が十分かどうかを1年で判定するのは難しくなります。

 いずれにせよ自分の才能を見極めるときには、

・まわりと同じことをしているのに自分の伸びや成績が明らかに良い
・まわりよりも研究したりアドバイスを聞くのが好き
・まわりよりも努力が苦にならない。あるいは自転車が好きなため努力を努力だと思っていない

というように、「まわり」との比較がポイントになります。一人で思い悩まないでくださいね。

 話が複雑になりますが、「努力」について重要なことを付け加えると、自転車競技は比較的努力が占めるウェイトが大きいうえ、努力の内容はとても多様なのです。努力というとフィジカルトレーニングばかりを想像しがちですが、フォームやペダリングの洗練や走行テクニック、レーススキルの上達、正しい栄養の摂り方や休息方法を知ることも重要な努力です。もし海外を目指しているなら、外国語の能力や海外で生活するスキルも将来を左右するでしょう。バイクにまたがって走ることばかりが努力ではないのです。

 さて、ここまで「能力=才能+努力」という方程式に従ってお話してきましたが、ここでもう一つ、「吸収力」という言葉を付け加えさえてください。すなわち、より厳密には「能力=才能+努力+吸収力」だと思うんです。

 吸収力も才能の一つと言ってしまえばそこまでなのですが、12年間監督していろいろな選手に接してきた立場からすると、同じ練習メニューをこなして同じレースに出場し、同じアドバイスを与えても、それらを消化して能力に変える速度には大きな個人差がありました。

 1年目からいきなり強くても、その後、カラダもアタマも周囲からほとんどなにも吸収できずに、伸び悩んでしまう選手はそれなりにいました。一方、最初はそれほどでもなかったのに、練習やアドバイスをどんどん力に変えていき数年目から大きく化けた選手もいました。フルームなど遅咲きの選手は、ひょっとするとこのタイプなのかもしれませんね。

 というわけで、「能力=才能+努力+吸収力」という方程式を念頭に、質問者さんの能力が目標に対して十分かどうか、よーく見極めてください。焦る必要はないのです。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

この記事のタグ

栗村修の“輪”生相談

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載