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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<45>自転車旅行を中断して行くエベレスト街道のトレッキング 圧倒され涙が出る山の存在感

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 この連載で何度も書かせて頂いているが、自転車旅はオンシーズンしか走れない場所があれば、それに合わせて走行計画を立てる。逆にいうと冬は自転車を置いてバックパック旅をして、また春に走り始めることが多い。そんなサイクリストでも、自転車とは関係のないトレッキングのために、わざわざ訪れる国がネパール。主にオンシーズンのエベレストトレッキングをするためだ。

ゴーキョピーク側はEBCと比べトレッカーが少ないが、ルートは解りやすいので迷う事は無い Photo: Gaku HIRUMA

自転車旅行の装備を代用

 エベレストトレッキングとは、一般的に拠点となる村ルクラからエベレストベースキャンプ(以下EBC)までの約50kmをトレッキングをするというもので、高山病さえ気を付ければ初心者でも充分に登ることができる。

季節外れの台風でどか雪が降った。念のためレンタルしておいたダウンジャケットが役に立った Photo: Gaku HIRUMA

 装備は自転車旅行のものでほぼ代用できたが、トレッキング用に登山靴とバックパック、トレッキングポールに厚手の手袋、フリースパンツとダウンパンツをカトマンズで購入し、ダウンジャケットはレンタルした。

 もともと物価の安い国なので、アウトドア用品も格安で買えるのも魅力だ。オンシーズンでは雪の心配は殆どないが、僕らは季節外れの台風の影響でどか雪が降り、「軽アイゼンがあったら良かった」と感じた。11月や12月に登る人はカトマンズでも買えるので、持っておくと安心だ。

標高が高くてもリーズナブルな値段

 EBCの往復だけであれば最短で9日間でできるが、僕らは19日間の期間を取り、EBCとゴーキョピークという違う尾根の頂上を目指した。通常19日間山に入るとなると、物凄い装備と食料を持たないといけないが、ご飯やお茶はロッジで取れるので、行動食を忘れずに持つくらいだった。

 余ったバッグのスペースにはトイレットペーパーをできるだけ入れて持ち運んだ。下界では30円で買えるのものが山では250円もするからだ。とは言え、山での物価は信じられない程良心的だ。エベレスト街道中の村にあるロッジは、ヒマラヤの山奥で車が入ってこれない。それにも関わらず物凄く整備されており、宿泊も食事もできてしかもリーズナブルだった。

 2014年当時のレートだが100ルピーが約100円換算で、一泊100ルピーから200ルピーとヒマラヤの山奥とは信じられない安さだ。標高5000m以上の場所で300ルピー程度。食事も300ルピーから500ルピーくらいと物凄く良心的で、サイクリストの強靭な胃袋を満たしてくれるだけのボリュームもある。だから一日の出費は平均して約1500ルピー程度で済んだ。

太陽光であっという間にお湯が沸く。高地の日差しは強烈だ Photo: Gaku HIRUMA

 食事もお茶も節約しないで飲み食いをしたけど、行動用の水は「チソパニ 」頂戴と言えば水筒に無料で水を入れてくれる。しかし湯冷ましかお湯かはその時次第なので、サイクリングボトルではなくナルゲンボトルなどの耐熱性の容器を持って行きたい。

ガイドを雇う場合は注意を

 そしてネックになるのがガイド。僕らはガイドなしで登った。エベレスト街道のメインルートを歩く限りは、登山客も多く道もわかりやすいので、特にガイドが必要ではないと思われるが、ほとんどの人はガイドを雇って登っていた。

 雇う雇わないは個人の判断になってくるが、雇うのであれば、信頼のできる旅行会社で頼むのが無難。ハイシーズンには流しのガイドのような人間も多く、トラブルが後を絶たないので注意が必要だ。

 唯一ガイドがいなかった時の弊害はハイシーズンの宿。標高5000m以上にある宿は、数も限られる上に物凄く込んでいて、のんびりしていると部屋が取れないこともある。

 こういう時にガイドがいると、先に行って部屋を確保してくれたり、もともと予約していてくれるそうだが、個人で行った僕らはとにかく朝早く出発し、朝9時には着いていち早く部屋を確保するしかなかった。

独特の哀愁ただようナムチェバザール

 ネパールの首都のカトマンズから小型セスナでルクラへ飛んだ。ちなみに2014年当時の航空券は往復で330ドル。このルクラの空港が既にヒマラヤの山奥にあり、小型のセスナが着陸する場所は、急峻な山の中腹に作られたわずかばかりの滑走路。460mと本当に短い上に傾斜している。この傾斜を利用して減速と加速をしているが、山に突っ込んでるようにしか見えない。実際に事故も多く、世界一危険な空港とも言われている。

 この空港を一歩出るとフリーのガイドや荷物を運ぶポーターがものすごい勢いで声を掛けてくるが、きっちり断ればしつこい事は無い。

 ルクラをスタートすると、まだまだ背の高い木々の間を谷沿いに標高を上げていく。時折見える雪を抱いたヒマラヤがどんどんと近くになっていき、歩きだして2日目にはナムチェバザールが見えてくる。

ナムチェバザールは自動車道路が無いとは信じられないくらい発展しているが、ふとした時に感じる昔ながらの息遣いも感じる街だ Photo: Gaku HIRUMA

 かつてチベットとの交易で栄えたナムチェバザールは、冒険家植村直巳さんの本ではシェルパの里として紹介され、エベレスト遠征隊の本には必ず登場する。すり鉢状に斜面にへばりつく様に家々が立ち並び、山々が見下ろすように取り巻く。世界中からトレッカーが集まってくるので、自動車道路がないとは思えないほど、発展した街になって賑わっている。

 そんな賑わいを見せるナムチェバザールもふとした時に感じる、街の持つ昔から変わらないであろう独特の哀愁がとても心地の良い街だった。

圧倒されるエベレストの存在感

 トレッキング計画では1000m上げるごとに1日高度順応日を設けて、ゆっくり上がっていったが、パートナーが4100mのロッジで高山病にかかった。頭痛、吐き気、激しい下痢が続いたため、翌日すぐに標高約3700mのロッジまで下った。

高山病などのトレッカーをヘリが救助に来る。僕らは加入しなかったがヘリにも対応している山岳保険もあるので、現地で確認してほしい Photo: Gaku HIRUMA

 流石にこれでは登山続行は無理で、とにかく標高を下げようと思っていたけど、その後嘘の様に回復し、その翌日には再び登り始めることができた。たった400m下げるだけで、あれだけ苦しんでいた症状が全くなくなったことが本当に驚きだったのと、改めて高山病の怖さを思い知らされた。

 高山病を発症してしまうと標高を下げるしかないので、登山計画は余裕を持ってするのがいいと思う。その後無事にEBCとゴーキョピークにもたどり着けた。

ゴーキョピークにて。今までの苦労が一気に報われた瞬間。エベレストの存在感に圧倒されて時を忘れた Photo: Gaku HIRUMA

 どうしても見たかったエベレストをこの目で見た。僕の感想だが、写真などで見るエベレストは結構地味な三角の山だったので、実際に見た時にそれがエベレストと気づけるか不安だった。だけどひと目見た瞬間、エベレストの見間違いようのない存在感とパワーに圧倒され涙が出た。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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