2月28日(金)より 新宿ピカデリー/なんばパークス(大阪)ほか全国順次公開現代を生きる企業戦士たち必見のドキュメンタリー映画『栄光のマイヨジョーヌ』をレビュー

  • 一覧

 世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」にも出場する、オーストラリア初のトップチームである「グリーンエッジ」の物語を描いた「栄光のマイヨジョーヌ(原題:ALL FOR ONE)」。2012年のチーム設立から5年間、彼らのレースに密着して撮影されたドキュメンタリー映画だ。と聞くと、コアな自転車ロードレースファン向けの内容と思われるかもしれないが、決してそのようなことはない。自転車レースを知らない人でも十分楽しめる内容であり、むしろレースに詳しくない人こそ様々な気付きを得られる映画であるのではないかと感じた。

2月28日(金)公開の「栄光のマイヨジョーヌ」を一足先にレビュー (c) 2017 Madman Production Company Pty Ltd

チーム専属のビデオグラファーが監督

 この映画の監督はオーストラリア人のダン・ジョーンズだ。2000年代初頭にメルボルンの映画学校で映像を学び、学生時代の2005年にツール・ド・フランスの長編映像の撮影をきっかけに、自転車ロードレースの虜となったそうで、その理由について、本人はこう語っている。

 「レースの現場に行って、なぜ人々がこの競技に熱狂するのかが分かった。まさに旅するサーカスだ。アクション、ドラマ、歴史、戦略、全てが揃っている。私は夢中になり、もっと知りたくなった。外からは見えないチームの内部がどうなっているのか?チームの団結力はどのように育まれるのか?アスリートそれぞれのストーリーは?レースの裏側でチームはどんな働きをしているのか?サングラスやアイウェア、ヘルメットを外したライダーの姿は?」

 その思いを持って、ジョーンズはツール・ド・フランスに関する2本の映画の脚本・監督・制作を手がけて、2008年から2011年までフォックス・スポーツでツール・ド・フランスの番組制作に関わっていた。

「栄光のマイヨジョーヌ」の制作陣。右から2番目がダン・ジョーンズ、右から3番目がゲリー・ライアン (c) dan jones 2020

 オーストラリア初のトップチームである「グリーンエッジ」設立に際して、オーストラリア人起業家にしてチームオーナーであるゲリー・ライアンからジョーンズに「グリーンエッジの活動を映画化してくれ」との依頼があった。新しく誕生するチームだからこそ、新しく多くのファンを獲得する必要があり、熱狂的なファンだけでなく自転車好きやスポーツファンにも分かりやすく楽しめるエンターテインメント性の高いコンテンツを作ることとなった。

エステバン・チャベスの背後に密着するダン・ジョーンズ (c) dan jones 2020

 そうして、グリーンエッジ専属のビデオグラファーとして、チームに密着しながら選手たちの様子を撮影。さらには、ミュージックビデオの口パク動画、料理動画、選手の故郷や競技から離れた普段の生活を紹介する動画もYouTubeで配信した。

 レース中の大規模な落車が発生した際のメカニック視点の動画は200万再生を超え、カーリー・レイ・ジェプセンの「Call Me Maybe」に合わせて選手・スタッフ一同で口パク・ダンスする動画は100万再生を越えるなど、グリーンエッジのチャンネルはYouTubeで最も人気のあるサイクリングチャンネルの一つへと成長した。

 これらの経験を生かしてジョーンズはいよいよ「グリーンエッジの活動の映画化」に乗り出す。膨大な撮影素材もさることながら、選手と深く信頼関係を築いていたジョーンズだからこそ引き出せる一面をふんだんに盛り込み、限りなくリアルなドキュメンタリー映画を作り上げた。

一般層にも普及し、海外では非常に高評価

 2017年に「栄光のマイヨジョーヌ」は完成。先行して公開された海外では、ドキュメンタリー映画として非常に高い評価を受けている。IMDb.comでは評価8.3となっており、近年公開された自転車映画のなかでは最も高い点数を獲得している。なお、一般的に同サイトの評価が7.0を超えると佳作、8.0を超えると秀作、9.0を超えると歴史的名作という位置づけのようだ。

近年公開された自転車レース映画のIMDb.comでの評価

栄光のマイヨジョーヌ 8.3
ブラッド・スウェット・アンド・ギアーズ 7.5
ロード・アップヒル 7.5
EAT. RACE. WIN. 食べて 走って 勝って~レースに勝つための食事~  7.1
パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト 7.0
ロード・トゥ・ルーベ 6.8
疑惑のチャンピオン 6.5
疾風スプリンター 6.3

 このように自転車レースファンのみならず、一般の映画ファンにも支持されているからこその高評価であることがうかがい知れた。試写会で鑑賞した筆者もまた同様の感想を抱いた。これは史上最高の自転車映画であると同時に自転車ファンでなくとも、感動できるし、大きな気付きを得られる映画であるとも思った。

 自転車ロードレースがいかに過酷な競技であるかは、作中の映像を通じてこれでもかというほど伝わってくるし、細かい用語や戦略をわからなくても大丈夫なように仕上がっている。さらに、この映画の主役は選手たちかもしれないが、とても重要な脇役、むしろ影の主役といっても過言ではない人物として「グリーンエッジ」チームのマネージャーたちにも焦点があてられている。

チームマネージャーのシェイン・バナン。写真は2011年のチーム発表会にて Photo: Yuzuru SUNADA
監督(スポーツディレクター)を務めるマシュー・ホワイト。写真は2015年のツアー・ダウンアンダーにて Photo: Yuzuru SUNADA
同じく監督を務めていたニール・スティーブンス。現在はUAE・チームエミレーツの監督を務めている Photo: Yuzuru SUNADA

 チームオーナーのゲリー・ライアン、ゼネラルマネージャーのシェイン・バナン、監督(スポーツディレクター)のマシュー・ホワイトやニール・スティーブンスなどは、一般企業に例えるとオーナー、社長、部長や課長のようなポジションである。その意味では選手たちは社員であり、新人社員もいれば、中堅社員もいれば、ベテラン社員もいる。

 新規事業の立ち上げ(新チーム設立)において、右も左も分からないなかから手探りで進めていくところや、そういった上層部に振り回される社員(選手)たちの姿もある。プロジェクトが大成功(ビッグレースで勝利)し、喜びあう人々。手にかけた社員(選手)の成長に思わず涙をする部長(監督)もいれば、息子の挑戦を見守る両親の姿もあった。自転車競技が題材であるが、描かれているテーマは「挑戦・確執・問題・達成・成長・友情・チームワーク・家族愛」など、普遍的なものであるといえよう。

 そして、すべての立場の人物にスポットが当たっているからこそ、自分に似た境遇の人物に感情移入することができるし、気付きを得られるのではないかと思う。

 もちろん、熱心な自転車レースファンにもおすすめできる映画である。なぜなら、熱心な自転車レースファンを自負する筆者自身も、実際の出来事やすべての結果を知っていた上でなお、何度も笑い、興奮し、猛烈に感動したからだ。

 最後にジョーンズの言葉を借りて本作を紹介を締めたい。

 「これは自転車競技についての映画ではなく、ヒューマン・ストーリーである。登場人物たちの感情を分かち合い、夢を実現するための決意と犠牲を、多くの人に知ってもらいたい」

 「栄光のマイヨジョーヌ」は、2月28日(金)より 新宿ピカデリー/なんばパークス(大阪)ほか全国順次公開。

この記事のコメント

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載