title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<325>軸となる選手をそろえて前年以上の躍進狙う アスタナ プロチーム 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 2019年シーズンのアスタナ プロチームは、スタートダッシュの成功をきっかけに、シーズン半ばまでに勝利を量産。なかでも、ヤコブ・フルサン(デンマーク)のリエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝は大きなハイライトとなった。狙いを定めていたグランツール制覇こそならずも、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)はジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャで上位フィニッシュを果たし、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)はシーズン10勝とチームを引っ張った。今年もこれら選手を軸に戦いを進める中央アジアの雄について、展望していく。

2019年シーズンに大活躍したヤコブ・フルサン。ワンデーレースからグランツールまでこなすマルチクライマーは2020年、東京五輪での金メダルを目指すと宣言。一方で疑惑の医師との面会が疑われ調査対象となっていることが明るみになった =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019、2019年4月28日 Photo: STIEHL / SUNADA

五輪金メダルにこだわるフルサン

 実績・経験ともにチームナンバーワンは、3月に35歳を迎えるフルサン。プロデビュー時からオールラウンダーとしての資質が高く評価され、ビッグネームのアシストを務めながら、戦える下地づくりに努めてきた。ビッグレースでの上位進出はたびたびあったが、30歳代半ばとなった今こそが、キャリアのピークを迎えているといえるだろう。

ワンデーレースでの強さを示したリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの勝利。30歳代半ばに差し掛かっているが、今がキャリアのピークと言えそうだ =2019年4月28日 Photo: STIEHL / SUNADA

 それは、昨年の戦いぶりで十二分に証明している。シーズンインから出場するレースでは確実に上位フィニッシュを繰り返し、ストラーデ・ビアンケではジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)との激闘を演じて2位。その勢いが本物であることを示すと、ティレーノ~アドリアティコではステージ1勝を含む個人総合3位。極めつけは、アルデンヌクラシック全戦で表彰台に上がる大活躍。リエージュでは鮮やかな独走で、キャリア最大の勝利を収めた。

 何より、好調さを最後まで持続したあたりは、高く評価されるべきだろう。ツール・ド・フランス前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは個人総合優勝。ツールこそ、度重なる落車の影響で大会を去ったが、アシストに回ったブエルタでもステージ1勝。最後は、イル・ロンバルディアでの4位でシーズンを締めた。

 長短問わずステージレースを戦えることに加え、リエージュ制覇にあるようにワンデーレースでも上位を争えるスマートさ。どうしても勝負がもつれた際のスプリント力では分が悪いが、独走力も高いだけに、レース展開をモノにできればこの先もリエージュの再現は可能だ。グランツールでは要所でクラッシュにあいがちで、なかなか望んだ結果にまではつながらないが、山岳での安定感やここ一番での勝負強さでチームから高い信頼を勝ち取っている。

名勝負だったリオ五輪ロードレース。このとき銀メダルだったヤコブ・フルサン(右)はさらに輝く色のメダルを東京で手にしたいと述べる =2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな彼の今シーズンは、アルデンヌで昨年の再現を狙うことに続き、ジロと東京五輪と定まった。ここ7年はツールに集中してきたが、今年はグランツール以上に五輪でのメダルをかけて戦うべく、レースプログラムを見直した。五輪といえば、リオで演じたグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)らとの死闘が今も鮮明にファンの記憶に刻まれているが、その時の銀メダル超える結果を東京では求めたいという。タフな上りが連続し、クライマー向けとの見方もある今回の五輪コースは、フルサンにピッタリであることは確かだ。

 昨季に続く快進撃を期待される中で、気がかりな情報もある。過去に選手への禁止薬物提供で自転車界から永久追放されたミケーレ・フェラーリ医師との接触が疑われ、調査対象になっていることが明らかになったのだ。自転車アンチ・ドーピング財団(CADF)の機密文書を入手したとするデンマークやノルウェーのメディアが報じたもので、フルサンがニース(フランス)またはモナコでフェラーリ医師と面会していたとしている。チームはアンチ・ドーピングの義務を順守しており、選手がフェラーリ医師と接触していることを否定。なお、両者のかかわりが確認された場合は資格停止の対象となる。

 現時点ではチームからフルサンに対しての懲戒などの手続きは行わず、レース出場に支障がない状態ではあるが、今後どうなるか動向を注視していきたい。

ロペスはツール初挑戦 大仕事なるか

 そのフルサンに代わって、ツールの総合エースを任命されたのがロペス。“若手の登竜門”ツール・ド・ラヴニールを制したのが2014年。その翌年から現チームで活動をすることになるのだが、圧倒的な登坂力や将来性から「スーパーマン」のニックネームで呼ばれるようにもなった。

