福田昌弘さんが現地リポート乗り手とフィッターを繋ぐフィッティングシステムとは? ベルギーの最前線に迫る

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 自転車のポジションの悩みは万国共通です。サイズやセッティングが合わないと体に不調をきたすこともあるでしょう。いかにして快適で速い“正解”へと近づけるのか。そのヒントを探るべく、フィッターの福田昌弘さんがベルギーの施設を往訪。最新の計測機器や風洞施設、その理論について取材しました。3回連載に渡ってレポートをお届けします。

グランフォンド世界選手権(40-44歳)3位の高岡亮寛(Roppongi Express)さんが最新のフィッティングシステムを体感 Photo: Masahiro FUKUDA

リアルタイムでモーションを可視化

 「人間を変えるのは難しいが、自転車を変更するのは簡単だ」とは、近年のバイクフィッティングの祖とも言える、アンディ・プルーイット氏の言葉です。 腰が痛い、膝が痛い、足が痛い…そのためにサドルの高さはどうすれば? サドルは何センチ? ハンドルの幅は??? と自転車のポジションにまつわる悩みは尽きません。 ライダー個人では簡単には解決できないパラメータを一緒に模索し、解決に導くのがバイクフィッターの仕事です。

ベルギーにあるビオレーサー本社を訪れた Photo: Masahiro FUKUDA

 そのバイクフィッターの負担を下げて、ライダーにも理解しやすいようにデータでポジションやライディングフォームを可視化するための仕組みも増えてきました。 取材したのは、ベルギーに本社を置く「Bioracer(ビオレーサー)」が提供している3Dフィッティングシステム「Bioracer Motion」です。

 このシステムは自転車の左右に三眼のカメラを設置し、自転車やライダーを撮影することで自転車のポジションやペダリングのモーションを可視化することができます。特徴は片側に3つのカメラがあるため、深度が正確に計測できること。また、左右の動きを組み合わせて、ライダーのペダリングを立体的に再現できることです。

1秒間に120回の撮影を可能にする三眼のカメラを用いる Photo: Masahiro FUKUDA

 ペダリングは、骨盤を起点として、股関節+膝関節+足関節が伸びたり縮んだりを繰り返すだけの動きです。 サドルの上で骨盤が動かなければ問題ないのですが、実際には骨盤が傾いたり左右にねじれていたりします。これによって股関節の位置が不安定となり、右脚よりも左脚が長く感じたり、あるいは左の脚を伸ばすのがつらい、腰が痛くなる等々、様々な問題が起きやすくなります。

オリジナルの冶具を使って身体を計測していく Photo: Masahiro FUKUDA

 今までにも左右で独立して計測するシステムはありましたが、Bioracer Motionは、左右を同時に撮影して解析することにより、骨盤の動きも分かります。 今回は、UCIグランフォンド世界選手権での優勝を目指す、チームメイトでもある高岡亮寛(Roppongi Express)で実際の計測を行いました。 高岡自身は普段から左側が右側よりもパワーが高いことを把握していましたが、Bioracer Motionでみると、ペダリング中に右の股関節に比べて左の股関節が大きく動いていることなども分かります。

膝の軌道を安定させるため、インソールも同時に作成した Photo: Masahiro FUKUDA

 順番が前後しますが、Bioracer Motionでのフィッティングの具体的な流れを説明します。 まず最初に自転車に乗らず、各部の計測を行います。身長や脚の長さ、腕の長さ、肩幅などを特殊な治具を用いて計測します。彼らの強みは、こういった治具を自作していることで、どの道具もちょっとした工夫があり、実際の現場で使いながら開発されたということで、よく分かります。

 今回は、インソールの作成も行いました。BioracerのインソールはSIDAS社のものですが、より強いサポートを得るために特注しているそうです。 インソールを入れる目的は足とシューズとのコンタクトポイントを増やして安定性を増すこと。結果として膝の軌道を安定させて、脚の動きに対するパワーのロスを減らすことです。

