2020新春スペシャルインタビュー<3>欧州4年目の與那嶺恵理 五輪に縛られず、広い視野を持ち結果を狙う

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 国内女子選手では他を寄せ付けず、ナショナルチャンピオンジャージを纏い世界を相手に戦う與那嶺恵理(アレ・BTCリュブリャナ)。今季はチームを移籍せず、安定した環境で更なる高みを目指す。レース開幕前に着々と準備を進める與那嶺に、2020年シーズンの展望を聞いた。

欧州4年目のシーズンに挑む與那嶺恵理 Photo: Kyosuke TAKEI

 2019年12月中旬、與那嶺はヨーロッパの中でも気候が安定し、比較的温暖なスペイン・カルぺで開催されたチームキャンプに参加していた。今季、彼女が契約した「アレ・BTCリュブリャナ」は、昨年と同じチームでありながら規模が大きくなりUCI女子ワールドチームとして登録した。調子を尋ねると「キャンプでは走れるチームメートに殺されかけて調子が上がりましたよ」と笑いながら明かし、オランダの自宅からインタビューに答えてくれた。

「環境を変えたくなかった」

――Q.2019年、ご自身が成長を感じた点、また、反省点はありますか?

 そんなことを考える余裕もなくずーっとレースでした。ほぼ毎週です。全部で59レースでした。最終的に全女子選手で3番目のレース走行距離と数でしたね。過労死するかと思いました(笑)。特に序盤にペースとコンディションを調整ができてなかったのは反省点でした。シーズン中盤から吹っ切れたおかげで良くはなりましたけどね。

――Q.印象的なレースはありましたか?

UCI女子ワールドツアー「ストラーデ・ビアンケ」で13位に入った與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ) Photo: Francesco CORTICCHIA

 結果だけ見るとワールドツアーのストラーデ・ビアンケで出した13位が印象的です。でも、チームメートが転び、待たなければならなかった展開でした。自らが狙えるチャンスではありませんでしたが、結果としては今年のシーズンでベストなリザルトを残せました。

 ツアー・オブ・スコットランドは総合6位と良い結果でしたね。エースがその前のレースでクラッシュしてDNS(不出走)。チームはエース不在で臨み、各選手がそれぞれのリザルトを狙うかたちでの出場でした。

――Q.ベテランの域に達してきましたね

 いえいえ、やっとヨーロッパのU23(23歳未満)やジュニアの選手と同じ経験値になったくらいだと思いますよ。すでに欧州4年目ですが。

――Q.チームからの評価は変わりましたか?

女子エリートで4年連続5度目の優勝を飾った與那嶺恵理(アレ・チポッリーニ) Photo: Kenta SAWANO
全日本TT女子エリート5連覇を達成した與那嶺恵理 Photo: Shusaku MATSUO

 自分の中では評価されたり、されないことはさほど重要視していません。別にいいやつだから評価が高い、走れるから評価が高いということもないですし。自分が走れるか走れないかが重要です。レースでメンバーに選ばれるという点では評価されていると言ってもいいのかもしれません。また、4月のアムステル・ゴールド・レースのレース前に2020年の契約オファーを受け取りましたので、評価されているのでしょう。

――Q.2020年にチームはUCIワールドチームになりました。何か変化はありましたか?

 予算が増えましたね。自分の給料ももちろんですが、マンパワーが増えたところが大きいです。最低限のメカニックが常に2人いたり、監督が追加されたり。それでも「毎日予算使えー!」という潤沢さはないですね(笑)。

――Q.キャンプを終え、来季のメンバーにどういう印象を受けましたか?

