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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<326>若手主体の布陣で次世代につながるチームづくり チーム サンウェブ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 オランダが誇るトップチームの1つであるチーム サンウェブは2020年シーズンを戦うにあたり、大きな転換期を迎えることになった。ここ数年は絶対的な総合エースのトム・デュムラン(オランダ)を擁し、グランツールを盛り上げてきたが、そのデュムランが昨年限りで退団しユンボ・ヴィスマに移籍。タイミングを同じくして、チームは若手主体の編成に切り替え、次世代への育成と並行してトップシーンを戦う決断を下した。「辛抱の数年間」を覚悟し、新たなステージへと進むことになったチームはいかにこの状況を乗り切るのか。正念場を迎えた赤の軍団の現状を探ってみよう。

若手主体の布陣で2020年を戦うチーム サンウェブ。シーズン序盤からヤングパワーが炸裂している =ヘラルド・サン・ツアー2020第4ステージ、2020年2月8日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

ヤングパワーでヘラルド・サン・ツアーを席巻

 チームは、2月9日に閉幕したジャイコ・ヘラルド・サン・ツアー(UCIオセアニアツアー2.1)をもって、約1カ月にわたるオーストラリアでの連戦を終了させた。

 この間に戦ったレースは、サントス・ツアー・ダウンアンダー、レース・トーキー(UCIオセアニアツアー1.1)、カデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース、そしてヘラルド・サン・ツアーの4つ。これらすべてを、ジャイ・ヒンドレー、ロブ・パワー、マイケル・ストーラー(いずれもオーストラリア)、マックス・カンター、フロリアン・ストーク(いずれもドイツ)、アルベルト・ダイネーゼ(イタリア)、アスビャアン・クラーウアナスン(デンマーク)の7選手で転戦した。

ヘラルド・サン・ツアーを席巻したチーム サンウェブ。ジャイ・ヒンドレー(中央)は2度にわたる山頂フィニッシュ制覇で文句なしの個人総合優勝(写真は第2ステージ) =2020年2月6日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 “これから”を謳うチームにあって、このオーストラリア遠征は大成功だったといえそうだ。レース・トーキーでは、新鋭のイタリアンスプリンター、ダイネーゼが3位と健闘。そして圧巻だったのは、ヘラルド・サン・ツアーでの完勝だった。

 全5ステージ中、2つが山頂フィニッシュで、そのほかにも丘越えや平坦、市街地サーキットと、総合力が試されたステージレースで、終始彼らが支配したのだった。まず、平坦の第1ステージでダイネーゼがプロ初勝利を挙げると、続く第2ステージではヒンドレーが山頂での上りスプリントに勝利。翌々日の第4ステージでもヒンドレーが残り1kmからの猛追で再び山頂を制覇。文句なしの個人総合優勝は、チームとしてリーダージャージを完璧なまでに押さえたことの証明だった。

オーストラリアを転戦した若い選手たちにとっては大きな成功体験となった。写真はヘラルド・サン・ツアー2020第4ステージでプロトンを牽引する様子 =2020年2月8日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 この7人によるオーストラリア転戦を指揮したスポーツディレクターのルーク・ロバーツ氏は、これら4つのレースを総括し「浮き沈みの激しいものだった」と振り返った。UCIワールドツアーに位置付けられるツアー・ダウンアンダーとカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースでは、他チームとの実力差を痛感。一方で、出場チームの格こそ部分的に落ちるとはいえ、レース・トーキーやヘラルド・サン・ツアーでの経験は、若い選手たちにとって大きな成功体験になったという。その中でも、23歳のヒンドレーは将来的にチームを背負うだけの資質はあるとして、ヘラルド・サン・ツアーで総合エースに任命。本人もそれに応える快走を披露した。

 21歳から27歳の選手によって構成された「オーストラリアグループ」は、このチームの縮図といえるのかもしれない。若手から中堅クラスの選手が多いメンバーが、このシーズンをどのように戦い、経験を積んでいくべきか。ヒンドレーらの走りは、その方向性を示すものだったといえよう。

 ロバーツ氏もそれを示唆する。「この先1~2シーズンは苦戦することもあるだろう」とし、「まず有望株の選手たちは1週間程度のステージレースで競争力を高めていくことになる」と語る。同時に、グランツールを経験させて、ステップアップを図っていきたいという。まずはオーストラリアで、その階段を一歩、いや数歩上がったといえそうだ。