 そのため、作成時は特に膝の位置に対して気を配っていました。 少し大胆ですが、この時点で母趾球の位置に合わせてペダル軸が来るように、クリート位置も決めてしまいます。 Bioracer Motionでは自転車のサイズも簡単に測定することができます。 フレームやハンドル、サドルなど、特徴点に対してマーカーを置き、カメラで撮影するだけで瞬時にフレームサイズが分かります。フィッティングの前後でどのように変化したかを確認するために、事前にバイクのサイズ計測を行いました。

特徴点にマーカーを置き、事前にサイズを計測。フィッティング後との差を測るためだ Photo: Masahiro FUKUDA

フィッター乗り手へ即座に反映

 いよいよ実際のフィッティングに入ります。身体の各ポイントにマーカーをつけたうえで撮影します。Bioracer Motionは、120Hz、一秒間に120回の撮影を行います。過去にあった同様のシステムでは18Hz程度であったため、クランク一回転分のデータを撮影するために、ある程度の時間をかけてペダリングをする必要がありましたが、このシステムでは瞬時に測定が可能です。

 高岡の場合、全体的に骨盤が左に傾いており、右脚の動きに問題があると気がついたようです。このときも正面にあるモニターで動きを見せながら説明されるため、ライダーも自分の動きがどのようになっているかを視覚的に理解しやすくなっています。

被験者の高岡亮寛さんは骨盤が左に傾いていた Photo: Masahiro FUKUDA
ライダーが自分の動きを確認しながら作業を進める Photo: Masahiro FUKUDA

 どれだけ高度なシステムであっても、出てきたデータに対して提案を行なうのはフィッターです。今使っているサドルは標準的な143mm幅のもの。しかし、それではサドル幅が広すぎるということで、134mm、128mmと順に試しながらデータを比較していったところ、128mmのものが良いということになりました。実際に高岡の坐骨幅を測ってみると125mmと、標準的な体型の人に比べると狭めであり、フィッターの提案としても理にかなっていたことが分かります。

 次に変更したのはハンドルの幅、こちらは取り付け位置を調整して、少し狭めになりました。このような形で、少しづつポジションを変更しながら計測が行われますが、瞬時に全体の動きが可視化されるため、ライダーの負担を最小限に抑えることが可能です。最終的にバイクのポジションを計測し直して、結果のレポートを印刷して終了。

 高岡にフィッティング後の感想を求めたところ、元々は128mmのサドルを使っていたが廃盤になるものが多く、入手しづらいので143mmを使っていたとのことでした。ということで、本人も納得の結果で128mmのサドルを早速購入していました。

乗り手のリアルタイムの動きを可視化し、ライダーの負担を軽減。フィッターも提案がしやすい環境になってきている Photo: Masahiro FUKUDA
一般のサイクリストも同様のフィッティングを受けることができる Photo: Masahiro FUKUDA

 近年のフィッティングシステムでは計測精度、速度が高まってきており、ライダーは少ない負担で自分の動きの変化を確認できるようになってきました。
Bioracer Motionでは左右の動きを同時に高速に計測して3Dに可視化できるため、フィッターも多くの提案がしやすくなっていると感じました。

 日本では展開されていませんが、ベルギーへ行けば、誰でもフィッティングを受けることが出来るそうです。ベルギーへ自転車を持っていかれる方、ぜひトライしてみてください。

福田昌弘福田昌弘

自転車競技コーチで、「ハムスタースピン代表」。現職はソフトウェアエンジニアだが、身体の動きに興味を持ったことがきっかけで、医学部博士課程にも進学。海外の自転車学会でも積極的に発表を行っている。社会人チーム「Roppongi Express」で趣味のレースも楽しんでいる。2018年の全日本マスターズTTでは3位、トライアスロンでも表彰台に上るなど、各方面で積極的に活動している。

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