ヒントは登山の軽装備3泊4日の自転車旅<後編> “頑張らない”荷造りはウェア使いで決まる

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 『Cyclist』編集部の自転車放浪者、後藤恭子が紹介する「頑張らない自転車旅」の荷造り術の後編は、3泊4日の自転車旅「ツール・ド・お伊勢参り」での実際の装備・持ち物・宅配便活用法を紹介します。「自走で遠くに行きたいけど、旅でいろんなことしたいけど、荷物をたくさん持ちたくない!」という発想が生んだ、“執念”の軽装術。その発想の源はウェアの機能を理解することと、モノがもつ「汎用性」を見出すアイデアにありました。

東京から伊勢神宮を目指す個人的な自転車旅「ツール・ド・お伊勢参り」3日目。「太平洋岸自転車道」構想の一部となっている渥美半島の「渥美豊橋サイクリングロード」を走る Photo: Kyoko GOTO

「機能性」で軽量化

 旅を終えて荷物を片付けているとき、「持っていったけど、実際は使わなかった」という経験はありませんか? スーツケース等を使える旅ならそれでも良いですが、自転車旅となると余剰な荷物はその分、重荷となって自分に返ってくるもの。できることなら積載する荷物は最低限に抑えたいものです。

 私が自転車旅の装備を考える上で大事にしている点は、「機能性」(防水・透湿・速乾、冬ならば防風・保温)と多目的に使える「汎用性」です。この2つのポイントを押さえることで衣類は基本的に身に着け、その他は「+αの替え」をもつ程度に抑えられます。自転車旅は山旅等と違って市街観光の要素もありますが、必ずしも別途普段着を用意する必要はなく、一工夫すれば1つのウェアをライドにも普段着にも使うことができます。

冬旅レイヤリングのコツ

 まず1つめのポイント、機能性を踏まえた基本装備についてお話します。冬のライドは防寒対策でウェアや持ち物が嵩みがちですが、防風・透湿性に優れたウェアで効率的なレイヤリング(重ね着)ができれば、よほど標高が高い場所を走らない限り、概ね乗り切ることができます。

出発の朝、3日4日の「ツール・ド・お伊勢参り」のスタートです! Photo: Kyoko GOTO

 レイヤリングは基本的にアンダー(下着)、ミドラー(中間着)、アウター(上着)の3層で構成されます。寒いからといって単に厚手のウェアを着込む必要はなく、むしろここに自分の発熱を勘案するのがポイントです。保温性だけでなく汗をかき過ぎないこと。そして汗をしっかり逃がす機能もないと停止時やダウンヒル時の汗冷えの原因にもなります。走る強度をイメージし、普段から自分に必要な保温性と速乾性のウェアバランスを知っておくと良いでしょう。

 それらを勘案した私の冬のレイヤーチョイスは、吸水透湿性に定評のあるアンダーウェアの中厚手と、前面に防風性、背面に透湿性素材を使った“しっかり”ミドラー、そして防水・透湿性に優れた軽量なレインウェアという3層構造です。

レイヤリングの構成。右から、中厚手メリノウールのアンダーウェア、防風性のある冬用ウェア、防水透湿性に優れたレインウェア Photo: Kyoko GOTO

 個人的にはここでレインウェアを選ぶのがポイントです。レインウェアは雨天時のみならず全天候型仕様のアウター。ウィンドブレーカーに対し、レインウェアは防水性だけでなく内部の蒸気を逃す透湿性においても優れているアイテムが多いのも特徴です。

 登山用の機能性が高いレインウェアはしっかりとした生地で、携行時に嵩張るイメージがありますが、幸いなことに最近は自転車向けに開発された軽量タイプのアイテムも登場しています。またレインウェアには雨の侵入を防ぐために縫い目にシームテープが施されていたりと適度な保温性もあります。寒暖に応じて着脱も容易ですし、微調整ならフロントファスナーの開閉で対応可能。厚手のアウターだと脱いだ後のやり場に困りますが、レインウェアは小さくたためば背中のポケットに収納できるサイズになります。

 その上で末端部分(手足)の防寒対策さえしっかりしておけば、大抵は体幹部分で発熱した熱で生き延びれると思っています(漕げばなんとかなる!)。欲をいえば、着脱容易なネックウォーマー。大抵はすぐに暑くなって取り外しますが、首元は寒暖調整の要なので1枚持ってると“即暖効果”が得られます。

冬の快適ライドを仕上げるアイテム。ウィンドストッパー素材のレーパンは手放せません。個人的なこだわりですが、ネックウォーマーはウールよりペラペラフリース、グローブはウィンドストップかつ着用したままスマホ操作が可能であることが絶対条件。足先は意外と汗をかくのでシューズカバーは防風に加えて透湿性がある素材がおすすめですが、いまだに「これ!」というものには出会えてません Photo: Kyoko GOTO