2019年はジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合上位に食い込んだミゲルアンヘル・ロペス。2020年はツール・ド・フランスで総合エースを務める =ジロ・デ・イタリア2019第16ステージ、2019年5月28日 Photo: POOL / BETTINI / SUNADA

 一方で、レースやトレーニング中のクラッシュをきっかけに目標設定を変えざるを得ないケースや、チームの期待をもって送り込まれたレースで不安定さを露呈するなど、プロキャリアの序盤は苦戦することも多かった。

 そんな彼がグランツールレーサーとして確固たる地位を築いたのが2018年。ジロ、ブエルタで連続個人総合3位。険しい上りになればなるほど強さを示し、さらには積極策でライバルのお株を奪うことも多くなった。昨年はグランツールの総合表彰台は逃したが、“ミニ・ブエルタ”的レースのボルタ・ア・カタルーニャでタイトルを獲得。強さは本物だ。

 キャリアの浅さを考慮し、できる限りプレッシャーのかからない状況にできるようチームも努めてきたが、2月には26歳となり中堅選手となることもあり、過剰に守る必要はなくなってきた。その一例が初出場となるツールでの大役であり、山岳比重が高く彼にとってはおあつらえ向きのコース設定で、はっきりとした成果を残すことが至上命題となる。

ミゲルアンヘル・ロペスにとって課題はタイムトライアルだが、ツール2020は山岳TT。登坂力を生かしライバルに差をつけるチャンスとなる =ジロ・デ・イタリア2019第9ステージ、2019年5月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 上りで攻撃的な走りができる点や、第20ステージに設けられた大会唯一の個人タイムトライアルも実質山岳TTとあって、3週間を通して実力発揮できる場に恵まれているのも大きい。あとは、コンディションをしっかり整えることと、ロペス自身がメンタルのコントロールをできるかにかかってくる。

 キャリアのターニングポイントにもなり得る2020年シーズンのロペス。まずは3月のパリ~ニースとカタルーニャとの連戦で、脚試しを行う見込み。ここで持ち味を発揮するようだと、6月下旬からの“本番”での戦いぶりが一気に期待できるものとなる。

ルツェンコらキーライダーも充実 課題は選手間の実力差

 チームはこれまでと変わらず、キーとなるライダーをベースに戦術を組み立てていくことになる。

2019年シーズン、チームの勝ち頭となったアレクセイ・ルツェンコ(中央)。2020年はアルデンヌクラシックや東京五輪でダークホース的存在となりうる =ティレーノ〜アドリアティコ2019第4ステージ、2019年3月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 フルサン、ロペスに続く存在として名が挙がるのが、昨年10勝でチームの勝ち頭だったルツェンコ。小集団のスプリントから逃げまで幅広くレースを組み立てられるスピードマンは、レース運びの巧みさも光る。アンダー23カテゴリーで世界王者になったのが2012年。ここまでつまづくことなく、着実に成長曲線を描いている点も見過ごせない。

 27歳となり脂が乗っている時期に差し掛かっているだけに、今年はプロトン内で驚異の存在となる可能性もある。脚質的に目標となるのはアルデンヌクラシックだが、フルサンらとの戦術をシェアできると一気におもしろくなる。また大小問わずアップダウンに強く、そうなってくると東京五輪でも期待が高まる。チームのお膝元カザフスタンの選手とあり、チームマネージャーのアレクサンドル・ヴィノクロフ氏からの寵愛も深い。ただ、彼もフルサン同様にフェラーリ医師とのかかわりが指摘されており、この先の動きが気になるところ。

高いチーム力にあって経験豊富なスペイン人ライダーやイタリア人ライダーが控えているのは大きい。ベテランのルイスレオン・サンチェスはアシストから自身の成績狙いまでマルチに走ることのできる1人 =サントス・ツアー・ダウンアンダー2020チームプレゼンテーション、2020年1月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 高いチーム力の一端を担う、スペイン人、イタリア人ライダーの存在も大きい。ベテランのルイスレオン・サンチェスを筆頭に、1週間ほどのステージレースとあればヨン・イサギレ、その兄のゴルカも控え、アシストだけでなく自らの成績を求めていける力がある。さらに、山岳逃げのスペシャリストでもあるオマール・フライレは、アシストライダーとしての堅実性にも長ける。スペイン人ライダーの層の厚さは、ビッグレースにおいて大きなアドバンテージだ。

 イタリア人ライダーでは、先のサントス・ツアー・ダウンアンダーでの活躍があったマヌエーレ・ボアーロのほか、スプリントから上りまでこなせるファビオ・フェリーネ、チームタイムトライアルでのレース構築に定評のあるダヴィデ・マルティネッリが今年から加入。なかでも、北のクラシックからアルデンヌまでこなせるフェリーネは、この先のクラシックシーズンでチームのキャプテン的な位置づけになってきそうだ。

