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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<320>ログリッチ、デュムラン擁するドリームチームでツール制覇へ ユンボ・ヴィスマ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2019年シーズンに大きな成果を収めたチームの1つが、オランダ伝統のチームであるユンボ・ヴィスマ。ツール・ド・フランス開幕から数日間にわたる快進撃や、絶対的エースに進化を遂げたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)のブエルタ・ア・エスパーニャ制覇。そしてグランツールにとどまらない活躍の場を広げたチームは、プロトン最高レベルの陣容で次なるシーズンを迎えようとしている。その中には、オランダが誇るグランツールリーダーのトム・デュムランの姿もある。2020年シーズンの方向性が定まり、動き出したチームは、ロードレース界に新たな歴史を刻もうとしている。

12月20日にチームプレゼンテーションを行ったユンボ・ヴィスマ。チームのエース格が揃っての記念撮影。左からステフェン・クライスヴァイク、トム・デュムラン、リチャード・プルッヘGM、プリモシュ・ログリッチ、ワウト・ファンアールト、ディラン・フルーネウェーヘン Photo: Team Jumbo - Visma

ログリッチ、クライスヴァイク、デュムランがツールでそろい踏み

 12月20日にチームプレゼンテーションを実施したユンボ・ヴィスマ。今シーズンを盛り上げたログリッチや、ツールでの落車負傷から復帰間近となっているワウト・ファンアールト(ベルギー)らはもちろん、念願かなってこのチームへと加わるデュムランも出席。来季のメンバーが一堂に会した場にて、チームは大胆な行動に打って出る。開幕まで約半年あるツール2020のロースターを発表したのだ。

 近年、多くのチームがエースクラスのレースプログラムをオフの段階で明かす動きがスタンダードとなっているが、ユンボ・ヴィスマが違うのは各チームに与えられる8つの席に就く選手をすべて公にしたことにある。これは、ライバルチーム・選手に対する牽制であると同時に、自らのチーム力・選手個々の能力への自信の表れと見てよいだろう。

2020年から加入のトム・デュムラン。ツール・ド・フランスと東京五輪が目標になる Photo: Team Jumbo - Visma

 ツール2020に臨むのは、ログリッチ、デュムラン、ファンアールトに加えて、ステフェン・クライスヴァイク、ロベルト・ヘーシンク(ともにオランダ)、トニー・マルティン(ドイツ)、セップ・クス(アメリカ)、ローレンス・デプルス(ベルギー)。

 これまでになく山岳比重が高くなるツールに対応するべく、チームはトリプルエース体制を敷く判断を下した。ブエルタを制し、次のステップにツールを選んだログリッチ、今年のツールで個人総合3位と大活躍のクライスヴァイク。この2人がタッグを組んだケースは昨年のツールなどが挙げられるが、そこにジロ・デ・イタリア2017覇者であり、ツールでは2018年に個人総合2位のデュムランが加わることになる。

 パリ・シャンゼリゼでのマイヨジョーヌ戴冠を狙えるだけの力を持つ3人が1つのチームで走ることは、戦力が充実する一方で、チームの統率が崩れるリスクも伴う。過去には、複数エース体制がチームの大きな失敗につながったケースもある。しかしデュムランにとって、望んでいたチーム体制はまさにこれだとし、ユンボ・ヴィスマに加入するにあたっての最重要ポイントだったという。

ツール・ド・フランスでの複数エース体制を望みユンボ・ヴィスマ入りを決めたトム・デュムラン。負担を軽くして戦いの幅を広げたいとしている =ジロ・デ・イタリア2019第1ステージ、2019年5月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 得意とするタイムトライアルと、安定感のある山岳での走りによるバランスはプロトン屈指のデュムラン。この数年でグランツールレーサーとしての地位を完全なものとしたが、同時に「単独エース」となる状況に必要以上のプレッシャーを感じていたという。今季まで所属のチーム サンウェブは、デュムランらエースクラスが台頭する一方で、山岳アシストに乏しく、一見優勢に見えながらもレースの組み立てに苦心していた実情がある。

 新たな環境では、自らへの負担を減らしながら、レースの流れに合わせて戦い方をチョイスしていくことになる。ログリッチやクライスヴァイクとともに上位戦線をにぎわすこともあれば、優位な状勢の選手に勝負を託すこともいとわない。ただ1つ決まっているのは、チームとして「ツール制覇」のミッションにトライする点。あらゆる可能性の中から、ツールを制するにベストなカードを選びながら戦う姿勢だ。

 ちなみに、ジロでの落車で負った膝の負傷は無事に回復。このオフにはマウンテンバイクのレースにも挑み、上々の結果を収めた。2月にシーズン初戦に臨み、3月のティレーノ~アドリアティコ、4月のアルデンヌクラシック3戦が序盤の目標となるようだ。

