2020新春スペシャルインタビュー<5>ワールドツアーに挑戦する全日本王者の入部正太朗 「僕は僕の例を作る」

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 昨年11月、世界最高峰のUCIワールドチーム「NTTプロサイクリング」への移籍加入が発表された入部正太朗。30歳を迎えた昨年、国内プロ8年目にして悲願の全日本選手権ロードレース制覇を達成し、本場・欧州のトッププロチーム入りにつなげた。大きなチャレンジを決めた現日本王者に、今の心境を聞いた。

NTTプロサイクリングに移籍加入した入部正太朗にインタビュー Photo: Ikki YONEYAMA

ワールドチームは“ビッグファミリー”

――Q.ワールドチームに電撃加入、発表の11月14日は日本中が驚いたと思いますが、加入に至るまでの交渉の経緯は?

 全日本選手権で優勝した後に、とあるエージェントの方からディメンションデータ(現NTTプロサイクリング)が日本人を探しているということで、興味がありますか?っていうことで聞かれたんです。興味がありますとお答えして、それでもしかしたらという気持ちが僕の中に生まれてたんですけども、それが本当にジャパンカップ終わってさいたまクリテリウムぐらいの時期に、面談をしようかという提案を頂きまして。

――Q.さいたまクリテリウムの時に会った?

 会ったのはツール・ド・おきなわ(11月10日)の後です。東京でお会いして、その直後に加入が決まったという感じです

――Q.どんなことを話すんですか?

 どういう形で走ってきたのかとか僕の目標であったりだとか、できる限り自分なりにアピールをして、質問をしていただいて僕が答えたりとか、僕も質問したりという形でした

11月、NTTプロサイクリングの発表会が東京で行われた2日後、急遽入部の加入が発表された Photo: Shusaku MATSUO

――Q.契約は何年間ですか?

 1年です。やるしかないですし、全力でやるのみです。

――Q.12月に10日間くらいのチームキャンプに参加してきたわけですけれども、その前は約1カ月どんな感じで過ごしていましたか?

 加入が決まった週はかなりバタバタすることもありまして、結果的にツール・ド・おきなわが終わってから2週間ほどは自転車に乗っていない状態のオフをとったんですけども、身体的には休めたかもしれないですけども、気持ちの面では引き締めたままというのが正直なところでした。毎年いつも暴飲暴食する時期もあったりするんですけど、今年は全くなく意識を保ったまま2週間ほど過ごして、11月下旬からトレーニングを開始して、12月のチームキャンプに参加した形です

――Q.チームキャンプではどんな感じでトレーニングを?

 新加入の選手や新しく入られるスタッフの方もいるので、顔合わせという意味が大きいなと感じたキャンプでした。練習自体は4、5時間、2日やって休むか3日やって休むかぐらいのペースで、乗り込み中心におこなってたので、二列並走もできますし(隣り合って喋ったり)、色々な選手とコミュニケーションが取れた合宿でしたね。

Photo: Ikki YONEYAMA

 “ビッグファミリー”って言葉を何度も聞いたんですけども、チーム一丸となってという共通の意識を持つというところで、すごく皆がそれを尊重している。多国籍なチームで色々な国の方がいるので、各国の文化であったりそういう話を聞いて、すごく和気あいあいとしていて明るい雰囲気です。

 例えば食事の時に国によって作法が違ったりとか、僕が食事をしていると「お、それがジャパニーズスタイルか?」みたいな感じで聞かれたこともありましたし、やっぱり国によって食べる順番だったりとかも違うんですけども、それも硬いルールがあるような雰囲気じゃなくて、各国の選手を尊重して本当に楽しく、コミュニケーションをとりながら、絆を深めていけたという印象が強かった合宿でしたね。

――Q.誰か仲良くなった選手はいますか?

 基本的に全員喋らせてもらいましたし、みんな優しくて、僕もできるだけ積極的にコミュニケーションを取りに行くようにはしてたので、みんな仲良く喋らせてもらいました。最終日に近づいたくらいの時には、ヴィクトール・カンペナールツ選手と二人でサウナも入ったりとか。「ショッタロウ!レッツゴーサウナ!」みたいな感じで言ってもらえたりして、めっちゃ暑かったですけど、だいぶコミュニケーション取れたかなと思っています

Photo: Ikki YONEYAMA

――Q.実際にワールドツアーの選手たちと一緒に肩を並べて走て、力の差とかは感じましたか?

