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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<322>エースクラスはグランツールと東京五輪に意欲 ミッチェルトン・スコット 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 アダムとサイモンのイェーツ兄弟(オーストラリア)やエステバン・チャベス(コロンビア)の台頭とともに、グランツールをにぎわせる強力チームへと進化を遂げるミッチェルトン・スコット。まだまだ発展途上にあり、2020年は3人のエースに続く選手も擁立しようと動き出した。そして何より、チームのお膝元でのシーズン開幕を控え、1年のスタートから全開で戦う態勢を整える。南半球・オーストラリア発の精鋭軍団は2020年をいかに戦い抜くだろうか。

2020年もグランツールでの上位進出を目指すミッチェルトン・スコット。サイモン・イェーツ(左)はジロと東京五輪、エステバン・チャベスはツールを狙うことが見込まれる =ジロ・デ・イタリア2019第6ステージ、2019年5月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

チーム目標のダウンアンダーにS・イェーツが初出場

 ミッチェルトン・スコットにとって、外すことのできないレースがシーズン早々にやってくる。UCIワールドツアー開幕戦であるサントス・ツアー・ダウンアンダーは、チームの地元であるオーストラリアで開催されるだけあって、モチベーションは他チームをはるかにしのぐ。

サントス・ツアー・ダウンアンダー個人総合3連覇を狙って今年もダリル・インピーがオーストラリアに乗り込む =サントス・ツアー・ダウンアンダー2019第6ステージ、2019年1月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 例年、オーストラリアとニュージーランドでは年明けすぐに国内選手権を行っていることから、ダウンアンダーも両国の選手を中心にメンバーに名を連ねるが、ここ2年は両国のライダーに盛り立てられたダリル・インピー(南アフリカ)が連続して個人総合優勝。ボーナスタイムが設けられる中間・フィニッシュの両スプリント機会をモノにしながら、最難関のウィランガ・ヒルでも粘るスタイルで、いまや“ミスター・ダウンアンダー”の1人でもある。本記執筆時点では同チームからエントリーする7選手の確定には至っていないが、インピーが3連覇を狙ってオーストラリアに乗り込むことは、チームが正式に発表している。

ジロ・デ・イタリアと東京五輪を見据えるサイモン・イェーツ。シーズン初戦に初めてサントス・ツアー・ダウンアンダーをチョイスした =ツール・ド・フランス2019第19ステージ、2019年7月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 さらに今年は、強力な援軍が加わる。チームリーダーの1人であるサイモン・イェーツがシーズン初戦にこの大会をチョイスしたのだ。「夏のオーストラリアでのシーズンインはかねてからの希望でもあった」と大会出場にあたってコメントしているが、同時に今シーズンのターゲットとなるジロ・デ・イタリアと東京五輪を見据えたレースプログラムの1つであることも明らかにした。シーズン最大目標となる2つの“本番”から逆算し、ダウンアンダーで始動する。昨年は8月にシーズンを終えたが、オフの休養とその後のトレーニングの出来が、オーストラリアでの数日間で分かることだろう。

 チームの顔2人がそろい、2020年シーズンのスタートダッシュへ状況は整った。

3人のエースはそれぞれに再浮上を誓う

 チームリーダーの中でもいち早く目標を明確にしたサイモン・イェーツ。昨シーズンはその前年のブエルタ・ア・エスパーニャ初制覇の勢いのまま戦うことを理想としていた。しかし、実際にはシーズン序盤から波に乗り切れず、狙いを定めていたジロでも不発。特に大会前半から中盤にかけて順位を落とす状況となり、後半の山岳で盛り返したものの、個人総合8位でまとめるのが精いっぱい。直後のツール・ド・フランスではステージ2勝を挙げ意地を見せたが、この大会は当初からアシストに回ることを前提に臨んでいたこともあり、マイヨジョーヌ戦線からは外れた。

昨年のツール・ド・フランスでステージ2勝を挙げたサイモン・イェーツ。一方でジロとツールともに総合成績は振るわず。2020年はリベンジのシーズンとなる =ツール・ド・フランス2019第15ステージ、2019年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ここ2シーズン振り返ってサイモンは、リスクを負いすぎていたと感じているという。かなりの疲労感を抱いていたこともあり、昨年は8月にシーズン終了とすることに何の迷いもなかったという。

