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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<328>ポガチャルの“絶対エース”化で将来に向けた構築は順調に UAE・チームエミレーツ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 1月の半ばに始まったロードレースシーズンにおいて、すでに8勝を挙げて勢いに乗るのがUAE・チームエミレーツ。潤沢な資金ばかりに依存せず、選手たちの能力や個性を引き出すチームの方向性が、ここ数年で完全に板についた印象だ。その筆頭格として絶対的な存在にまでなったのが、21歳のタデイ・ポガチャル(スロベニア)である。昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでの個人総合3位が記憶に新しいが、今シーズンも順調な戦いぶり。もはや、その成長スピードには時代が置いていかれつつあるほどだ。また、彼以外にも各所で軸になる選手がそろい、いよいよ世界の頂が見えるところまでチーム力はアップしている。

ホームレース「UAEツアー」を戦うUAE・チームエミレーツ。シーズン序盤の最大目標と位置付ける Photo: Fabio Ferrari

ポガチャルはホームレース「UAEツアー」をツールに向けた足掛かりに

 本記執筆時点で、チームはホームレースである「UAEツアー」を戦っている。UCIワールドツアーでは3週間ぶり、各地でのビッグレースへとつながっていくきっかけ的な位置づけとなる、中東での一戦。UAEチームエミレーツは、他チームと比べてひと足早く“シーズン序盤最大の目標”となる戦いを進めている。

 大会との直接的な関係こそないものの、国家プロジェクト的な意味合いのもと運営されるチームだけに、そこはやはり個人総合優勝が至上命題となる。この大会の前身でもあるアブダビ・ツアー時代の2017年にはルイ・コスタ(ポルトガル)が制覇しており、それ以来の戴冠に挑んでいる。

UAEツアー制覇という大きなミッションに挑んでいるタデイ・ポガチャル Photo: Yuzuru SUNADA

 タイトル獲得という大きな任務を課されているのが、いまや押しも押されもせぬスーパーエースとなったポガチャルだ。

 昨年、まだ20歳でプロの世界に飛び込んだスロベニア人ライダーは、誰も予想できなかったほどの快進撃を演じる。2月のボルタ・アオ・アルガルヴェ(ポルトガル、UCI2.HC)でプロ初の美酒を味わうと、その3カ月後にはツアー・オブ・カリフォルニアでUCIワールドツアー初タイトル。大会後半の山頂フィニッシュを制し、ステージレーサーとしての可能性を確たるものとした。

 実のところ、カリフォルニアの時点ではシーズン中のグランツール出場予定がなく、1週間程度のステージレースや起伏の多いワンデーレースで自らを磨く見通しだった。ところが、である。方針変更で出場することになったブエルタで自らも驚きの大躍進。新人賞争いに加わったつもりが、要所での仕掛けを次々と成功させるうちに個人総合でも順位を上げる結果に。特に第20ステージでの驚異の独走劇は、グランツール初出場初表彰台にとどまらず、大物としての評価を決定づける走りであった。

2019年のブエルタ・ア・エスパーニャではグランツール初出場ながら個人総合3位を収めたタデイ・ポガチャル。第20ステージでは衝撃の独走劇を演じた =2019年9月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 走りの特徴として、距離の長短や勾配の緩急を問わずハイスピードで押していける登坂力と、アタック1つで勝負できる要所での決定力が大きな武器となっていることが挙げられる。タイムトライアルも得意としており、グランツールレーサーとしての資質は問題なし。3週間の戦いをまだ1度しか経験していない点で、ステージ編成によってどう戦うのかといった疑問は浮かぶが、それもこの先の楽しみとして捉えられるほどに、彼の可能性は日々大きくなっている。

