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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<327>“脱・バルデ頼み”でチームの底上げを図る アージェードゥーゼール ラモンディアール 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ここ数年、チームの絶対的エースとしてツール・ド・フランスをメインに戦ってロマン・バルデ(フランス)。過去2度、パリ・シャンゼリゼの総合表彰台を経験し、フレンチライダーとしての悲願であるツール制覇に最も近い男ともいわれた。しかし、昨年は山岳賞こそ獲得するも、個人総合ではまさかの15位。リズムを崩した1年を経て、ツールからの“一時休戦”という大きな決断を下した。チームもこれにともなって、幾分のシフトチェンジ。今季序盤は、それが奏功している印象にある。今回は、新体制で戦うフランス伝統チームの2020年シーズンの方向性について取り上げてみる。

トレインを編成して集団内のポジション争いをするアージェードゥーゼール・ラモンディアールの選手たち =ツアー・ダウンアンダー2020、2020年1月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

バルデは“新たな夢”へ始動

 ツール個人総合トップ10常連の枠から一気に脱却したのが2016年。大会最終盤での猛追で個人総合2位となったバルデは、誰もが認める「ツール制覇に最も近いフランス人」となった。翌年も同3位となり、その座は揺るぎないものに。自身もその位置に立っていることを認め、年々シャンゼリゼの総合表彰台の頂点を意識していくようになった。

ツール・ド・フランス2019を走るロマン・バルデ。山岳賞こそ獲得したが個人総合では15位。ショッキングな敗戦となった =2019年7月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その思いの強さに反して、ここ2年間のツール成績は下降。昨年に至っては、シーズンインからいまひとつパッとせず、ツール前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは“惨敗”。迎えた本番では、大会第1週でその存在を消す格好となった。

 狙いを切り替え、山岳賞のマイヨ・アポワを獲得したことがせめてもの救いだったが、総合成績に対するショックは大きかった。その原因を探るべく、ツール終戦とともに自らのシーズンも閉幕。不振のまま走ったツールの時点からフィジカル的な問題は否定していたが、最終的にシーズンを戦ううえでのルーティーンがモチベーションの上げ下げに影響していたことを結論付けた。

 そこで、自らの意志で大改革に打ち出すこととなる。昨年11月に、ツールからの“一時休戦”を発表。2020年シーズンの目標は、ジロ・デ・イタリアに据えることを宣言した。

2019年11月、現地メディアを集めて2020年シーズンの目標をジロ・デ・イタリアに据えると発表したロマン・バルデ Photo: AG2R La Mondiale

 かねがね「ジロを走ることは夢だった」と述べ、これまでのキャリアで出場経験がなかったことが心に引っかかっていたという。ツールで誰もが満足する成績を残してから、ジロへ“転向”することが理想だったのかもしれないが、これまでのレースプログラムを変えて、新たな流れを作り出すことこそ、復活の一番の近道と判断。フランスチームのスーパーエースゆえ、周囲からのツール出場を望む声もまったくなかったわけではないだろうが、少なくとも今シーズンは参戦しないことではっきりとしている。

 もっとも、チームやスポンサーからのプレッシャーがそう大きくないことにバルデ自身が救われたという。プロチームである以上、スポンサーの意向も重要となってくるが、バルデのレースプログラムについては深く干渉せず、エース自らの意志を最大限尊重。チームを率いるヴァンサン・ラヴァニュ氏も「スポンサー企業はわれわれを信頼してくれていて、戦略的決定やライダーのスカウティングに介入したことはない。スポンサーシップとスポーツそのものとは完全に切り分けて考えられている」と説明。バルデのジロ参戦についても、何ら問題ないとしている。

ジロ・デ・イタリアを目標にするロマン・バルデ。1月のツアー・ダウンアンダーで2020年シーズンをスタートさせた =2020年1月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のジロは、東欧のハンガリーで開幕するほかは、これまで同様に急峻な山々をめぐるタフなルート。ここぞというタイミングでのアタックや、攻めのダウンヒルでチャンスをモノにしてきたバルデにとっては、本調子であればという条件付きながらも、戦うにはもってこいの3週間といえそう。上り基調の個人タイムトライアルが控えている点も、彼にはおあつらえ向き。山岳に強いアシスト陣も控えており、エースのバルデ以下8人のメンバー編成も不安はない。この先のレース結果やトレーニング次第ではあるが、順当にいけばリーダージャージ「マリアローザ」候補の1人に名は挙がるだろう。

