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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<324>グランツール制覇に向け最高レベルの陣容に チーム イネオス2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2010年のチーム発足以来、7度のツール・ド・フランス制覇を果たしているチーム イネオス。直近では開催当時22歳だったエガン・ベルナル(コロンビア)がツールの頂点に立ち、グランツールレーサーとしての階段を一気に駆け上がった。豊富な資金力と一貫性のあるチーム運営で、毎年のように軸となる選手を擁立。今年はこれまで以上に補強に成功し、ツールに限らずグランツールいずれもで勝利できる地盤が固まった印象だ。プロトン最強チームと言われて久しいが、2020年シーズンはいかに戦うのか。けがの回復が気になるクリストファー・フルーム(イギリス)の動向も含めて、今年の戦いを展望する。

前回に続き、2020年のツール・ド・フランスでもエガン・ベルナル(左)とゲラント・トーマスとの共闘の方針が固まった。チーム イネオスは今年もグランツールをメインに戦っていく =ツール・ド・フランス2019第21ステージ、2019年7月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

ツール2連覇へ視界を定めたベルナル 東京五輪へも意欲的

 チーム最大のミッションは、2020年もこれまでと同様にツール制覇となる。すでにエースクラスの“グランツールシフト”は決まっており、ツールに関しては大会2連覇がかかるベルナルと、2年ぶり2回目の個人総合優勝を目指すゲラント・トーマス(イギリス)、そして大会最多タイとなる5勝目を目指すフルームが狙っていく。

2度目のツール出場で頂点に立ったエガン・ベルナル。2020年は個人総合2連覇を目指して走る =ツール・ド・フランス2019第20ステージ、2019年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ベルナルは2018年大会でのセンセーショナルなツールデビューから、次の年には表彰台の最上段と、とんとん拍子を越えて「飛び級」状態の大出世を果たした。前々回大会はトーマスのマイヨジョーヌ獲得をアシストし、前回も同様の役割との見方もあったが、ふたを開けてみればその上をゆく活躍。ベストコンディションではなかったトーマスが総合エースの座を譲る格好となったばかりか、大会前のけがで離脱したフルームの穴も埋める大仕事をやってのけた。

 そんな彼は、個人総合2連覇へ本気だ。昨年の時点ではジロ・デ・イタリアとツール、2つのグランツールへの参戦意思を表していたが、今年の入ってツール1本に絞ることを明言。方針転換にはチーム内のあらゆる事情が関係しているとみられるが、やはり今年もツールでトップを狙っていくのは王者としては自然な選択といえるだろう。

 ベルナルの魅力は、圧倒的な登坂力だ。大崩れがなく、勝負どころでは力でライバルをねじ伏せられるだけのパワーさえも備える。昨年のツールでは大会半ばから徐々に調子を上げ、3週目にしっかりと合わせたが、山岳比重の高い今年はどこで勝負をかけようと考えるだろうか。

 「再びツールの頂点を目指すことは何よりも特別なこと」と語る。すでにレースプログラムについても明らかにしており、2月11~16日のツアー・コロンビア(UCIアメリカツアー2.1)でシーズンイン。シーズン最初の目標にパリ~ニース(3月8~15日)を掲げ、直後のボルタ・ア・カタルーニャ(3月23~29日、スペイン)にも参戦予定。また、ツール後に控える東京五輪への出走にも意欲的だ。

エガン・ベルナルはツール・ド・フランス後に控える東京五輪にも意欲的。シーズンの目標が定まった =ツール・ド・フランス2019第18ステージ、2019年7月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

トーマスとフルーム それぞれの思いを胸にツールへ

 昨年同様に、ベルナルとならぶチームリーダーとなる見込みのトーマス。今年はこれまで以上に強い思いでツールに臨もうとしている。

ゲラント・トーマスはマイヨジョーヌを狙って走るのは今年が最後になるかもしれないと語っている =ツール・ド・フランス2019第12ステージ、2019年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 長くグランツールでの成功に恵まれなかった彼だが、2018年大会でついに大願成就。このときはフルームとの双頭体制で臨み、最後の最後までどちらがチーム一番手なのかをはっきりさせないままレースを進めていった。最終的に勝利をおさめることとなったが、トラック競技で培ったスピードに登坂力を兼ね備え、真のオールラウンダーとなった瞬間でもあった。

 一方で、王者として挑んだ昨年は、シーズン前半からの不運が続き、ツール本番を迎えてもベストな状態で走ることはできなかった。なかでも、前哨戦ツール・ド・スイスでの落車リタイアは、負傷したことも含め心身へのダメージが大きかったことを認めている。

冬場のトレーニングを順調に積むことができたというゲラント・トーマス。2月のシーズンインが楽しみだ =ツール・ド・フランス2019第18ステージ、2019年7月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 5月に34歳となることや、将来的にジロ制覇を目指したいと考えていることなどから、ツールの頂点を極めるのは今年で最後になるかもしれないという。苦しみながら走り抜いた昨年のインパクトを払拭したいともいい、「何かもう1つよい経験ができれば」と話す。今シーズンのプログラムを組む段階で、東京五輪出場を念頭に直前に閉幕するツールではなく、調整期間を設けられるジロへの参戦を考えたというが、やはり目指すべきはツールだと心を固めたよう。

