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栗村修の“輪”生相談<170>「全国で入賞したいと言う小3の息子を、今以上に練習させてもいいですか?」

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親子でロードバイクに乗っている者です。最近、子供の練習方法について迷っていまして、是非アドバイスを頂けたらと思いメールいたしました。

 息子はロードバイク等の大会あに参加しており、地方の大会では優勝や入賞するのですが、全国クラスの大会ですと、入賞とは程遠い成績です。私としては息子は小学3年生なので、まだ本格的に練習しなくても?と思っていましたが、息子本人より全国で入賞したいので、もっと練習したいと言われました。

 現在は週末に1日、私と30kmをポタリング程度に走っており、平日は2日ほど3本ローラーで20分練習しております。小学3年生ということもあり、高負荷の練習は避けてきましたが、今以上に練習をさせてもいいのでしょうか?

 「子供のトレーニング」は、ここ数年ずっと考えてきたテーマです。

 高校生向けのトレーニングをめぐる議論はいろいろとありますが、中学生以下の年代を対象にしたトレーニングが話題に上ることはほぼゼロでした。トレーニングをすべき・すべきじゃないという以前に、競技界で真剣に考えられることがなかったんですね。そんな中、ウィーラースクールジャパンのブラッキー中島さんや、元選手の鈴木真理さん(ブリッツェン☆ステラ)らがパイオニア的存在として現在中学生以下のトレーニングについて取り組んでいる状況です。

 では例によってヨーロッパの事情を見てみましょう。ヨーロッパ、少なくともベルギーには、「ウィーラースクール」という子供向け自転車スクールの伝統があります。ウィーラースクールを見る限り、子供向けのトレーニングではまず「楽しむこと」に重きが置かれています。

 子供の頃にロードバイクでのきつ過ぎるトレーニングをやらないこと。つまり、楽しむことと、自転車に乗る技術を覚えることがメインなんです。それは、将来大人になって本格的にトレーニングに取り組むことになったときのモチベーションをとっておくためなんですね。「もっと自転車に乗りたい」という気持ちを温存しておかないと大切な時期に伸びないということです。

 きついトレーニングをしないことには、もうひとつ極めて重要な理由があります。それは、ロードバイクによるトレーニングで得られる強さの総量は、精神面だけでなく肉体面においても「有限」であるという基本的な考え方です。子供の頃はロードバイクでの専門的なフィジカルトレーニングを温存し、基礎体力を上げるために他のスポーツなどで身体全体の強さを手に入れ、また、自転車の乗車技術向上などに力を入れるべきとされています。

 以前、エキップアサダの浅田顕監督が「大人顔負けの練習をしている高校生を見ると不安になる」とおっしゃっていたことがありました。一般的な指導者なら「たくさん練習してエライ!」と結論しかねないところですが、逆なんです。むしろ本場では「あまり練習してないのに速いなんて、有望だ」と考えるようなのです。そして、「基本的に練習量というのは毎年増やしていかなくてはいけないもの」ともおっしゃっていました。

 先日、その浅田監督の言葉を証明するようなティボー・ピノの若いころのデータを見る機会がありましたのでご紹介いたします。

現在フランス人レーサーで最もツール・ド・フランス総合優勝に近い男といわれるティボー・ピノ Photo: Yuzuru SUNADA

年間走行距離

18歳:14,500km(1,200km/月)
19歳:22,500km(1,875km/月)
20歳:26,500km(2,200km/月)※プロデビュー
22歳:27,000km(2,250km/月)※ツール初出場総合10位

時間別平均出力(体重換算値)

18歳:4時間=3.7/1時間=5.0/20分=5.7/5分=6.4
19歳:4時間=4.5/1時間=5.1/20分=5.9/5分=6.9
20歳:4時間=4.3/1時間=5.3/20分=6.0/5分=7.2 ※プロデビュー
22歳:4時間=4.6/1時間=5.6/20分=6.5/5分=7.4 ※ツール初出場総合10位

 子供の頃のデータではありませんが、ジュニア最終年(18歳)からU23最終年までのデータになります(U23最終年にツールで総合10位になっている!)。まず、18歳の時の平均月間走行距離はたったの1200km…。にも関わらず1時間の平均出力は5.0を発揮しています。そして、年間の走行距離が徐々に増えていき、それと共に出力値もきっちりと向上しています。

 このデータを見る限り、恐らく中学生から高校生にかけてはあまりロードバイクには乗っていなかったものと推測されます。一方、日本では中学生ですでに月間1500kmを走っている子もいるでしょうし、高校生に関しては月間3000km以上走っていたりもします。

 もちろん例外はありますし、たくさん走ることが悪いと言いたいわけではありませんが、この基本概念を知っていると知らないとでは雲泥の差になるので、まずは参考までにお知らせした次第です。

 子どもにロードバイクでのきついトレーニングをさせないもう一つの理由は、かなり特殊なスポーツである自転車に若いころから順応させ過ぎないためです。少し抽象的な表現になってしまいますが、子供の頃に生き物としての基本的な強さというか、全身の筋力、免疫力、回復力、精神力などを総合的に身に付けておかないと、将来プロのサイクリストとして活躍することは難しいと思います。

 ロードバイクでのトレーニングというのは、大袈裟に表現すると「強化」ではなくて「チューニング」であると個人的には考えています。「チューニング」は18歳を過ぎてからするべきで、それまではとにかく「心身ともにタフな人間を育てる」というところに注力するべきでしょう。

 長くなりましたが、ご質問への答えは「ロードバイクでの過剰なトレーニングのし過ぎには注意してください」ということになります。週1回のポタリングと2回のローラー台練習、いいじゃないですか。そして他のスポーツなどもさせてあげてください。息子さんが練習に意欲を持っているのも大切ですね。焚火をするときのように、モチベーションが燃え尽きないよう、少しずつ火を大きくしてください。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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