 ちなみに、ジロにとどまらず今年は1年を通して戦う意志を示している。夏には東京五輪、秋に向けてはブエルタ・ア・エスパーニャに参戦し、コンディションを上げたところで臨むのはスイスで行われるロード世界選手権。2年前には世界選手権2位を経験したほか、アルデンヌクラシックで表彰台を押さえたことがあるように、一発勝負のワンデーレースも得意とする。東京五輪や世界選手権では、大仕事を果たす可能性だって十分にある。

ラトゥールに急浮上の期待

 枠が空いたツール総合エースの席には、ピエール・ラトゥール(フランス)が就くことで内定している。

新エースとして期待の大きいピエール・ラトゥール。2020年シーズンはツール・ド・フランスでチームリーダーを務める =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第5ステージ、2019年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ビッグレースで次々とヤングライダー賞を獲得したのが2018年。この年は、ボルタ・ア・カタルーニャ、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、そしてツールと25歳以下のステージレーサーとしてトップを走り続けた。加えて、この前年から個人タイムトライアルでフランス王者に2年間君臨。これらの結果だけでも、グランツールレーサーとしての資質が大いにあることはお分かりだろう。

 バルデらに続く世代のエースとしてフランスでも期待される26歳にとって、今年はキャリアのターニングポイントにしたいところ。昨年は2月に落車負傷し、それがシーズンを通して尾を引いた形になったが、すでに回復しオフシーズンのトレーニングを順調にこなした。これまでツールではバルデの山岳アシストを務めながら、自身も上位を狙って走っている格好だったが、今年は新たな立場でビッグレースを戦うことになる。すでに山岳やタイムトライアルへの強さは実証しているが、3週間を通してどれだけ戦うことができるかは、今年の戦いぶりが1つ注目されるところとなる。

 そんなラトゥール本人は、ツールはもちろんのこと、ワンデーレースや1週間程度のステージレースでも結果を求めていきたいとしている。ビッグレースが待つ春には、パリ~ニースや前述のカタルーニャ、そしてアルデンヌクラシックも予定。すでに2月上旬にフランスでシーズンインしているが、2月19日からのブエルタ・ア・アンダルシア(スペイン、UCI2.Pro)にもエントリー。5ステージのレースで個人総合優勝候補に挙げる声もあり、徐々に注目度も高まっている。これからの走りいかんでは、今シーズンのダークホース的存在となり得るだけの可能性はあるだろう。

新鋭の台頭や“お家芸”パヴェも上位戦線へ

 これまでバルデに頼りがちだったチームは、新たなシフト編成によって底上げができつつある。

シーズン序盤絶好調のブノワ・コヌフロワ(中央)。グランプリ・マルエイエーズ、エトワール・ド・ベセージュと連勝した(写真はエトワール・ド・ベセージュ) Photo: AG2R La Mondiale

 なかでも、24歳のブノワ・コヌフロワ(フランス)の勢いがすごい。2月2日のグランプリ・マルセイエーズ(UCI1.1)を制すると、直後に臨んだエトワール・ド・ベセージュ(UCI2.1)でも個人総合優勝。例年、フランスの開幕シリーズとして行われる2戦を完勝したのだ。まだまだ本調子とは遠い選手が多い中とはいえ、その戦いぶりは、今シーズンの飛躍を予感させるものといえる。

 2017年のロード世界選手権アンダー23の王者に輝くなど、早くから将来を嘱望されていた選手だが、いよいよ独り立ちしてリーダー格となる時期に差し掛かったよう。フランスでは彼を“ニュー・アラフィリップ”と呼ぶ声もあるように、ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)に続く逸材としても期待が大きい。強烈なアタックや勝負強さ、そしてワンデーレースを得意とするあたりもアラフィリップに通ずるところがあるとされ、早くも今季何勝するかといった話題にも。

北のクラシックではエースを務めるオリバー・ナーセン =ヘント〜ウェヴェルヘム2019、2019年3月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 このチームといえば、グランツールにとどまらず北のクラシックもお家芸の1つ。パヴェ系のレースでは押しも押されもせぬリーダーとなるオリバー・ナーセン(ベルギー)に加え、2年前のパリ~ルーベで殊勲の2位となったシルヴァン・ディリエ(スイス)とスペシャリストがそろう。ナーセンはこれまで大事な局面で不運に見舞われることも多かったが、昨年はヘント~ウェヴェルヘムで3位となって自信を取り戻した。この2人を支えるべく、チームはアシスト陣を強化。ナーセンの弟であるローレンスやアンドレア・ヴェンドラーメ(イタリア)といった新たな力は、早速重責を担うことになる。