 “飛び級”でプロとしての歩みを進めながら迎えた今シーズン。「まだまだ学ぶべきことは多い」というのは本人談だが、並行してチームを背負って結果を求めていくことにもなる。2月に入ってレース活動をスタートさせ、初戦のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(スペイン、UCI2.Pro)でステージ2勝した勢いで総合でも快勝。現在戦っているUAEツアーでは、第3ステージまでを終えて個人総合2位。大会後半に逆転をかける。

 「今年最初のターゲットレース」と明言するUAEツアーをどんな形で終えるかも、長いシーズンを見据えるうえで楽しみなところ。ここで大きな成果を挙げるとなれば、その先にも勢いづくことになるだろう。ちなみに、3月に入ればパリ~ニースやミラノ~サンレモ(新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため開催審議中)、4月にはアルデンヌクラシックへの参戦を予定。

 そして、今シーズンはツール・ド・フランスに初挑戦することも内定済み。新人賞「マイヨブラン」候補としてだけでなく、マイヨジョーヌ争いに加わることも期待してよさそうだ。

体制強化でガビリア復権へ

 お家芸でもあるスプリントは、フェルナンド・ガビリア(コロンビア)がチーム一番手となる。

2020年はスプリント戦線での復権を目指すフェルナンド・ガビリア(右から2人目)。その左は発射台を務めるマキシミリアーノ・リケーゼ Photo: Yuzuru SUNADA

 プロトンきってのスプリンターとして勝利を量産したのがクイックステップフロアーズ(現・ドゥクーニンク・クイックステップ)時代の2017年。この年は14勝を挙げ、ジロ・デ・イタリアでもステージ4勝に加えて、ポイント賞のマリアチクラミーノに輝いた。

 しかし、その後は勝利数が減少。現チームでの初年度であった昨年は6勝にとどまったばかりか、ジロを途中でリタイア。ブエルタに参戦もよいところなく終わってしまった。

 ただ、「2020年シーズンのために」として参戦した昨季最終戦のツアー・オブ・広西(中国)でステージ2勝を挙げ、ポジティブにシーズンを終えられたことはよかったと本人も話す。自信を失うことなく新たなシーズンに入ることができているといい、実際に今年最世のレースであったブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン、UCI2.Pro)ではステージ3勝。格の違いを証明してみせた。

 フィニッシュ前200mからの爆発的スピードと、その直前までのポジショニングに定評のあるガビリアだが、同様の長所を持つ選手が多く群雄割拠の様相となっているスプリント戦線。ほんのわずかな違いがフィニッシュでの差となる現状にあって、自身もチームも、まずはスプリントに持ち込むまでをいかに構築していくかがポイントとの考えに至った。

1月のブエルタ・ア・サンフアンでステージ3勝。好調なシーズンインを果たしたフェルナンド・ガビリア(写真は第4ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 そこで今シーズン、発射台としてマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)をドゥクーニンク・クイックステップから獲得し、リードアウト強化を進める。クイックステップフロアーズ時代にチームメートだった両者。リケーゼからガビリアのホットラインで、数多くの勝利を稼いできた。まもなく37歳を迎えるリケーゼだが、巧みなポジショニングとトップスプリンター並みのスピードを誇り、その働きぶりは“世界一の発射台”とも称されるほど。ガビリアにとっては、復権に向けて条件は整った。

 今シーズンは強い希望もあり、ツールでエーススプリンターを務めることでまとまっている。2年前の第1ステージで勝利し、マイヨジョーヌに袖を通したが、その時以来の活躍を誓ってフランスへと乗り込むことになる。

北のクラシックでエースを務めるアレクサンダー・クリストフ。昨年のヘント〜ウェヴェルヘムの再現となる勝利を目指す =2019年3月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 本格的なスプリントはガビリアに任せて、主戦場でもある北のクラシックでのタイトルを目指すのが、アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)。昨年はガビリアとの共闘の機会もあり、状況によっては発射台を快く引き受けたが、チーム事情が変わったこともあり得意とするレースに集中できる見込みとなった。