 もちろん僕がヨーロッパの経験だったりで明らかに劣っているのは事実ですし、まだ地に足がついてない状態だということは確かなんですけども、僕も(チームで)共に走ってるということに関しては意識を同じところまで引き上げる必要がありますし、「うわー、あの選手知ってる選手だ」とかそういう目線ではなくて、自分がそのチームの一員としてしっかりと役割をこなせるようにならないと駄目だということを感じているので、チーム一丸となって僕も勝利に貢献して、僕が与えてもらった仕事をしっかりとこなせるようにという意識でいます。

大切な仲間と成長できた

――Q.大学を卒業してからこれまで8年間、シマノレーシング一筋で走ってきましたが、入部選手がシマノに入団した当時は、チームが若手育成に方針を大きく変えた時期でした

 最初の1、2年は経験不足なところもあって、補給の仕方すら知らなかったくらいなので、そういうところの経験を積んで、3年目くらいから、JプロツアーであったりUCIレースで表彰台に乗れるようになり始めて、力が付いてきてることを実感し始めました。本格的にヨーロッパであったり、本場のレベルを知りたいという気持ちが強くなっていきました。

 4年目になる時にチームがさらに大きく方針を変えたといいますか、先輩方が移籍されて僕がその時点で最年長になり、キャプテンを任せてもらう立場になりました。そこはチームとして大きな変化があった年かなとは思ってますね。

――Q.その4年目からのシマノレーシングの成長というか、入部選手の成長を含めて、感じるところありますか?

 前の年までは畑中(勇介)さんがキャプテンをされていて、僕がキャプテンになるっていうのは全然レベルが違うと思ってたので、引き継げるかなとか、畑中さんがまとめてきたことを僕にできるのかっていう不安は大きかったです。その前の年くらいから西村(大輝)選手であったり高校卒の選手も入るようになったりして、平均年齢がすごく若くなる若手主体のチームに変わっていったので、その中でキャプテンを任せてもらえるということは、楽しみもありますけど大きなプレッシャーもありました。

シマノレーシングでは2015〜2017年の3年間キャプテンを務めた Photo: Shusaku MATSUO

 どこまでチームをまとめられるか、僕の経験値と実績でどこまでみんなの力になれるのか。やっぱり今思うとうまくいかないことがほとんどで、自分の性格であったりまとめ方であったり経験値もそうですけど、不甲斐ない部分が多かったかなと思うので、苦しい思いもみんなで多分してきましたし、チームメートと溝ができたことももちろんあります。

 3年ほどキャプテンをした後に、僕が現キャプテンの木村(圭佑)選手に、キャプテンをしてくれないかという形で相談を持ちかけて、代わってほしいということで、木村選手が「わかりました、任せてください」という形で快く引き受けてくれる形でキャプテンが代わりました。その代わる時も正直自信がなくなった部分もあったりして、ストレートに言ったら僕はもう投げた状態で木村選手に託すことになって、すごく迷惑かけたことも今思うとかなりありました。

 そこから木村選手がすごくチームをまとめ上げてくれて、僕にはやっぱりそういう能力が足りなかったですし、僕自身本当に木村キャプテンを始め周りの選手に助けられてここまできて、そういう意味でも僕自身もチームも、僕がキャプテンになってから4、5年で大きく成長できました。

20代前半の若手選手が多いシマノレーシング。現在は木村圭佑(右から2人目)がキャプテンを務める。入部正太朗は右端 Photo: Ikki YONEYAMA

 チームとしてもレースで動けるようになってきましたし、ぶつかった時もしっかりと前をお互い向き合って話すことができたチームで、僕は幾度となくそれに救われてきた。自分の傲慢な部分であったりとか、そういうところもチームメートが向き合ってくれて気付けた部分というのがいっぱいあったので、一緒に成長できてきた大切な仲間と言いますか…、この4年間というのは特に、もう話せばきりがないぐらい進化というか成長できた年だったなと思います。

――Q.シマノレーシングのチームメートには、今回のNTT入りをどういう風に言われましたか?