 心身のリフレッシュを行って、すでにトレーニングは順調に行っている段階。スペイン・カナリア諸島での個人キャンプを実施し、今シーズンのスタートに向けた準備も着々と進んでいる。

 1つ目のターゲットとなるジロは、マリアローザを狙うサイモンにとって合計58.8kmの個人タイムトライアルステージがポイントになる。大会中盤、第14ステージでは33.7km、最終の第21ステージには16.5kmがそれぞれ設定されており、ジャージを争う選手たちの間でも大なり小なりタイム差が発生するだろう。「年々TT能力は上がっている」と自信を見せるサイモンだが、実情として確実性は高いとは言えない。一方で、「上位クラスの登坂力には大きな差がない」と自身が述べているように、山岳で圧倒的な差をつけることが難しいのが近年のグランツール。やはり、タイムトライアルでいかに貯金を取り崩さずにクリアできるかが重要になってくる。

 やはりジロでタイトルを獲ってよい流れで東京五輪へと向かいたいところ。イギリスはロードレースの出場が4枠で、現時点では内定者はいない状況。今後の戦いぶりによって代表が決まることになるが、サイモンにとってはイタリアでの3週間で決定させたいことだろう。出場できればメダル獲得を目指したいとも公言する。

アダム・イェーツは山岳比重の高いツール・ド・フランスへ。2016年の個人総合4位を上回る成績を目指す =ミラノ〜トリノ2019、2019年10月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 サイモンとならぶ総合エースのアダム・イェーツとチャベスについては、今年の動向が明確となっていないが、脚質的にツールが現実的か。これまでになく山岳比重が高く、ピュアクライマーがこぞってフランスに集まる公算だが、ここはミッチェルトン・スコットとしても穴のない布陣で臨むはず。

 特にアダムは昨年、ツールの総合エースに任命されながら、まさかの不発。前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは途中リーダージャージを着用するなど好調だったが、最終ステージ前に発熱しリタイア。このダメージがツールにも響いてしまった。本人としても今年へ期するところは大きいだろう。ここ数年はグランツールで目立った成績は残せていないが、2016年にはツールで個人総合4位とし、新人賞「マイヨブラン」を獲った男だけに、本来の力を発揮できれば大きな成果は間違いない。その意味では、リベンジのシーズンとなる。

 リベンジといえば、チャベスも今年は再浮上をかけたシーズンだ。一昨年に伝染性単核球症を患い、何とか戦線に戻ってきたが、山岳での圧倒的なパンチ力は鳴りを潜めた。昨年のジロでステージ1勝を挙げたとはいえ、本来はステージ狙いにとどまる選手ではない。本人はツールへの意欲を見せており、あとはチームとの話し合いで目指すべき道が決まってくる。

チームをさらに押し上げる若手とベテランの融合

 チームは、重要視するグランツールやステージレースにおける戦いの幅を広げるべく、新たなエースクラスの擁立にも力を注ぐ構えだ。

次期エース候補として期待されるジャック・ヘイグ。グランツール経験は豊富だ =ツール・ド・フランス2019第15ステージ、2019年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 イェーツ兄弟とチャベスをジロとツールに集中させたいとの考えから、シーズン最後のグランツールであるブエルタへは、26歳のジャック・ヘイグと23歳のルーカス・ハミルトン(ともにオーストラリア)が総合リーダー候補に挙げられている。

 ヘイグはすでにビッグレースでの実績があり、昨年はパリ~ニースで強豪との好勝負を演じて個人総合4位、シーズン最終盤のイル・ロンバルディアでも6位に食い込んだ。一昨年のブエルタでは、山岳アシストとしてサイモンのマイヨロホ獲得をお膳立て。高いレベルでの戦いも熟知しており、次期エース候補としては一番手の選手だ。

23歳のルーカス・ハミルトンもグランツールの総合リーダーとして嘱望されている =ジロ・デ・イタリア2019第7ステージ、2019年5月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ハミルトンは実績こそヘイグには劣るが、小さなレースでは個人総合優勝を経験するなど、ステージレースを得意とする。最終決定はまだ先となりそうだが、チームとしては自国ライダーをエースに据えたいとの思いはあるのだろう。成長株の2人がトップを狙う立場を与えられることは、そう遠い未来ではないはずだ。

 ちなみに、2020年シーズンは28選手で戦う。若手や中堅クラスの選手がエースを務める一方で、ベテランがその下地を固める役割を担っている。35歳のミケル・ニエベ(スペイン)とブレント・ブックウォルター(アメリカ)は山岳で、平地や石畳系クラシックでは34歳のジャック・バウアーや30歳になったクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)といった経験豊富な選手たちが控える。