 そしてレーパン。こちらも防寒仕様で前面に防風素材が採用されているものを選びます。サイクリストの皆さんにはいわずもがなですが、これがあるかないかで冬季ライドの保温性は格段に異なります。個人的には「冬にジーンズを履くか、素足でスカートを履くか」くらいの違いがあると感じています(男性の皆さんは想像してみてください)。発熱量によっては不要ですが、平均時速20km前後で漕ぎ続ける場合、体熱は北風であっさり奪われますし、ダウンヒルともなると寒さで体も疲れます。

 また、前回で「旅では1枚のレーパンを履き続ける!」と言い放ってしまいましたが、安心してください。“掟破り”ですがアンダーウェアを交換しながら履き続けます。防風性がある生地は少し厚くなるので、毎晩の洗濯で完全乾燥は難しくなります。でも嵩張る予備は持ちたくない。そんな天秤にかけた結果、インナーのみ交換するというスタイルを貫くことにしました。レーパンの中にインナーを履くことに少々違和感もありますが、荷物が増えることを考えれば背に腹は変えられません。

一工夫で普段着と兼用

 以上の基本装備をもとに、次は「+α」の装備を考えていきます。この「+α」の装備類に汎用性をもたせることが、2つめの荷物削減ポイントです。

 まず保温着。走行中は発熱があるから良いけれど、下車時の防寒対策はこれだけだとさすがに厳しい。そんなときに心強いのが「インナーダウン」です。手持ちのアウターをシェルとして使う中綿だけのダウンジャケットなので、保温性が高いのに軽量で収納時は非常にコンパクトになる優れものです。

軽量で保温性の高いインナーダウン。部屋ではそのまま着用しても良いが、気温が低い場所ではシェルを1枚羽織って暖気を逃さないようにしましょう Photo: Kyoko GOTO

 私は出張時等にも常にカバンに忍ばせ、少し肌寒いときに羽織ったりしますが、パーカーなどを携帯するよりも嵩張らず、便利です。自転車旅中の保温着はこれ一つ。ライドの休憩中も、宿に到着して市街地に出歩くときもアンダーウェアの上に直に着ます。その際はブラックのアンダーウェアをあたかも普通のロングTシャツのように着こなします。

インナーダウンを収納した状態。バッグなどに収納する場合はバッグ内の隙間を埋めるようにスタッフバッグから出した状態で入れても◎ Photo: Kyoko GOTO

 ダウンジャケットはダウンの質によって保温性が異なります。自転車旅ならばユニクロ等でも良いかと思いますが、保温性に加えてより軽量コンパクトにしたい場合は登山用ブランドの製品をおすすめします。

 アンダーウェアはメリノウール製の中厚手タイプを使用します。自分の発熱量にもよりますが、厚手タイプは雪山登山などで使用していたので、そこまでは…という自分の尺度があります。実際、ライド時は中厚手が最も効率的に体温調整できる気がします。そしてライド中に着たものは全てその日の夜に洗濯。着替え用に用意したもう1式をその夜の普段着⇒翌日のライドに回すというサイクルで2セットを使い回します(速乾性はここで強みを発揮します)。

 さきほど普段着として使うと説明しましたが、メリノウール製は化繊と違って自然素材なので、見た目も肌触りもナチュラル。さらに見た目以上に保温性があるので、1枚で部屋着としても快適に過ごせます。これが私がメリノウールを選ぶ理由の1つで、余剰衣類が2着分ほど削減できていると思います。ちなみにこれらのアイテムは1泊であっても3泊であっても、さらに宿泊数が増えても必要枚数は変わりません。

 レーパンを脱いだあとのパンツ代わりには、同じくメリノウールのタイツを使います。部屋ではそのままリラックスウェア。外出時にはあたかもレギンスっぽく薄手の短パンを上に履いてでかけます。これでズボン1本分の嵩と重量を省略することができます。また細かいことですが、靴下はライドにも普段履きにも使えるよう、高機能であってもスポーツロゴが入っていないシンプルなものをチョイスすると良いでしょう。

 そしてシューズは当然ながらSPDシューズを選びます。クリートが剥き出しのSPD-SLだと歩きづらく、行動範囲も狭まります。また下車用に別の靴を用意するという方法も非効率。だからといってフラットペダルでスニーカーをチョイスするのは上りもある道中では(力が)もったいない選択肢です。

イタリアのブランド、Vittoria(ヴィットリア)のSPDシューズ。ポタリング等、下車する場面が多いライドで愛用しています Photo: Kyoko GOTO

 いまは色々なデザインのSPDシューズが出ており、選択肢の幅も広がっています。ちなみに私はライドにも普段着にも合わせやすい(と思っている)デザインのシューズを履いています。

 私の下車時の姿が想像できましたでしょうか? 実はこれ、私がかつて登山をしていた時にテントの中で過ごしていた「メリノウール+ダウン」スタイルを基本に自転車旅用(?)にアレンジしたもの。機能性ウェアも着方や組み合わせで、普段着として二次利用できるのです。