 強みが増す一方で、スプリント路線には秀でた存在に乏しいのが現状。ただ、チームとして主たる狙いをステージレースとクラシックレースに絞り、ビッグタイトルを狙っていく姿勢の表れと見ることもできるだろう。それが大きな成果となるかが、今季の見どころといえそうだ。

アージェードゥーゼール・ラモンディアール 2019-2020 選手動向

【残留】
ロマン・バルデ(フランス)
フランソワ・ビダール(フランス)
ジョフリー・ブシャール(フランス)
ミカエル・シュレル(フランス)
クレモン・シェヴリエ(フランス)
ブノワ・コヌフロワ(フランス)
シルヴァン・ディリエ(スイス)
アクセル・ドモン(フランス)
ジュリアン・デュヴァル(フランス)
マティアス・フランク(スイス)
トニー・ガロパン(フランス)
ベン・ガスタウアー(ルクセンブルク)
アレクサンドル・ジェニエス(フランス)
ドリアン・ゴドン(フランス)
アレクシー・グジャール(フランス)
ヤーコ・ハンニネン(フィンランド)
カンタン・ジョレギ(フランス)
ピエール・ラトゥール(フランス)
オリバー・ナーセン(フランス)
オレリアン・パレパンドル(フランス)
ナンズ・ピーターズ(フランス)
ステイン・ファンデンベルフ(ベルギー)
クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス)
アレクシー・ヴィエルモ(フランス)
ラリー・ワーバス(アメリカ)

【加入】
クレモン・シャンプッサン(フランス) ←シャンベリー シクリズムフォーマション(アマチュア) ※4月1日加入
ローレンス・ナーセン(ベルギー) ←ロット・スーダル
ハリー・タンフィールド(イギリス) ←カチューシャ・アルペシン
アンドレア・ヴェンドラーメ(イタリア) ←アンドローニジョカットリ・シデルメク

【退団】
ゲディミナス・バグドナス(リトアニア) →引退
ニコ・デンツ(ドイツ) →チーム サンウェブ
サミュエル・デュムラン(フランス) →引退
ユベール・デュポン(フランス) →引退

今週の爆走ライダー−ローレンス・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール・ラモンディアール)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 新しい環境でのシーズンイン。緊張せず、スムーズに入ることができた。それもすべて、兄と同じレースプログラムを与えたチームによる配慮から。居心地の良さを実感した。

今シーズン加入のローレンス・ナーセン。兄オリバーのクラシック制覇のために全力でアシストする PHOTO: Vincent Curutchet / AG2R LA MONDIALE

 2歳年上の兄オリバーは、いまやプロトン屈指のパヴェスペシャリスト。石畳の上を走るとあれば必ず優勝候補に挙がるビッグタレントだ。すぐに追いつける存在でないことは百も承知だが、役に立つことはできる。昨年のクラシックシーズンを終えて、チームにアシスト強化を求めた兄の目に留まっていたのは、他チームで走っていた弟の姿だった。

 ただ兄弟だから、同じチームに引き抜かれたわけではないとローレンスは説明する。アマチュア時代から別チームで走ることが多かったといい、2017年のプロチーム入りに際しても兄とはまったく関係のないチームを選択。両者が共通するのは、ベルギー自転車界では決してエリートの部類ではないことで、時間をかけながらプロへと上がっていった苦労人である点で同じなのだという。

 そんな姿が自国ファンから支持される兄弟は、いよいよ同じステージで共闘することになった。「このときが来ることを夢見ていた」というローレンス。何としても石畳のタイトルが欲しい兄のために全力を尽くすと決めた。

 1人のライダーとしては、パヴェのほかスプリントも得意とか。逃げやスプリントでも活路を見出して出世していった兄のように、彼もちょっとしたきっかけでトップシーンをにぎわす時が来るかもしれない。27歳、晩成型のスピードマンの戦いを見守っていこう。

27歳のローレンス・ナーセン。これまでのキャリアでは兄オリバーとは異なるチームで走ることが多かったが、夢叶って兄弟で共闘の日を迎える =E3ハーレルベーク、2018年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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