 昨シーズン、37勝と大きな成果を挙げ、そのチーム力は間違いないものがあるが、一方でエースクラスと一部のカザフスタン人ライダーとの実力差が大きいとの見方もあるのが実情。特に、グランツールにおいて7・8番手の選手があと一歩踏ん張り切れない局面もあると言われており、底上げがこれからの課題でもある。それができれば、昨年以上の勝利数はもとより、フルサンやロペスらのビッグタイトル獲得がグッと近づいてくるはずだ。

アスタナ プロチーム 2020-2021 選手動向

【残留】
ザンドス・ビジギトフ(カザフスタン)
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア)
エルナンド・ボオルケス(コロンビア)
ロドリゴ・コントレラス(コロンビア)
ローレンス・デヴリーズ(ベルギー)
ダニイル・フォミニフ(カザフスタン)
オマール・フライレ(スペイン)
ヤコブ・フルサン(デンマーク)
エフゲニー・ギディッチ(カザフスタン)
ヨナス・グレゴー(デンマーク)
ドミトリー・グルズジェフ(カザフスタン)
ユーゴ・ウル(カナダ)
ゴルカ・イサギレ(スペイン)
ヨン・イサギレ(スペイン)
メルハウィ・クドゥス(エリトリア)
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)
ユリー・ナタロフ(カザフスタン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
ニキータ・スタルノフ(カザフスタン)
アルチョム・ザハロフ(カザフスタン)

【加入】
アレックス・アランブル(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
ファビオ・フェリーネ(イタリア) ←トレック・セガフレード
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア) ←ドゥクーニンク・クイックステップ
ワジム・プロンスキー(カザフスタン) ←ヴィノ・アスタナモータース
オスカル・ロドリゲス(スペイン) ←エウスカディバスクカントリー・ムリアス
アロルド・テハダ(コロンビア) ←メデリン
アレクサンドル・ウラソフ(ロシア) ←ガズプロム・ルスヴェロ

【退団】
ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア) →ドゥクーニンク・クイックステップ
ペリョ・ビルバオ(スペイン) →バーレーン・マクラーレン
ダリオ・カタルド(イタリア) →モビスター チーム
マグナス・コルトニールセン(デンマーク) →EFエデュケーションファースト
ヤン・ヒルト(チェコ) →CCCチーム
ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア) →モビスター チーム
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン) →ミッチェルトン・スコット

今週の爆走ライダー−メルハウィ・クドゥス(エリトリア、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年秋にチームと2年間の契約延長に合意。ひとまず2021年まで現チームで過ごすことが決まった。

2019年のツアー・オブ・ターキーで個人総合3位に入ったメルハウィ・クドゥス(右)。登坂力や身体能力を高く評価されている =2019年4月21日 Photo: STIEHL / SUNADA

 アスタナでの1年目は、ツール・ド・ルワンダでの個人総合優勝を筆頭に、総合エースの座を託されたツアー・オブ・ターキーで3位となるなど、上々の結果を残した。グランツールのメンバー入りがならず、そればかりは悔しかったが、ヴィノクロフ氏にして「山岳での戦い方を知っている」と評されるあたりは、これから主力となるチャンスが数多くあることを示唆しているといえよう。

 いまやアフリカ大陸きっての自転車王国となったエリトリアだが、その中でも身体能力、登坂力は群を抜いていると言われている。MTN・クベカ(現ディメンションデータ)の育成部門で走っていた頃に、あまりの強さに彼の将来をどう導くか首脳陣が悩んだというエピソードもあるほど。2015年には、当時チームメートだったダニエル・テクレハイマノとともにエリトリア人初のツール完走者となり、以後もステージレースを中心に居場所を確保してきた。

 前述の契約延長を受けて、この先の目標を問われると「ツールのメンバー入り」ときっぱり。山岳ステージが数多く待つフランスでの3週間こそ、自らの力を発揮できるチャンスであることは理解している。「もっといえば、ステージ優勝をしたい」。大きく飛躍するきっかけが今は欲しい。

 このチームは「まるで家族のよう」と述べ、居心地の良さがレースに集中できる大きな要素だとも語る。国に帰れば自転車選手はみな英雄として扱われるが、プロである以上その評価は勝ってこそ高まるもの。目標にする「ツールでステージ優勝」を果たそうものなら、エリトリア全土が熱狂することになりそう。彼には国を熱くするだけの力があるはずだ。

ツアー・オブ・ターキー2019で山岳を攻めるメルハウィ・クドゥス。2020年はツール・ド・フランス出場に照準を定め、チームに貢献したいという =2019年4月20日 Photo: STIEHL / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

この記事のコメント

この記事のタグ

UCIワールドツアー ロードレース 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載