スプリントやクラシックは上位を狙える戦力

 昨年までチームを引っ張ってきたデュムランが去り、今シーズンはスプリントやクラシックを主体として上位を狙っていくことが現実的となりそう。

ワンデーレースを中心にスプリント勝負でタイトルを狙うマイケル・マシューズ =ツール・ド・フランス2019第8ステージ、2019年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 スプリント路線では、今年30歳を迎えるマイケル・マシューズ(オーストラリア)に期待がかかるが、ピュアなスプリントよりは変化の多いレイアウトが主戦場となる。アルデンヌクラシックのタイトル獲得に意欲的で、ラ・フレーシュ・ワロンヌでは2度のトップ10入り、リエージュ~バストーニュ~リエージュでも2017年に4位と、パンチャー的な一面をこの数年で証明してきた。昨年はグランプリ・シクリスト・ド・ケベックを制したように、ワンデーレースが彼の本領発揮の場になりつつある。

 ステージレースでのスプリントは、ダイネーゼのほかケース・ボル(オランダ)、経験豊富なニキアス・アルント(ドイツ)らが控え、あらゆるレースでステージ争いに加わっていく構え。オーストラリアでダイネーゼの発射台を務めたカンターもスプリンターとしての評価を得ており、その中から誰が台頭してくるかも楽しみ。

 クラシック戦線についても、ティシュ・ベノート(ベルギー)の加入で戦えるメドが立った。過去3回トップ10入りと得意とするツール・デ・フランドルをはじめ、今年は北のクラシックからアルデンヌまで戦うことが内定しており、本人も優勝争いに食い込みたいと意欲的。ここに、北のクラシックであればセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)が、アルデンヌクラシックではマシューズらが戦力に厚みを加えることになる。

グランツールリーダー養成にも本腰

 若手や中堅クラスの多いメンバー編成に話を戻すと、デュムランが残していた契約期間を短縮し移籍を求めた段階で、チームにはビッグネームにオファーし、受け入れる態勢が整っていなかったのが実情だったのだそう。早くから獲得を狙っていた選手が存在していたわけでもなく、デュムラン離脱後の準備もしていなかったこともあり、結果的にチームは対応に追われることになってしまった。

グランツールで幅広く仕事をしてきたウィルコ・ケルデルマンが2020年シーズンは総合エースの座を確約された。若い選手たちのお手本として走ることも多くなる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第16ステージ、2019年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そこで、将来性豊かな選手たちを集めて、この先につながるチームづくりにシフトすることを決断。前述のロバーツ氏の言葉にある通り、数シーズンは我慢の時期となる。

 この状況は、ポジティブに捉えるならば若い選手にもリーダーを務めるチャンスがあるということ。先日活躍のヒンドレーや、2018年のアンダー23世界王者のマルク・ヒルシ(スイス)、クリス・ハミルトン(オーストラリア)、7月に加入予定のテイメン・アレンスマン(オランダ)には、グランツールレーサーとして英才教育を施す見込みだ。

ケガで戦列を離れていたサム・オーメンも近々復帰。2020年シーズンはツール・ド・フランスで総合成績を狙っていく =ジロ・デ・イタリア2019第10ステージ、2019年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 何より、よいお手本が身近に控えていることも大きい。ここ数年はデュムランのサポート役に回っていたウィルコ・ケルデルマン(オランダ)が、総合エースに“復帰”。ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャを担当する予定となっている。また、昨年のジロでの落車で骨盤骨折に見舞われ、その後腸骨動脈の手術を行ったサム・オーメン(オランダ)もまもなく戦列に戻る見通し。順調にいけば、ツールを走ることになりそうだ。

 2人ともにグランツールでのトップ10入りを現実的な目標に据えるが、経験・実績とも持ち合わせる彼らに仕えて走ることで、若い選手たちには得るものが数多くあるはずだ。ヒンドレーは早速、2月23日からのUAEツアーでケルデルマンの山岳アシストを務めることが決定。スーパーエース擁立を目指しての養成プログラムが、動き出そうとしている。

 ちなみに、本稿執筆時点での所属28選手の平均年齢は24.4歳。最年長はニコラス・ロッシュ(アイルランド)の35歳、最年少はイラン・ファンワイルダー(ベルギー)の19歳。チームとして、その可能性は無限である。