BTCリュブリャナのメンバーが多く移籍してきました。アレからは私含めて2人、あと4人は新しい選手が移籍してきたという体制です。BTCはスロベニアの国内の代表選手が全員所属しており、ナショナルチームみたいな位置づけですね。

 エースでイタリア人のマルタは昨年のフランダース優勝選手。“ボス”って感じです。インスブルック世界選手権3位でイタリア人のタチアナはベテランで色々教えてくれます。二人とも元世界チャンピオンです。そして仲良しのスペイン人マヴィ。上りが強く何でもできます。

――Q.どういう点を評価してチームとの契約を継続したのでしょうか

 ワールドチームに昇格したことは評価した点の一つです。全体でも8チームしかありませんから。サンウェブやモビスター チームなどからしたら規模の面で劣る部分はありますが、決して悪くない。オファーをもらっていたのもポイントでした。給料も増えるし、ワールドチームになるのであればチームを変える必要はないという主観的な判断です。2020年はあまり活動環境を変えたくなかったという点もあります。

欧州ツアーの1クラスレースで自身初の10位以内でフィニッシュした與那嶺恵理(右) Photo: Simon Wilkinson

――Q.東京五輪を見据えて変えたくなかったのでしょうか?

 チームを変えるとバイクが変われば、スタッフ、選手も変わるし、チームの掟もまた初めから学ばなければなりません。あらかじめ勝手を知っているのと知ってないのだと活動環境に大きく影響が出てきますからね。

――Q.東京五輪に対しての思いを教えてください

 4年に一回、しかも日本で開催という点では特別なレースですが、めちゃくちゃ五輪だけフォーカスするという感じではありません。そもそも、まぁまぁシーズンを通して強くないと勝負に絡むことすらできません。春先に全然走れないのに五輪でいきなり走れるってことはない。五輪で成績を出せるように、前半戦もしっかりと走りたいという感じ。

 母国開催だからとプレッシャーもありません。日本住んでいないので全然感じない。チームからも「がんばれよ!」みたいなことも言われていませんね。イタリア人や、スロベニア人の誰が出場できるかが気になっているようです。「Eriは出場決まってるんだろ?」みたいなスタンスですね。

――Q.昨シーズンに一時帰国した際、コースを走った印象はいかがでしたか?

 実際かなりきついです。3000m近い獲得標高ですよね。出場選手全員がオランダチームを見て動くことになると思います。バン・ブレウテン・アンネミエック(オランダ)が仕掛けると2019年の世界選手権みたいに、上りで発射されたら皆追えないので、その後の展開次第で勝負できるかが決まります。私は追走グループに残ってチャンスをうかがいたい。きつい上りを終えた後もまだフィニッシュまで距離があるので。それがわかりやすいイメージだし、目標です。追走グループに残れば上位に絡めるチャンスがあると思う。

ハードルが上がりつつある世界への道

――Q.国内の自転車業界に望むことはありますか?

 (五輪選考について) はっきりとした明確な選考基準が欲しい。実際、男子のワールドツアー選手はとても不利ですよね。なぜならチームでの指示、仕事がありますし、自分のためにポイントを獲得する走りをすることは許されていません。当然、私が所属している女子ワールドツアーチームも厳しいチームオーダーを守ることへの契約書があります。

 でも、新城(幸也)さんも別府(史之)さんも意見を言わない。でも、意見を言わないとオリンピックのチャンスがなくなってしまいます。私は自分のためにJCFを相手取った裁判や訴訟はしています。声を上げないと私が五輪に行けなくて泣くだけですからね。

 はっきり言って国内のフェデレーションには期待はしていないです。こうしてほしいと言い続けても、まだ選考基準などで男女の格差がありますから。私は自分が正しく良いレースを、いいメンタリティ、いいコンディションでレースをするために訴えかけてるだけです。

 あと、もう少し女子のレースをメディアなどで取り上げて欲しい。オランダでは女子レースの方がシクロクロスでは混戦だし、視聴率も男子より高いんです。ロードレースもワールドツアーは女子も男子もライブの映像がテレビで流れています。

 日本では男子だと“どうやって、誰が日本代表に選ばれるか”という話ばかりで、“日本代表に選ばれたらどう走るか”といった話題はないですよね。4年ごとに同じ話をしています。それもちょっと疑問ですね。

――Q.国内選手はどのように第二の與那嶺選手を目指せばいいのでしょうか?