 おめでとうございますという形で言ってもらえて、僕も嬉しかったです。本当にみんなのおかげといいますか、やっぱり全日本選手権で優勝できたということが、その先につながったことなので。すべての時間を共に過ごしてきた仲間と一緒に成長ができて、その中で皆が全日本で僕に託してくれて、なんとか報うことができたという形で、もう完璧なサポートをしてもらったので、僕としても本当に勝てて安心した、良かったっていう気持ちはあったんです。

2019年6月に行われた全日本選手権ロードレース、入部はツール・ド・フランス日本人最多出場の新城幸也(右)との最後一騎打ちを制し、自身初の全日本ロード王者に輝いた Photo: Shusaku MATSUO

 本当に皆のおかげで、スタッフの方々も含めて、監督、応援してくださる皆さんのおかげで(全日本に)勝つことができて、それによってNTTプロサイクリングに入ることもできているんで。そういった意味では、おめでとうございますと言ってもらえること自体もありがたいことなんですけども、それ以前に僕が本当にみんなにありがとうという思いが強いです。本当に感謝しかないというか、ありがたい人生送らせてもらってるなと思いますね。

――Q.今回の移籍が決まった後に、国内の先輩からアドバイスを受けたりしましたか?

Photo: Ikki YONEYAMA

 苦しいことあると思うけど頑張れよ、ということを何人にも声掛けてもらえました。僕も、苦しいことがあるだろうことは予測はついてますし、でも長い人生において、それを経験できるということは本当にありがたいことで幸せなことだと思ってます。その恐怖に溺れて、行くのが怖いという選択肢を選ぶことは僕にとっては後悔しかないと思ったので、迷わず行きたいですということで加入が決まりましたし、そこは全力で頑張るだけですね

――Q.シマノの野寺(秀徳)監督からは何かアドバイスされましたか?

 「地獄が待ってるかもしれない」というアドバイスを頂いてますし、やはりコミュニケーションがすごく大事で、自分の意見を言っていくことも大事だし、明るくどんどん自分から喋りかけていくこととかも、向こうでは大事というアドバイスを頂いたりしました。

厳しい世界をしっかり見ながら

――Q.ヨーロッパではどこに住みますか?

 イタリアのルッカという町をベースに、ヨーロッパでの活動をしようかなということは考えてます。育成チームの拠点がそこにあって、メカニックやコーチもいますし、助けてもらえるような、色々相談できるような環境に身を置くことは大事なことだと思っていますので、そういうところも含めて相談した結果、ルッカがいいんじゃないかという答えをもらえたので、今話を進めてますね。

――Q.シーズンのスケジュールはどんな感じですか?

 おそらく2月頃からシーズンインできる予定かなと思ってるので、それに向けて調子上げていければと思ってます。

Photo: Ikki YONEYAMA

――Q.ファンが期待するところは、その後の春であるとか夏であるとかあると思うんですけども、何かチームと話し合っていることはありますか?

 今の段階では特にそこまでは話してないですけども、まずはしっかり自分がまずレベルアップできていくことと、仕事をしっかりこなせるということだけを見てるので、それをこなせるように頑張るだけかなと思っています。

――Q.ヨーロッパのワールドツアーのチームに入って入部正太朗はこれからどうなっていきたいかというのが、またちょっと変化が生まれたと思うんですけど、今どのようなことを胸に秘めていますか?

 新城(幸也)選手であったり別府(史之)選手であったり、ワールドツアーで長年ずっと選手を続けられてる方と比べると、僕は30歳という歳でヨーロッパに挑戦します。ハッキリ言って、同じところにたどり着くというのはもう自分の中では無理だと思っているので、また違う、僕にしかできない例、30歳までほとんどヨーロッパの経験がない状態で向こうにチャレンジして、もちろんその向こうでの生活は大変ですけども、目標としては向こうで生き残っていくことを選手として考えますので、それを目標にしっかりと仕事をこなして、自分にしか作れない例、僕は僕の例を作っていこうと思っています。

 とにかくいい意味で裏切れるといいますか、予想の上を行きたいですし、厳しい世界をしっかりと見ながら先に進んでいって、自分の人生にも大きな経験になるので、しっかりと楽しめる部分を持って挑戦していけたらなと思っています。

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