 2018年はツール制覇に関連して多忙となって、思うようなトレーニングができなかった反省から、この冬は早めに始動。現時点でしっかりと乗り込めている点でも手ごたえを感じている様子。2月にポルトガルでシーズンインを予定し、3月11日からのティレーノ~アドリアティコが実質最初のビッグレースとなりそうだが、冬場の成果をチェックする絶好の機会だ。

クリストファー・フルームがいよいよトレーニングを再開。ツール・ド・フランスに間に合わせるべく、徐々に強度を上げていく構えだ =ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム2019、2019年10月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、ベルナルとトーマスとならび、ツールのチームリーダーとなるかが焦点のフルーム。昨年6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネ期間中のタイムトライアル試走でクラッシュし、骨盤や大腿骨、肘などを骨折する大けが。リハビリを重ね、同10月にはツール・ド・フランス さいたまクリテリウムにも参加したが、このほどついにトレーニングに本格復帰を果たした。

 スペイン・カナリア諸島でのチームキャンプに合流し、徐々にライド時間も伸ばしている段階だという。医師からもトレーニングへのゴーサインが出て、バイクに跨ることへの支障が完全になくなった状況だ。

 イタリア紙ガゼッタ・デッロ・スポルトがUAEツアー(2月23~29日)での戦線復帰の可能性を報じるなど、フルームのレース参加が待たれるが、ツール出場を大前提にトレーニングキャンプやレーススケジュールを設定していく心積もりのよう。本人は「良い状態でニースのスタートラインに立ちたい」と、開幕の同地への思いを馳せる。

 仮にフルームも出場を実現させたところで、スーパーエース3人の棲み分けが可能なのかや、それぞれの立ち位置がいかなるものになるのかなどは不透明だが、いまはツールでの華麗な復活に向け本気であることは確かのようだ。

新環境でジロ2連覇に挑むカラパス

 プロトンきってのビッグチーム。今年も充実の補強で、タレントぞろいの陣容にさらに拍車がかかった。

2019年のジロ・デ・イタリア王者リチャル・カラパスがチーム イネオス入り。ジロ2連覇が大きなミッションとなる予定だ =ジロ・デ・イタリア2019第14ステージ、2019年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 なかでも、昨年のジロを制したリチャル・カラパス(エクアドル)の加入は、移籍市場にあっても最大級のトピックだったといえるだろう。マリアローザ獲得直後から加熱した噂通り、相思相愛となっていたこのチームに無事合流を果たしている。

 こちらも王座防衛をかけて、ジロへと向かうことが既定路線。昨秋の時点ではベルナルやトーマスの動向次第の側面もあり、本人による目標の言及はなかったが、ここへきて再びイタリアでの成功を望むことを明確に打ち出すようになった。個人総合2連覇への思いも、もちろん隠していない。

 昨年まではモビスター チームで過ごし、ジロ制覇後は移籍が濃厚となったことも関係してかチーム内での位置づけが難しくなった面が参加レース数の少なさにも表れた感は否めない。ただ、今シーズンの戦いには大きく影響を及ぼすことはないと思われる。ベルナルと同様にツアー・コロンビアで試運転となる。

個人タイムトライアルで東京五輪金メダルを狙うローハン・デニス =シュワルベクラシック、2019年1月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 また、ジロへは同じく新加入のローハン・デニス(オーストラリア)もメンバーに入る見通し。バーレーン・メリダの一員として走った昨年のツールで、謎の途中リタイアが大きな話題となってしまったが、とはいっても現役の個人タイムトライアル世界チャンピオン。ツールでのマイナスイメージがどうしても付きまとってしまうが、新チーム加入を機にいま一度タイムトライアルを極めていこうと決意したという。東京五輪での同種目金メダルを最大目標に、ジロ出場は調整の意味合いも込める。

 さらに今年は、これらビッグネームの次の世代の育成にも力を注いでいく。チームプリンシパルのデイヴ・ブレイルスフォード氏は、24歳のテイオ・ゲイガンハート(イギリス)、いずれも22歳のジョナタン・ナルバエス(エクアドル)、パヴェル・シヴァコフ(ロシア)、イバン・ソーサ(コロンビア)といった面々を名指しし、今シーズンのジロかツールどちらかでのメンバー入りを示唆。絶対エースのもとでの英才教育を課すとしている。

ミハウ・クフィアトコフスキにはアルデンヌクラシックでの上位進出の期待が高まる =ツール・ド・フランス2019第4ステージ、2019年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 どうしてもグランツールの戦いぶりに注目と期待が向いてしまうが、そのほかにもワンデーレースからステージレースまで幅広く戦うことのできるミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)や、北のクラシックになればジャンニ・モスコン(イタリア)、ルーク・ロウ(イギリス)といったスペシャリストも力を発揮する。昨年の世界選手権個人タイムトライアル銅メダルのフィリッポ・ガンナ(イタリア)は、トラック競技で五輪代表入りを目指している。