 新加入組では、デビュー以来自国のアスタナ プロチーム一筋だったアンドレイ・ツェイツ(カザフスタン)が初めて他国籍のチーム加入を決断。山岳アシストとしてビッグネームを支えた経験を、これからは若い選手たちの躍進につなげようと意気込む。

 かつてのお家芸であったスプリントや、春のクラシックに向けても、選手たちの奮起に期待したい。

ミッチェルトン・スコット 2020-2021 選手動向

【残留】
エドアルド・アッフィニ(イタリア)
ミヒャエル・アルバジーニ(スイス) ※2020年6月14日引退
ジャック・バウアー(ニュージーランド)
サム・ビューリー(ニュージーランド)
ブレント・ブックウォルター(アメリカ)
エステバン・チャベス(コロンビア)
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)
アレクサンダー・エドモンドソン(オーストラリア)
スガブ・グルマイ(エチオピア)
ジャック・ヘイグ(オーストラリア)
ルーカス・ハミルトン(オーストラリア)
マイケル・ヘップバーン(オーストラリア)
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア)
ダリル・インピー(南アフリカ)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
キャメロン・マイヤー(オーストラリア)
ルカ・メズゲッツ(スロベニア)
ミケル・ニエベ(スペイン)
ニック・シュルツ(オーストラリア)
カラム・スコットソン(オーストラリア)
ディオン・スミス(ニュージーランド)
ロバート・スタナード(オーストラリア)
アダム・イェーツ(イギリス)
サイモン・イェーツ(イギリス)

【加入】
カーデン・グローブス(オーストラリア) ←SEGレーシングアカデミー
アレクサンダー・コニシェフ(イタリア) ←ディメンションデータ・フォー・クベカ
バルナバーシュ・ペアーク(ブルガリア) ←SEGレーシングアカデミー
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン) ←アスタナ プロチーム

【退団】
マッテオ・トレンティン(イタリア) →CCCチーム

今週の爆走ライダー−ミヒャエル・アルバジーニ(スイス、ミッチェルトン・スコット)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2012年、オーストラリア初のトッププロチームとして歩みだした「オリカ・グリーンエッジ」。チームスポンサーの入れ替わりもあり、いまはミッチェルトン・スコットとして活動するが、所属選手のうちチーム創設時を知る数少ない1人が39歳となったアルバジーニである。

現チームの創設を知る数少ない1人、ミヒャエル・アルバジーニ。そんな彼も2020年途中に現役引退することとなった =フレーシュ・ワロンヌ2012、2012年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな彼も、今年6月のツール・ド・スイスをもって現役生活にピリオドを打つことを決めた。地元スイスで開催されるレースにめっぽう強く、ツール・ド・ロマンディではステージ7勝、ツール・ド・スイスでは同じく3勝。狙いを定めたレースへのピーキングが巧みで、春にはアルデンヌクラシックでも好走を見せてきた。

 しかし、近年はモチベーションを保つのが難しくなってきていたという。何か気持ちを奮い立たせる要素を見つけようにもエネルギーが必要で、そうしているうちに疲れてしまうこともしばしば。これまでになかった困難な状況が、引退の決め手になった。

 ツール・ド・スイスを引退レースに決めたのは、バイクに乗り始めた頃からの友人たちが主催者側で大会を支えているからなのだとか。家族もレース観戦に来やすく、みんなと一緒にキャリアを終えられる最適な場所がそこだった。

 そのツール・ド・スイスに向けて意気込みを問われると、「結果に関する目標は設定していない」。それでも、「できる限りベストコンディションで走りたい。自分自身のためでもあるが、チームのためにしっかりと走りたい」。ときにエースとして、ときにアシストとしてチームを押し上げてきた男らしい言葉である。

 キャリア最後の6カ月、走る以上は最後までチームの戦力でありたいと誓う。もちろん首脳陣もそのつもりで、「彼が走るべきレースはまだまだたくさんある」。引退へのカウントダウンが始まっているが、どうやら感傷に浸ってばかりもいられないようだ。

2020年6月のツール・ド・スイスで引退するミヒャエル・アルバジーニ。だが最後の最後までチームのために戦い抜くことを誓う =UCIロード世界選手権2019、2019年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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