 現状、極力国内の団体と関わってこないからここまで来れました。アウトサイダーであればキックアウトされるデメリットもあります。しかし、どうやって成長するかを考える機会があります。女子であればナショナルチーム以外で国際レースを走れるきっかけがほとんどありません。

 でも、日本のナショナルチームを見ているとかわいそうだと思います。私は「こうした方が強くなると思う」と言っても、合宿に集合してからは皆で一斉に“ヨーイドン”ですが、そうじゃないと思う。コンディションや脚力の違いがあり、パーソナルコーチの指導方法がそれぞれ違いますからね。

 一方、オランダはナショナルチームの育成体制がしっかりしています。基本的にオランダは強豪国ですが、ナショナルチームから選ばれて遠征に行き、ユーロ選手権に行き、その後にプロツアーの契約が決まるというシステムが出来上がっています。

 もし、海外で走りたいと思った場合、サポートが必要という選手がいれば私のコネクションがあるし、土地勘もあるし何か役立たせることができるかもしれませんよ。

――Q.ナショナルチーム以外で海外で走るには何が必要ですか?

 勝負強さではない、違うメンタルが必要だと思います。欧州は子供のころからプロまで続く育成のシステムにのっとって活動しています。それに乗るにはまず欧州に来なければならない。日本のロードレースとは接点がないですからね。

2020年シーズンのウェアに身を包んだ與那嶺恵理 Photo: Kyosuke TAKEI

 また、フィジカルを比べる場合、唯一、全日本選手権が距離的にも強度も一番欧州に近いレースだと思う。他は短すぎる。本当にヨーロッパ行きたいなら、全日本で私を負かせる気がないと。それしかない。唯一であって最大の指針です。

 また、海外で走る場合にはビザが必ず必要です。今後、シュンゲン協定(EU圏内の移動で国境検査が必要のない制度。日本人は観光などの目的であれば短期の滞在に必要なビザが免除される )が強化され、ビザの取得が厳しくなります。アメリカのESTAのようなものですね。自国以外の選手の雇用は難しく、就労ビザが出ない状況です。ビザを出すならチームがその国に税金を払わないといけないことも関係しています。国が違えば同じEU圏の選手であってもセルフエンプロイ(自営業)ビザです。

 アレのチームはイタリア籍で、エースのイタリア人はビザが下りています。しかし、その他の選手は自営業ビザ。一度イミグレーションからNGを喰らい、キックアウトされるともう同じ空港は使えません。私も自営業ビザをオランダで取得しています。

 まぁ自分が何をやりたいか。ビザを取る手続きなどの苦労をしてまで、こっちでやりたくないと思えばそれまで。私はこっちで生活して、こっちで走りたかった。自分の意志で決めたので、ここまでやりました。

――Q.2020年の目標は?また今後のキャリアについて教えてください

 五輪は大きな節目です。どのような走りができるか、また、その後の走りによってキャリアが変わってくるでしょう。給料とワールドツアーでの契約が保証されていれば選手を続けられますが、給料が出なくて、ワールドツアーでなければ続ける意味はない。今年の走り次第です。

 東京五輪は“イベント”として捉えると、活躍できれば私の国内での知名度が上がると思います。現在、大阪の堺市で発達障害の学校(放課後スクール)を作る予定です。オリンピアンとかアスリートを集めて、社会的な接点を持てるような活動を目指しており、私も講演や指導などで関わっていきます。五輪というネームバリューを活用し、やれることがあるならやらない理由はありません。自分のためだけのオリンピックではありませんからね。

 キャリアを終えてもオランダで生活したいですね。私自身は変えるつもりはない。永住権を取得することが目標です。2020年が終わったら語学学校でオランダ語を学びたいですね。次のビザ更新時にオランダ語のテストがあり、パスしないと更新できないんですよ。

――Q.帰国予定はしばらくなさそうですね

 6月の全日本選手権まで帰りませんよ。

◇         ◇

 ざっくばらんにインタビューに答えてくれた與那嶺。今後はオランダでトレーニングを続け、2月にスペインでのレースからシーズンインするという。

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