 なお、1月21日に本戦がスタートしたサントス・ツアー・ダウンアンダーには、デニス、ロウ、シヴァコフのほか、オーウェン・ドゥ―ル、クリストファー・ローレス、イアン・スタナード(いずれもイギリス)、ディラン・ファンバーレ(オランダ)の布陣で臨んでいる。

チーム イネオス 2020-2021 選手動向

【残留】
レオナルド・バッソ(イタリア)
エガン・ベルナル(コロンビア)
ジョナタン・カストロビエホ(スペイン)
オウェイン・ドゥ―ル(イギリス)
エディ・ダンバー(アイルランド)
クリストファー・フルーム(イギリス)
フィリッポ・ガンナ(イタリア)
テイオ・ゲイガンハート(イギリス)
ミハウ・ゴワシュ(ポーランド)
セバスティアン・エナオ(コロンビア)
ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)
クリスティアン・クネース(ドイツ)
ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)
クリストファー・ローレス(イギリス)
ジャンニ・モスコン(イタリア)
ジョナタン・ナルバエス(エクアドル)
サルヴァトーレ・プッチョ(イタリア)
ルーク・ロウ(イギリス)
パヴェル・シヴァコフ(ロシア)
イバン・ソーサ(コロンビア)
イアン・スタナード(イギリス)
ベン・スウィフト(イギリス)
ゲラント・トーマス(イギリス)
ディラン・ファンバーレ(オランダ)

【加入】
リチャル・カラパス(エクアドル) ←モビスター チーム
ローハン・デニス(オーストラリア) ←バーレーン・メリダ
イーサン・ハイター(イギリス) ←VCロンドレス(アマチュア)
ブランドン・リベラ(コロンビア) ←GW・シマノ
カルロス・ロドリゲス(スペイン) ←ジュニア

【退団】
ダビ・デラクルス(スペイン) →UAE・チームエミレーツ
ケニー・エリッソンド(フランス) →トレック・セガフレード
クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー) →EFプロサイクリング
ワウト・プールス(オランダ) →バーレーン・マクラーレン
ディエゴ・ローザ(イタリア) →アルケア・サムシック

今週の爆走ライダー−イヴァン・ソーサ(コロンビア、チーム イネオス)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2月11日にスタートするツアー・コロンビアでは、チームに所属する南米人ライダーを結集させて挑むことになっている。イギリス籍のチーム イネオスにとって今までにはなかった、ある種チャレンジともいえる取り組みでシーズン序盤の一戦を走ることになった。

ジュニア時代からの親友であるイヴァン・ソーサ(左)とエガン・ベルナル。2019年のグラン・ピエモンテではワンツーフィニッシュを飾った =2019年10月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 22歳のコロンビア人ライダー、イヴァン・ソーサもメンバー入り。ベルナルやカラパスらに続く、次世代の選手たちの育成にも本格着手するチームにあって、その筆頭格に挙げられる選手だ。

 バックボーンにあるのは、育ったアンデス山脈の高地。他のコロンビア人ライダーと同様に高地出身特有の身体能力は、それこそ持って生まれたクライマーとしての資質。同い年のベルナルとは、ジュニア時代から各地を転戦し、互いに親友であることを認める間柄。向こうが先に台頭したこともあり、自らはアシストに回ることも多かったが、だからといってソーサ自身の走りが低く評価されることはなかった。それだけ大きな可能性が秘めているということなのだろう。

 昨夏はブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦ともいわれる、ブエルタ・ア・ブルゴスで個人総合優勝するなど、シーズン後半にかけて好成績。チームからはそのままブエルタへ進むことを提案されていたというが、ヨーロッパでの拠点であるイタリアでのレースを転戦することを希望。10月のグラン・ピエモンテではベルナルとワンツーフィニッシュ。自信を大きく深めるレースになった。

 そして今年である。飛躍が期待されるが、本人はそれほど焦っていない。ときにベルナルと比較されてしまうこともあるというが、「彼の走りだけ見たら(実年齢より10年以上経験を積んだ)32歳の選手のような走りだよね」と別次元であることを認める。あくまでも自身は地に足を着けながら、経験を重ねていくことを重視。まずは「ベルナルと一緒に戦えると良いね」と、ツール出場を望む。

 イヴァンの名は、かつてオンセなどで走ったイヴァン・パッラを父が応援していたことから名づけられたのだとか。今年からカハルラル・セグロスRGAで走るホアン・ガルシアはいとこにあたる。自転車愛に満ちた家庭で育ち、早くからプロライダーが自身のあるべき姿だと自認してきた。キャリアは今年で4年目。将来を見据えつつ、戦線に確かな足跡を残せるシーズンとしたいところだ。

将来のエース候補として期待されるイヴァン・ソーサ。今年は経験を積むためツール・ド・フランスのメンバー入りを目指している =グラン・ピエモンテ2019、2019年10月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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