バイクインプレッション2013オオマエジムショ「アプレ・スタンダード」 懐かしさと進化が共存するセミオーダーのツーリング車

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オオマエジムショのオリジナル・ツーリング車「アプレ・スタンダード」オオマエジムショのオリジナル・ツーリング車「アプレ・スタンダード」

 自転車趣味の世界ではロードバイクが全盛だが、一方でランドナーなどツーリング自転車を見直す機運もじわじわと高まっている。そんな中、産経新聞社内の自転車好きが、東京・浅草に昨秋オープンしたツーリング車専門店「オオマエジムショ」でランドナーを製作した。「Cyclist」としては、これを試さないわけにはいかない。今回は、かつてランドナーで世界の山脈を駆け巡ったアドベンチャーサイクリストの瀬戸圭祐さんに試乗をお願いし、コラムを寄稿してもらった。

◇           ◇

“滅亡の危機”から復活 好奇心と冒険心をかなえてくれる自転車

 1970年代、サイクリング車と言えばランドナーであった。自転車旅行に明け暮れる大学サイクリング部の標準車も、ランドナー。昭和のスポーツサイクルを代表する存在だった。

旅のシーンが似合うツーリング車「アプレ・スタンダード」旅のシーンが似合うツーリング車「アプレ・スタンダード」

 ところが、80年代後半からマウンテンバイク(MTB)が普及し、90年代半ば以降はクロスバイクが浸透。そして近年はロードバイクが大きなブームとなる中で、まるで源氏の台頭に追いやられる平家のように衰退し、滅亡へと向かっていった…ランドナーはそんな悲しい歴史(?)を歩んできた。

旅先で休憩しながら地図を確認。こんなシーンが様になるのはツーリング車ならでは旅先で休憩しながら地図を確認。こんなシーンが様になるのはツーリング車ならでは
フロントバッグのカバーに地図をはさむだけで、旅への期待にワクワクしてくるフロントバッグのカバーに地図をはさむだけで、旅への期待にワクワクしてくる

 しかし、平家の落人として細々と生き延びたランドナー愛好家たちは、時代に流されず、その勢力を着々と復活させ始めている。加えて、昨今のスポーツサイクルブームで、昭和の時代にランドナーでサイクリングを楽しんだ世代が再び自転車に乗り始める際に、ロードバイクに違和感を覚え、「やっぱりランドナーだ!」と戻ってくるケースも増えているようだ。

Wレバーで変速する瞬間。まさに愉悦のひとときWレバーで変速する瞬間。まさに愉悦のひととき

 もちろんロードバイクやMTBなどは素晴らしい。より速く、より快適に走ることができ、私もそれぞれ大いに楽しんでいる。

 ただ、人間の本能には、速さや快適さを求めるだけではなく、「その先には何があるのだろう」「新しい世界へ自分の力で行ってみたい」という好奇心があり、それをかなえてくれる道具の一つが自転車である。

 そう、好奇心や冒険心の原点にある自転車が、ランドナーである。フランス語で小旅行・遠乗りを意味する、100年以上の歴史がある素晴らしいサイクリング車なのだ。

 その復刻版とも言える最新のランドナーに試乗できる機会が巡ってきた。中学から大学時代にランドナーで日本全国や世界の山脈を走り回った私は色めきたった!

自分の原点を感じるノスタルジー

 今回の試乗車は、自転車ツーリングをこよなく愛するサイクルジャーナリストの大前仁さんが運営する「オオマエジムショ」のオリジナルセミオーダー車「Apres(アプレ) スタンダード」。

オオマエジムショのオリジナル・ツーリング車「アプレ・スタンダード」オオマエジムショのオリジナル・ツーリング車「アプレ・スタンダード」

 伝統的なフランス風ツーリング車の雰囲気を最大限に残しつつ、現行の最新パーツを使って「ゆっくりと快適に旅するための自転車」というコンセプトでつくられている。

 乗ってみてまず感じたのはノスタルジー。田舎の実家に戻って、母の手料理に自分の原点を感じるような思いだ。

 久々に乗るクロモリフレームのしなやかな乗り心地。軽く硬いアルミにはない、ネバッとした感触。カーボンほどは柔らかくない心地よい路面感覚。料理の調味料に例えるなら、刺激的なスパイスやソースではなく、食材を選ばないでマルチな味付けができる醤油や味噌といった感じであろうか。

ちょっとした未整地なら平気。安定した乗り味がツーリング車の特徴だちょっとした未整地なら平気。安定した乗り味がツーリング車の特徴だ

 その乗り心地に貢献しているのが、グランボア・リエール650×36Bのタイヤである。タイヤの幅は37mmとのことだが、その太さを感じさせない軽快感と、路面に吸い付くようなグリップ感を両立している。

 下りのカーブをハイスピードで駆け抜ける時には、ロードバイクではありえない安定感がある。リーンアウトの態勢で車体を大きく倒しても、タイヤがグニュッと路面を捉え、スリップのリスクを全く感じなかった。

山岳サイクリストだった若き日を思い出し、斜面を駆け上る瀬戸さん山岳サイクリストだった若き日を思い出し、斜面を駆け上る瀬戸さん
急な下り坂ではお尻を引いて後輪のトラクションを確保急な下り坂ではお尻を引いて後輪のトラクションを確保