 2014年にはミラノ~サンレモ、2015年にはツール・デ・フランドルを制するなど、スピードとレース運びでビッグレースを制してきた。かつてほどのスプリント力こそないものの、昨年もヘント~ウェヴェルヘムを制し、フランドルでも3位と、石畳系レースでの強さは健在。2月以降数レースをこなしているが、同月末に控えるクラシック初戦のオンループ・ヘットニュースブラッド(ベルギー)に向けて調整していることを公言。着々と調整を進めている。

 なお、クラシックシーズン後はジロ出場に向けて準備をするとしている。ここ数年出場してきたツールはチーム事情を鑑み、回避する意向を示している。

 ガビリアやクリストフに続くスピードマンの養成も進んでおり、ツアー・ダウンアンダーでポイント賞を獲得したジャスパー・フィリプセン(ベルギー)や、ガビリアのリードアウトマンとして走りを磨いてきたフアン・モラノ(コロンビア)といった選手にも今季はチャンスが訪れそうだ。

昨年のUCIワールドランキングを上回る躍進に期待

 現在のチーム体制となったのが2017年シーズン。前身のランプレ・メリダ時代からの戦力を生かしつつも、将来に向けた若手育成にも力を注いできた。いまもそのスタンスは変わっておらず、前述のポガチャルは別格とはいえ、その他の若い選手たちも既存の戦力との融合が十二分に可能なところまで状況は整っている。

クラシックシーズンには中心選手として戦うことになるディエゴ・ウリッシ。ツアー・ダウンアンダー個人総合2位と好スタートを切った =2020年1月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 何より、昨年のUCIワールドランキング4位という数字が、それを証明しているといえよう。ポイントの多くをクリストフやディエゴ・ウリッシ(イタリア)、ポガチャルといった実力者が稼ぎ出しているとはいえ、彼らが勝負できるところへと引き上げていくアシスト陣の働きは見逃すことができず、さらにはそうした下積みを経てエースクラスへと成長していく伸び盛りの選手が多いこともチームを語るうえでは挙げられる。その意味では、ポガチャルやスプリンター陣に限らず、次々と選手たちの名を聞くことになるだろう。

 アルデンヌクラシックの時期になれば、ウリッシが中心選手として走ることになる。ツアー・ダウンアンダーで個人総合2位と、開幕ダッシュに成功。UAEツアーでもステージ優勝争いに加わるなど、これまでになく好調なシーズン序盤を送る。

 ポガチャルが挑むツールに限らず、ジロやブエルタに向けた態勢の整備も進行中。総合エースはダヴィデ・フォルモロ(イタリア)とダビ・デラクルス(スペイン)の新加入組が担当予定。両レースとも、共闘で個人総合トップ10入りを目指していくことになる。

 さらには、かつてのブエルタ王者、ファビオ・アル(イタリア)の復活なるかも注目。昨年は脚の手術やウイルス感染で不本意なシーズンを送ったが、心身ともに戦える状態にまで上げていけるか。ツールを目標にすることを宣言しており、調子が戻ってくれば大きな戦力となる。

UAE・チームエミレーツ 2019-2020 選手動向

【残留】
ファビオ・アル(イタリア)
トム・ボーリ(スイス)
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
フェルナンド・ガビリア(コロンビア)
セルジオ・エナオ(コロンビア)
アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)
マルコ・マルカート(イタリア)
ヨウセフ・ミルサ(アラブ首長国連邦)
フアン・モラノ(コロンビア)
クリスティアン・ムニョス(コロンビア)
イヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル)
ルイ・オリヴェイラ(ポルトガル)
ジャスパー・フィリプセン(ベルギー)
タデイ・ポガチャル(スロベニア)
ヤン・ポランツ(スロベニア)
エドワルド・ラヴァージ(イタリア)
アレクサンドル・リアブシェンコ(ベラルーシ)
オリヴィエロ・トロイア(イタリア)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)