3泊4日の荷物まとめ

 ということで、私が今回の3泊4日旅で携行した荷物(ライト等バイクツール除く)を整理しますと…

・交換用のアンダーウェア&靴下1セット
・秋冬用ジャージ(上)の予備
・タイツ1枚
・ラン用ショートパンツ1枚
・インナーダウンジャケット1着
・基礎化粧品(試供用の使い切りタイプを必要日数分)
・補給ジェル2本
・輪行袋
・頑丈なロック
・財布
・スマホ&充電器&予備バッテリー

画像上の衣類はザックに。雨に備えて防水の袋(紫の袋)にひとまとめにして収納する。ザックのショルダーハーネスにあるベスト状のポケットに財布や携帯を収納。ザック下部の伸縮性ある大きめのポケットはレインウェアの収納に便利。画像下の輪行袋、鍵等はサドルバッグに収納。これ以外の衣類は基本的に身に着ける Photo: Kyoko GOTO

 前編で荷物を搭載する“入れ物”はトレラン用のザックとサドルバッグのみと説明しましたが、これらの荷物をどう分散させるかというと、ザックには財布とスマートフォンの他、軽めで収納形状を体に沿わせやすいインナーダウンや衣類を収納します。

浜名湖を通過中 Photo: Kyoko GOTO

 荷物は軽くても長時間背負っているとじわじわと負荷がかかるので、全ての荷物を自転車に搭載し、体をフリーにする方が望ましいのですが、ハンドル操作の手応えが変わるのが苦手なので、このスタイルに落ち着きました。そこは個人差があると思いますので、予め自分に合った方法を検証しておくと良いでしょう。

愛知県に入りました!この県境越えの瞬間が地味に嬉しいのです Photo: Kyoko GOTO

 サドルバッグには雨天時・トラブル発生時のエスケープ用に輪行袋を収納。そして盗難のリスクに備え、ワイヤーロックではなく頑丈なロックを携行します(これが最重量の荷物)。少しの補給食もこちらに。日本のコンビニ文化があれば補給にほぼ困ることはなく、今回の旅でもジェルを使ったのは熱海峠付近でのヒルクライムでの1回のみでした。省いても良い荷物だと思いますが「備えあれば憂いなし」ということで、補給2回分程を忍ばせておきましょう。

「+α」の荷物を宅配便で

 前編では荷造りに宅配便を使っていることを書きましたが、「じゃあ宅配便で何を送ったの?」となると思います。たしかにこの装備・荷物でも旅を完結できますが、今回の旅ではさらに楽しみたいことがありました。

伊勢神宮内宮の御手洗、五十鈴川で手を洗う。新品のレーパンで正装(?)し、足元は歩きやすいようにランシューズに変更。最終日、賢島までの43kmはビンディングシューズなしで走行 Photo: Kyoko GOTO

 伊勢に到着したのは12月31日の大晦日。翌日、元旦の初詣に際し、3日間履き通したレーパンでお伊勢様を詣でるのは日本人としてさすがに申し訳ない…ということで新年用のレーパンを1着。伊勢神宮を参拝した後に、かつて「G7伊勢志摩サミット」の開催地にもなった賢島に行ってみたい、朝の英虞(あご)湾を眺めながらランニングをしてみたいというプランを実現するためにランニングシュースを一足。

 そして完走のご褒美&新年をちょっと良いホテルで祝いたいということで「ちゃんとした普段着」も一式送りました。これらは送らずとも過ごせたかもしれませんが、ビジネスホテル&ウェアのやりくりの旅に解き放たれ、最後に“普通に”過ごせたことで心身ともにリラックスできたように思います。

リアス式海岸がつくる英虞湾の絶景 Photo: Kyoko GOTO

 荷物を取り出したダンボールには、これまでの旅で不要になった荷物を詰め込み、自宅へ返送。復路の輪行に備えて、往路より身軽な身支度に整えました。

不要な荷物は自宅へ送り返し、復路は軽装で輪行 Photo: Kyoko GOTO

 「頑張らない=荷物を持たない」荷物術、いかがでしたでしょうか? 参考にできることもあればできないこともあるかと思いますが、旅の荷物が多くなってしまって悩んでいるという人は、装備の考え方や宅配便の活用などで、ぜひ対策を考えてみてください。

 最後に余談ですが、宅配便を利用した際は、その荷物がちゃんと宿に届くかどうかが旅の運命を左右するので、送り状(伝票)番号を画像で残すなどして必ず控えておきましょう。

後藤恭子後藤恭子(ごとう・きょうこ)

Cyclist編集部員。まとまった時間ができるとすぐに自転車旅へと出かける“放浪”サイクリスト。国内だけでなくスイス横断旅を始め、欧州各国を自転車で旅した他、2018年にはノルウェーで開催されたアマチュア最高峰のステージレース「Haute Route」に日本人女性として初参加・完走を果たした。最近はトライアスロンにも挑戦中。

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