チーム サンウェブ 2020-2021 選手動向

【残留】
ニキアス・アルント(ドイツ)
ケース・ボル(オランダ)
チャド・ハガ(アメリカ)
クリス・ハミルトン(オーストラリア)
ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)
マルク・ヒルシ(スイス)
マックス・カンター(ドイツ)
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ)
アスビャアン・クラーウアナスン(デンマーク)
セーアン・クラーウアナスン(デンマーク)
マイケル・マシューズ(オーストラリア)
ヨリス・ニューエンハイス(オランダ)
サム・オーメン(オランダ)
カスパー・ピーダスン(デンマーク)
ロブ・パワー(オーストラリア)
ニコラス・ロッシュ(アイルランド)
マイケル・ストーラー(オーストラリア)
フロリアン・ストーク(ドイツ)
マーティン・トゥスフェルト(オランダ)

【加入】
テイメン・アレンスマン(オランダ) ←SEGサイクリングアカデミー ※7月1日加入
ティシュ・ベノート(ベルギー) ←ロット・スーダル
アルベルト・ダイネーゼ(イタリア) ←SEGサイクリングアカデミー
ニコ・デンツ(ドイツ) ←アージェードゥーゼール ラモンディアール
マーク・ドノヴァン(イギリス) ←チーム ウィギンス・ルコル
ニルス・エークホフ(オランダ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
フェリックス・ゴール(オーストリア) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
マーティン・セルモン(ドイツ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
ヤシャ・ズッタリン(ドイツ) ←モビスター チーム
イラン・ファンワイルダー(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)

【退団】
ヤン・バークランツ(ベルギー) →サーカス・ワンティゴベール
ロイ・カーバス(オランダ) →引退
トム・デュムラン(オランダ) →ユンボ・ヴィスマ
ヨハンネス・フレリンガー(ドイツ) →引退
レナード・ケムナ(ドイツ) →ボーラ・ハンスグローエ
ルイス・フェルファーク(ベルギー) →アルペシン・フェニックス
マックス・ヴァルシャイド(ドイツ) →NTTプロサイクリング

今週の爆走ライダー−マルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 若返りを図ったチーム。次世代のエース候補の1人として名が挙がるのが、21歳のマルク・ヒルシである。

2018年のアンダー23カテゴリー世界王者のマルク・ヒルシ。チーム サンウェブ次世代エース候補として期待がかかっている =2018年9月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 エースとなることを期待されるのは、彼の力を考えれば自然な成り行きである。プロ入り前は、アンダー23カテゴリーでステージレースを中心に活躍。2018年のロード世界選手権では、同カテゴリーで鮮やかな独走勝利を挙げた。以来、クライマーとしての将来性を買われるようになった。

 プロとして最初のシーズンだった2019年は、ビッグレースのメンバー入りを果たしながらも、できるだけプレッシャーのかからない立場で走らせてもらった。自由を与えられたレースでは、しっかりと結果も残した。E3ビンクバンククラシックではパヴェへの適性を証明し、急坂の多いイツリア・バスクカントリーではステージ優勝争いにも加わった。

 その器用さで、将来はチームを背負って立つ選手になることが望まれている。生え抜きライダーをリーダー格に据えることはチームの使命でもある。2018年に下部組織へ加入して以来、チーム サンウェブの一員として走り続けてきた彼には、否が応でもチームを率いる選手になってほしいという願いが込められる。

 昨年秋からは、スイスの偉大な先輩であるファビアン・カンチェラーラ氏をマネージャー兼コンサルタントに迎えた。強力な援軍を招き、いまはトッププロになるための心構えを多々学んでいる。今年はビッグレースへの出場も予定され、あらゆる経験を積む1年となるが、このコラボレーションが将来にどう役立つだろうか。

 ちなみに、カンチェラーラ氏とのディスカッションにおいて、どんな時でも最後はヒルシ本人に決断が任されるのだという。「アドバイスはどれも私にとって重要だが、最終的に決定するのも私の仕事。そのスタイルこそ完璧だ」。一方のカンチェッラーラ氏も、「彼は何でも相談してくれるからうれしいよ」とのこと。その関係性は、良好そのものだ。

E3ビンクバンククラシック2019で10位に入った時のマルク・ヒルシ。山岳からパヴェまで何でもこなせるマルチさを生かし、2020年シーズンは多くのレースでリーダー格となる見込みだ =2019年3月29日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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