ログリッチ「ツール優勝チームの一員になりたい」

 複数リーダー態勢でのツールは、ログリッチにとっても満足できるものだという。

プリモシュ・ログリッチも2020年はツール・ド・フランスと東京五輪をターゲットに。チーム力に自信を見せている =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第20ステージ、2019年9月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツール初制覇をブエルタで成し遂げ、続く目標がツールとなるのは総合系のライダーにとって自然な流れといえるが、単独エースでマイヨジョーヌを獲得することは至難の業であることは身をもって理解しているという。

 2018年のツールでログリッチは、個人総合4位と大躍進。かたや、彼の前に立ちはだかっていたのはこの大会を制したゲラント・トーマスと3位に入ったクリストファー・フルーム(ともにイギリス)のチーム スカイ(現チーム イネオス)勢だった。また、今年のツールでもエガン・ベルナル(コロンビア)とトーマスのイネオス勢がワン・ツーフィニッシュ。もはや要塞ともいえるブリティッシュチームの牙城を崩すには、エースクラスを並べて戦うよりほかないと考えているようだ。

 ログリッチはデュムランのチーム合流について問われ、「本当にうれしい」とコメント。「決して事態を複雑にすることはないと思う。みんな勝ちたいと思っているが、それは“勝てるチーム”でありたいということ」とも述べる。ログリッチ自身、デュムランやクライスヴァイクのために働くことは問題ないとし、その逆になることにも不満がないことは互いに確認できていると強調する。

 彼らの結束を強めるきっかけとなったのが、10月に行われたとされるエースクラスがそろった食事会だったのだとか。総合エース3人はもちろん、ファンアールトやディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)も出席した一夜で、それぞれが目標を出し合い、それを実現するための取り組みを確かめた。

チームとしてツール制覇を狙うスタンス。プリモシュ・ログリッチもチーム全体のレベルアップに満足しているという =イル・ロンバルディア2019、2019年10月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そこではっきりしたのが、「チーム力あってのツール制覇」。真の登坂力が試される2020年のツールでは、総合成績を狙える3人とともにクライマーをアシストに据え、マイヨジョーヌ獲得だけに集中するという共通認識ができあがった。

 「ツールのメンバー編成はリーダーだけで決まるものではない。われわれは最高のチームを組むことができるし、とにかく優勝チームの一員になりたい」との野望を胸に、ログリッチの挑戦が始まろうとしている。シーズン初戦は3月8日開幕のパリ~ニースだ。

 なお、デュムランとログリッチはツール後に控える東京五輪での金メダルも目指す構え。両者ともロード、個人タイムトライアルともに優勝候補に挙げられる存在だ。

すべてのレースで主役になれるだけのチーム力

 総合エース3人の中で、幾分違ったスタンスとなりそうなのがクライスヴァイクだ。こちらはツール後にブエルタへ向かうことを表明。グランツール連戦でチャンスをうかがっていく。

ユンボ・ヴィスマを牽引するリーダー5選手。左からワウト・ファンアールト、プリモシュ・ログリッチ、ディラン・フルーネウェーヘン、ステフェン・クライスヴァイク、トム・デュムラン Photo: Team Jumbo - Visma

 ブエルタでは単独で総合狙いとなることが想定されており、その前に走るツールとの力の配分がポイントに。状況次第では、フランスでの3週間はログリッチとデュムランに次ぐ3番手の位置づけとなり、スペインで本領発揮、となることも考えられる。

 勝負を決める圧倒的なパンチ力やスピードに長けているわけではないが、大崩れのない山岳での走りで堅実に上位を押さえていくスタイル。上りが険しくなればなるほど、その安定感が戦いにおいて効果的なものとなる。毎年急峻な山々をめぐるブエルタは、彼にとってはおあつらえ向きといえるだろう。

 ツール、ブエルタだけでなく、ジロの方針もしっかりと固まっている。5月のイタリアでは、ジョージ・ベネットが総合エースを担当。昨年、個人総合8位となっており、来季は総合トップ5入りが現実的な目標となりそうだ。

 ついグランツール路線ばかりに目が行ってしまうが、スプリントやクラシック路線も他を凌駕するだけのタレントばかり。コースセッティング上、ツールを回避することになったフルーネウェーヘンは、ジロとブエルタでスプリント戦線のトップを狙う。大会前半に平坦区間が控えるジロ、自国オランダで開幕が決まったブエルタと、モチベーションとなる要素がそろう。

リハビリを進めてきたワウト・ファンアールトも復帰間近 =ツール・ド・フランス2019第11ステージ、2019年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のツールでの落車負傷がいまだ印象深いファンアールトは、リハビリをこなして現在は“本職”のシクロクロスでのレース復帰に向け準備中。うまくいけば年末年始に開催されるシリーズで戦線に戻りたいとしている。当面は回復具合を確かめながらの走りとなるが、ロードシーズン移行後の動向については焦らないとしている。「来年のクラシックはベストコンディションとはいかないかもしれない」とのコメントもあり、出場が内定したツールに照準を定めることも考えられる。