 不整地や急斜面などにもトライしてみたが、しっかりしたグリップ力で安定した走破性を見せ、ポテンシャルの高さを感じることができた。

昔、このブレーキがあったなら…進化を体感

 フレームサイズは530mmだったが、大きさの割には取り回しがしやすく、同じようなサイズのMTBに比べて機敏さには欠けるが、信頼感のある操作性に安心感を覚える。

フロントバッグや、ブレーキレバーからせり上がったアウターケーブルがノスタルジーを感じさせるフロントバッグや、ブレーキレバーからせり上がったアウターケーブルがノスタルジーを感じさせる
ツーリング車の象徴的アイコンといえるカンティレバーブレーキツーリング車の象徴的アイコンといえるカンティレバーブレーキ

 ブレーキ本体は、今やシクロクロスバイクでしか見かけることがなくなった、昔懐かしいカンティレバーブレーキ。もちろん昭和のランドナーの定番ではあったが、Vブレーキやディスクブレーキの登場、サイドプルブレーキの飛躍的な性能向上などにより、こちらも平家の落人となっていた。

 とはいえ、昭和の時代のカンティブレーキはネチャッとした効き具合であったが、このミスターコントロール製カンティブレーキは、柔らかな操作感でもしっかりした制動力を発揮し、進化を体感できる。

 その昔、カラコルム山脈やヒンズークシュ山脈の荒れた峠の下りを走った頃に、このカンティブレーキがあったなら、転倒する回数もずっと少なくて済んだかもしれない。

未整地でチェーンが暴れてもフレームを傷つけないよう、チェーンステーには“ゴム帯”のガードが設けられている未整地でチェーンが暴れてもフレームを傷つけないよう、チェーンステーには“ゴム帯”のガードが設けられている
ブルックスのサドルはまだ新品同様。これから歴史が刻まれ、お尻の形に沿って変形していくブルックスのサドルはまだ新品同様。これから歴史が刻まれ、お尻の形に沿って変形していく

 強いて気になるポイントをあげるとしたらハンドルバーである。オオマエジムショのオリジナル版として復刻された日東製の平行マースバーという製品が装着されていたが、細めのタイプなので長時間乗ると手が痛くなりそうだ。私の経験に基づく好みを言えば、バー上面の両肩の部分が緩やかに盛り上がった形状の、ランドナーバーの太めのタイプが欲しいところ。これはオーダー時に選択できるという。

ランドナーに乗れば、ゆったりした気持ちになれる

 バーテープはオーソドックスな綿だが、柔らかさのあるクッションタイプだと手の痛みも長時間乗車の疲れも軽減できる。しかし綿のバーテープがほつれてきて、そのためテープを重ねて二重に巻き、さらにそれがほつれてきて…というように、使い込んだ自転車が放つ風格は、ランドナーでしか味わえないだろう。ランドナーはピカピカの新車よりも、走りこんだ経験が見えるほうがカッコいいのである。

まばゆい輝きを放つクランクはサンエクシード、またチェーンリグは米国のベロオレンジ製まばゆい輝きを放つクランクはサンエクシード、またチェーンリグは米国のベロオレンジ製
シートステーは当然のように二本巻きシートステーは当然のように二本巻き

 そして言うまでもなく、ランドナーは速く走るための自転車ではない。残念ながら昨今、特に華やかなロードバイクの世界において、一部の心無き人々が、速さを求めてかっ飛ばして周りに迷惑をかけたり、信号無視をしたり、交通法規やマナーを守らなかったりする状況が散見されている。

前照灯は昔ながらの懐中電燈の風情だが、実はLEDライト前照灯は昔ながらの懐中電燈の風情だが、実はLEDライト
「apres」(アプレ)のヘッドマーク(カンティレバーブレーキが写らないよう、ハンドルを切った状態で撮影)「apres」(アプレ)のヘッドマーク(カンティレバーブレーキが写らないよう、ハンドルを切った状態で撮影)
神妙な表情で試乗を続けていた瀬戸さんは、最後に笑顔でこのポーズ!神妙な表情で試乗を続けていた瀬戸さんは、最後に笑顔でこのポーズ!
試乗車のオーナー(手前)と談笑する瀬戸さん =埼玉県戸田市のABCキュービック試乗車のオーナー(手前)と談笑する瀬戸さん =埼玉県戸田市のABCキュービック

 私もロードバイクに乗る機会は多いが、ランドナーに乗ればゆったりした気持ちになって、のんびりと走りを楽しむことができる。

 ランドナーが本格的に復権し、スポーツサイクルの主流に返り咲けば、自転車乗りが白い眼で見られる事も少なくなっていくのではないか? そんな願望を抱いている。

瀬戸 圭祐瀬戸 圭祐(せと・けいすけ)
1960年大阪府生まれ。自転車通勤やツーリングをアクティ ブに楽しむ“ジテツーリスト”。中学高校時代にランドナーで日本全国を走り、その後北米大陸ロッキー山脈、北極圏スカンジナビア山脈、欧州アルプス山脈、西ヒマラヤ/カラコルム山脈、ヒンズークシュ山脈などを単独縦断走破。著書は「ジテツウ完全マニュアル」「爽快!自転車バイブル」「自転車ツーリング ビギナーズ」「自転車生活スタートガイド」など多数。現在は自動車会社に勤務しつつ、NPO自転車活用推進研究会理事や(財)日本自転車普及協会の事業評価委員などを務め、自転車の楽しみとシアワセを広める活動を行っている。

(撮影協力:ABCキュービック
 

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