【加入】
アンドレス・アルディラ(コロンビア) ←EPM・スコット(アマチュア)
ミッケル・ビョーグ(デンマーク) ←ハーゲンズバーマン・アクセオン
アレッサンドロ・コーヴィ(イタリア) ←チーム コルパック
ダビ・デラクルス(スペイン) ←チーム イネオス
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ) ←EFエデュケーションファースト
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア) ←ボーラ・ハンスグローエ
ブランドン・マクナルティ(アメリカ) ←ラリー・UHCサイクリング
マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン) ←ドゥクーニンク・クイックステップ

【退団】
シモーネ・コンソンニ(イタリア) →コフィディス
クリスティアン・デュラセク(クロアチア) →未定
ロベルト・フェラーリ(イタリア) →引退
ダニエル・マーティン(アイルランド) →イスラエル・スタートアップネイション
マヌエーレ・モーリ(イタリア) →引退
シモーネ・ペティッリ(イタリア) →サーカス・ワンティゴベール
ローリー・サザーランド(オーストラリア) →イスラエル・スタートアップネイション

今週の爆走ライダー−ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チームの育成方針は、選手にとっても環境を選ぶにあたって重要なファクターとなる。21歳のアメリカ人、ブランドン・マクナルティにとっても、フルタイムレーサーになるにあたって最適なチームはどこであるかの最終判断は、「自分をどのように育てようとしているのか」だった。

UAEチームエミレーツのスーパールーキー、ブランドン・マクナルティ。山岳、タイムトライアルともすでにワールドクラスの力を持つ =ブエルタ・ア・サンフアン第5ステージ、2020年1月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もっとも、トップのプロチーム入りのチャンスはジュニアカテゴリーを卒業した2017年からあった。その頃から多くのオファーを受けていたというが、年齢的にプロ入りには早すぎることと、自国でもう少し過ごしたいという思いを優先していた。それでも、得意とするタイムトライアルではロード世界選手権アンダー23カテゴリーで2回表彰台に立ち、昨年はジロ・ディ・シチリア(イタリア、UCI2.1)での個人総合優勝で関係者を驚かせるなど、しっかりと結果を残すことができた。ヨーロッパ行きを焦らなかったことで、のびのびと、ゆっくりと力をつけていくことができた。

 そして何より、トップシーンに飛び込むタイミングを自分で判断できることも大きかった。毎年多数のオファーを受け、返事1つでプロ入りできる状況を作り出したのは自らの力。本音を言えば、「もう少しアメリカで走っていたかった」というが、一方でUCIワールドツアーで勝負したいという思いが強くなっていったことも事実。「ワールドツアーで走ることに対して純粋な興奮が得られる」今こそ、チャレンジする時期だと悟った。

 同世代の中でも登坂力とタイムトライアル能力が特に秀でている、というのがチームの評価。これらを高いレベルで組み合わせることができれば、いまからでもステージレースで上位を狙うことができる。実際に、ブエルタ・ア・サンフアンやブエルタ・ア・アンダルシア(スペイン、UCI2.Pro)では山岳でステージ優勝争いにも加わり、個人タイムトライアルでの好走から総合成績をアップさせてみせた。総合エースとして必要な能力を持ち合わせていることを証明した。

 チーム方針もあり、あまり結果を急ぐ必要はなさそうだが、「将来のため」に今年はブエルタを走る見通しになっている。昨年は同じような扱いだったポガチャルがブエルタで羽ばたいたが、観る者としてはその再現についつい期待してしまう。1998年生まれという点でも共通しているのは何の因果か。今年は若きアメリカンオールラウンダーが何か大仕事をやってのけるかもしれない。

ブエルタ・ア・アンダルシアでは山岳ステージで優勝争いに加わった(写真左)。プロ1年目から大物たちと肩を並べて走ることも多くなりそうだ =2020年2月22日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー ロードレース 週刊サイクルワールド

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