 そうなれば、クラシックではマイク・テウニッセン(オランダ)らがファンアールトの代わりを務めることになる。テウニッセンといえば、今年のツール第1ステージを制してのマイヨジョーヌ着用がセンセーショナルだったが、春にはパリ~ルーベで7位と主戦場でもしっかりと結果を残している。

 2020年シーズンの主役候補筆頭のチームは、27選手が所属。うち4選手が新加入で、今年のツアー・オブ・ジャパン個人総合優勝のクリス・ハーパー(オーストラリア)といった日本に馴染みのある選手も“出世”を果たしている。

2020年は27選手で戦う Photo: Team Jumbo - Visma

ユンボ・ヴィスマ 2019-2020 選手動向

【残留】
ジョージ・ベネット(ニュージーランド)
クーン・ボウマン(オランダ)
ローレンス・デプルス(ベルギー)
パスカル・エーンクホーン(オランダ)
ロベルト・ヘーシンク(オランダ)
ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)
レナード・ホフステッド(オランダ)
アムントグレンダール・ヤンセン(ノルウェー)
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)
セップ・クス(アメリカ)
トム・レーゼル(オランダ)
ベアトヤン・リンデマン(オランダ)
パウル・マルテンス(ドイツ)
トニー・マルティン(ドイツ)
プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
ティモ・ローセン(オランダ)
マイク・テウニッセン(オランダ)
アントワン・トルホーク(オランダ)
ワウト・ファンアールト(ベルギー)
タコ・ファンデルホールン(オランダ)
ヨス・ファンエムデン(オランダ)
ヨナス・ヴィンデゴール(デンマーク)
マールテン・ワイナンツ(ベルギー)

【加入】
トム・デュムラン(オランダ) ←チーム サンウェブ
トビアススヴェンセン・フォス(ノルウェー) ←ウノ・X ノルウェジアンデヴェロップメントチーム
クリス・ハーパー(オーストラリア) ←チーム ブリッジレーン
クリストフ・フォイングステン(ドイツ) ←ボーラ・ハンスグローエ

【退団】
フローリス・デティエ(ベルギー) →コレンドン・アルペシンフェニックス
ニールソン・ポーレス(アメリカ) →EFプロサイクリング
ダニー・ファンポッペル(オランダ) →サーカス・ワンティゴベール

※2019年12月24日時点

今週の爆走ライダー−レナード・ホフステッド(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ユンボ・ヴィスマでの初年度を終えて、改めて「居心地の良さ」を感じている。2017年から2シーズン過ごしたチーム サンウェブでは、レース内外でのタスクの遵守が求められ、性格的に息苦しさを覚えることもあったのだという。少しばかりの“自由”を望んで加わった現チームは、「サイクリストとしての能力を第一に考えてくれる一流のグループ」と表現する。

ユンボ・ヴィスマでの初年度を終えたレナード・ホフステッド。チームに貢献しステップアップの1年になった =サントス・ツアー・ダウンアンダー チームプレゼンテーション、2019年1月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロでの3季目だった2019年は、キャリアにおいてターニングポイントになるシーズンといえそうだ。特にブエルタでは、チーム最大目標だったログリッチでの大会制覇を達成。自身はアシストとしての役割に集中したため目立つシーンは少なかったが、「最低限のターゲット」であった全21ステージ完走を果たした。2017年には大会途中で風邪をひきリタイアに終わっており、自らの戦いに雪辱した。

 オランダ中部、ユトレヒトに近いフェーネンダール出身。いまも生まれ育った町に根を張ってトレーニングに励む。昨年までトレーニングパートナーだったディラン・ファンバーレ(オランダ、チーム イネオス)がモナコへと移ったが、自身は環境を変えるつもりはないのだという。一時期はサム・オーメン(オランダ、チーム サンウェブ)とともにスペインの山岳地域に拠点を設けようとしたこともあったというが、やはりフェーネンダールが一番という結論に達した。

 そんな地元愛に満ちる24歳は、2020年の目標も定まってやる気十分。サントス・ツアー・ダウンアンダーでのシーズンインが決まり、その後はジロまでレースをこなしていく予定だ。チーム内では集団でのポジショニングやエースの引き上げの巧みさが評価されているのだとか。自身のリザルトには反映されずとも、得意とする仕事をまっとうする。そんな彼の存在は、充実の布陣を支える基盤ともなっているのである。

シーズン終盤にはジャパンカップやツール・ド・フランス さいたまクリテリウム(写真)で来日。日本のファンにも馴染み深い選手になった =2019年10月27日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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